もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら 作:更新停止
昨晩、酒を飲んだ時に書いてた様なので、誤字脱字を修正して投稿します。
話を書いてた時の私は、どうやら皆さんの感想の『まど神様』関連の話を聞いて何か思うことがあったみたいです。
もしクレマンティーヌが恥ずかしがったなら
クレマンティーヌがまだ漆黒聖典に所属していた頃、まだいい人扱いされない様な人格破綻者だった頃、彼女はとある事件を起こした。
きっかけは、彼女の
ある人物の人生を追体験し、自らの力と変える、というこのタレント。
かつてのクレマンティーヌは、暴走などの危険があるといえど、星の欠片すら破壊できるその力に酔い、向上した身体能力を駆使して精力的に働いていた。
西に行ってはスケリトル・ドラゴンを殴り殺し、東に行っては犯罪者を拷問していた。
充実していた。なんでもできるような気がしていた。今なら、兄ですら越えられる気がしていた。
そんな気分で漆黒聖典の拠点で寝ていたある日、彼女の
「……懐かしい夢」
城塞都市エ・ランテルの市民区画にある宿屋の一室。彼女はそこで目を覚ました。
彼女は、ベッドから身体を起こすと右手の指先に目を向ける。
そこには、桃色の宝石を宿した指輪がはめられていた。
よく見ればその宝石は僅かに黒く濁っており、本来の輝きを宿していない事がわかる。
「やっぱり、これが原因ね」
宝石の名前は『ソウルジェム』、彼女の魂その物である。この宝石には、魔法を使う、又は時間経過で黒く濁るという性質がある。この黒色は持ち主の絶望を表しており、黒くなれば成る程精神的に不安定になってしまう。おそらく、クレマンティーヌがあんな夢を見たのはこれが原因だろう。
今は夢という形で気が付けたものの、これが戦闘中に影響を及ぼしてきたら危なかった。一瞬の判断が生死を分けることもあるこの世界で、精神的に不安定になるというのはとても危険なのだ。そのため、早急にこの黒い澱みを取らなければならない。
……そう、取らなければならないのだ。
クレマンティーヌは、部屋を見回した後、この部屋の唯一の窓に自身のローブを掛け、窓からこの部屋の中が見えないようにする。さらに、予備のローブを荷物から取り出し、ドアの隙間を埋めるように置く。
「とりあえず、物理的なものはこれでいいわね。あとは……」
右手の指輪を握り締め、祈るように手を合わせる。
すると、宝石の半分以上が黒く染まると同時に、部屋一面に桃色の光りが走った。
「これで、風化聖典の連中みたいな奴らが魔法で監視しようとしても阻害できるわね」
そう言うと、クレマンティーヌは深呼吸し、もう一度部屋の中を見回す。丹念に見回して、本当に誰もいないことを確認した後、大きく溜め息をついた。
クレマンティーヌは、指輪を大きな宝石に変化させ、鹿目まどかの力を本気で使える姿、『魔法少女』へと姿を変えた。
さて、こんなにも彼女が監視の目を潰したことにはわけがある。
かつては性格破綻者だったとは言え、今の彼女はきちんとした(?)価値観を持った女性である。
某リーダーのように中二病だったりしないし、某兄貴のように肉食系女子ではない。その価値観が正しいかどうかは別として、自分はちょっと外道なだけの普通の女性だと彼女は常々思っている。
さて、ここまで言えばわかる人もいるだろう。
―――普通の人間が、
あんな姿を、恥ずかしがらずにいられるだろうか。
彼女が、最強の力である鹿目まどかの力を十全に発揮しないのは、詰まるところそんな理由だった。
「ふう」
魔法少女の姿から元に戻り、大きく息を吐く。
今日も、無事に誰にも見られずに済んだことを彼女は安堵していた。もし見られたら、思わずスティレットを持った手が滑ってしまったかもしれなかったからだ。
クレマンティーヌは、ローブを回収し荷物にしまうと、宿の飯所で朝食をとり、冒険者組合の建物に足を向けた。
クレマンティーヌが王都を離れこのエ・ランテルに訪れた理由は、漆黒聖典の連中を追い返すためだ。
彼女は定期的に漆黒聖典と戦っており、その度に誰か一人を大怪我させて逃げる、ということを繰り返していた。流石の法国としても、そう何度も王国に侵入するのはリスクが高いようで、一度誰かに法国に戻るような大怪我をさせれば、しばらくの間王国にいるクレマンティーヌを狙ってくることはなかった。
クレマンティーヌはかつて漆黒聖典に所属していた事もあってか、ある程度とはいえ内部事情には詳しかったため、大まかにではあるが漆黒聖典が来る周期がわかった。そのため、彼女はその時期になると王都を離れ、法国にほど近いエ・ランテルに居場所を移し、彼等を迎え撃つことにしていた。これは、万が一王都に住むガゼフに漆黒聖典の接近を気が付かれ、もしガゼフが彼等に戦いを挑んだ場合、間違いなくガゼフが死に、ガゼフという大きな手札を失った王国の王側の人間の発言力が低下、結果として王国が荒れ、また漆黒聖典に追われて過ごす日々に逆戻りしてしまう可能があると考えた為である。
……クレマンティーヌの事情を知る人々は、他人に迷惑をかけないためにそうしている、と思っているがべつにそんな理由ではない。ないったらない。
彼女は、冒険者組合の施設に着くとコルクボードに留められた依頼票の確認をしていった。
クレマンティーヌは冒険者組合に登録しており、階級としてはミスリルのクラスを持っている。
かつてはオリハルコンのクラスであったが、前回漆黒聖典の隊長の鎧を破壊するためにプレートをスティレットのコーティング剤に加工したため、冒険者の証であるプレートを素材として使った罰則としてミスリルまで階級を墜とされてしまった。
そのため、現在はミスリルのクラスに甘んじている。
コルクボードに留められた依頼票のうち、ミスリルの人間に対しての依頼であったのは三つ。
一つは、2年前から周期的に依頼されるようになった、森の魔物の減少原因の調査。これの犯人は漆黒聖典の連中だ。犯人はわかっているので原因調査に行ってもいいのだが、報告しても漆黒聖典が公表されてない組織であるためか真実だと信じてもらえないので、これは受けない。
二つ目は、とあるミスリルクラスの冒険者グループの荷物持ち。これは、そのグループが余り好きではないので受けたくない。
三つ目、エ・ランテル近辺の村の調査。なんでもエ・ランテル近辺の村の一つが何者かに襲撃され廃墟となっていたのが発見されたらしく、その調査をして欲しいとのことだった。
……正直、受けたくない依頼しかない。クレマンティーヌは、心の底からそう感じた。
仮に受けるのであれば3番目の依頼だが、これもリスクが高すぎる。もし、魔物によって村が壊滅したならば近くにいるであろう漆黒聖典、と言うよりはそこに所属している兄がその魔物を利用しないはずがないし、魔物ではなく人によって壊滅したならばそれを行ったのは山賊か帝国の兵士か法国の兵士の何れかだろう。山賊であれば殲滅している隙を漆黒聖典に狙われかねない、帝国ならば国際問題だから面倒なことになる、法国であれば確実に私をおびき寄せるための罠だろう。
正直、採取依頼があるか探していたクレマンティーヌとしては、本当に不幸だと思っていた。
そう考えたものの、手元のお金が少々心苦しいので仕方なく3番目の依頼を手に取った。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
エ・ランテルから十分離れたところで、クレマンティーヌは聖詠を口にし、目的の村への直線上にある森を一気に駆け抜けた。
―――武技、『回避』
―――『超回避』
―――『疾風走破』
森の中では、多く木々やの野生動物とぶつかりそうになるが、武技で回避しかまわず進む。この状態であれば、最悪漆黒聖典と出くわしたとしてもそのまま逃げ切ることができるからだ。
ちなみに、クレマンティーヌ自身このシンフォギアを纏った姿に何も感じないわけではない。ただ、元々ビキニアーマーの様な装備をしていたために、このような方向性の恥ずかしい装備にはなれているというだけである。
途中ですれ違うゴブリンやオークを殴り蹴り殺しつつ、定期的に回避系の武技をかけ直しながら、全速力で大地を蹴り駆けてゆく。
目的の村は馬車で進めば半日もかからない距離にあるので、全速力で彼女が走ればすぐ、とまでは行かないものの瞬く間にたどり着くことができる。
結局、クレマンティーヌは三つ目の村の調査依頼を請け負った。
二つ目の依頼と揺れたが、多少は丸くなったとはいえ自分に外道の気があると考えている彼女は、万が一イライラして"手が滑ってしまった"場合の事を考え、三つ目の依頼を受けたのだった。
森の中を全力疾走していると、ある時クレマンティーヌは人の声が聞こえた様に感じた。
足を止め、周囲に耳を澄ます。
「……か、い……か」
彼女の耳に、微かに男性の声が聞こえた。シンフォギアを解除し、声の聞こえた方向に辺りを警戒しながら進む。
しばらく進むと、木に背をついて座り込んだ血まみれになった男がいた。服装からして、おそらくは村人か何かだろう。壊滅したと聞く村の生き残りだろうか。
座り込んだ男がこちらに気が付いたのか、血の気を失った顔でこちらに向き直る。
「……あ……もしや、ぁんた……は冒険……者かぃ」
怪我が酷くて口が上手く回らないのか、聞き取りにくくこちらに話しかけ始めた。
「うん、そうだよー。ミスリルの冒険者をしてる」
「そぅ……か。ちょうど……よかった。死にかけて……こんな幸運にぁうなんて……運がいいのか悪いのか…………。なんでこんな…………森の中にいるかは知らないが、ぁんたに……依頼をしたい」
「依頼? 助けて欲しいのー?」
「助けて欲しいの……かって? もう俺は……助からないだろ。ポーションでも使わない限り……無理だろうよ。だから……」
男は震える手でポケットを漁り、そこから銀貨を数枚取り出した。
「安いか、も……しれないが、依頼金だ。……俺たちの村を……襲った連中は、近くの……カルネ村の方に……向かっていった。帝国の……兵士と、バケツみたいな兜をかぶった奴ら……ふたつ集団だ。
……頼む、そいつらを殺して欲しい」
男は、よろけながら立ち上がると、クレマンティーヌに手に持った銀貨を渡し、そのまま倒れた。
「助けてじゃなくて、殺してねぇ」
――こんな依頼されるなんて、私、呪われてるかも。
銀貨を受け取った彼女は、そう小さく呟き、溜め息をつくと再び走り出した。
悪態をついた割には、彼女の顔は笑みを浮かべていた。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
―――武技、『疾風走破』
―――『能力向上』
―――『能力超向上』
―――『脳力解放』
―――『流水加速』
―――『超回避』
再びシンフォギアを纏い、限界に近い数の武技の同時使用を行う。それに軋みをあげる身体を、魔法少女であれば誰しも持つ魔法である身体操作とシンフォギアによる保護で誤魔化し、さらに『縮地』という武技と脚にあるパワージャッキの連続使用により先程よりも大幅に速い速度で森の中を駆け抜ける。
バケツのような兜と聞いて、クレマンティーヌは法国に存在するとある部隊を連想した。
陽光聖典、スレイン法国の誇る六色聖典の一つで、漆黒聖典を除けば六色聖典の中で最も攻撃的な部隊だったはずだ。
隊員全員が第三位階魔法を行使することができ、召喚した多数の天使による物量を生かした包囲殲滅を得意としていた、スレイン法国のエリート中のエリート部隊だった。
そんな部隊が来るのであれば、それだけの理由があるはず。そしてクレマンティーヌには、その理由に心当たりがあった。
二十分もすると、進行方向から微かに悲鳴が聞こえるようになった。
その悲鳴を聞いたクレマンティーヌは、さらに速度を加速させる。
そして、森から開けた場所に出た直後、彼女は予想もしていなかった物を目にした。
傷つき座り込む二人の少女と、倒れ伏す二人の帝国兵士、
―――その側に立つ、一目で上位の装備とわかる衣服を身につけた骸骨
「っ、エルダーリッチ!?」
エルダーリッチ、それは高位の魔法を操るアンデット。上位の冒険者でなければまともに戦うことすら難しいとされる存在。
そんな存在が、何故こんな場所にいるのか。
深く考えるよりも先に、クレマンティーヌは駆け出す。
エルダーリッチは、魔術師。詠唱させ魔法を使わせれば、何をされるかわからないからだ。
そして同時に歌を口ずさむ。一部の死霊系統のモンスターは、無効化系技能を持っている場合がある。軽減系には意味はないが、いくつかの無効化系技能は、肉体で耐えるものでなければ位相差障壁を調律するのと同じような形で無効化できる場合がある。
本来アームドギアを生成する為のエネルギーを拳に込め、全力で踏み込む。その拳は大岩をも砕き、エルダーリッチ程度であれば確実に粉微塵にできる威力を持っていた。
―――それが、エルダーリッチであればの話だが。
「
クレマンティーヌの拳が、彼女の目の前の骸骨へと振るわれる。
本来岩をもたやすく砕く一撃、しかしその一撃をぶつけられた骸骨は何一つ堪えていないようだった。
咄嗟にクレマンティーヌは、骸骨から跳び退く。それは、そのエルダーリッチがただのエルダーリッチでないと感じたが故の行動だった。
そして、その動きは勿論悪手だった。
「
骸骨の手の上に突如現れた心臓が骸骨によって握りつぶされると同時に、クレマンティーヌの身体に激痛が走る。
そして、彼女の意識は途切れた。