とある至高の四十一人の日記   作:小狗丸

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日記3+王国戦士長とマジックキャスターの会話

【四日目】

 

 昨日、不幸な事故で皆殺しにしてしまった団体から手に入れた地図を見てみたが、地図に記されている地形は俺が知っているユグドラシルの世界とは全く異なり、ユグドラシルとは異なる世界に来てしまったことがこれで確定した。

 

 地図に地形と一緒に記されていた文字は全く読めなかったが、幸いにも未知の文字を解読してくれるマジックアイテムのメガネを所有していたためそれをかけて地図を見てみると、どうやら俺が今いるのは「リ・エスティーゼ王国」という国の端っこの方らしい。そして近くには「カルネ村」という村と「エ・ランテル」という大きな都市があるようなのだが、さてどちらに行ったらいいだろうか?

 

 しばらく考えた後、俺はエ・ランテルに向かうことに決めた。

 

 元の世界に帰るにしても、この世界に永住するにしても、しばらくはこの世界で暮らさないといけないんだしこの世界の情報は集めておいた方がいいだろう。そして情報を集めるには人が集まる大きな都市に行けば便利だろう。

 

 そうと決めた俺は早速エ・ランテルに向かうことにした。やはり今の俺の足は現実世界の時とは比べものにならない程早く、丸一日走っただけでエ・ランテルのすぐ近くまで到着する事ができた。

 

 しかしエ・ランテルらしい都市が見えた時にはすでに日が沈んでおり、その日は野宿する事にした。

 

 エ・ランテルとは一体どの様な都市なのか、この世界の人達がどの様な生活をしているのか、今から楽しみだ。

 

 ☆

 

「これはなんと惨い……」

 

 リ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフは目の前に広がる目の前に広がる光景を目にして思わず絶句した。

 

 ガゼフが見ているのは彼が今いる草原を広範囲に渡って真紅に染め上げている血の海。一人や二人どころではない。少なくとも何十人もの人間がこの場で惨殺されたのだろう。よく見れば血の海には元は人だと思われる肉塊が大小問わずに無雑作に撒き散らされている。

 

 ガゼフは国王より「国境周辺を荒らす正体不明の集団を調査し、可能ならばこれを討伐せよ」という命を受けて辺境にあるカルネ村に訪れた。カルネ村に着いた時には村はすでに正体不明の集団に襲われた後だったが、不幸中の幸いと言うべきか通りすがりのマジックキャスターに救われて被害は最小限ですんでいた。

 

 カルネ村を救ってくれたマジックキャスターにガゼフは礼を言ってから情報交換をしていると、部下から村の近くの草原で大勢の人間が死んでいるという報告を受けたのだ。

 

 そして報告にあった草原に来てみるとこの惨状である。

 

「これは人の仕業とは思えませんね。強力なモンスターに襲われたのでしょうか?」

 

 ガゼフの隣にローブを纏った人物が並び立って自分の考えを口にする。ローブを纏った人物は顔に泣いているようで怒っているような仮面を付けており表情は分からないが、声の質からして男だと分かる。

 

 このローブを纏った人物の名はアインズ・ウール・ゴウン。

 

 強力なアンデッドの戦士を従えてカルネ村の危機を救った正体不明のマジックキャスターである。

 

(セバスからの報告ではこの周辺に戦闘力が高い獣やモンスターはいないはずだったが……。これは周辺の調査をやり直す必要があるか?)

 

 アインズが目の前の血の海を見ながら考えていると、何かを見つけたガゼフが血の海からあるものを拾い上げた。それは人間の男の生首であった。

 

 ガゼフが拾い上げた生首の表情は強い絶望と恐怖に染まっていて、想像も出来ない程に恐ろしい怪物と遭遇して命を奪われたことが容易に想像できた。

 

「一体この地にどの様な怪物が現れたのかは分からないが……。せめて安らかに眠れ」

 

 恐らくここで死んでいる人間達こそがガゼフ達が討伐せんとした国境周辺を荒らす正体不明の集団なのだろう。しかしこの様な惨状を目にした以上、リ・エスティーゼ王国戦士長は血の海に沈む彼らの、そして自分が持つ生首の男の冥福を祈らずにはいられなかった。

 

 ……リ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフは知らない。

 

 生首の男の生前の名前がニグンといい、スレイン法国の特殊部隊「陽光聖典」の隊長であり自分の冥福を祈る男、ガゼフの抹殺を命じられていたことを。

 

 ……そして正体不明のマジックキャスター、アインズ・ウール・ゴウンは知らない。

 

 この草原の惨状を起こした怪物の名前がクモエルといい、その正体が異世界に迷い込んだ「ユグドラシル」というゲームのプレイヤーであることを。


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