【四十五日目】
昨日は本当に疲れた……。肉体的ではなく精神的に疲れて一日経った今でも疲れが続いている。
疲れの原因は言うまでもなく、昨日アインズさんがアルベドとセバスに階層守護者達といったナザリック地下大墳墓の幹部を集めて一つの質問をしたことだ。
アインズさんはアルベド達に俺がどの様な人物なのかと聞き、アルベド達はその質問に対して自分達なりに答えたのだが……それを隠密スキルで姿を隠しながら聞いていた俺は思わず頭を抱えた。
アルベド達の意見をまとめると至高の四十一人の一人クモエル、つまり俺という人物は……。
『ナザリック地下大墳墓のトップであるアインズさんと同等の存在で、名実ともにナザリック地下大墳墓のNo.2』
『神業とも言える暗殺の技を修得していて純粋な戦闘能力では階層守護者達に劣るが、暗殺の技を駆使して戦えば階層守護者はおろか神(と設定されているモンスター)すらも倒すことができる暗殺の達人』
『味方にはとても優しいが敵には一切の情を見せず、敵が現れるとナザリック地下大墳墓を守るために常に先陣を切って敵を暗殺していく影の守護神』
と、いうイメージらしいのだが……イッタイダレノコトダヨ?
何だよその、どこぞのRPGだったら「終盤辺りで積極的に主人公達に戦いを挑んでくる中ボス」あるいは「隠しイベントに出てくるイベントボス」みたいな人物像は?
アインズさんが言っていた「ナザリック地下大墳墓の皆が従っているのは完璧な支配者達『至高の四十一人』であって、それに相応しくない態度をとって失望されたら最悪反逆されるかもしれない。それを防ぐためにはナザリック地下大墳墓の皆が自分達に懐いているイメージ通りに行動するのが一番いい」という考えも理解できる。
アインズさん自身もRPGのラスボスみたいな人物像で見られていて、それを必死にロールプレイしているのも知っている。
だけど俺のキャラの方がアインズさんキャラよりも演じるのが難しくないか? ……何だかこれからのここでの生活が今から大変に思えてきた。
とりあえず今日は現実逃……じゃなかった、気分転換も兼ねて第六階層でクレマンティーヌに模擬戦形式で稽古をつけることにした。
基本的に辛そうな表情を浮かべながらもどこか楽しそうに剣を振るっているクレマンティーヌの姿は、気が重くなっていた俺の心を癒してくれた。そのせいか自然と教えるのに熱が入り、時には厳しく、だが褒めるところはしっかりと褒めて彼女に自分の暗殺者としての戦い方を教えていった。
その様子をアウラとマーレ、そして何故かコキュートスが物凄く羨ましそうな目で見ていたのだが……見ていない事にした。
【四十六日目】
クレマンティーヌと一緒にアインズさんの部屋に行って話をしていると、いきなりコキュートスがやって来て大量の紙の束を置いて行った。一体なんだろうとアインズさんとクレマンティーヌと一緒に紙の束を見てみると、それはコキュートスが考えたクレマンティーヌ用のトレーニングメニューであった。
コキュートスは親切心でこのクレマンティーヌ用のトレーニングメニューを考えてくれたのだろうが何なんだよコレ? 紙の量だけでも広辞苑の三倍くらいあるし、書かれているトレーニングの内容は俺もアインズさんも思わず「え? 何コレ? 新手の拷問?」と呟くほどの超ハードだった。しかも驚いたことにこれは三日分のトレーニングメニューなんだとか。
一応クレマンティーヌにやってみるかと聞いてみたが顔を真っ青にして高速で首を横に振った。まあ、それはそうだろうな。
そんな事を考えているとセバスから以前、毒蜘蛛の毒で仮死状態にしたワーカー達、フォーサイトの四人に蘇生の予兆が見られると報告を受けた。
そうか、あの四人が蘇生するのか。俺達が動く時も近いようだな。