時間としては深夜3時を回ろうという時間。無事ヨークシン郊外のリンゴーン空港に到着したシェスカ達は、タクシーを走らせ市内を目指していた。市内へ続く道程は、時間帯の助けもあり予定より早めに移動できたほどだったのだが、遠くに見えていた摩天楼に近付くにつれ、道路には車両が、歩道には人々が詰めかけていた。
「……随分混んでるわね」
「すみません、お客様。どうも街で騒ぎが起きてるみたいで、このままでは到着はかなり遅れてしまいます」
車内無線機を片手に申し訳なさそうに頭を下げる運転手。
シェスカはじっと考え込むと、金を払い車を降りた。
確かに、どこもかしこも混んでいる。というより、これは
誰も口にはしないが、都市部でよろしくないことが起きているのは明白だ。隣で銃の乱射音を聞きながら睡眠をとれる人間などそういないだろう。彼らはことが落ち着くまで外周部で身を寄せ合っているのだ。それを非難することはできない。
「ディルムッド」
主人の呼びかけに頷いて返すと、彼女をエスコートするように路地へ。「失礼します」耳元で囁いて、膝の裏と背中に手を回す。
「窮屈ではありませんか?」
「大丈夫よ、場所はわかる」
「地図は頭に入っていますので、―――跳びます」
人ひとりを抱えているとは思えない跳躍で、周辺の建物の屋上に足を掛けると、そのままどんどん跳ねて移動していく。あまり手にも、自慢の脚にも力を入れ過ぎず、傷をつけないように加減しながら、満月の妖しい光が注ぐヨークシンシティの夜空を駆けた。
風で乱れる長い髪を右手で抑えながら、ディルムッドの進む先を目を細めて窺う。向かう先は、散々に文句を言う予定の
部外者だが、ビスケットにもともに話を聞いてもらう。逃げ道をなくしたやり方は卑怯で言い逃れはできないが、プロハンター歴の長い彼女の手が必要になる可能性は十分ありえる。ムーディには何もない。彼には
「シェスカ様」
人ひとり抱え、軽く数キロは移動したとは思えない涼し気な声に、視線を上にあげる。見慣れた美貌が彼女を見下ろす。
「ついた?」
「はい、一度地上に降ります。舌を噛まぬようにお気をつけください」
ほとんど衝撃を感じることなく無事地上へ着地する。礼を言って腕から降りると、懐からワインレッドの携帯電話を取り出し、履歴を辿る。
「もしもし、ついたわ。今ホテルの前」
『あら、早かったわね。街混んでたでしょ?フロントには通してあるから、そのまま10階の1005号室まであがってくるわさ』
通話を切ると、指示通りフロントを通して10階までエレベーターで移動し、1005号室をノックする。
「お疲れだったわね、あんた達。中はいんなさい」
「ムーディは…」
挨拶もそこそこに奥へ足を進めるシェスカの背中を、子供を見るような目で見送るビスケットに、ディルムッドが小さく謝罪する。「いいから、早くあなたもいったら?」という言葉に甘え、足早に主人の後ろを追った。
「ああ、店長っ!」
広い室内に設置されたローテーブル。対面に設置された2人掛けのソファから腰をあげたムーディが声を上げる。
喜色と緊張、極端な感情が綯交ぜになった情けない顔。
散々に文句を言われるだろうと身構え、じっと待つ。しかし、シェスカはムーディの前に立ったまま、じっと顔を注視し口を開かない。
「え、と。店ちょおお?」
右頬をつねり、ぎりぎりと。
「ひぃたいれふ、てんちょ!」」
抗議の声を上げるが、シェスカの指は頬に吸い付いたように離れない。
追いついた二人も、二人のやり取りを呆けた顔をして見ている。
「てんひょぉぉぉ」
涙目で手をバタつかせるムーディ。
じっと無言で頬を抓るシェスカ。
「てん、ひょ。いたぃいいい」
「ちょっと、話が進まないから、やめたら?」
ビスケットに止められ、ぱっと手を放すと、ムーディの頬はリンゴのように真っ赤に腫れていた。涙目で頬を摩るムーディ。反面シェスカは満足そうな顔でひとつ頷いた。
「もういい?取りあえず貴方たち座んなさい。今お茶いれるから」
「ありがと、ビスケ」
「かーしーいーちー」
各々に前に湯気を上げるカップが配られると、シェスカが徐に口を開く。
「それで、何があったのか話せる?わかる範囲でいいわ。憶測も予想もいらない。自分が真実目にしたことだけ話して」
「…ちょっと、シェスカ?」
「悪いわね、ビスケ。諦めて頂戴?」
「……むぅ。まあ、保護以外なにもしてないからいいけど…」
抗議の声を上げるビスケ。納得はしていないが使われてやろうという気は一応あるらしく、おとなしくソファに腰を落としている。ディルムッドが一瞬気遣わし気に視線を寄越してきたので、それでチャラにしてやることにした。
「えっと…ヨークシンにきて、友達と合流したですよね…」
ムーディはできるだけ鮮明に思い出すため、何度も記憶を反芻しながら、言葉を選んで9月1日の出来事を語る。
怪我をしたはずだが、脚に怪我はなく衣類も解れていないというのはおそらく念だろうと、三人とも特別不思議がることなく続きを促す。
「それと…確かに、誰かに後ろから拘束されてたはずなんですけど…それも朧気で。気づいたらその監禁場所にいたんですよね。それからは、脱出するまで動いてないです。声の女の人も記憶にないし」
「…なるほど…しかし、其れだけの人間が襲撃されたってのに、それが騒ぎになってないっていうのは…」
「はい…傷もないし、俺自身なにもされなかったし、保護されてからは知人の行方が気になったからネットで検索してみたけど、そんな話出回ってないみたいだし…あれは本当にあったことなのかなって…」
話のおかしさに、全員が首を傾げる。知人と一緒に襲撃されたムーディも、普通ならトラウマものの記憶のはずなのだが、あまりにも痕跡がなさ過ぎて現実味がなく、白昼夢でも見ていたのかと錯覚するほど。「もしかして…」と呟いたのはビスケット。
「知ってるかしらないけど、この街の市長はマフィアと蜜月の関係にあるわさ。その関係で一部治外法権になってる区画があるくらい裏世界の人間が幅を利かせてるんだけど…その中の競売に参加した。っていうのなら、話は通じないでもないわ。自分たちの面子に盛大に泥を塗られたんだもの、隠蔽に走るのは当然だわさ」
「……確証はないけど?」
「そう、確証はないけど。それに、そこにムーディを連れていくメリットがまっっっったくないわさ。自分で言っててないわねって思うくらいには」
「酷くないですかぁ?」
「「「事実でしょ(だろ)(だわさ)?」」」
ユニゾンで否定されたムーディが肩を落とすが、三人は構わす話を続ける。
「マフィアの競売なのかの是非は問わないとして、なんでムーディだけ無事だったの?」
「前提がおかしいわさ。もしかしたら無事な人間は別にいるかもしれないわさ」
「生存者を隔離したということか?」
「外にばれると面倒と思われたとか?」
「少なくない数が犠牲になっているのに?」
「というか…ムーディ。お前その知人の連絡先は知らないのか?」
はたと、三人とも手を止める。昨今、安否の確認は手軽にできる。特別な理由がなければたいていの人間は携帯を所有しているはずだ。
「あ~…ホテルから電話したんですけど、出ないんです。もう一人の、一緒に連れて行ってくれた社長さんは、もとから連絡先しらないのだ」
「…社長ね…ふーん…だったら調べられるわよ。出費は必要だけど」
「え、本当ですか!?」
「ええ、プロハンター専用サイトなら、役職もちの人間を探すのは容易いわ。でも、結構な額、請求されるわよ?」
頬杖を突きながら、ビスケットが窺う相手はシェスカ。ムーディがなぜ関わったのか、なぜ拘束されたのか、今も狙われているのか、あらゆる可能性を探るためには情報が必要だ。それに、金を掛けるか否か。
「いいわよ」
返答は簡潔に。
一切の迷いなく。
「おーけー。それで、ムーディその社長の名前くらいはわかるかしら?」
「はいっ!それならわかりますよ、
***
『もしもし』
「おっと、まさか君が電話にでるとわね」
『切るわよ?』
「何をそんなに怒ってるんだ?イライラしてるな」
『……要件は何?』
「
『…………なるほど、なるほどね。見えてきたわよ』
「おっと、先に弁解させてもらえるか?
『……なんで連絡しなかったの?』
「できなかったんだ。こっちにもいろいろあってな。今ようやく一仕事終えて帰って祝宴を上げてるとこ」
『……』
「―――――縁を切らないからこうなった。これは君が招いたことでもある」
『……ああ、そう。調べたのね』
「まあね、そのままには出来ないからな。あんなちんけな男、さっさと始末しておけばこんなことにならなかったのに、君が変に仏心をだしたからこうなった」
『―――』
「詰んでるよ。どうあがいてもあの男は詰んでる。でも、そのままにしておけばまた同じようなことをしないとも限らない。まあ、そっちがどうしなくても、こっちで殺すよ?放置できないからね」
『…………情報』
「ん?」
『情報をそのまま転送して』
「ふーん……いいよ」
『…なに』
「いや、なんでも」
『お礼はいわないわ。
「ああ、それでいいよ。これでお互いチャラだ」
『ブッ…ツー…ツー…』
んんっ!温度差っ!
温度差がひどすぎたので2話で分けたけど結局温度差変わらなくて草。
ホットラインマイアミのBGM聞いてたら頭がぱーんっとなってなんかおかしい文章になってしまったのでおもいっっっっきり編集するかもしれません。はい。
D様による本作品初の■■。
でもハンターハンターって本来そういった描写込だもんね(´・ω・`)大丈夫…大丈夫?
あの、でもいうほどなんかあるわけじゃないですよ?
シャル( ゚Д゚)くちゃちい念能力者
なんで。
さくーっと
さくーっと進めます、はい。
エクステラしたいからね