異世界集結戦線   作:玉城羽左右衛門

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来ましたぞい!何とかスランプを超えられました!


第弐拾話 ≪発令! 硫黄島沖救出作戦!≫ 我、発艦セリⅠ

ドッドッドッドドドドドボボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン

翔鶴甲板にて出された艦載機に火が入る。

動かれたのは先頭の一機のみで他は動いていなかった。

ただその一機たるやその発動機から上げしたる轟音は並みの音ではなかった。

見た目はプラート翼のプロペラ機であり、機体の塗装から旧日本帝国海軍の艦載機と判断できるものであった。

しかしながら先頭の四機の配色は他の機体とは異なっていた。

どの機体よりも先頭を立つ機は曇りなき桜の如きピンク…

後ろに続く残りの三機は白虎を連想させる白銀…

この四機は他の後方に鎮座す、通常機とは違うオーラを纏っていた。

機体は前進翼かつまた前方に発動機がある点において、確実にレシプロ機とわかった。

ただ、装備されたプロペラは二枚の反転プロペラでターボブロップと推測できるノズルが機体下に向け伸びていた。

発動機の音たるやそのすさまじさはWWⅡ機体とは比べ物にすらならないものであり、強いて言うばそれはジェット機に近かった。

そんな甲板上の二頭身の運用員がせわしなく動き確認し終えた直後艦橋横の扉から続々と現れる。

一人二人などの少数ではなく、かなりの大多数。

そしてその先頭を歩く者が一人。

服装は近代的ながらもやや古臭さを漂わせながら耐Gスーツと思える加工がなされていた。しかし、年季が入り所々に痛みが見え長期間解れと補修を繰り返してきたせいであろう。。胸に付けられた記章はその死地をどれぐらい掻い潜っているかを物語っており、一部の古い記章に関しては汚れが掛かり黒ずすらあった。

顔には歴戦の猛者故か傷が目立ち酷いものに関していえば本当に治っているのか心配になる傷も多々存在した。

先頭の者たるや歩き方は普通であったが周辺から感じられるオーラから威圧が出されていた。

そのオーラたるや、凡人に非ず。

表したくとも何とも表せなきそれは一言では言えなかった。

大抵の人間は戦場を経験する。

それは人により変わる。

戰場は一つにして非ず。

時として高地や太平広がりし大海、果てや蒼穹の彼方や紺碧の空、机上、そして無限に広がりしインターネットの世界でもある。

また、その他状況もそれぞれである。

追い立てに追い立てられた背水の陣の如く危機的状況や相手を一方的に嬲り蹂躙せしワンサイドゲーム…公正公平たるの名のもと整われし場などなど多種多様な戦場が存在し故に戦いとはその性質を常に変化させる。

ある人曰く戦争は生物であると唱えた者がいた。

そしてまた、それに立ち向かう人々…軍人などを狩人に例えた。

戦争がいかにどう生物であるかと仮定した際、どこがどのように生物であるか聞く人が多いであろう。その要素は不規則的な変化性にあると言われている。

戦いとは一分一秒常に変化し続ける。

それは大きくもあれば小さくもある。

戦争と言う生物は死なない。

如何にどう戦争が終ろうともだ。

戦争が死なないとあれば戦争はどうしているか。

生物が死ななければどう表現するか。

冬眠を知っているだろうか。

季節上、生存に不備のある冬の期間中を穴の中や石の下など比較的生存し易い場で睡眠…実際は呼吸を少なくし、あまり体力を使わない仮眠状態に入ると言ったほうが正しい。

戦争とは紛争と言う形で常に息をし続ける。

戦争の栄養は人の不。

戦争は絶えず生き続け死なない。

そしていつ来るか知れぬ活動期まで眠るのである。

人は戦争の中で手駒として生き、時とし戦争に仇名す。

それが兵士なのである。

その彼らの眼は幾へどの戰場を超え鍛えられし眼光たるや言うなればそれは死への暖かき眼差しでもあり、それは強者の絶対的恐怖であった。

故に恐ろしく、また何か惹かれるものがそこにはあった。

一歩ずつ静かにかつ威厳を持って歩く。

その眼差しからかもしくは優先順位を守ったのか整備士たちは邪魔にならぬよう道をあける。

先頭を行きし者やパイロットたちはそれに応じ会釈を行いつつ、目標の場所まで歩を進めた。

彼らの足取りはまばらでありつつも、なにか共通的な何かを出していた。

甲板上に軍靴が木霊する。

多くの軍靴から放たれたし音は幾重にも重なり、大きさを増す。

それはバラバラながらであるものの確実に一つの大きな『物』であった。

ことを一刻も争っていたかもしれないせいかその群衆は静寂に帰し、誰一人としても喋ろうとしなかった。静寂に包まれしその『物』は軍靴以外の物を閉ざし、殺気を溜め込み今にもそれを放出せんとしていたが先頭を行きし者の後ろに鎮座せし、男がそれを破壊した。

「隊長、岩本隊長殿!」

「なんだ。坂井。」

此処にきて初めての会話が行われた。

これには一同驚き、会話の方向を向く。

坂井はそれに目もくれず会話を再開する。

「今回の敵、どうやら揃いも揃ってフロート付きの水戦でしかも数が少ないのになんで私らが出るんすかね。」

その一言を聞き呆れながらも返答する。

「はぁ…例え水上機と言えど航空機には変わりない。着陸場所が甲板か水上だけの違いだ。そして何よりも制空権を取られたら元もこもなかろう?」

「ですが、隊長。もうすでに我々は利根直属乱雲攻撃戦隊を放っているのに何で俺らが出なきゃいけないんすか。乱雲だって機銃の一、二門標準装備で巴戦にゃぁちと難があるかもしれないが一撃離脱戦法やるのには充分な速力すら出せる。のに何で俺らが出なきゃぁいけないんですか?」

岩本の顔は何一つ変わらなかったが少し間を置き大きくため息を放ち少しばかりの静けさが覆うがすぐに終わりを告げる。

その岩本の顔には諦めているかの如く口はにやけ、目は諦めていた。

「実はな、翔鶴さん曰くなんだかこの周辺に隠れてやがる空母と思しき艦艇がいるそうなんだ。」

その言葉を言い放つと呆れ顔をしていた後続の者たちの顔色が変わり、先ほどまでの柔らかな顔から全員が殺気を放たたせる鬼に変貌した。

岩本はこれを周知の上でかまたさらに大きくため息を付くと話を再度続けた。

「まあ、先ほども言った通り実の所、今回の我々の任務は敵水上機戦隊の殲滅と他に受託した任務があったんだ。それこそが我々の第一目標であり最優先事項なんだ。翔鶴さん達艦娘の能力上、深海棲艦を唯一感知できるってことはみんなも周知の上だと思う。それでなんだが本海域では敵主力と思われる戦艦及び重巡と他に敵航空機動艦隊が潜んでいるとの連絡が入ったんだ。数はわからないがかなりの大艦隊らしい。故に我々制空権確保を主眼に置いた我々が出ることになった。一つ言っておくが我々の任務はあくまで制空権の確保とそれの維持である。無駄に戦域拡張して被害を拡大させないように。」

言葉を終えると一同が騒然とする。

岩本は目に見えた結果であると悟っていた。

なんせ、下の会議室でこれを話さなかったのだから。

隣同士で話し合っている中一人が手を挙げる。

想定の範囲内であったが故に冷静に対応する。

「質問いいぞ。」

その言葉に甘え立ち上がり質問をする。

「では、何で黙っていたんですか?」

「混乱を起こさないためさ。」

それを聞き瞬時に返答を返す。

「黙っているほうがよっぽど混乱を起こすのでは?」

「そうかい?」

「そうですよ。」

「じゃあ、なんで黙っていたと思う?」

「はて?検討が…」

「お前ら…自分のことを客観的に見てみろよ…」

「客観的?」

「ふぅ…」

大きく息を吸い胸の隅まで空気を入れた後、それを大きな息として吐くと眼光に何かを宿すと大きく口を開けた。

「お前ら、絶対戦闘に集中し過ぎて絶対護衛疎かになるだろ!!! だからそんなこと侵さないよう黙っていたんだよ! どうせ、お前らとかの失態とかなんやら回り回って隊長責任になってシワ寄せ俺に来るんだから! たまにはこっちの身にもなってみろ!!!」

その一言で全員が一気に自分達を客観的に見始めそして全員が全員、岩本からの言葉を聞き察した顔になった。あるものは困惑を隠しきれず顔に出す者、黙り込み下を向く者など全員が各々反応を見せた。

そんな中、坂井は一人ニヤけながらただ一人頷き何かに浸っていた。

勿論、その姿は岩本の目にも入っていった。

それが岩本の気に障ってしまった。

終始無言のまま坂井に静かに近づく。

歩き方は一般人と変わらないが出す殺気は先ほどからの物を超えそれはまさに怪物…まさに人外其の物であった。

周囲の者たちは何かを悟ると後退りし大人しく坂井のその後を見届けていた。

周りに味方はいないと知れず、にやける坂井。

哀れにも坂井の目の前に岩本が立つ。

「おい!坂井!お前は何にやけてんだ!!!」

ストレスからだろう。

岩本は怒号を上げた。

その声は誰も聞いたことがなかった声であった。

普段、温厚な岩本は普通のことでは怒らない。

いつも笑顔を絶やさないようにし更にはその皮脂に秘める殺気を隠す様に努力をしている程の岩本であるが今回ばかりは違っていた。

近しい者からですら空気が読めないと揶揄される坂井はやっと岩本の怒号を聞き、初めて気が付いた。

「は、はい?なんでしょたいちょ。」

「『なんでしょたいちょ』じゃねーよ!!!この確信犯!!!」

「なんですかぁいきなり確信犯って…ギンバイなんかしてないっすよ?」

「そうじゃねぇよ!一々うるせぇわ!!!お前のせいでどれくらい苦労が掛かってると思ってんだよ!!!」

「そんなぁ俺は隊長殿には一切ご負担を掛けた覚えはござえませんぜ。むしろ、ご負担を減らしているんですよ?」

「あのな…無駄な親切程要らないもんはないんだよ…」

「またぁほんとは感謝してるんじゃないんですか?」

「お前な…感謝してたら俺はなんかお前に声なんかかけるわ…俺が言ってんのはお前の犯した行動規定違反ギリギリの行為を言ってんだよ…」

「え?私なんかそういうことしましたっけ?」

「いつもやってるだろ…戦闘空域ぎりぎりかと思ったら臨時戦域拡張権を使い、無駄に広くさせんでもって無駄に機体を損耗させるは弾薬は使うはそのツケを俺に回してんどぞ。おぉん?」

「それは…こう、敵をせん滅しなきゃいけないと言う使命に駆られてですねぇ…」

「は?」

その一言の威力はどの言葉よりも簡単かつどの言葉よりも効果的であった。

『は?』…受け取り方次第では相手を恐怖のどん底や怒りの臨界点を超えさせることのできる言葉はその威力の高さ故に使い方に困る代物である。

現状、坂井はこの攻撃を貰ってしまった。

流石の坂井ですら言い返せないのか黙り込む。

坂井も必死に考えたのだろうがその考え虚しく。

「すいませんでした!!!」

「謝りゃ済むと思ってんのか!!!このドアホ!!!」

岩本の怒号直後、艦橋からアナウンスが甲板に向け発せられた。

『艦内の全運用員に告ぐ。本艦は今時刻をもち特務本土送迎護衛艦あたご救出作戦「明智越え」作戦を敢行す。本作戦は我々の重要性を足らしめる絶好の機会である。各員、自分が持てる力量を全身全霊を込め祖国の為に尽くせり。第一次攻撃戦隊は直ちに発艦を開始せよ。繰り返す、本艦は今時刻をもち特務本土送迎護衛艦あたご救出作戦「明智越え」作戦を敢行す。我々の重要性を知らしめる絶好の機会である。各員、全身全霊を込め行われたし。第一次制空戦隊は直ちに発艦を開始せよ。』

艦内放送により艦全体にアナウンスが響き渡る。

その後、艦内にブザーが鳴り始める。

ほとんどの者は戦闘態勢に入っていた。高射砲運用員たる鉄の武士たちは第三種戦闘態勢に入り、何時ぞや来たり敵に向け体制を取り、整備兵は鉄の羽を持ちし戦闘機を癒すため最適化な道具の置き場所を選んでいた。

さることながら甲板上の岩本達航空兵の耳にもその言葉が入った。

その時岩本は坂井の顔面間近で怒りを露わにしていたが放送源に顔を向ける。

「チッ…出撃か…坂井!!お前覚えとけよ!!!」

やや怒り足りないのか幾分行動やオーラに怒りが残る。

坂井は内心安堵していたが戦闘時背中を撃たれるのではないかと言う恐怖に駆られていた。

その後も岩本は怒りか指示を出さなかったが隊員達は悟り自分の機に走っていった。

 

 

この第一艦隊所属翔鶴型航空母艦一番艦翔鶴に配備されている航空機はほとんどが制空向きの戦闘機ばかりである。艦爆は居らず、艦攻が10機程度配備されている。

配備機としては硫黄島基地主力噴式併用艦上戦闘機「仙風」が 三二型58機、四一型2機それらの各型合わせ60機、同じく硫黄島基地中島系設計班開発、最新鋭次世代噴式艦上重攻撃機「青天」(一三型)が10機。噴式高速水上偵察機「乱雲」艦上運用型が一機整備品の枠として一機分空かした総勢、71機が配備されている。

翔鶴は運用上、制空権の確保が優先事項に成っているため艦上戦闘機の「仙風」が脅威の60機搭載と成っている。

しかしながらこれでは幾分数が足りないのはわかるであろう。

元々は翔鶴型二番艦航空母艦「瑞鶴」とペア運用であったが改修の為瑞鶴が離脱、その瑞鶴の穴埋め要員が軽空母、正規空母共に改修に入り居なかった結果、現状の翔鶴一隻の状態を招いているのである。

だがこれでいいのである。

要は制空権を確保できるだけでいいのだ。

制空さえ確保できればあとは戦艦や重巡の出番である。

それは何故か。

答えは深海棲艦の特性にある。

深海棲艦は本能的なのかイージス艦など人類が制作した艦艇と自然発生した艦娘を判断出来る能力が備わっているのであるかと議論が展開されている。

これはあくまでも過去の事例を集計した結果の産物であるだけであり、断定は出来ないものの参考としては非常に充分である情報であった。

そして硫黄島基地はそれを独自に研究、実験をし対深海棲艦戦術を確立した。

深海棲艦は前述言った様に人類艦艇と艦娘の判別が可能である。

人類側の電探は潜航中の発見は出来ず、探知は実質無理とされた。

故にそれは旧式兵器ながら奇想天外な戦い方を成功させたのである。

近年のイージス艦は遠距離に特化し防御では限界を感じた為軽量化、回避力を上げられた。また、近接への対策を疎かにした為戦訓として対水上装備装備が付与され、人類の海軍史はある一種の頂点に達したと思われたが深海棲艦の登場がその海軍史は書き換えられた。

近接の小太刀は恐怖と死を恐れぬ衣を纏いし狂戦士の前では意味を果たさず、遠に特化した神の盾を持ちし弓兵は盾を構えし前に蹂躙され、鉄の鳥巣窟たる母なりし巨艦は手が出せぬまま次の番を待つ…

まさにこれが全てを変えたのである。更にいえば大国ですら恐れおののく圧倒的物量がそれを助力させた。

確立された概念は消し飛び。

知識の結晶は破壊され。

原初に戻された。

今や過去の平穏な海軍史は終わりを告げ、世界の海軍は米国の敗北により世紀末と化していた。

この新生大日本帝國海軍を除いて。

艦娘は唯一無二、深海棲艦を潜航中の発見が出来るとされている。

更に艦娘曰く深海棲艦の場所が把握出来ると本人談として語られている。

このことから一つの言葉が出され、そして全員を納得させた。

 

『深淵を覗くとき、深淵もこちらを覗く。』

 

深淵を覗きし者を艦娘とするならば深淵とはまさに深海棲艦である。

艦娘とはまさにこれである。

何故かは今はわからない。

だがこれが意味するのは…


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