とある至高の四十一人の日記   作:小狗丸

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日記6+漆黒の剣と漆黒の戦士の会話

【九日目】

 

 昨日、漆黒の剣の人達に酒場で酒と料理を奢ったことで手持ちの金がほとんどなくなってしまった。その事は別に後悔していないのだがこれからどうしようかと考えているとクレマンティーヌが一つの提案を出してきた。

 

 何でもこのエ・ランテルと王都リ・エスティーゼの間くらいに「死を撒く剣団」とかいう傭兵団もどきの盗賊団が出現するらしい。死を撒く剣団はそれなりに大きな盗賊団で財宝を貯め込んでいるようなので、それを壊滅させて財宝を奪いとろうとクレマンティーヌは言う。

 

 ……確かにそれは中々にいい考えだと思う。

 

 人道的には完全にアウトだが、もう俺もクレマンティーヌも人間じゃないからそんなの関係ないし、相手が盗賊団だったら財宝を奪いとっても誰も文句は言わないはずだ。それに人間からゴズにと生まれ変わったクレマンティーヌの実力を測るのにも丁度いい相手かもしれないしな。というより、彼女の方も自分の腕試しがしたくてこのような提案をしたのだろう。

 

 とにかくクレマンティーヌの提案に反対する理由がない俺は、早速クレマンティーヌと一緒に死を撒く剣団が現れるという場所に向かうことにしてエ・ランテルを後にした。

 

 そしてエ・ランテルを後にしてからしばらくしたところで俺は、何で二日前にクレマンティーヌが街中で殺人なんかをしていたのか気になって彼女に聞いてみると「んー? ちょっと友達の用事っていうか儀式を手伝っていてー。その為に人を殺す必要があったのー。まあ、もうどうでもいいんだけどねー」という返事が返ってきた。

 

 ……クレマンティーヌ(快楽殺人犯)の友達がエ・ランテルに潜伏しているのか?

 

 漆黒の剣の人達、大丈夫なのかな? ……エ・ランテルを後にしたのは早計だったかもしれないな。

 

 ☆

 

 クモエルが冒険者のパーティー、漆黒の剣の心配をしていた頃、当の漆黒の剣の四人はエ・ランテルからカルネ村という村に続く道の途中で野営を行っていた。

 

 漆黒の剣の四人は現在、エ・ランテルでも有名な薬師のンフィーレア・バレアレをカルネ村まで護衛してそこで薬草の採取を手伝うという仕事を受けている最中であった。

 

 野営の為に灯された焚き火の周りには漆黒の剣の四人だけでなく、他にも三人の人物が座っていた。三人のうちの一人はこの仕事の依頼主であり護衛人物のンフィーレア。そして残りの二人はとある理由から一緒にこの仕事を受けることになった「モモン」と「ナーベ」という名前の冒険者である。

 

 モモンとナーベはつい先日に冒険者になったらしく一緒に仕事をするのもこれが初めてだが、それでも漆黒の剣の四人は彼らがすでに一流を超えた超一流の実力を持っていると考えていた。

 

 モモンは全身を漆黒の鎧で固めた男の戦士で、両手にそれぞれ長大なグレートソードを持ってそれを軽々と操り、ここに来るまでに起こったモンスターの戦闘ではオーガを一撃で斬り伏せて見せた。

 

 そしてナーベはこの辺りどころか王都でも滅多に見られない絶世の美女と言った風貌のマジックキャスターで、修得することができれば「達人」と呼ばれる第三位階魔法を使いこなしていた。

 

「モモンさんも昔はチームを組んでいたんですか?」

 

 野営をしている時の会話でモモンが仲良く談笑している漆黒の剣の四人に昔を懐かしむような様子で話しかけ、それを聞いてンフィーレアが尋ねると漆黒の鎧を着た戦士が頷いてみせる。

 

「ええ、冒険者……ではなかったですがね」

 

 この場にいる全員の視線を感じながらモモンは自分の過去の記憶をゆっくりと話し出す。

 

「最初に仲間になったのはとある街で偶然知り合った暗殺……いえ、レンジャーでした。そして二人で旅をしていた時にPK……ならず者達に襲われたのですが純白の聖騎士に救われ、三人の仲間と出会ったんです。そこに更に三人加わって九人のチームとなり、しばらくの間その九人で旅をしていました」

 

 漆黒の剣の誰かが感心したような声を出すが、モモンはそれに構わず話を続ける。

 

「旅を続けているうちに仲間は増えていき最終的に仲間は四十一人までなりましたが、そこからその……色々ありまして一人を除いて仲間達はバラバラになり、いなくなりました……」

 

「あ、あの……それで残った一人ってどんな人なんですか?」

 

 話の最後あたりでどうしようもない悲しさを感じさせるモモンに漆黒の剣の一人、ニニャがためらいがちに聞く。その質問にモモンは「少し話しすぎたな」と内心で苦笑するのだが、別段隠すことでもないので答えることにした。

 

「最初に仲間になったレンジャーですよ。彼は仲間達が去った後でも私と共に旅をしてくれたのですが……とある事故に遭い、彼とも離れ離れになってしまいました」

 

 そこでモモンは話は終わりとばかりに口を閉じ、今言った仲間のレンジャーのことを思い出した。

 

(クモエルさん、一体どこで何をしているんだろうな……。俺がこの世界に来た日、ユグドラシルのサービス最終日には『絶対に来ます』ってメッセージをくれたけど結局きてくれなかったし……。やっぱりこの世界に来たのは俺だけなんだろうか?)


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