もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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もしクレマンティーヌが希望を探したら

 クレマンティーヌは、無言で翼を羽ばたかせ後退。同時に手に弓を出現させ構える。

 彼女の弓には、ある程度の誘導能力が付いている。まともに弓を扱ったことのない彼女が、高速戦闘下であっても標的を精密に狙わずに狙撃を成功させることができるのは、それが原因だった。

 

 全力で後退する中、揺れる視界の中でシャルティアを標的に捉える。

 彼女とクレマンティーヌの間にある距離はおよそ700m。シャルティアが一度か二度見せた、あの時間から切り離されたかのような動きを考えなければ、矢が彼女に命中するであろう距離はある。たとえそんな動きをしてきても、それをしたことに気が付けるだけの距離だ。魔法少女としての変身を解けば、武器を持ち替えることなく剣を手にできるので応戦できる。

 

 クレマンティーヌはそう判断し、矢から手を離した。

 

 桃色に光る矢は、夜の草原を駆け抜けてシャルティアへと突き進む。

 

 シャルティアはそれを見て何事かを呟いた。

 すると彼女の姿は掻き消え、彼女がいた場所を矢が通過する。

 

 クレマンティーヌには、その現実を信じたくはなかったが、彼女が何をしたのかがすぐにわかった。シャルティアのことを、まるで特殊技能(スキル)の詰まった福袋のように何でもありだと感じていたからだ。

 

 ―――武技、『流水加速』

 ―――『能力向上』

 ―――『能力超向上』

 ―――『知覚強化』

 ―――『可能性知覚』

 

 いくつも武技を発動させ、瞬時にすぐ近くにいたシャルティアの気配を捉える。

 シャルティアは、こちらに槍を振るってきていた。

 

 ―――武技、『即応反射』

 

 構えた弓を動かし、槍の軌跡に合わせる。

 

 ―――武技、『不落要塞』

 

 クレマンティーヌはその一撃を不落要塞の武技で受け止めるが、その一撃こそ受けきったものの不落要塞は突き破られ弓を弾かれる。

 しかし、流石に世界最強の魔法少女の武器は違うのか、スティレットのように破壊されることは無かった。

 

「誰よ、この名前考えたの!! 落とされまくってんじゃない。何が不落要塞よ!!」

「騒いでいる隙がありんして?」

 

 武器を弾き飛ばされ、無防備に腹部を晒しているクレマンティーヌに対し、シャルティアは容赦なく槍を一突き。

 

 ―――武技、『即応反射』

 ―――『不落要塞』

 

 クレマンティーヌは、武技により弾かれた身体を引き戻し、再び不落要塞をかけた弓を打ち合わせる。

 打ち合わせられた弓は、先ほどと同じように大きく弾き飛ばされた。

 

 だが、シャルティアの一撃は確実に受けきっている。

 

「まだまだいくでありんすえ」

 

 ―――武技、『即応反射』

 ―――『不落要塞』

 ―――『肉体超向上』

 

 第六感を強化する武技『可能性知覚』を切り、その分の精神力を肉体能力を大きく向上させる武技『肉体超向上』に転換。

 即応反射で体勢を戻し、不落要塞のかけられた弓をもう一度打ち合わせる。

 

 また先ほどと同じように弓ごと腕を弾かれるが、先程とは異なり武技を用いずにその腕を引き戻す。

 クレマンティーヌの本来の身体能力であればそんなことは不可能だが、武技によって強化された身体はそれを可能としていた。

 さらに、引き戻すと同時にその弓を引く。射法八節は、足踏みや胴づくり、弓構えに打ち起こし、引き分けや会、離れなどは必要ない。ただ引くだけでいい。至近距離では狙わずとも当たる、しっかりと引かずとも最強の魔法少女としての力はシャルティアに十分に機能する、故にそれ以上の動作をすることはただの無駄でしかない。

 そして、今この状況において無駄な動きをすることは、死へと歩みを進めるだけでしかなかった。

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『即応反射』

 ―――『要塞』

 ―――『不落要塞』

 

 振り下ろされる槍に合わせるように、不落要塞のかけられた弓と要塞のかけられた左腕をもって槍の一撃を封じる。

 今までの様子から、クレマンティーヌは受け止められるのは僅かな間だけだと考えていた。しかし、その僅かな間は剣を突き拳を振るうには足りないが、ただ指先を離すだけには十分な時間だ。

 

 クレマンティーヌは、口角をつり上げてシャルティアに笑みを向ける。

 

「ばぁーん」

 

 槍と打ち合わされている弓、その弦に触れていた右手を離す。

 至近距離で放たれた弓矢は、シャルティアの防具を撃ち抜き右胸に突き刺さった。

 

「―――っ!?」

 

 シャルティアの顔が驚愕に引き攣られる。

 それによって槍に込められた力が抜け、今度の一撃は不落要塞により完全に受け止められた。

 

(これで、あと2回)

 

 シャルティアが油断してくれて助かった、とクレマンティーヌは内心小さく呟いた。

 彼女の一撃は、もしシャルティアが突きを選んで攻撃していれば、撃つことができないものだった。

 シャルティアが特に何も考えずに槍を振るっていたために今の一撃を放つことができたが、もし真剣に対応されていたのであれば難しかっただろう。

 

 クレマンティーヌは、シャルティアから距離をとるために背後に羽ばたく。

 シャルティアが時間逆行を使用している間に距離をとらなければ、クレマンティーヌに距離をとる隙がないからだ。

 ……まあ、もしクレマンティーヌが先ほど考えたとあることが真実であるのならば、それが無意味に終わる可能性は高いが。

 

 シャルティアの手により光り輝く矢が胸から引き抜かれ、時間逆行により傷口が修復されてゆくのが見える。

 弓で狙いを定めながら、飛行によって夜空をかける。

 

 彼女は頭に浮かんだ考え、規格外の能力を持つ吸血鬼シャルティア・ブラッドフォールンが最低でも第6位階の魔法を使用できるかもしれない、というものを振り払った。

 

 クレマンティーヌは魔法詠唱者ではない。しかし、魔法に関する知識は豊富に持っていた。

 通常、冒険者で戦士としての役割をしている人間はあまり魔法に詳しくない。知る機会も、知るためのお金も、知る必要性も無いと考えているためだ。

 しかし、そんなことは無い。むしろ戦士職の人間こそ、魔法詠唱者よりも豊富に知識を持つべきだとクレマンティーヌは考えていた。

 

 ゲーム《アルヴヘイム・オンライン》(以下ALO)ではPvP、Player vs Playerの戦いが可能だ。道端であれば無差別で、街中であっても特定の条件を満たせば対人戦ができた。

 そんなPvPにおいて勝敗を決める要素として、多くの場合ではプレイヤースキル、ステータス、情報の三つが挙げられる。他が重要ではないというわけではないが、主にこの三つはどの様な状況においても重要だと言われることが多い。

 例として、ユウキがかつて行ったOSS『マザーズロザリオ』の継承権を争う戦いを挙げよう。

 彼女は、数多のALOプレイヤーの中でも最高クラスの反射速度を持っている。その為、相手の動きに攻撃に対応することができ、相手の隙を瞬時に突くことができた。

 だが、だからと言って彼女がその反射速度のみで戦っていたかと言われれば、それは否だ。

 ALOにおいて使用される超常的な剣技、ソードスキルという物は、どの様な人物が使用しても寸分違わぬ動きを可能とする。素人であっても達人的な技を行使できるというそれは、プレイヤースキルの敷居を下げ多くのプレイヤーのALOへの参戦を可能とした。

 だが、必ず同じ動作を可能とするということは欠点でもある。つまり、そのソードスキルの動きさえ知っていれば、一撃系のソードスキルはともかく連撃系のソードスキルは簡単に回避することができてしまうのだ。

 ユウキは数多のPvP経験から多くのソードスキルを見ることによってそれらを学習し、他のプレイヤーの使用するソードスキルを見切っていた。彼女はそれ故に驚異的な回避能力を誇り、それ故に無敗であった。

 

 魔法も同じだ。使い手により多少の差はあれど、基本的に同じ魔法は同じ魔法でしかない。『雷撃』(ライトニング)『雷撃球』(エレクトロ・スフィア)となることはないのだ。

 相手がどのような魔法を放ち、放たれた魔法がどんな機能を持つのか。それを知っているだけで、対魔法詠唱者戦は非常に有利に進めることができる。

 

 クレマンティーヌは元漆黒聖典であるため、他人よりも魔法の知識に触れる機会を多く持っていた。漆黒聖典を抜けた後も、幸運にも多くの魔法を知る世界トップクラスの吸血鬼と関係を持てた。知る機会は腐るほどあったのだ。

 

 さて、話を戻そう。

 

 クレマンティーヌが、シャルティアは第6位階の魔法を操るのではないか、と疑うことには理由がある。

 彼女が時間逆行直後に弓を放ったとき、シャルティアは彼女の眼に映ることなくクレマンティーヌの側に現れたことだ。

 最初、これがシャルティアが全力で移動したために起きたことだと疑った。しかし、そうであるなら既にクレマンティーヌは死んでいる。いくら彼女がこちらをなめていると言えど、一撃も当てることはできないだろう。

 次に、これはシャルティアの特殊技能(スキル)によるものだとクレマンティーヌは疑った。これを否定することができる理由はないので、彼女としてはそうであることを望んでいる。もしそうなら、回数制限ありのあまり応用が利かない能力となるからだ。

 だが、そこで思考を止めることは愚かでしかないとクレマンティーヌは知っている。

 彼女は特殊技能(スキル)によるものであるという考えと同時に、魔法によるものではないかという可能性を考慮していた。

 

 もし、シャルティアが魔法によって移動したのであれば、距離と行使の早さからして使用されたのは『転移』(テレポーテーション)。第6位階の転移魔法だ。クレマンティーヌの考えが当たっていれば、彼女はそれ以下の位階の攻撃魔法を行使できることにもなる。

 

 人類最高の魔法詠唱者と同じ位階の魔法を行使する、英雄クラスの近接戦闘能力を備えた、超常的な性能の特殊技能(スキル)を持つ吸血鬼。クレマンティーヌの考えが当たっていれば、シャルティアはそんな悪夢のような存在だ。彼女がこちらを舐めているために戦えているが、本気で戦われたらどうしようもないだろう。

 

 彼女がシャルティアを倒すためには、まず彼女を本気にさせないことが必要だ。つまり、残り1回の時間逆行を発動させずに倒すか、発動した直後に倒すことが必要となる。

 

 今彼女がシャルティアに確実に通用する手段として使える札は、シンフォギアによる絶唱。弓で殺すという手段もあるが、もう二度も使ったので効かないだろう。マザーズロザリオは同一の動きしかできないので、見破られていれば確実に隙となる。そんな冒険はしたくない。

 

 そして絶唱は瞬時に連発できるようなものではないので、どうしても時間逆行に対する手札となりにくい。絶唱一撃で殺せる相手なら、もう勝ちは確定なのだが……

 

 クレマンティーヌは、時間逆行を終えこちらに物凄い笑みを浮かべるシャルティアを見る。

 

「多分、無理よね」

 

 思わず口にしてしまった。

 

 そんな時、シャルティアが聖浄投擲槍をこちらに構えていることに気が付いた。

 反射的に弓の狙いを聖浄投擲槍に移し、矢を放つ。

 

 シャルティアが放った槍とクレマンティーヌが放った矢は空中でぶつかり、槍が矢を打ち破った。

 

(嘘でしょ!?)

 

 いや、当然かもしれない。

 シャルティアに鹿目まどかの弓矢が効果的に作用した原因は、彼女が魔の物であるためだ。神聖属性を持つ槍に効果が薄いのは当然だろう。

 さらに言えば、矢と槍だ。正面からぶつかって、矢が負けることは不自然なことではない。当然の結果だ。

 

 ただ、流石に最強の魔法少女の弓矢というべきか、矢とぶつかった槍は大きくひびが入っていた。

 クレマンティーヌはもう一度ぶつければ破壊できると考え、構えを崩さずに矢を生み出して引き絞る。

 

 構え、狙いを定め、放つ―――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その直前に、知覚強化の武技により強化された感覚が、背後に誰かがいることを捉えた。

 

 振り返る必要はない、見なくともわかる。後ろにいるのはシャルティアだ。

 今までの傾向からして、彼女はおそらく槍を突き出そうとしているだろう。

 

 もし、目の前に迫る槍を撃ち落とせば、その隙にシャルティアの槍が突き刺さる。

 もし、即応反射で方向転換して槍を防げば、その隙に清浄投擲槍が突き刺さる。

 

 詰みだ。この攻撃をしのぐ方法は無い。

 

 

 

 ……本当に?

 

 

 クレマンティーヌの身体が、独りでに動き出す。

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『即応反射』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『要塞』

 ―――『不落要塞』

 ―――『不落要塞』

 

 

 弦に触れていた左手が、弓を構えていた右手が即応反射により一瞬で動いた。

 左手は、矢を掴むと清浄投擲槍の軌道上に矢を合わせる。

 右手は、弓を背後に動かしシャルティアの突き出す槍と打ち合わされる。

 さらに両手の弓矢に不落要塞がかけられ、それを支える腕と肩にそれぞれ要塞がかけられる。

 

 クレマンティーヌの身体は、両手からかけられる力によって、弾き飛ばされるように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

 両手には怪我は無い。いや、左手にはあるがそれは自らの矢によって傷つけられた物であり、回復不可能なシャルティアによる傷では無い。

 

「なに……今の何なの」

 

 先程の動き、あれはクレマンティーヌが行った物では無かった。いったい何が起きたのか……

 いや、そんなことを考えている場合ではない。

 

 上空にいるシャルティアを見る。

 彼女の腹部には、クレマンティーヌによって反らされた清浄投擲槍が突き刺さっていた。

 

 最後の清浄投擲槍と、最後の時間逆行が消費される。

 これで、彼女の特殊技能はもうない。後は絶唱を当てるだけだ。

 

 時間逆行によりシャルティアの傷が巻き戻される。

 

 傷口を治し終えたシャルティアは、本当に愉快そうに、そして本当にかわいそうな物を見る目でクレマンティーヌを見た。

 

「お見事でありんした。正直、私が特殊技能(スキル)をすべて使うことになるとは思いもしなかったでありんす。

 本当によくがんばりんした。もし、滅ぼさなければならないわけではないのでありんしたら、私の下僕としてもいいと考えてしまう程でありんす」

 

 様子がおかしい。

 シャルティアはスキルをすべて消費したはずだ。それなのに、なぜこんなにも余裕そうにいられる。

 

「随分と余裕そうね。あなたは、聖浄投擲槍も不浄衝撃盾も時間逆行もすべて消費しきったはずよ」

「ええ、確かにそうでありんす。あなたとの戦いで、特殊技能(スキル)は全て使い切りんした」

 

 なら、なぜ余裕そうなのか。シャルティアの考えが、クレマンティーヌには読めなかった。

 

「おかしいと思わなかったでありんすえ」

「何がよ」

 

 もったいぶったような様子で、シャルティアは話す。

 

「私がどうして魔法を使用しなかったのかでありんす。

 私が転移魔法を使ったことには気が付いたでありんしょうけど、どうして私が魔法をあまり使わなかったのかまでは考えが回らなかったみたいでありんすね」

 

 言われてみればそうだ。なぜ、シャルティアが魔法をあまり使わなかったのか。それは確かに疑問だった。

 

「なら、答えを教えてありんしょう。

 

 

 

 

 

 

 ―――今、何時でありんすか?」

 

 

 背筋が凍った。

 何かを考える前に、身体が動き出す。

 

「はあああああっ!!」

「無駄でありんす。『力の聖域』(フォース・サンクチュアリ)

 

 シャルティアの周りに魔力の結界が発生する。

 

 クレマンティーヌは魔法少女の変身を解除し、それを全力で殴りつける。腕部のパワージャッキを無造作に引き絞り、強力な衝撃を結界に与える。金貨をばらまき、込められた魔法を開放する。

 しかし、結界が破れることは無い。

 

「では、残り時間を数えさせてもらうでありんす。構いんせんね。

 ―――10秒前」

 

 数多の武技も使用し連撃を打ち込む。結界は壊れない。

 

「9秒前」

 

 もはやマニュアル制御する時間すら惜しい。全ての連撃に合わせて、パワージャッキを起動させる。結界は壊れない。

 

「8秒前」

 

 消耗を無視して、連撃を続ける。結界に変化はない。

 

「7秒前」

「『マザーズロザリオ』!!」

 

 ソードスキルも使用し、超高速の連撃を叩き込む。

 

「6秒前」

 

 11連撃全てを打ち込んでも、結界に変化はない。

 

「5秒前」

 

 四光連斬を即応反射を利用して連続発動。効果は見られない。

 

「4秒前。

 ああ、一つ言わせてもらうでありんすが、この魔法は私が攻撃できなくなる代わりに一切の攻撃を無効化するという効果を持つ結界でありんす」

 

 

 心が、軋んだ音がした。

 

 

 

「3、2、1、0

 ……さあ、明日が来たでありんすえ」

 

 

 シャルティアは、心の底から愉快そうな笑みで笑った。




 希望を探すこととは、絶望を眼にすることである。

残スキル数
 聖浄投擲槍:5/5
 不浄障壁盾:2/2
 時間逆行 : 3/3
 エインヘリヤル:1/1
 眷属招来 : いっぱい

残マジックポイント:かなりたくさん
残ヒットポイント:かなりたくさん

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