ノシ棒:短編集(ポケモン追加)   作:ノシ棒

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ぽけもん黒白1(ポケットモンスターブラック・ホワイト)

『遺跡発掘から:28日目』

 

変な石を拾った。

イッシュ地方が南部。

リゾートデザートに点在する遺跡にて、連日に及ぶ発掘作業中の出来事である。

アロエ館長の鳴り物入りで編入されたエリート君、などと言われても、しがない一研究員でしかない俺である。

依頼で発掘作業に参加したはいいが、見つけたものといえばこんな程度だった。

見た目も質感もただの石ころ。

ただの、というのは語弊があるかもしれない。

完全球体のそれは、明らかに人工物だった。

とはいえ、こんなものはそこらにごろごろと転がっている。そも、ここは古代遺跡だ。どこぞの構造物から剥がれ落ちたのだろう。

 

「ただの石にしか見えないけど、きっと意味のあるものなんだろうさ。なんてったって、あんたが見付けたんだからね」

 

とはアロエ館長の言。

そんなに期待されても困る。

実際、あらゆる機材にかけて調べても、ただの石としか結果が出なかった。

が、出土品は出土品。

仕方が無いから自宅兼研究室に持ち帰り、再検査してみることに。

考古学的に無価値であっても、地質的に価値あるものならばよいが。

 

 

 

 

『29日目』

 

変な石が孵った。

……自分でも何を書いているのか、さっぱり解らない。

白い巨大なドラゴンが、石の中から飛び出してきた。

いや、石そのものがドラゴンだったのか。

解らない。混乱している。

詳細は明日の日誌にて。

 

 

 

 

『30日目』

 

あの石は、どうやら古代のモンスターボールのようなものであったらしい。

違うのは、それそのものがポケモンであったということだ。

この白いドラゴンが休眠状態に入った姿があの石であり、恐らくは古代にて、その状態で持ち運びされていたと考えられる。

これが古来からの人の夢、ポケモンの運用、という概念の大元になったのかもしれない。あるいは、そのものか。

1925年にニシノモリ教授によってモンスターボール開発が始まったのは周知の事実であるが、その発想自体は記録に残らない程の太古の昔から在ったのだ。

多くのポケモン博士の言葉を借りるなら、ポケモンが全ての答えを教えてくれている、ということか。

さて、件の白いドラゴンである。

全長は3m弱。

体重は300Kを超えるだろうか。

幸い、我が家は研究資材搬入のためにガレージ造りとなっているため、この程度のサイズのポケモンならば不自由はない。

しがない一研究員にはポケモン図鑑のような高価な代物など持ち合わせていないため、これが一体何というポケモンであるか判断がつかない。

古代から復活したポケモンであるために、記載されていない可能性の方が高いが。

とんでもない力を秘めている、ということだけは解る。

雄叫びを上げながら石から飛び出した瞬間に、尻尾から噴き上げた炎が鉄材を飴細工のように、どろどろに蕩かした程である。

よく火事にならなかったものだ。

思わずやめろ、と叫べば熱はぴたりと止み、白いドラゴンは理知的な瞳でこちらをじっと見ていた。

片付けのために簡単な指示を出せば、それ通りに従う。人語を理解しているのだ。

これはいよいよ尋常ではないぞ、とアロエ館長に電話を入れようとした瞬間、電話機はまっぷたつにきりさかれた。

見れば、静かな眼で白いドラゴンが佇んでいる。

誰にも存在を知られたくないのか、と問えば、頷きが一つ。

ここにいたいのか、と問えば、また一つ頷きが。

……仕方あるまい。

しがない一考古学研究者でしかない俺だが、考古学者を自負するならば、自身が発掘した出土品には責任を持たねば。

 

 

 

 

『31日目』

 

奇妙な共同生活が始まった。

何か伝えたいことがあるのか、こちらをずっと睨んでいるが、言語のコミュニケーションは一方通行なのだ。

俺にはポケモン語など解りはしない。

解らないまま一日が過ぎた。

 

 

 

 

『43日目』

 

奴が現れて10日ほど経つ。

未だに睨まれ続けているが、さっぱりである。

なので、別の方法でコミュニケーションを図る事にした。

単純に接触してみよう、というだけだ。

触れてみた奴の毛並みはさらさらと手触りが良く、温かかった。

気が付けば連日の研究疲れもあってか、奴に寄りかかって居眠りをしていたようだ。

こいつもこいつで、律儀に俺が起きるまで身じろぎせず待っていた。

そして、睨まれる。

解らない。

何を伝えたいのだろう。

 

 

 

 

『50日目』

 

観察を続けた中で解ったことは、奴がドラゴンと炎の混成タイプということ。

高い知能を有しているということ。

それくらいだ。逆を言えば、それしか解らなかった。

ポケモンの生態は謎に満ちていて、人間が足を踏み入れられるのは、その一部でしかない。

人間に出来ることは、彼等の力を借り、我々の力を貸し、共存関係を築くことだけだ。

いや、共存関係ではないか。

人間はポケモンに依存している。

ポケモンは単体で生きていくことが可能だが、ポケモンなしではもはや人間の社会は成り立たない。

経済、司法、医療、交通……その全てが、ポケモンの力に頼っている部分が大きいのだ。

彼等が我々に力を貸してくれるのは、互いに築いた絆のためであると信じたい。

こいつはどうなのだろう。

俺と絆を結ぶつもりがあるのだろうか。その強大な力を貸そうとしているのだろうか。

解らない。

さしあたって、この尻尾の炎を何かに役立たせられないものか。

そこから考えよう。

 

 

 

 

『69日目』

 

今日は奴の尻尾の火で目玉焼きを作ってみた。

フライパンを乗せると流石に嫌がっていたが、また律儀にも動かなかった。

油がはねる度にきゃんきゃんと犬のように鳴いていた。熱いらしい。

これくらい我慢しろと言ってきかせた。

お前はドラゴンでしかも炎タイプだろうに。

焼き上がった目玉焼きはミディアムレア。

半熟で最高の仕上がりである。

我ながら塩コショウの加減が素晴らしい。

奴が物欲しそうにこちらを見ていたので、半分わけてやった。

尻尾を振ってよろこんでいた。

尻尾にぶち当たった柱がへし折れ、屋根が歪んだ。

久しぶりにキレた。

一度ならず二度までも、こいつは。

感情にまかせて怒鳴り散らすと、地面に伏せて反省のポーズをしていた。

機嫌を取ろうと、少しずつ擦り寄って来る白ドラゴン。

だからお前は犬なのかと。

……まあ、いい。

雨露がしのげれば文句は言うまい。

目玉焼きは冷えてしまっていたが、何故か美味かった。

こいつも、今度は控え目に尻尾を振って美味そうに食べていた。図体の癖に、燃費は良いらしい。

そういえば、誰かと食事をとったのは何年振りだったろうか。

 

 

 

 

『75日目』

 

毎日何もない部屋で留守番は暇だろうと思い、壁掛け型のテレビを購入してやった。

こいつの登場でテレビが壊れてしまっていたので、それの買い替えである。

チャンネルはポケモン用の大きめのものに替えてもらった。キャンペーン中らしく、無料交換だった。得した気分である。

取り付けが終わり、さっそく電源を入れる。

流石最新型。画面の美しさはこれまでのものとは比べ物にならない。

どうだ、と奴を見れば、何やら非常に驚いている様子。

どうやらテレビを初めて見たらしい。あんな小さな画面の中に人が入っているのかと、びくびくしていた。

チャンネルを変えてやる度に大げさに驚いている。

そしてポケモンバトル実況に番組が替わった瞬間。

リザードンが画面手前に向って火を吹く、あの有名なOPが流れた瞬間だ。

あろうことか、こいつはぎゃんっと飛びあがって、口から火を吹きやがった。

火炎放射である。

……結局また電化店に戻る羽目になった。

もしものためにポケモン破損保証に入っておいたからいいものを。

まさか初日でとは。

学習したのか、壁は派手なコゲ跡が付いただけだった。それでも大問題だが。

煙を上げるテレビの残骸を背に、俺がまたキレたのは言うまでもない。

 

 

 

 

『102日目』

 

階下から低年齢向きのアニソンが聞こえる。

確か、女の子向けのアニメ番組だったか。

妖精ポケモンの力を借りて変身し、巨悪に立ち向かう女の子二人の話。

一月もテレビを見ていれば、お気に入り番組が出来るらしい。

その一つがこれである。

立派なテレビっ子になったようだ。

音楽がサビの部分に入る。

 

「モエルーワ!」

 

うるせえ。

 

 

 

 


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