とある至高の四十一人の日記   作:小狗丸

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日記9+とある旅人と漆黒の剣の会話

【十四日目】

 

 戦車蜘蛛に乗ってバハルス帝国に途中、休憩をしているといきなりクレマンティーヌが「技を教えてください」と珍しく真面目な表情でお願いしてきた。

 

 技というのは先日漆黒聖典を殺したカースドアサシンのスキルのことだろう。

 

 クレマンティーヌは漆黒聖典に所属している実の兄を殺すことを悲願としている。だから同じく漆黒聖典の部隊をああも簡単に殺すことができたスキルを覚えたいと思っても不思議ではなかった。

 

 俺としてもその申し出を断るつもりはなかった。クレマンティーヌは今や俺の眷族なのだから、それを鍛えてやることも悲願を叶えさせてやることもやぶさかではない。

 

 しかし……スキルを教えるって一体どうしたらいいんだろう?

 

 眷族化の毒爪で眷族となったNPCは、種族がゴズになるほかスキル使用者の職業クラスをレベルが五分の一になるがコピーされる。だからスキルを習得する下地は一応できているのだが、肝心のスキルの教え方が分からないのだ。

 

 とりあえずこの日は「近いうちに教えてやる」と言ってお茶を濁したが、早いうちにスキルの教え方を考えないといけないな。

 

 

 

【十五日目】

 

 数日前に旅に出て、そしてその途中で来た道を逆走することにした俺とクレマンティーヌは、今日の昼頃に出発点であるエ・ランテルにと辿り着いた。

 

 漆黒聖典の奴らから大金をいただいたことだし、旅に必要な物を買おうとエ・ランテルによってみると、何やら街中が騒がしかった。何かあったのかと思っているとそこで偶成漆黒の剣の四人と再会したので、ここで何があったのか聞いてみることに。

 

 漆黒の剣の四人の話によると今から三日前に死霊系の魔法を使うマジックキャスターが、この近くにある共同墓地でアンデッドの大群を呼び出して暴れさせるという大事件があったそうだ。

 

 幸いにもそのアンデッドの大群とそれを呼び出したマジックキャスターは二人の冒険者に退治されて事件は早期解決。エ・ランテルに大きな被害はなかったのだが、今この街の話題はこの事件のことで持ちきりだとか。

 

 漆黒の剣の話の最中、クレマンティーヌが小声で「そっかー。カジッちゃん負けちゃったのかー」と呟いていたが、幸いにもそれが聞こえていたのは俺だけだった。

 

 ……というかこの騒動、お前の知り合いの仕業かよ、クレマンティーヌ。

 

 ☆

 

「それじゃあ皆さんはそのマジックキャスターを見たのですか?」

 

 エ・ランテルの街中で魔術師風の旅人、スパイダーは目の前にいる人物達に質問をした。今彼が話しているのはこの都市を拠点としている冒険者のパーティー、漆黒の剣の四人だった。

 

「ええ。俺達が仕事を終えてこのエ・ランテルに帰ってきた時にあの男は現れました」

 

「本当に気味が悪い、まさに『悪の魔法使い』って感じのジィさんだったな」

 

 漆黒の剣のリーダー、ペテルがスパイダーの質問に答えてパーティーメンバーのルクルットが苦々しい顔で同意する。

 

 漆黒の剣は数日前までンフィーレア・バレアレという薬師の少年と共にカルネ村まで行き、そこで薬草の採集を手伝うという仕事を受けていた。そして仕事が無事に終わり彼らがエ・ランテルに戻ってきた時にその男は現れた。

 

 現れたのは黒いローブに身を包んだ邪悪な気配を全身から漂わせる老人のマジックキャスター。老人のマジックキャスターの狙いはンフィーレア、正確には彼の「どんなマジックアイテムも使いこなせる」という生まれついての特別な才能で、その才能を利用して何かの大きな儀式を行うつもりだったらしい。

 

 そしてその大きな儀式を行った結果がエ・ランテルを襲ったアンデッドの大群である。

 

「あの人、とても強かったですよね」

 

「うむ。あの場所にリィジー殿がいなければ、我々はここにはいなかったであろうな」

 

 老人のマジックキャスターがンフィーレアを拐おうとした時、漆黒の剣の四人は彼を守るべく老人のマジックキャスターと戦ったのだが、戦いの結果は惨敗。老人のマジックキャスターに仕事の依頼主であった薬師の少年を拐われた挙句、深手を負わされた漆黒の剣の四人は、偶然そこにいたンフィーレアの祖母のリィジーが持つポーションのお陰で死なずに済んだのだった。

 

 その時の様子を思い出して漆黒の剣のニニャが顔を青くして呟き、同じく漆黒の剣のダインも頷く。

 

「それで? そのマジックキャスターを死者の大群ごと倒しちゃった『モモン』と『ナーベ』って冒険者はどこにいるのー?」

 

 スパイダーの旅の仲間である軽装の女戦士、クレマンティーヌが頭の後ろで手を組んで漆黒の剣の四人に聞く。

 

 モモンとナーベ。

 

 つい最近冒険者ギルドに登録をした二人組の冒険者で、冒険者としてのランクは今の所最下位の「銅」だが、漆黒の剣の話ではその実力はすでに最高位の「アダマンタイト」に匹敵するらしい。そして彼らこそがさっきクレマンティーヌが言ったように死者の大群ごと老人のマジックキャスターを倒し、エ・ランテルを救った張本人なのだそうだ。

 

 たった二人だけで死者の大群を引き連れた邪悪なマジックキャスターを打ち破りエ・ランテルを救った冒険者。まるで英雄譚のような偉業であり、ここの住人達の興奮がいまだ冷めやらぬのは彼らの事もあるようだ。

 

「いえ、それが……。モモンさん達はすでに新たな仕事を受けてここを後にしました」

 

「何だそっかー。そんなスッゴイことをする人達だったら一目顔を見たかったけど……。残念だなー」

 

 ペテルの言葉にクレマンティーヌが残念そうな表情で言うのだが、隣に立つスパイダーはそれを聞いてはいなかった。

 

 モモン、という名前を聞いてスパイダーの脳裏に一人の友人の顔が浮かんだのだが、彼はすぐに頭を横に振ると自分の考えを否定した。

 

(漆黒の剣の皆が言っている『モモン』は聞いた限り腕の立つ戦士だ。そして俺が知っているモモンガさんは完全な魔法職で戦士系の職業は一つもとっていなかったはずだ。もしモモンガさんが正体を隠して世間に出るとしても、あの臆病なくらい慎重なモモンガさんがわざわざ不慣れな戦士のフリをするとは考え辛い。……やっぱり名前が似ているだけの別人か)

 

 エ・ランテルの救い主であるモモンと自分の友人であるモモンガは別人であると決定付けたスパイダーは、漆黒の剣との会話を終わらせた後、旅に必要な物を買い揃えると再びバハルス帝国へと旅立った。


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