もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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 今回は、金級冒険者に盗賊の男性、それと魔法詠唱者の女性という計三人ものオリキャラを出してしまいました。
 オリジナルキャラは出したくなかったんですけどねー



アニメとドラマCDだけしか見ていない人に補足
 都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアという人物は、いつもは『きょうはいいてんきだな、ぷひー』のように話をしています。


もしクレマンティーヌが朝日を見たなら

 6月30日 02:36 エ・ランテル内周部

 

「これで、全部か」

「はい、これで東西南北全ての門が閉じました」

 

 アインズは、傍にいた(ゴールド)の冒険者に確認を取る。

 その言葉に、冒険者の男は感極まったような顔で返答した。

 

 城壁を昇ってくるアンデッド達は、アインズを除いたこの街の鉄以下の全冒険者が対処することになっている。

 これで、ひとまずは安心できる状況にすることができたと言えるだろう。

 

「ふぅ」

 

 アインズは小さく息を吐く。

 この後は、銀以上の冒険者達は組合で休息を取り、一部の頭の働く人間は外周部の奪還計画の為の話し合いに参加することになっている。

 

 アインズとナーベラルは、ナーベラルが第三位階の魔法を行使できることから、ある程度の学を修めていると見なされているためか、この話し合いに呼ばれていた。

 

 アインズとしては、肉体的な疲労は無いが慣れない戦士としての戦いに精神的に疲れていたために、少しばかり休みが欲しいと考えていたが、冒険者モモンの名を高めるためにも呼ばれたからには行かなくてはならない。

 

 この場のことは此所にいる冒険者達に任せて、彼は組合へと急ぐ。

 話では、冒険者組合の長であるアインザックだけではなく、都市長や魔術師組合長なども参加するらしい。

 

「ナーベ、組合の方に行くぞ」

「はっ!!」

 

 リング・オブ・サステナンスを装備しているとはいえ、戦闘直後で多少は精神的にも疲れているだろうナーベラルを連れて行かなければならないのはアインズとしては少し心苦しかった。

 しかし、今回の話し合いで呼ばれているのは自分ではなくナーベラルの方であろうとはわかっていたので、その内心を押し殺し自分に付き添わせることにしていた。

 

 

 

 

 組合に着くと、奥の部屋に通される。

 その部屋では、何人かの冒険者たちが静かに話し合いをしていた。

 中心の机にここエ・ランテルのある程度詳細な地図が置かれ、彼らはそれを指でなぞったり叩いたりしながら意見を交わしている。

 

「む、たしかモモン君とにナーベ嬢だったか。疲れてこないと思ったが、良かった来てくれたのか」

 

 部屋に入ると、入り口のすぐそばにいたアインザック組合長に声をかけられる。

 

「はい、多少の疲れはありますが、まだ体力は十分にありますから」

「そうか、疲れているのにすまないな。

 ―――これで、全員揃ったな。それでは始めようか」

 

 組合長が、良く響く声で部屋にいる全員に告げる。

 豚のように太った都市長らしき男と壮年の魔法詠唱者、そしてナーベラル以外は、その言葉に背筋をただした。

 

「時間が惜しい今、悪いが前置きは省かせてもらう。

 今回、君たちを呼んだ理由は他でもない。このエ・ランテルを襲うアンデッド達をいかに効率よく排除するか、その手段を話し合うためだ。

 各々自由に案を出してもらって構わない。都市長のパナソレイ様の前だからと言って、言葉遣いを正す必要も、耳障りの良い言葉で彩る必要もない。本来は許されることではないが、緊急事態だからな。パナソレイ様からも許しは得ている」

 

 アインザックかそう言うと、豚の様な姿の男、パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアが椅子から立ち上がり、鋭い目で冒険者達を見据えた。

 

「無礼講のように、今回は身分の上下を気にしなくてよい。帝国と法国の国境に位置するこの都市が落ちることは、王国存亡の危機にだともいえる。そんな時に身分がどうこうとは言ってられないからな」

 

 いつもの様な『ぷひー』といった様子はない。真面目な鋭い声だった。

 普段の彼の口調のことを知る人間は、その彼の様子に驚愕する。

 そして、今まで彼が猫を被っていたと思い至り、それと同時に現状はその猫を捨てなければならないほど切迫しているのだと再認識して表情を硬くした。

 

「そう言うわけだ。みなどんな些細な物でもいいから意見を出してほしい。

 では、まずは現状を整理しようか」

 

 アインザックは、部屋の中央にある地図に指を添わせる。

 まず彼は、外周部にある墓地を指さした。

 

「今回のアンデッドは、侵攻の傾向からして墓地で発生したものであると推測される。墓地の衛兵からの連絡が一切なかったために断定はできないが、これは間違いないだろう」

 

 そう言うと、アインザックは墓地から伸びる少し細い道と、それにつながる各所の門に結ばれている大通りを指でなぞった。

 

「そして、アンデッド達はこの通りを通って各門に進んだと考えられる。

 現状、アンデッド達の異様なまでの進行速度から考えると、アンデッドは外周部全域に広がっていると思っていいだろう」

 

 アインザックがそこまで言ったところで、部屋の中にいた冒険者の一人、漆黒の剣にいた魔法詠唱者のニニャが声を上げる。

 

「斥候は出していないのですか」

「出していない。こちらとしてはそうしたいが、アンデッドの軍勢をやり過ごすことができるような優秀な冒険者を街の外に出していられるほどの余裕はなかった。それに、レンジャーは野外での偵察を得意とする。市街地での活動は難しい。故に斥候を出すのは難しかったし、今後も難しいだろう」

「そうですか……わかりました」

 

 その会話を聞いて、アインズは声を上げた。

 

「発言してもよろしいですか」

「ああ、モモン君。断らずとも自由に発言して構わんよ」

「わかりました、では次からそうしましょう。

 レンジャーではなく、信仰系魔法詠唱者を集めて偵察するのはどうでしょう。彼らにはアンデッド退散がありますし、魔力系魔法詠唱者に比べて体力もある。あの大群を突破して戻ってくるだけであれば、簡単ではないかもしれませんが難しくはないのではないのでしょうか」

 

 アインズのその言葉に、アインザックは考え込む。

 

「つまり、強行偵察ということかな」

「ええ、アンデッド達の分布を確認できれば人員の振り分けもしやすくなりますし、最低でも軍勢の中にレイスがいるか否かだけでも確認しなければなりませんから」

 

 何故レイスがいるかを確認したいのか、その場の何人かが疑問を浮かべ、その場の何人かが理由に行き着き顔色を悪くした。

 

「レイスは物理攻撃を無効化するという性質を持っていますが、それだけではありません。物理的な障害物をすり抜けることが可能です」

 

 先程疑問を浮かべていた何人かが、驚愕する。

 

「城壁をすり抜けてくるというのか!!」

「そうしてもおかしくは、いえ、むしろそうしてくるの方が自然でしょう」

 

 アインズの発言に、部屋中が騒ぎ出す。

 

 そんな騒ぎの中、アインザックは声を張り上げて言った。

 

「静かにしたまえ!!」

 

 アインザックの急な大声に、部屋は一瞬静まり返る。

 

「騒いでも、事態は何も改善しない。

 モモン君の言うことはもっともだ。信仰系魔法詠唱者の偵察という案を採用するかどうかは別として、現時点で魔力の十分余っている信仰系魔法詠唱者に今からエ・ランテル内周部の見回りをさせよう。皆異論はないな」

 

 アインザックの言葉に、部屋の人間は無言でうなずく。

 彼は、手元の羊皮紙にアインズの知らない文字でメモをすると、側に控えていた組合員にそれを渡した。

 渡された彼女は、それを持って部屋の外に出て行く。

 

「では、話を戻そう。

 今から我々が決めるべきことは、如何にして外周部のアンデッドを殲滅するかだ。

 では、何か意見のある者は発言をして貰いたい」

 

 そうアインザックが告げると、金のプレートを身に付けた魔法詠唱者らしき男が声を上げた。

 

「では私から。

 やはり、アンデッド達の発生源と思われる墓地から片づけて、そこを起点に街を一周するような形でアンデッド達を片付けるべきではないでしょうか。

 発生源である墓地は、アンデッドの数……いえ、密度と言うべきでしょうか。一定の範囲内に存在するアンデッドの量がかなり多くなっているはずです。大量のアンデッドが存在することは、新たなアンデッドの発生を促すと言われていますし少しでもアンデッドが増えることを抑えるためにも、真っ先に墓地を潰す必要があると思います」

 

(……ん?)

 

 ふと、アインズは彼に違和感を抱く。

 戦士化の魔法を解除して魔法詠唱者としての感覚でその人物を見てみると、その人物は幻術で自らの姿を偽っているようだった。

 

(冒険者には訳ありも多い、というところか)

 

「そこにたどり着くまでの人員はどうする気だ?」

 

 そんな魔法詠唱者に、ミスリル級冒険者集団『クラルグラ』のリーダーであるイグヴァルジが問いかける。

 

「その点はモモンさんの案を借りましょう。信仰系魔法詠唱者を中心とした腕の立つ冒険者達で、一点突破を仕掛けます」

 

 自信ありげに彼は言う。

 そんな彼をイグヴァルジは鼻で笑うと、少し顔つきを真剣な物にして言葉を返した。

 

「それは難しいだろう。

 あの集団の中には、高難度かつ魔法に対する完全耐性を持つ骨の竜が居るはずだ。信仰系魔法詠唱者の魔法やアンデッド退散では骨の竜を退治できないだろ。

 うちにいる様なミスリル級の純粋な戦士ならまだしも、神官みたいな中途半端な戦士じゃ突破は不可能だ」

「だが、近接職に特化した戦士では、あの数のアンデッドを倒すのは無理だろう。信仰系魔法詠唱者でなければ、突破は難しいはずだ!!」

 

 言い争いを始めそうな二人に、盗賊のような装いをした人物が諌めるように割って入る。

 

「まあ落ち着け。騒いでもどうしようもならないだろ。

 とりあえず、あんたの案は信仰系魔法詠唱者集団による墓地の強襲、それでいいだろ。イグヴァルジさんも、あんたの言いたいこともわかるが、まずは考え得る案を全部出し切ろうぜ」

 

 その言葉に、二人は心を落ち着かせる。

 二人とも、この状況で言い争いを始めても得は無いと思い至ったのだろう。

 

 二人が落ち着いたところで、アインザックは口を開いた。

 

「二人とももう良いか。では、他に何か案はあるかね?」

 

 その言葉に、ニニャが声を上げる。

 

「でしたら、私も一つ。

 わざわざ拠点となる内周部から離れたりせずに、門の近くで戦って敵を少しずつ減らしてゆくべきではないでしょうか。

 倒さなければならない敵の数は増えますが、背後を気にせずに戦うことができ、場合によっては休みもとれるということはかなり大きいと思います」

 

 ニニャの言葉に、先ほどの魔法詠唱者が反論する。

 

「だが、それではアンデッドの増加量を越えられないのではないか?

 門の近くで戦っては、門の近くにいるアンデッドしか倒せまい」

「それは、門からどの程度戦線を広げるかによると思います。ある程度拡大すれば、倒す数の方が多くできるはずです。

 白金級以下の冒険者で下位のアンデッドに対応し、モモンさんやミスリル級冒険者の様な少数精鋭が遊撃として動いて骨の竜などの強力なモンスターを仕留めてもらうようにすれば、強力なモンスターに対処できると思います」

「遊撃部隊への連絡はどうする。何らかの素早い連絡手段がなければ、対応するのは難しいのではないか」

 

 今度は、都市長がニニャに問いかける。

 

 ニニャは都市長が入ってきたことに驚いて一瞬息を詰まらせたが、気を取り直して言葉を返した。

 

「それについては、魔術師組合長の力を借りたいと思っています」

「む、私の力かね」

 

 急に話題を振られた魔術師組合長のテオ・ラケシルは、ニニャの言葉に怪訝そうな顔をする。

 

「はい、魔術師組合に『警報』(アラーム)の魔法の改造をお願いしたいのです」

「ほう、『警報』(アラーム)をか」

「改造と言っても、そんな難しい物ではありません。

 もともと、『警報』(アラーム)の魔法は探知できる大きさが制限されています。無制限にしてしまえば、昆虫や微生物にも反応してしまうためです。

 魔術師組合には、この大きさの制限をもっと厳しくしてほしいのです。人以上の大きさでないと反応しないように」

「なるほど、だがどうする。『警報』の魔法では、あまり大きな範囲をカバーできないぞ。そこも改良するとなると、さすがに時間が足りん」

 

 ニニャは、そこで言葉を詰まらせる。

 『警報』の欠点はそこだ。あまり効果範囲が広くないのだ。戦線を拡大するならば、それを覆えるだけの効果範囲が必要となるだろう。

 

 言葉を詰まらせたニニャの案に、アインズは引き継ぐ様に告げた。

 

「効果範囲は必要ないでしょう。むしろ、範囲があまり大きくない方が良いのではないでしょうか」

「モモン君には、何か考えがあるのかね?」

 

 アインズの発言に周りの人間が注目する。

 背後を気にせずに戦えるというニニャの案は、それだけ魅力的だったのだろう。

 

「複数の魔法詠唱者で複数の『警報』を管理する様にすれば、範囲の問題は解決できます。

 それに、『警報』によってどこに反応があったのかを告げるよりも、各『警報』を番号かなにかで管理して、その番号を伝達した方が遙かに効率的でしょう」

「番号を振って管理するか……成る程な、確かに場所を細かく伝えるよりもわかりやすく迅速だ」

 

 アインズは、コンピュータがこの世界には存在しないためか、番号を振るという概念がこの世界にはないと感じていた。

 もしかすればあるのかもしれないが、少なくともそれは一般的な物ではない。宿屋に部屋番号という物が存在しなかったから、それは間違いないだろう。

 

「ニニャ、他に意見はあるかな?」

 

 アインザックがニニャに視線を向ける。

 

「いえ、私の案は以上です」

「そうか、では他に意見のある者はいるか」

 

 ニニャにこれ以上の意見が無いことを確認すると、アインザックは再び全体に問いかけた。

 

 その言葉に、今度は魔法詠唱者らしき女性が声を上げる。

 

「作戦の決行は朝なんですよね。だったら、――――――――――」

 

 彼女の発言。それに、まわりが一瞬凍りつく。

 

「すまない、それはどういう意味かね。少し意味が分からないのだが」

「すみません、言葉が足りませんでした。

 そもそも―――――――」

 

 彼女の言葉は、初めの方ははっきり言って眉唾物と言っていい物だった。

 しかし、彼女の言葉を聞いてゆくうちに、少しずつ周りの人間が顔を変えてゆく。

 

 アインズも、彼女の言葉を聞いて少し興味がわいてきた。

 彼女の行おうとしていることは、魔法の可能性を大きく広げるかもしれないことだ。これが本当に実現するのであれば、魔法というものに対する考え方を大きく変える必要がある。

 

「はははははっ!! そんな事ができるのか。それはもうその魔法ができる限界を超えているぞ!!」

 

 彼女が一通り話し終えたところで、その話を聞いていたラケシルが笑いだす。

 その笑いには、彼女を馬鹿にするような様子はなく、心の底から愉快でたまらないとでもいうような様子だった。

 

「いいだろう、私はこの案に賛成だ。アンデッドに有効な信仰系魔法詠唱者と違って、魔力系魔法詠唱者は余っているんだ。こんな面白そうな案に賛成しないわけがない」

「やめろラケシル。採用するかは後で決める。

 他に意見のある者はいるか」

 

 ラケシルの発言をアインザックは諌めつつ、彼はまた問いかける。

 今度は意見を出す者はいなかった。

 

「成る程、ではどの案を採用するか採択をするとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月30日 04:25 エ・ランテル内周部

 

「よろしかったのですか、モモンさん」

「ん、何がだ」

 

 墓地に最も近い門の前、そこに多数の冒険者達の姿があった。

 

「あの、漆黒の剣の下等生物が言いだしたこの案ではモモンさんは活躍できますが、後で実施されるあの下等生物(クソムシ)な女が出した案ではモモンさんは活躍できないのではないでしょうか」

「ああ、確かにそうだな。だが、彼女の言ったあの案が実現可能かどうか、私は非常に興味がある。

 活躍の場に関してだが、少なくともこのエ・ランテルの市民からは十分に名声を得ることはできている、これ以上は必要ないだろう。昨日の夜の行動だけでも、有名になるという目的を果たすには十分だ」

 

 そう言って、胸元にある自身の冒険者プレートを見る。

 プレートは、かすかな月明りを反射して白銀に輝いていた。

 

 話し合いの後、アインズとナーベラルにはオリハルコンのプレートが渡されていた。一騎当千の遊撃部隊の中に銅の冒険者がいると、士気にかかわるかもしれないためらしい。

 ただ、とあるオリハルコン級冒険者が少し前にプレートを紛失したと嘘をついて予備のプレートを根こそぎ集めたために、オリハルコンのプレートはエ・ランテルの組合には一枚しか残っていなかったようで、ナーベラルには代わりにミスリルのプレートが与えられていた。

 

 

 

 夜空が、ゆっくりと色を変えてゆく。

 それに合わせ、冒険者達の間で熱気が高まる。

 

「さて、話はそろそろ終わりにするとしよう。行くぞ、ナーベ」

「かしこまりました」

 

 城壁の向こうから、太陽が顔をのぞかせる。

 

「開門!!」

 

 衛兵の声が門の前に響く。

 

 冒険者達は一斉に駆けだした。




 魔法詠唱者の女性が考えた案は、皆さんは多分『こんなことできるかっ!!』と叩くと思います。そのシーンが来て、あまり批判が多いようならこの話は書き換えます。

 気になる人のために少しヒントを
 今回の話を書く直前、私はサンダーバードを見てました。

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