もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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もしクレマンティーヌが吸血鬼と戦ったら

「―――そう、あとたった3回だけでありんす」

 

 シャルティアの手の中に、白銀の槍が現れる。

 クレマンティーヌはその槍を見て、一瞬心が折れかけた。

 

 聖浄投擲槍自体は、それほど脅威ではない。いや脅威ではあるのだが、それしかないのであれば単に回復魔法で回復すればいいだけの話だ。

 問題は、シャルティアが告げていた『カースドナイトの特殊技術(スキル)』。回復を封じるそれがあるために、ただの強力な神聖属性の付与された追尾機能付きの槍が、一撃必殺で必中の槍に変貌する。

 

 折れたスティレットと、ただの鉄の剣では勝てない。彼女は右手で虚空を描き、周囲に五本の三日月刀(シミター)と一本の細長い剣を出現させた。

 

「なら、私も全力でやりましょう」

「全力でありんすか? なら精々その力を見せておくんなし!!」

 

 シャルティアの手から、聖浄投擲槍が放たれる。

 

 ―――武技、『脳力開放』

 ―――『流水加速』

 ―――『能力向上』

 ―――『能力超向上』

 ―――『肉体向上』

 ―――『肉体超向上』

 

 ―――Balwisyall Nescell gungnir tron

 

 いくつもの武技を発動させるのと同時に、聖詠を唱えて周りにバリアフィールドを発生させる。

 バリアと槍は大きな音を立てて激突、僅かにバリアが嫌な音を立てたものの、何とか槍の一撃を耐え抜いた。

 

「へぇ……」

 

 シャルティアの顔が歪んだ笑みに変わる。

 クレマンティーヌは背筋が凍る思いをしつつもそれを無視し、四肢のパワージャッキを引き絞りシャルティアへと駆ける。

 

「見たことのない特殊技能(スキル)でありんすね、防御系の何かでありんすか」

「さあね、好きに考えなさい!!」

 

 右足のパワージャッキが起動し、炸裂音のような音を立てクレマンティーヌの身体を加速させる。シンフォギアの力と多くの武技の力により、彼女は一歩でシャルティアの前に移動した。

 そのまま勢いを殺さずに、右手で正拳突きを放つ。

 

 先ほどとは同一人物とは思えないその動きに、シャルティアは一瞬目を見開く。

 だが、それだけ。シャルティアは、まるで彼女だけが時間から外れたような動きで、その一撃を回避した。

 

「なるほど、身体強化の特殊技能(スキル)でありんしたか」

 

 シャルティアの手により、突き出した右腕がつかまれる。

 

 ―――武技、『剛撃』

 

 しかし、それはクレマンティーヌが望んだ展開だった。

 腕を掴ませることによって、逆に相手をその場から一瞬だけであるが拘束する。捕まえた腕をすぐさま放そうとすることは、なかなかできることではないからだ。

 その場で左足で地を蹴り、シャルティアの頭部へと蹴りを入れる。

 武技『剛撃』により強化された一撃、しかしそれはシャルティアの持つ槍に防がれた。

 

 ―――武技、『重心稼働』

 

 クレマンティーヌは左足のつま先に槍をひっかけ、捕まれている右腕の関節を身体操作の魔法で外す。その状態から武技を使用して左足と右腕を軸にコマのように回転し、シャルティアの背中にかかと落としのような形で一撃を入れる。さらに右足のパワージャッキを起動、炸裂音が鳴りシャルティアの背中に強い衝撃が走った。

 その一撃のあまりの強烈さにか、シャルティアの口から血がこぼれる。

 これで終わりではない。背中への一撃と同時に、シャルティアへと五本の鋭利な三日月刀(シミター)がひとりでに襲い掛かった。

 

 三日月刀には、舞踊(ダンス)という魔法付与がかかっている。これは使用者が触れていなくとも、剣を動かすことができるという魔法付与だ。

 クレマンティーヌには素の状態でこの剣を操ることは難しいが、武技『脳力開放』と『流水加速』を使用していればある程度は動かすことができる。

 

 体術はすべて囮、本命はこの三日月刀による一撃。

 両手は動かず、背後から鎧越しとはいえ肺を叩いたために魔法の詠唱はできない。この状態からであれば、確実に首を刈り取れる。

 

 クレマンティーヌの攻撃は、完全に思い通りに炸裂していた。

 

 

 もちろん、すべてがクレマンティーヌの思い通りになったからと言って、その攻撃がシャルティアに決まるわけではないが。

 

 

 急に全身に衝撃が走り、クレマンティーヌの身体がシャルティアから弾き飛ばされる。

 それに伴い三日月刀を操ることができなくなったため、シャルティアに届くことなく三日月刀は地に落ちた。

 

「な、どうして……」

「ふぅ、『生命力持続回復(リジェネレート)』。それなりに面白かったでありんすえ。人間らしく、なかなかに小細工の施された一撃でありんした」

 

 魔法により傷が治ったためか、シャルティアの口元から血が消える。

 

「でも、『不浄衝撃盾』を持つ私には効きんせんしたね」

「……『不浄衝撃盾』、また特殊技能(スキル)かしら」

「ええ、不浄衝撃盾は私の周りに衝撃波を発生させる特殊技能(スキル)でありんす。安心せんせ、これにも一日に2回という制限がありんすから、何度も使ったりはできんせん」

 

 クレマンティーヌは、苛立ちで唇を噛む。

 先の彼女の攻撃は、基本的に初見殺しのようなものだ。一度シャルティアに見られた以上、同じ一撃は基本的に通用しないと思っていい。

 後一度の不浄衝撃盾がある事を考えれば、単純に考えて彼女に致命傷を与える攻撃が二種類必要となる。

 

(ぎりぎり届くかな、弓と剣と歌で一回ずつ)

 

 浄化の力を持つ鹿目まどかの弓と、手数で押し切るユウキのオリジナルソードスキル、そしてシンフォギアによる絶唱。切り札は三つ。

 絶唱は予備にするとして、おそらくは残り二つを主力にすることになるだろう。リスクと威力を考えると、先に使うのはユウキのOSSだろうか。

 

 クレマンティーヌは、近くの地面から細長い剣を引き抜くと足元に突き刺した。

 

「なら、あと二回あなたを殺せるような攻撃をすればいいのね」

「あなたに、私を殺せるような手段があるとお思いでありんすか? 随分となめられたものでありんすね」

 

 シャルティアはそう言うと、左手に再び聖浄投擲槍を具現化する。

 

「そういうなら、精々その切り札を砕かれることを見せておくんなし!!」

 

 聖浄投擲槍が放たれる。

 

 ―――Balwisyall Nescell gungnir tron

 

 クレマンティーヌは、一旦シンフォギアを解きもう一度聖詠を唱えてバリアを展開する。

 しかし、聖浄投擲槍は先ほどとは異なり、シンフォギアのバリアを突破してクレマンティーヌの身体を襲った。

 

 ―――武技、『不落要塞』

 

 クレマンティーヌはとっさに自身の胸元に不落要塞を使用する。

 聖浄投擲槍は不落要塞に止められ、その白銀の輝きを消した。

 

 そのことを確認することなく、クレマンティーヌは足元の剣を引き抜き駆ける。もしかすれば、投擲直後に隙がある可能性があると判断したためだ。

 もちろん、それはクレマンティーヌが少しだけ抱いた理想だ。現実にはそんなことは無い。

 クレマンティーヌは剣を天高く放ると、シャルティアに正拳突きを繰り出す。

 それは、シャルティアの右手にある槍に受け止められた。

 お返しとばかりに、今度はシャルティアの槍がクレマンティーヌの心臓を貫こうとする。

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『回避』

 ―――『超回避』

 ―――『知覚強化』

 

 その一撃を、クレマンティーヌは武技により完全に見切り、半歩退きながら僅かに上体を動かすことで回避する。

 先とは異なり今度は武技とギアにより身体能力が向上したため、彼女の身体はより素早くより切れ良く動いていた。

 

 だが、それでも数多くの武技を使ってやっとのことだ。

 限界突破の副作用、それ以外にも多くの武技で肉体を酷使したことにより、体内の骨は筋肉により砕かれ、その筋肉は小さく嫌な音をたてて常に千切れる。

 それらを常に治癒し続けながら、クレマンティーヌは動き続けていた。

 

 シャルティアが槍を引くよりも速く、彼女の顔面めがけて拳を打ち込む。当たり前のようにそれは避けられるが、退くことなく再び拳を打ち込む。

 

 右、左、右と、間合いを詰めるように前に進みながら撃ち込み続ける。

 クレマンティーヌが常に狙うのは顔面。拳で可能な限り相手の視界を潰すことができ、相手が被弾覚悟で魔法を唱えようとしても口を塞げるためだ。

 

 嵐のような連撃、かのアダマンタイト級の冒険者でも凌ぐのは困難であろうその連撃を、シャルティアは不気味な笑みを浮かべながら回避する。

 

「その程度でありんすか、まだまだ手はありんしょう?」

「まだ、ねっ!! 簡単に、言って、くれる、じゃない」

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『即応反射』

 ―――『剛撃』

 ―――『豪腕剛撃』

 

 一撃の威力を向上させる武技を同時に使用し、拳を放つ。

 その拳は、先ほどまでとは異なり鞭の様なしなりを見せていた。

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『即応反射』

 

 さらに、放たれた拳は瞬きする間よりも早く引き戻され、再び打ち出される。

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『即応反射』

 

 再び『即応反射』を使用し、しなるような一撃をもう一度。

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『即応反射』

 

 今度は正拳突き。先ほどまでの物よりもはるかに加速した一撃がシャルティアに降り注ぐ。

 左右の拳だけではない。正拳突きの直後にその動きを『即応反射』で止め、『疾風走破』により一歩だけ前進しつつ肘で打ち据えさせるような一撃を。

 時には脚力を強化するような武技を使い、蹴りを放つ。本来であれば、シャルティアの様な存在に蹴りなどはただ隙を晒すだけであるが、『即応反射』はその隙を大きく減らす。

 無数の武技を連続して使用し、それらを連携させるために武技『即応反射』を高速で繰り返す。

 

 アダマンタイト級冒険者集団『青の薔薇』に所属する戦士、ガガーランが切り札とする攻撃〈超級連続攻撃〉から発想を得たこの連撃。とりあえず名付けるなら―――

 

 ―――超級連続攻撃・改(仮)

 

 しかし、本来この即応反射を連続使用した隙の無い連撃は、限界を超えた数の武技による強化をしながら行うようなものではない。

 ただでさえ負担の大きい『即応反射』を乱用する上に、数多の武技を同時に使用、その行動によってもたらされる負荷は想像を絶する。この時、彼女が一撃を放つたびに身体の何処かの筋肉が千切れ、骨が折れ砕け、全身には気が狂いそうなほどの激痛が走っていた。

 クレマンティーヌは、痛みに耐えながらもそれを修復し続ける。

 

 それらの連撃を完全に回避することはシャルティアでも難しいのか、何度かに一度は手に持った槍で防いでいた。

 もっとも、シャルティアの表情には少し驚きがあっただけで、相変わらず余裕そうな笑みをしていたが。

 

 連撃が五十を越えたところで、クレマンティーヌの動きが大きく変わる。

 今まで基本的にシャルティアの視界を遮るように繰り出されていた一撃から一転、体勢を崩して下から飛び上がるような一撃を放つ。

 シャルティアがその一撃を回避すると、彼女の目の前にはがら空きとなったクレマンティーヌの胴体が映った。

 

「隙ありでありんすえ」

 

 シャルティアは、そこを槍で貫こうとする。

 空を飛ぶことのできない人間は、地に足が付かない状態で攻撃を回避することはできない。普通の人間であれば、間違いなくその一撃は胴体を貫いだろう。

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『回避』

 ―――『超回避』

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だが。

 

 彼女の背中から半透明の翼が生え、前方―――シャルティアから見て上に羽ばたくことによって槍を回避する。

 同時に、上から飛来する細身の剣を手に取り、『即応反射』で体の向きを一転させ剣を構えた。

 

 ―――武技、『限界突破』

 ―――『戦気梱封』

 ―――『竜牙突き』

 

「―――『マザーズロザリオ』!!」

 

 クレマンティーヌが、手に持った剣を紫の光で輝かせる。

 同時に、武技『竜牙突き』発動させることで、『戦記梱封』とは別に剣に属性を付与した。

 

 それを視界の端に捉え、シャルティアは笑みを浮かべる。

 彼女の身に纏う鎧は、伝説級アイテム。その中でもかなり高位の物だ。どのような付与を行おうと、ただの剣では貫くことはできない。

 

 だが、クレマンティーヌはそれは予想していた。シャルティアの鎧を貫くことができないかもしれないと、その可能性を想定していた。それ故に、元々手に持っていた剣ではなく、細長い剣、かの『空間斬』の剣を取り出したのだ。

 

 『空間斬』、それは王都にはびこる裏組織の中でも一際戦闘に優れた一人の男の名だ。

 彼の持つ剣には一つ特徴がある。ウルミと呼ばれるその剣は、よく曲がりくねるのだ。彼の、そして今は彼女が持つその剣はそれをさらに極限まで、それこそ糸のような細さまで薄く鋭く削った物だった。

 

 クレマンティーヌには、シャルティアの鎧を破る気は全くなかった。ただ、鎧をすり抜けることだけを考えていたのだ。

 

 細く鋭いその剣は、シャルティアの鎧の隙間をくぐり彼女の身体を貫く。

 

「―――っつ!?」

 

 シャルティアの顔が驚愕に染まった。

 その間にも、ユウキのオリジナルソードスキルである『マザーズロザリオ』はシャルティアの身体を蹂躙する。

 

「ぅぅぅっ、『不浄衝撃盾』!!」

 

 竜牙突きとマザーズロザリオ、合計十三撃の連撃の内の七撃目、そこまで来てようやくシャルティアは不浄衝撃盾を発動し、クレマンティーヌを弾き飛ばした。

 

 クレマンティーヌは、そのまま衝撃に乗りより遠くに飛ばされると、翼で後方に羽ばたきながらその衣装を変える。

 彼女の姿は、ふわふわとしたピンク色のかわいらしい服装へと変貌していた。

 

 より天高く羽ばたきながら、彼女は手に弓を出現させて構える。

 

「クリスちゃんならこう言うかな」

 

 不浄衝撃盾でクレマンティーヌを吹き飛ばして油断しているシャルティアを眼下に、彼女は呟いた。

 

 ―――ぶっ飛べ

 

 クレマンティーヌの手から、浄化の力が込められた矢が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「お見事、とでも言うべきでありんすか」

 

 矢により身体に大穴をあけたシャルティアが、目の前に降り立ったクレマンティーヌに告げる。

 彼女の姿は満身創痍とまではいかないものの、弓を片手の数いれば倒れ伏しそうなほど弱っていた。

 

「ありがとう。あなたほどの強者と正面から戦ったことは無かったから、そう言ってもらえたことは嬉しいわ」

 

 彼女はそう返す。

 その言葉を聞いて、シャルティアは顔に浮かんだ不気味な笑顔をさらに深くする。

 

 

 ―――嫌な予感がした。

 

 

「―――でも残念ながらあなたは、もうわらわに勝てないでありんす」

「……えっ」

 

 シャルティアの言葉に、そして何よりも目の前に起きたその光景に、クレマンティーヌは思わず言葉を漏らす。

 

 彼女の目の前で起きたことは、誰しもが驚愕で目を見開く光景だった。

 まるで時間が巻き戻るかのように、シャルティアからこぼれた血液が、肉が、そして傷そのものが、彼女の身体の元あった場所に戻ったのだ。

 

特殊技能(スキル)『時間逆行』、私の身体の時間を巻き戻すという力を持っているでありんす」

 

 瞬く間に、シャルティアの身体から大穴がなくなる。

 

「そんな、そんな馬鹿な特殊能力(スキル)があるっていうの!?」

 

 シャルティアは、傷一つないその身体を起こすとクレマンティーヌに笑顔で告げた。

 

「安心しておくんなし。これも一日の発動回数に制限がある特殊技能(スキル)でありんす。あと二回で今日はもう使えなくなりんすえ」

 

 あまりにも毒々しいシャルティアのその笑顔、そして絶対絶命のその状況にクレマンティーヌはわずかに足が竦む。

 

「あなたの切り札、剣と弓は十分に見せてもらんした。もう、不用意に距離をとったりはしんせん」

 

 シャルティアは、槍を構えた。

 

「では、今度こそ蹂躙を開始させてもらいんす。覚悟はよろしいでありんすか?」

 

 クレマンティーヌは、それに返す言葉を口に出すことはできなかった。




残スキル数
 聖浄投擲槍:1/5
 不浄障壁盾:0/2
 時間逆行 : 2/3
 エインヘリヤル:1/1
 眷属招来 : いっぱい

残マジックポイント:いっぱい
残ヒットポイント:かなりたくさん

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