もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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 とりあえず、本格的な戦闘前の導入話かつ次の章への伏線回。ペースが遅いので、かなり巻いています。


もしクレマンティーヌが敵を欺こうとしたら

 宿屋から離れて数時間後、クレマンティーヌはエ・ランテルから西に進んだ場所にある都市、エ・ベスペルへとその歩みを向けていた。

 

 歩み、と言っても本当に歩いているわけではない。

 およそ普通の人間には追いつけない速度、全力で馬を飛ばしてぎりぎり追いつけない程度の速度で走っていた。

 勿論、いくら回避系の戦士であるためにスタミナを豊富に持っている彼女でも、そんな速度で走っていては身体がもたない。ソウルジェムを使用して、身体操作と回復の魔法により身体の疲れを取り除いている。

 

 遭遇したゴブリンやオークなどのモンスターは、加速する武技『流水加速』を行いつつ手にしたスティレットで武技やソードスキルなどを使いミンチに変え、耳などの討伐証明となる部位を回収する。

 

 走り続けたためか、クレマンティーヌはその日の夜にエ・ベスペルに到着。入口である門を通り都市に入る。彼女は、都市に入る際に誰も後ろから着いてきていないことを確認すると、都市に入った直後に路地裏に入って姿を隠し、都市の内側から都市の周りにある城壁を越えてエ・ベスペルを脱出する。

 彼女はその後、東へ走りトブの大森林へと身を隠した。

 

 

「これでいいかな。とりあえず、風花聖典以外なら十分に時間を稼げるでしょ」

 

 クレマンティーヌは、ここからトブの大森林内を通りエ・ランテルに戻った後、情報を集めて監視してきた相手に対処するつもりだった。

 彼女は7食分の非常食、29本ものポーション、寝袋やテントなどの野宿に使用する道具、彼女の手元には少なくとも数日は野宿することが可能な道具がそろっていた。森を抜けるには十分と言える。

 さらに言えば、この道なき道は彼女がかつて漆黒聖典だった頃に通ったことがある道だった。故に、遭難する可能性はかなり低い。

 

 帰り道では森の中を通ることもあり、モンスターや野生動物に見つからないように気配を殺しつつ慎重に進む。

 行きの道でモンスターを惨殺してきたのは、『クレマンティーヌは移動の際にモンスターに遭遇した場合、そのモンスターを惨殺して進む』という印象を与えるためだ。帰り道で一切モンスターを殺さなければ、彼女がこの道を通っていないと認識させることができる……かもしれないし、肉食生物やモンスターが多い森の中で生物を殺すと、血の匂いにそれらがやってくるかもしれない。戦闘をすれば目立つので、それを避けることは必要だった。

 

 蒼の薔薇の暗殺者姉妹の様に影潜みや闇渡りのような忍術を使えれば便利なのだが、そんなことはできないので単にあまり音をたてないように少しだけ()()()()()進む。

 

 クレマンティーヌの持つ能力の一つに、オンラインゲーム『アルヴヘイム・オンライン』のユウキというプレイヤーキャラクターの能力がある。

 このユウキの能力という物が問題で、ユウキのプレイヤーである紺野木綿季本人の記憶を継承しつつも、彼女の能力ではなく彼女のアバターの能力を継承しているのだ。

 こんなことが起きている原因は、彼女が人生の多くをゲームの中で過ごしていたこと、彼女の死ぬ寸前の意識がアルヴヘイム・オンラインの中にあったことのどちらかが原因だと、クレマンティーヌは考えている。

 

 ユウキの能力、というよりもアルヴヘイム・オンラインの全アバターの能力である飛行能力で、今のクレマンティーヌは空を飛んでいた。

 全力で走るよりも遅くはあるが、今の彼女は一般的な魔法詠唱者が使用する『飛行』の魔法よりも早く移動することができる。

 普通に走るよりも体力を消耗するが、足を痛めたりする心配が一切ないのでこの能力を彼女は重宝していた。

 

 木々の間をくぐり、枝葉をかわして先に飛ぶ。

 大樹の周りをぐるりと回り、風を全身に感じながらエ・ランテルの方へと飛んで行く。

 

 三時間ほど飛んで、地平線から太陽が頭を覗かせたとき、彼女はようやく一息ついた。

 

「ふう、これくらい離れればいいかなー」

 

 クレマンティーヌは、右手を動かすと目の前にテントと寝袋を出現させる。

 いくら魔法少女と呼ばれていても、実際は少女ではないクレマンティーヌは若さを活かした徹夜など負担でしかない。若かりし頃のように、48時間耐久拷問などできはしないのだ。

 

 彼女はテントに籠もると、寝袋の中で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クレマンティーヌが眠っている丁度その頃、ナーベラルは焚き火の側で剣をブンブンしていた。

 彼女の主であるアイ―――モモンは、そんな彼女をじっと見つめている。

 二人と同行していた漆黒の剣という冒険者集団と依頼人の少年は、警戒役として一組の男女を残して眠っているようだった。

 

 

 彼女とモモンが、ギガントバシリスクの様な強大なモンスターの討伐ではなく、薬草採取の様な役不足な仕事をしているのには理由がある。

 ―――単純にお金が無いのだ。

 

 彼女の主であるモモンは、彼女に心配をかけまいとして黙っているようだったが、彼女には解っていた。

  至高の御方に何度も注意されるような彼女ではあるが、注意されたそれらの言動は彼女の忠誠心の発露であって、単にナーベラル・ガンマという存在が愚か者であるというわけではない。少なくとも、彼女の主の慈悲深さを理解できる程度にはそうだった。

 

 あの後、茶髪の女性と別れたナーベラルとモモンは、その足で冒険者組合へと向かった。

 昨日とは異なり組合は静かで、依頼の貼られたコルクボードには昨日ほどの活気は無かった。

 

「やはりそうか」

 

 彼女の隣から、至高の御方の御言葉が聞こえる。

 おそらく、彼女の主はこの活気の無い理由を把握していたのだろう。いったい、どのような情報からどうやってそんな推察をしたというのか。彼女にはその考えに行き着いた経緯が、全く想像できなかった。

 

 ―――いえ、想像できると考えたこと自体が不敬なのかもしれないわね。

 

 ナーベラルはそう考え、つい死にそうな気分になった。

 彼女の上司にして、至高の四十一人が一人タブラ・スマラグディナに賢くあれと創造された存在であるアルベドが、その思考をもって読みきれないと口にするのが彼女の主だ。無意識的とはいえ、彼女の想像の範囲内にしか至高の御方の神算鬼謀が存在しないとしていたことは、間違いなく不敬だと言えた。

 

 そんな事を考える彼女をよそに、モモンはコルクボードに足を進める。

 彼はコルクボードに貼られていた依頼票を無造作に一つ手に取ると、組合の受付嬢にそれを渡した。

 しかし、不敬にもその受付嬢は彼女の主が銅のプレート持ちであるためにその依頼は受けられない、などと口にした。

 ナザリックであれば、場合によっては死罪にすらあたる罪だ。そう考えたナーベラルは、腰に吊した剣に手をかける。

 しかし、彼女の主はそれを手で制すると、優しげに受付嬢に自らと彼女の強さを提示し、それでもなお受けられないのかと尋ねた。

 至高の御方の慈悲、本来であればその言葉にむせび泣き心よりの感謝を告げるべきところではあるが、所詮宙を舞うハエにすら劣るような下等生物風情にはその寛大さが理解できなかったのだろう。少し申し訳なさそうにしつつも、実力があったとしてもその依頼を受けさせることはできないと、その言葉を断った。

 

 ―――なんという不敬なクソムシだろうか、いや、もはや蟲という存在に例えることすらおこがましい。ゴミだ。

 

 ただ、流石のゴミでも至高の御方のお言葉を全く理解できないわけでもなかったようで、代わりに銅のプレートの受けられる仕事の中で最も難しいものを持ってきてくれ、という彼女の主のその言葉には快く応えていた。

 

 そんな時、ナーベラル達は横から声をかけられる。

 声をかけてきた集団の名は『漆黒の剣』、(シルバー)の冒険者グループだった。

 

 彼ら曰く、自分たちの護衛依頼を手伝ってほしいとのこと。どうやら宿屋の火災の方に多くの冒険者が行ってしまったために、自分たちの仕事を手伝ってくれる冒険者を探していたらしい。

 彼女の主はその行為が冒険者組合の規約に違反していないことを確認すると、彼らと行動を共にすることを決めたのか、詳しい話を聞くために組合の一室を借りた。

 

 小部屋の一つに移動した後、ナーベラルはその一室で自身の主が彼らと話しているのを聞き、彼らの言葉から少しでも情報を聞き出すために彼らの一語一句に集中していた。

 そんな中、彼女は下等生物たちの発言の中から気になるものを聞いた。

 

 『魔法適正』と『あらゆるマジックアイテムが使用可能』という二つの生まれながらの異能(タ レ ン ト)だ。

 かつてナザリック地下大墳墓が世に覇を成していた世界には存在しなかった能力、生まれながらの異能(タ レ ン ト)。彼女は生まれながらの異能(タ レ ン ト)とはそこまで出鱈目な物なのかと感心しつつ、主に警告する。

 

 しかし、その心配は無用だったようで、わかっていると返されてしまった。

 

 おまけに、今回の依頼においてその『あらゆるマジックアイテムを使用可能』という力を持つ少年を護衛すると言われ部屋にその少年が入ってきたときには、咄嗟に剣を構えてしまったために、彼女は主から今日3発目のお叱りを受ける羽目になる。

 

 今回引き受けた依頼の内容は、薬草採取の護衛を行う彼らに協力し依頼人と守り抜くことだった。

 

 彼女にとって下等生物(クソムシ)たちと行動を共にすることは、ゴミ箱を漁るような嫌悪感を抱く行為であったが至高の御方の命令は絶対である。

 至高の御方と行動を共にする喜ばしさと下等生物(カメムシ)達と行動を共にする嫌悪感に挟まれながら、彼女はエ・ランテルを出た。

 

 彼等の目的地は、彼女の主が以前訪れたことのある村であるカルネ村。依頼者の少年は、カルネ村近辺で薬草採取を行うついでにその村に薬を売りに行くつもりのようだ。

 彼らは、エ・ランテルから北東に位置するカルネ村へ東に進んだ後に北上する形で進んでいた。カルネ村へと続く道は、彼女達が通る道と北上したのちに東へと進む道の二種類が存在する。今回通っている道は、どちらかと言えばモンスターの出現頻度が少なくもう一方の道に比べ安全かつ迅速に進める道だった。

 

 ナーベラルは、同行している冒険者グループである漆黒の剣の内の一人の下等生物(ヤブカ)が騒ぐ羽音に耐えつつ、黙々と歩く。

 

 念のため道中ではモンスターの出現を警戒していたものの、陽が暮れるまでにゴブリンが二、三匹現れただけに終わる。

 そのゴブリン達も、ナーベラルのストレス発散の為の生贄になったため、道中は全く問題なく進むことができた。

 

 陽が暮れると、当然ながら普通の人間であれば野営を行う必要がある。

 彼女は主を焚き火の前で休ませると、全速力でテントを設営し始める。例え布でできたボロ屋であっても、至高の御方が休息を取る場所として相応しいものを作ろうと努力することは、彼女にとってはとても当たり前のことだった。

 

 テントを設営し終わると、今度は飲食の準備が待っている。

 とは言え、彼女もその主も飲食を必要としないので作る必要は無い。漆黒の剣にいた女性が作るというので、ナーベラルがすることは料理にポーションや対アンデッド系の何かが料理に入れられていないかを観察することだけであった。

 

 主と共に、宗教上の理由により下等生物風情とは共に食事が取れないと伝えると、下等生物(ユスリカ)達に食事中の様子を見せること無く食事の時間を終える。

 夕食の後に、彼女の主は漆黒の剣達と寝ずの番について話し合うと、下等生物たちには最も酷である時間帯、深夜から早朝にかけて番をすることを決めてきた。彼女達には睡眠などの休息行為は、肉体的には必要ない。本来最も辛い時間を引き受けることによって、人間性の良さを彼らにアピールしているのだろう。ナーベラルは主の考えに感心するばかりだった。

 

 そして、番をする時間が回ってきた二人は、警戒をしたまま寝てしまったらしい漆黒の剣の二人組に布団代わりの布をかけると、周囲から近付いてくる者がいないか警戒を始めるのであった。

 

 

 

 

 右に左にブンブンと、ぎこちなさを滲ませながらナーベラルは剣を振る。

 それは、朝の空気に剣が風を薙ぐ音が鳴り、彼女の容姿の美しさもありどこか神聖な空気さえ漂っていた。

 

 右中段から左への薙ぎ払い、腕を大きく振り上げ振り下ろす。返すように剣を切り上げ、その動きから流れるように突きを放つ。だが、彼女の突きに力が入り過ぎているのか、はたまた足腰の力や重心がうまくとれていなかったのか、少しだけナーベラルの体制が崩れた。

 彼女は、その動きをごまかすために一歩踏み込み再び剣を振り下ろす。しかし、無理をしたためにその動きにはさらにぎこちなさが生じていた。

 

 さて、彼女がこんな早朝に剣をブンブンしているのには理由がある。

 彼女の主が、ファイターの職業レベルを持つナーベラルがどれほどの剣技を備えているのかを見たいと言ったためだ。

 

 至高の御身である彼に命じられることは、ナザリックのNPCである彼女にとって最高に光栄なことである。たとえ、本来であればその動きが披露するに値しない無様な物であっても。

 

 真剣な顔で、ナーベラルは剣を振る。少しでも優雅に、僅かでも美しく、欠片でも至高の御方にお見せするに値する剣舞を振るうために、いつもであれば気にもしないような身体の節々にまで意識を向けて剣を振る。

 

「もういいぞナーベ。ご苦労だった」

 

 彼女は主の声に従い、手に持った剣を鞘に納める。

 彼女の主は僅かにではあるが満足そうにしており、彼女はその様子に安堵の息をこぼした。

 

 彼女としては非常に満足できないもどかしさを感じさせる剣技であったが、満足するに値するものだったのだろう。

 

「この世界の戦士職の人間との比較には十分になった。戦士長やクレマンティーヌの剣技は、この世界では随分と高い物の様であるからな。漆黒の剣のような一般的なクラスの剣技と、レベル1の戦士職であるお前の剣技を比較しておきたかったのだ」

 

 彼はそう告げると、背中に背負っていた巨大な剣を降ろし、彼女が先ほどまで持っていた剣と同じものを虚空より取り出して振り始める。

 その剣技は先のナーベラルの剣技よりもはるかに鋭さがなく、力任せな印象を見る者に与える物であったが、魔法詠唱者のものとは思えないほどの物であった。

 さらに、少しずつ剣を振ることに慣れてきているためか、だんだんと剣の鋭さが増している。

 

 

 

 彼は、漆黒の剣の一員が起き始めるまで剣を振り続けた。




ナーベ「一語一句、聞き逃しません (`・ω・´) 」

 なお、名前はガン無視している模様。


 そろそろ本格的な戦闘回です。勘のいい方は、もう敵が誰かわかりますよね。

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