とある至高の四十一人の日記   作:小狗丸

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これは日記17にある四十日目の日記の続きです。


日記18

【四十日目】

 

 今日は色々なことがあって驚き疲れた。

 

 間違いなく今日はクモエルとなってこの異世界に来てから一番長い一日だと思う。

 

 まず調査を依頼された地下墳墓なのだが、それがなんと俺がユグドラシル時代に所属していたギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の本拠地である「ナザリック地下大墳墓」だったのだ。

 

 ナザリック地下大墳墓を見たときは正直「何で?」と思った。ナザリック地下大墳墓があったのは毒の沼地だったはずなのに、どうしてこんな草原にあるの?

 

 あまりに予想外の出来事に混乱しているうちにナザリック地下大墳墓の探索が始まったのだが、俺はワーカーの連中が我が物顔でナザリック地下大墳墓を歩き回り、更にはあまり価値がないクズアイテムとはいえ大墳墓に置かれてある品を漁っている姿に苛立ちを禁じ得なかった。本当、ここでワーカー達を殴りかからなかった自分を褒めてやりたい気分だった。

 

 とにかく、ここがナザリック地下大墳墓であるなら俺が持っている転移アイテム「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」でモモンガさん達の所に行けるはずだ。

 

 そう考えた俺は、ワーカー達がナザリック地下大墳墓の内部へ探索するチームと地上の警戒をするチームに別れるとき、迷わず地上の警戒をするチームに立候補した。これで他のチームが大墳墓の内部へ行けばリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使えると思ったのだが、俺達以外にも緑葉のチームも地上の警戒をするチームに立候補しやがった。

 

 緑葉のチーム邪魔だなー、と思っていると玉座の間を守っているはずの戦闘メイド「プレアデス」の五人が現れて、彼女達は防衛用の強化スケルトンの群れを呼び出すと俺とクレマンティーヌ、そして緑葉のチームに襲わせてきた。

 

 自分の本拠地のNPC達に外敵扱いされるのは少なからずショックであったが、それでもこれはチャンスだと考えた俺は、緑葉のチームがスケルトンの群れに殺されるのを見届けた後でリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使ってナザリック地下大墳墓の内部へ転移した。

 

 最初俺は自分の部屋がある第九階層に転移するつもりだったのだが、何かの手違いで第六階層にある闘技場の通路に転移してしまった。そしてそこには偶然にも転移の罠に引っかかってここに跳ばされてしまったと思われるフォーサイトの四人の姿が。本当に俺ってばこの人達とのエンカウント率高いよな? このような場面でも偶然出会うっていうのはもう何かの縁があるってことだろうか?

 

 ……仕方がないな。本音で言えば他のワーカーチームと同じようにナザリック地下大墳墓を荒らされたのは腹が立つが、全く知らない仲でもないし命だけは助けてやるとしよう。

 

 そう考えた俺はムシツカイのスキルで呼び出した小型の毒蜘蛛を使ってフォーサイトの四人を仮死状態にすると、通路の隅に寝かせて今度はそれなりに強い蜘蛛系のモンスターを呼んで護衛させた。

 

 フォーサイトを「寝かせた」後、クレマンティーヌと一緒に闘技場を舞台に出ると、第六階層の守護者の一人であるアウラが現れてアナウンスをしてその直後に「彼」が闘技場の舞台にやって来た。

 

 モモンガさん。

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターで、俺がユグドラシルを始めた頃から一緒に冒険をしてきた友人。

 

 モモンガさんが闘技場の舞台に現れた瞬間、俺は思わず泣いてしまいそうになったが、そのすぐ後に彼の後ろにアルベドを引き連れてやってくる姿に驚いた。

 

 何あの人? 何かモモンガさんの姿から「絶対支配者、光☆臨」という感じのオーラを感じるんだけど?

 

 前々から魔王系ロールプレイが似合う人だとは思っていたけど、今のモモンガさんってばガチで「魔王」じゃないか? 一体あの人に何があったの?

 

 そんな風に思っているとモモンガさんってば自分のことを「アインズ・ウール・ゴウンである」なんて言い出して、俺が「それ、俺達のギルド名でしょ? 何を言ってるんですかモモンガさん?」ってツッコミを入れたらメチャクチャ驚かれた。体から緑色の光を放って驚く彼の姿はこちらの方が驚くくらいだった。

 

 スゲーな。アンデッドってあんな風に驚くんだ。

 

 その後、俺が人間のスパイダーの姿から本来の姿であるギュウキのクモエルの姿に戻ると、モモンガさんが「お帰りなさい」と言ってくれたのでこちらも「はい。ただいま、です」と返した。

 

 うん。ここに至って俺は実感した。

 

 俺はやっと自分の場所に帰ってこれた。大切な友人と、仲間達の思いの結晶がいるこのナザリック地下大墳墓に帰ってこれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、俺とモモンガさんが感傷に浸っていると、次の瞬間に怒涛の展開が俺達に押し寄せてきた。

 

 まず観客席にいるモンスター達が爆発するような歓声を上げて闘技場、というか第六階層が震えた。

 

 次に闘技場の貴賓席にいたシャルティア、コキュートス、マーレ、デミウルゴスがまるで隕石のような勢いで闘技場の舞台に飛び降りてきて、完璧すぎる姿勢で跪いてきた。そして大量の涙を流す階層守護者達に「今までどこで何をしていたのか」と聞かれ、ユグドラシルのサービス終了日にナザリック地下大墳墓とは違う場所に飛ばされてそれからは当てもなく旅をしていたことを話すとまた大泣きされた。

 

 大泣きする階層守護者達をどうしようかなと考えていると、俺の前にセバスが何やら死刑の執行を直前にした死刑囚のような表情のプレアデスの五人を引き連れて現れ、地上で俺とクレマンティーヌにスケルトンの群れをけしかけた事を謝罪してきた。俺は別に気にしてはいなかったが、ほっとくとプレアデスの五人は今すぐに自害してしまいそうな雰囲気で、これの説得には大変苦労した。

 

 なんとかセバスとプレアデス達の説得に成功すると、モモンガさんが空気を読んで今まで黙ってくれていたクレマンティーヌを指差して一体誰なんだと聞いてきたので、この世界で仲間にした俺の眷族だと正直に答えたら階層守護者達が物凄い顔でクレマンティーヌを見て、彼女の口から「ひっ!?」という悲鳴が漏れたのを聞いた。それからアルベドとデミウルゴスに彼女を眷族にした経緯を根掘り葉掘り聞かれた。

 

 そんなことをしている内に気がつけば何時間という時間が経っており、俺はセバス達に仮死状態にしたフォーサイトの回収を命じてからクレマンティーヌと一緒に第九階層にある自室に戻ると、今日の日記を書いてすぐに眠ることにした。

 

 睡魔はすぐにやってきたが、それは懐かしい自室に戻ってきたという安心感によるもので、決してナザリックの面々の対応に疲れたわけではないと思いたい。


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