【十二日目】
戦車蜘蛛の背中に乗って目的地、死を撒く剣団の潜伏地点に近づいたところで何やら武装した十人ほどの集団を見つけた。しかしその集団は武装をしているが身なりは良かったので、目的の死を撒く剣団ではなさそうだった。
死を撒く剣団ではなかったら冒険者のパーティーかなと俺が考えていると、横でクレマンティーヌが「あいつら、私の元同僚だよ」と教えてくれた。
クレマンティーヌの元同僚……ということはスレイン法国の漆黒聖典か。
相手がスレイン法国の人間だと分かると昨日の怒りが再燃してきて、気がつけば「奴らは俺が殺す。お前はそこで見ていろ」とクレマンティーヌに向かって口走っていた。なんだか最近、精神というか考え方がどんどん異形と化していっている気がする。
クレマンティーヌも元同僚とはいえ漆黒聖典のメンバーに情を持っておらず、殺したい相手である実の兄もいない様子なので「はいはーい。頑張ってねー」と笑顔で言ってくれた。漆黒聖典の奴らはこちらに気づいておらず、死神の観察眼で見れば頭上に【100%殺せるデス】というメッセージが見えるので仕掛けるならば今だろう。
まず俺はスキルを発動させると右手の掌から短めの日本刀のような刃を生やした。
これは「ウェポンボディ」という異形種専用の職業から習得できるスキルだ。ウェポンボディのスキルは職業名の如く自身の体を武器とするスキルで、使用するには片手あるいは両手に武器を装備してはならないという条件があるが、俺はある理由からこのスキルを重宝していた。
そして次に別のスキルを発動。十秒くらい精神を集中させていると目の前に魔力の塊でできた人形が現れる。現れた魔力の人形の数は十体で、漆黒聖典の奴らと同じ数だ。
準備が完了したので俺は右手の刃を振るい十体ある魔力の人形の首を一瞬で切り落とした。するとそれと同時に漆黒聖典の奴らの首が見えない刃に切り落とされたように胴体から落ちていった。
この光景を見たクレマンティーヌはそれまで浮かべていた笑みを驚愕の表情と変えて「一体今何をしたんだ!?」と詰め寄ってきた。そんな彼女の態度が面白かったので、俺は内心で自慢気な笑みを浮かべながら何をしたのかを説明した。
漆黒聖典の奴らの首がいきなり切り落とされたのは俺の職業の一つ「カースドアサシン」で覚えられる「ドール・ペイン」というスキルの効果だ。
カースドアサシンとは呪術を用いて相手を殺害する暗殺者という職業で、マスターアサシンとカースドキャスターが両方ともレベル10以上じゃないと解放されない上位職業だ。そしてドール・ペインは敵と見立てた呪いの人形を攻撃することで離れた所にいる敵に即死効果のあるダメージを与えるスキルである。
カースドアサシンで覚えられる戦闘スキルは発動まで時間がかかるし、敵に邪魔をされて発動に失敗するとこちらにペナルティが襲いかかってくるのだが、それでも一度発動すれば高確率の即死効果と様々なバッドステータスを与える強力な戦闘スキルが揃っているので俺はこの職業を気に入っていた。
漆黒聖典の奴らを倒した後、俺とクレマンティーヌは彼らからお金や食料を全ていただくことに。そうしていると漆黒聖典の中で一番歳上の老婆の荷物から驚くものを発見した。
俺が老婆の荷物から見つけたのは白銀の生地に龍の刺繍がされたチャイナ服。俺の記憶が正しければこれは確か耐性がある相手でも洗脳する事できる世界級アイテム「傾城傾国」だったはず。
まさかこんな所でユグドラシルの世界級アイテムを見ることができるとは思いもしなかった。デザインと効果はあまり好みじゃないけどこれもいただいていこう。
【十三日目】
今俺とクレマンティーヌだが戦車蜘蛛に乗って今まで来た道を逆走している。
何故来た道を逆走しているかというと昨日偶然見つけた漆黒聖典を皆殺しにした後、クレマンティーヌが「このままここにいるのはマズイかも」と言ってきたからだ。彼女の話によると漆黒聖典はスレイン法国にとって軍事的にも政治的にも極めて重要な存在なのだそうだ。
その漆黒聖典の一部隊が全滅したとなるとスレイン法国はこれを全力で調べ、場合によっては漆黒聖典の隊長がスレイン法国の秘宝で装備して出てくるかもしれならしい。
確かにそれは少しマズイかもしれない。
クレマンティーヌが言うには漆黒聖典の隊長はユグドラシルのプレイヤーである六大神の力に目覚めた「神人」と呼ばれる存在で、そのスレイン法国の秘宝というのも六大神が所有していた武器や防具、あるいはアイテムのことなのだろう。ランクも秘宝と呼ばれるだけあって神器級、下手をしたら世界級もあるかもしれない。
実は俺の今の体「クモエル」は暗殺に特化したキャラメイクをしているので正面からの戦闘はそんなに得意ではないのだ。多分姿を見せての戦いではナザリック地下大墳墓の階層守護者にも負けると思う。
そんな訳で情報が全くない状態で漆黒聖典の隊長と戦う、なんていう最悪の展開を回避すべく俺とクレマンティーヌは殺した漆黒聖典の遺体を埋めると、狩る予定だった死を撒く剣団なんて完全に無視してその場を後にした。
というかクレマンティーヌよ。そんなヤバい状況になると予想できていたなら止めてくれてもいいんじゃないか?
そう思って言ってみると、スレイン法国を裏切ったクレマンティーヌにとって追手かもしれなかった漆黒聖典の奴らは無視しておくわけにはいかなかったと言われた。要するに最初から俺に漆黒聖典の奴らをぶつける気だったって訳か。
とにかくもうこのリ・エスティーゼ王国にはいられない。他の国に行くにしてもスレイン法国に行くのは論外であるため、とりあえず俺達はここから比較的近いバハルス帝国に向かうことにした。