【七日目】
昨日出会った漆黒の剣の人達……俺のスキル、死神の鑑定眼が確かだったら彼らは十日以内に死んでしまうことになる。
体と心が異形種になった今では人が死んでもそんなに心は痛まないのだが、漆黒の剣の人達には昨日お世話になったことだし、出来ることなら死んでほしくないと思う。……でもどうやって助けたらいいどころか、彼らがどの様な理由で死ぬかも分からないんだよな。
結局、漆黒の剣の人達を助ける方法は思い浮かばず気がつけば夜になっており、眠る気になれなかった俺は夜の街を散歩することにした。……すると貧民街の方から人の悲鳴が聞こえてきた。
一体何事かと貧民街の方に行ってみると、そこには下着同然の格好の上に軽鎧を身につけた若い女性が、冒険者と思われる男を殺している姿があった。
正直、殺害現場を目撃したことよりもリアルなビキニアーマーを着た女性に驚いた。……これ、ペロロンチーノさんが見たら凄く喜ぶんじゃないの?
ビキニアーマーの女性は俺に気がつくと明らかに危ない笑みを浮かべて「あらー。見られちゃったら仕方がないわよねー。これは殺しちゃうしかないかー」と快楽殺人犯っぽいセリフをいい、手に持っていた剣をこちらに向けて突撃してきた。
剣の狙いは俺の心臓。彼女の瞳から見える殺意は本物。このことから彼女は本気で俺を殺すつもりなんだろう。……だが遅い。
ビキニアーマーの女性は動きは人間にとっては速いのかもしれないが俺にしてみれば非常に遅かった。そしてわざわざこんな攻撃に当たる義理は俺にはなかった。
俺は体を少し動かして剣を避けるとビキニアーマーの女性に軽く手を当てて叩き落とした。すると彼女は「ぶべら!?」と愉快な声を出して地面に激突して死にかけの状態となり体をピクピクとさせた。
あれだけ偉そうな態度で攻撃を仕掛けておきながらあっさりと死にかけとなったビキニアーマーの女性。その姿を見て「弱っ」と思わず呟いた俺は悪くはないと思う。
それでこの死にかけの女性なんだけど……最初はこのまま見殺しにしようと思ったが、あるスキルを使うことにした。
そのスキルは「眷族化の毒爪」。NPCをギュウキの眷族である「ゴズ」に変えてスキル使用者の支配下に置くというスキルだ。
スキルを使用してしばらくするとビキニアーマーの女性は頭に牛のような角を生やして立ち上がった。良かった、どうやら成功したようだ。このスキル、成功判定があって失敗すると使用したNPCを殺してしまうんだよな。
こうして俺はこの世界に来て初めての仲間、というか部下が出来たのだった。
ちなみに部下になったビキニアーマーの女性の名前はクレマンティーヌという名前らしい。
【八日目】
朝になると昨日部下にしたクレマンティーヌから「いきなり半殺しにした挙げ句、モンスターにするなんてあんまりじゃない?」と愚痴を言われた。どうやら昨日は信じられない出来事が立て続けに起きて理解が追い付かず、今朝になってようやく自分の身に起きたことを理解できたらしい。
でもあんまりじゃないって言うけど元々はお前が襲い掛かってきたのが悪いんじゃないか?
そう思ったけど半殺しにしたのも勝手に眷族にしたのも事実なので、お詫びというのもなんだけどアイテムボックスから適当に魔法のレイピアとマントを取り出して渡した。俺にとってはたまたまアイテムボックスに入れていただけの装備する予定もないレア度の低い装備なのだが、それでもこの世界の人達にとっては最高級の品物らしく、魔法のレイピアとマントを受け取ったクレマンティーヌは大喜びして許してくれた。
そしてその日、クレマンティーヌと一緒に街をぶらついていると(ゴズとなった彼女の頭には角が生えているのだが、ゴズになると簡単な変身能力が使えるためそれで誤魔化している)偶然漆黒の剣の人達と出会い、彼らの頭上に浮かんでいるメッセージが【100%殺せるデス】に変わっていることに気づいた。
これはつまり漆黒の剣の人達が十日以内に死ぬという運命が変わったことを意味しており、それが嬉しくなった俺は彼らを強引に酒場に連れ込むと祝杯とばかりに大量の酒と料理を奢って一緒に食べた。お陰で所持金はほとんど無くなってしまったけど、別にいいだろう。
でもクレマンティーヌを部下にした次の日に漆黒の剣の人達のメッセージが変わったってことは……もしかして彼らの死因ってクレマンティーヌなのか?
漆黒の剣、生存。