とある至高の四十一人の日記   作:小狗丸

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日記7

【十日目】

 

 エ・ランテルを後にして旅に出た次の日。俺はムシツカイのスキルで巨大な蜘蛛の外見をした騎乗モンスター、戦車蜘蛛(チャリオットスパイダー)を呼び出すとクレマンティーヌと一緒にそれに乗って、死を撒く剣団が現れると思われる場所へと向かった。

 

 俺が取ったムシツカイのスキルは蜘蛛の外見をしたインセクトモンスターを呼び出すものばかりで、この戦車蜘蛛はその中でも特にお気に入りの一つだ。

 

 何しろ外見はロボみたいにカッコいいし、それでいて性格は大人しくて召喚者には従順。どんなに足場が悪い所でも高速で走れて乗り心地は最高。オマケに中々便利な防御スキルと回避スキルを持っているので戦闘でも頼れる戦力になるからだ。

 

 クレマンティーヌも最初は戦車蜘蛛を気味悪がっていたけど、すぐに気に入ってくれた。

 

 そして目的地まで向かう途中、休憩をとっていた俺は今更な質問だと思ったがクレマンティーヌに今までどこでどんな事をしていたんだと質問をしてみた。すると彼女はスレイン法国の出身で、元は英雄級の実力者のみで構成された特殊部隊「漆黒聖典」に所属していたのだと答えてくれた。

 

 初めて会った夜に襲いかかってきたクレマンティーヌだけど、あの時の彼女はユグドラシルのプレイヤーとして考えたら大体レベル三十ちょっとくらいに感じられた。それで「英雄級」というのだから、この世界の住人の戦闘力はユグドラシルよりずっと低いようだ。

 

 そしてクレマンティーヌが「元は」と言った理由は彼女が今は漆黒聖典の一員ではなく、同じ漆黒聖典に所属している実の兄を殺害すべくスレイン法国から逃げ出したかららしい。

 

 兄の名前を口にする時のクレマンティーヌは酷く苦々しい表情をしていて、それだけで彼女がどれだけ兄を憎んでいるのかが分かった。……一体この兄妹に何があったっていうんだ?

 

 

 

【十一日目】

 

 今日も昨日と同じように戦車蜘蛛に乗って目的地まで移動。このペースで行けば明日くらいには目的地に着くことだろう。

 

 休憩をしているとクレマンティーヌに「昨日は私の事を話したんだからさー、今日は貴方の事を教えてよー」と言われ、ユグドラシル時代でのアインズ・ウール・ゴウンの活動を実際にあった出来事のように話してみた。DMMO-RPGとか仮想現実とか言っても、信じてもらえないどころか理解してもらえないだろうしね。

 

 一通りアインズ・ウール・ゴウンの活動をクレマンティーヌに話すと彼女は心底驚いた表情となって「まるで伝説の『六大神』や『八欲王』みたいだねー」と言ってきた。

 

 六大神と八欲王というのは今から何百年も前にこの世界に現れた神の如き強大な力を使う集団のことらしく、六大神はスレイン法国の基盤を造り、八欲王はこの世界に位階魔法の基本を遺していったそうだ。

 

 それにしても六大神と八欲王ねぇ。……俺、多分そいつらと会ったことがあると思うぞ?

 

 あれは確か五年か六年くらい前、ユグドラシルがまだ絶大な人気を誇り、アインズ・ウール・ゴウンも全てのメンバーが揃って楽しく遊んでいた頃。ギルドメンバーのほとんどがとある大型クエストに参加するために出払っていた時を狙って、二つのギルドがアインズ・ウール・ゴウンの本拠地であるナザリック地下大墳墓に攻め込んで来たのだ。

 

 その攻め込んで来た二つのギルドと言うのが六大神と八欲王だ。

 

 二人のギルドとも、そこそこ大きなギルドで百レベルのプレイヤーも何人もいたのを覚えている。

 

 六大神と八欲王が攻め込んで来た時にナザリック地下大墳墓の留守番をしていたのが俺で、この時ばかりは真剣にヤバいなと肝を冷やしたものだ。しかし二つのギルドはナザリック地下大墳墓の中で鉢合わせになると突然お互い戦い始めたのだ。

 

 六大神と八欲王は色々と共通点があるギルドだった。ギルドの規模が同じなら百レベルプレイヤーの数も同じ。ロールプレイを重視するという点も同じだった

 

 ただ一つ違う点があるとしたら、それは六大神が「正義」の、八欲王が「悪」のロールプレイを重視していた点だろう。

 

 ロールプレイの方向性が真逆であるせいで六大神と八欲王は以前より犬猿の仲だったらしく、それが出会ったら衝突するのは当然の事といえた。……また、これは後で知ったことなのだが二つのギルドが同時にナザリック地下大墳墓に攻め込んで来たのは全くの偶然だったらしい。

 

 六大神と八欲王は他のギルドの本拠地だというのも御構い無しに戦いを激しくしていき、最後にはあンの馬鹿共……ユグドラシルのアイテムの頂点に位置する激レアかつ超強力なアイテム、「世界級アイテム」を使いやがったのだ。

 

 恐らくは俺達アインズ・ウール・ゴウンに対する切り札として用意していたのだろう。六大神は世界級アイテムで種族が「神」という超強力モンスターを、八欲王はそれこそ無限とも言える悪魔の軍勢を呼び出したのだ。……ナザリック地下大墳墓の中で。

 

 そこから先は大昔の聖書の最終戦争といった感じで、このままだとナザリック地下大墳墓の被害が甚大になると思った俺は、一緒に留守番をしていたギルドメンバーの協力を得て六大神が呼び出した神と、八欲王が呼び出した悪魔の軍勢を指揮する魔神を倒したのだ。

 

 切り札を失い、戦力を消耗した六大神と八欲王はナザリック地下大墳墓から逃げ帰っていったのだが、あの時は本当に大変だった。

 

 六大神か八欲王、あるいはその両方がこの時の戦闘の様子を動画で撮っていて配信したせいでインタビューが鬱陶しいくらいくるわ、変なアダ名をつけられてウルベルトさんやるし☆ふぁーさんに半年くらい同じネタでからかわれるわ……。思い出したら段々腹が立ってきた。

 

 クレマンティーヌの話を聞く限りこの世界の伝説にある六大神と八欲王は、俺と同じようにこの世界にやって来たユグドラシルのプレイヤーなのだろう。

 

 ……そうかスレイン法国はあの時の馬鹿共の片割れ、六大神が造った国なのか。だったら俺にとってエネミーだな。

 

 クレマンティーヌよ、もしスレイン法国と戦う時は俺に言え。その時は協力は惜しまんぞ。


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