とある至高の四十一人の日記   作:小狗丸

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サブタイトルは血界戦線のサブタイトルから拝借しました。
最初は「Kの一番長い一日」にする予定だったのですが、分かりやすさ重視でこのタイトルに。


蜘蛛の一番長い一日(1)

 ワーカー達は地下墳墓の本格的な探索を開始する前に、まず下調べとして地下墳墓で唯一地上に出ている霊廟と思われる建物の中を調べた。霊廟の中は入ってすぐの広間に地下へと続く階段があり、それ以外の部屋を調べてみるとそこには大量の財宝が安置されていて、それを発見したワーカー達は口を揃えて「この遺跡は宝の山だ」と言った。

 

 鎖に精緻な装飾が刻まれた黄金の首飾り。大粒のルビーがはめ込まれた指輪。作られた年代と国は不明だが美術品としての価値が高い金貨。

 

 これらの財宝が文字通り山のようにあるのを見て、霊廟を探索したワーカー達は大なり小なりその目に欲望の火を宿して上機嫌な笑みを浮かべるのだった。……ただ一人を除いては。

 

 ☆

 

 霊廟の探索を終えたワーカー達は、一先ず霊廟から外に出るとこれからの本格的な探索について話し合うことにした。そしてワーカー達は霊廟より下の階層を探索するのと、他に隠し通路がないか地表部を調べる二手に分かれることになった。

 

 そして霊廟より下の階層を探索するのはヘビーマッシャー、天武、そしてフォーサイトの三チーム。地表部を調べるのは緑葉と毒牙の二チームとなった。

 

「それじゃあ行ってくるぜ」

 

 ヘッケランが笑みを浮かべて地表部に残ることになった二チームに言うと仲間達や他のチームと一緒に霊廟の中へと入って行った。霊廟に入って行くワーカー達は皆、これから下の階層には霊廟にあった以上の財宝があると信じて疑わず嬉しそうな笑みを浮かべており、緑葉のメンバーが彼らの姿が見えなくなった後で自分達のリーダーであるパルパトラに異議を申し立てる。

 

「老公、勿体無いじゃないですか? 墓地の探索は他のチームにやらせてもよかったですよね?」

 

「その通りしゃな。たしかにお主の言う通り、このまましゃったらあやつらに儲けのほとんとを持っていかれる事もあるかもしれんのう」

 

 ワーカーチーム緑葉のリーダー、パルパトラ。すでに八十歳を超える老人である彼は、前歯のほとんどは抜け落ちているせいで空気が抜けたような声でチームのメンバーに答える。

 

「たけと決して損な話しゃねーそ? 今日は地表部の探索を引き受けた代わりに明日は優先的に下の階層を探索てきるし……それに何よりあやつらは儂らのカナリアよ。この遺跡にとのような危険かあるか調へてもらわんとな」

 

 好好爺のような表情で言うパルパトラであるが、その言葉の内容は先に霊廟に入って行ったワーカーの三チームを自分達の捨て駒にすると言って過言ではないものであった。

 

 パルパトラの言葉に緑葉のメンバーは納得の表情となって頷き、それまで黙って彼らの会話を聞いていた地表部に残ったもう一つのワーカーチーム、毒牙のクレマンティーヌが心から楽しそうな笑みを浮かべて口を開く。

 

「あっれー? パルパトラのお爺ちゃんってば、中々エグいことをするじゃなーい? 私、そーいうの好きよー? だからさー、スパイダーさんもー、いい加減機嫌を直しなよー?」

 

 クレマンティーヌの最後の言葉は彼女の相方であるもう一人の毒牙であるスパイダーに向けられたものであった。彼は霊廟の中の探索時よりずっと不機嫌であり、今も不機嫌のままで口を開いた。

 

「……別に下に行けなかったから怒っているんじゃない。……それよりもパルパトラさん? 貴方は先に行ったフォーサイト達をカナリアって言いましたけど、カナリアは俺達の方かもしれませんよ?」

 

「なんしゃと?」

 

 首を傾げるパルパトラにスパイダーは顎をしゃくって霊廟の入り口を見るように促すと、霊廟の入り口にはいつの間にかメイド服を着た五人の女性達が横一列に並んで立っていた。このような場所にメイド服を着た女性達がいるだけでも不自然で、更に彼女達からは人ならざる気配が感じられた。

 

『……………!』

 

 ワーカー達がメイド服の女性達の人ならざる気配を感じて武器を構え、五人の真ん中に立つこの世界では珍しい眼鏡をかけた女性が思わず見惚れてしまいそうな優雅な動作でお辞儀をする。

 

「ようこそ招かれざる客人の皆さん。ボク……失礼、私はここに仕える戦闘メイド『プレアデス』の副リーダーを任されておりますユリ・アルファと申します。早速で申し訳ありませんが、皆さんにはこのナザリック地下大墳墓の防衛システムのテストにご協力をしていただきたいと思います」

 

「テスト、しゃと……?」

 

「はい。その通りです。そして皆さんのお相手をご紹介しましょう。……出て来なさい」

 

 パルパトラの言葉に答えたユリが合図を出すと、地面から数十、いや、百を軽く超える数のスケルトンが出現した。

 

 スケルトンはアンデットモンスターの中では最下級で、本来であればこの数でもパルパトラ達にとって全くの脅威にならない存在である。しかし今ここに現れたスケルトンの大群は単なるスケルトンとは雰囲気も武装も違った。

 

 スケルトンの大群は、その全てが立派なブレストプレートを着用して背中にはコンポジットボウを背負っており、左手には紋章の入った大盾を持ち、右手にはそれぞれ種類の異なる武器を所持していた。そしてスケルトンの武具からは魔法の力を感じさせる輝きが見られた。

 

「こ、これは……!?」

 

「おー……」

 

「………」

 

 突然の予想を大きく上回る敵の出現にパルパトラ達、緑葉のメンバーが絶句する。ただクレマンティーヌとスパイダーの毒牙の二人は特に驚いた様子を見せなかったが、それに気づいた者はいなかった。

 

「皆さんのお相手はこの者達がします。皆さんにはこれの他にまだ試していただきたい防衛システムがありますので、プレアデス一同皆さんの健闘を期待しております。……では始めてください」

 

 ユリの言葉にスケルトンの大群は一斉に二組のワーカーチームに襲いかかる。

 

 今までこの地下墳墓に侵入したワーカー達は、霊廟の中で宝の山を発見したことで幸せな夢を見ていた。

 

 だが幸せな夢の時間はもう終わり、ここから先彼らワーカーが見るのは筆舌に尽くしがたい悪夢のみであった。


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