異世界集結戦線   作:玉城羽左右衛門

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第拾玖話 ≪発令! 硫黄島沖救出作戦!≫  漢達の戦いⅡ

「もう…だめか…」

思わず声に出す。

艦橋内の他の搭乗員はなにか悟ったような顔をしていた。

ここで死ぬ。

死と言う物からは逃れられない。

現状、これは彼らにとって変わりえない状況である。

しかし、彼らは泣いたり叫んだりしなかった。

確実なる死と死ぬかもしれないは別物である。

彼らが今対峙しているのは確実なる死…

彼らはそれと向き合い受け止めようとしていた。

艦長も然り、その一人であった。

「ははははははははっははははっは!」

だが彼は一人笑った。

どうせ死ぬのであったら悔いなく死にたかった。

だから笑った。

彼の中で死んだら笑えないと言う変な感情が先走った。

「ふっ…ははははははははっははは」

そんな中艦橋内の一人がつられて笑う。

それに反応し、また一人乗員が笑い始める。

一人…また一人と笑っていくうちにいつの間にか艦橋内の全員が笑っていた。

笑い声が艦橋内に響く。

笑い声が艦に響く。

笑い声が外に響く。

笑い声が艦全体を覆うとしばらくして艦長が艦橋内の人間に向け言い放つ。

「最後まで付き合ってくれて有難う。頼りない艦長ですまなかった…」

最後の一文を聞き一人が立ち上がって発言する。

「いいえ…最後の一文はいりませんよ…艦長…」

やや間を開け続ける。

「艦長の様な方が居なければ私たちは此処まで来れませんでしたし、皆もこうして戦えませんでした。私は貴方の様な艦長と戦えて非常に光栄でありました!」

そう言い終えると一人がまた立つ。

「私もです!」

それに吊られまた一人が立つ。

「俺もです。」

「私もであります。」

「俺も。」

「私も。」

「みんな…」

艦橋全体を見渡すといつの間にか全員が立ち上がっていた。

「こんなにも俺を信頼してくれていたのか…」

こんなにも自分を思ってくれていたんだと思わず涙を流す。

がすぐに涙を拭うと皆に向かい右手で敬礼をする。

敬礼の方式は勿論のこと海軍式。

言わずとも知れた伝統の敬礼だ。

脇を締め、手の平を見せないようにし逆に手の甲を向けるように敬礼をする。

この海軍式の敬礼は通路の狭い艦内において邪魔にならないようにするために脇を締めて行うようになっている。

また手の平を見せないようにしているのは艦艇の整備などで起こる手についた油や煤を見せないようにしているためである。

艦長の敬礼に艦橋内の人間すべてが反応し敬礼を返す。

「今まで有難う…」

その一言を言うと手を下した。

比例し艦橋内の人間全てが手を下す。

全員の顔を改めてみると皆の顔には笑みが零れていた。

見渡し終えると大きく椅子に座る。

艦長が座り終えるのを見ると各自の持ち場に戻っていった。

島原は大きくため息を付くと思い瞼を閉じた。

瞼の中で古き自分…懐かしき友の顔…愛すべき我が子…在りし日の思い出が逆行し、美しき光に変わっていった。

(そうか…これが走馬灯という奴か…)

心の中でふと思う。

そして先ほどからの緊張から一変、何か抜けた様に心が軽くなる。

それに呼応するかのように心臓の心拍数が下がる感覚が起こった。

(俺たちは戦ったんだ…ただそれだけだ…)

懐から昔撮った家族写真を出す。

最愛の妻と二人の娘…

その懐かしさを思い出し目を閉じる。

一句心の中で唄う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我ガ人生悔イアレド、

      今、思エバ悔イモ良キテ懐カシキ思イ出カナ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰れなくてごめんな…

 

みんな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっと、そう思うのはいささか早いぜ? みなさんよぉ?』

 

ノイズ交じりの通信が静寂たる艦橋内に響く。

瞬間、放たれし一本の矢が雲なびかせ艦と交差する。

その矢たるや正に対象を射抜かんとす『サジタリウスの矢』の如く…

艦、後方より爆音が響く。

それに伴い艦が大きく揺れる。

勿論あたごの艦艇全体にである。

上下左右に大きく揺れる。

だが数秒すると艦の揺れが収まった。

観測から歓喜交じりの報告が飛ぶ。

「第一艦隊、艦影を確認!」

その報告を聞いた直後、全員が口を開け何が起こったか理解できずに呆然をしたがレシプロエンジンとは違う…ジェットエンジンの音を聞くと目が覚めた感覚が覆い直後、現状を確認し始めた。

そして艦橋内に歓声があがる。

艦長は顔には出さなかったが心の中で喜ぶ。

「やったぞ!」

「来てくれたんだ!」

「俺ら生きてる!」

「第一艦隊だ!」

「本物だ!」

「死んでない!」

艦橋内に歓声に包まれる。

直後通信士が艦橋全体に向け通信を開く。

『こちら、第一艦隊所属利根旗下第一乱雲水上機戦隊隊長の木原だ。現在そちらに向かっているところある。一つ頼みたいことがあるんだが…俺らの周囲に飛び回っているハエを墜としてくれねぇか? この機体、確かに速えが流石に敵さんに降下されると非常に厄介だ。もし落としてくれたら周囲に展開しているドでかい重巡共のどでっ腹にこのハ号を余裕こいてぶち込めて沈められるが…出来そうか?』

その通信に対し艦長が通信機を借り自ら応答する。

「勿論。我が艦の機銃手の腕前は世界一だからな…確実に墜としてやる。そんでもって今までのつけ払ってくれ!」

返答に笑いながら返す。

『ははははははは! そうか、了解した! ではその世界一たる機銃手の皆さんが撃ち落としやすい様誘導する。確実に仕留めてくれよ…』

「誘導感謝する。そちらも頼むぞ。」

そんな和やかな会話を終えると艦長は自分の席の前に戻り後ろを振り向く。

座らず自分を見る艦橋内の人間に向け言い放つ。

「諸君、我々は生きている! しかし、安全ではない! だが今我々には出来ることがある! 私たちはそれを行おうじゃないか!」

そう言い放つと艦橋内の全員に闘志が現れる。

直後、一斉に『了解!』と腹から声を出すと各員の持ち場に戻っていった。

(頼むぞ…第一艦隊…我々が出来るのはこんくらいだからな…)

そう心の中で念じると懐から家族写真を出し、顔を見るとすぐに元の場所に戻した。




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