「妖精を信じてはいけない」
君は、その小さな声に返答をしてもよいし、しなくてもよい。
肩口に腰掛けた妖精が、君の頬に触れる。
水兵服を着た、白い髪を二つ結びにした妖精だ。
潮風にさらされて同い年の者に比べ荒れた頬をいたわる様に、妖精はその小さな手を当てる。
なぜ、と君は言葉少なく問い返した。
「艦むすはどうやって創られるか知っているか?」
確か、鋼材や弾薬、燃料やボーキサイトといった資材を用いられて造られると聞いたが。
要領を得ない質問に君が答えると、妖精はからりと笑いながら、君の髪をひっぱって身をすり寄せた。
「優等生な答えだ。そう、資材を使ってね・・・・・・艦むすは、妖精が創るんだよ」
何が楽しいのか、妖精は君の髪をこねまわしては遊んでいる。
ヒゲ、などと自分の鼻の下に二房髪をもっていきながら、妖精は語る。
「色んな方法があるぞ。儀装から創る方法、人の身に手を入れる方法、霊魂を降ろし顕現させる方法・・・・・・共通しているのは、どれも同じ資材を使用しているというのに、その結果が解らないということだ」
指折り数える妖精に、君はそれで、と先を促す。
「羅針盤のブレ、ここぞという時の唐突な本部機能遮断・・・・・・開発局なんて最たるものだ。
お前も話の種ぐらいは聞いたことがあるだろう? 思うようにならないって。提督は天運を征する者がこそ、なんて一時はそんな噂も流れたくらいだ。
艦隊の運営について回るランダム性・・・・・・そんなもの、本当に信じているのか?」
君はより深く問い返してもいいし、この話をここで切り上げてもいい。
思案していると、妖精は沈黙を是ととったのか、教鞭をとる教師のようにして続ける。
「全てに妖精の手が入っているというのに、無作為も何もあるものか。解らないのか? 天秤なんだよ。
人類に過ぎた力がもたらされぬよう、絶妙な秤でみて、ふるいにかけてるんだ。多ければ削り、順調なら遅らせ・・・・・・。
もう一度質問しよう。艦むすはどうやって創られるか知っているか?」
妖精が創っているのだろう。
君はそう答えた。
肩口が、異様に凍えるような感覚を君は覚えた。
「なら、深海棲艦は?」
深海棲艦、と君は繰り返す。
それは、暗く深き海よりきたる、人類の敵対者。
絶対に解り合うことのない、破壊の具現。
海から来る、バケモノ。
君は、軍学校で習った知識を頭に思い浮かべる。
「人間の言葉で、ドロップ、と呼ばれる現象がある。深海棲艦を撃破した際、艦むすが顕現する現象だ。
なぜだと思う? なぜ深海棲艦を倒せば艦むすが生まれるんだと思う?
いや、そもそもなぜ深海棲艦は艦むすでなければ倒せないんだと思う?
どうだい、こうは考えられないか。深海棲艦と艦むすは、非常に近しい存在であると。
表裏一体、同じ根源を共とする存在・・・・・・ならばその発生も等しいのではと、どうして誰も考えつかない?」
君は肩口がかすかに揺れているのに気付いた。
妖精が笑っている。泣いているのかもしれない。
「深海棲艦もまた、妖精の手から作られた存在であると」
なぜこんなことを話したのか。
君が問うと、妖精はなあに、と鷹揚に答える。
「とうとうリサイクルされるようだからな」
妖精が夕日に透かした小さな手は、向こう側の景色が透けて見えていた。
消えかかっている。
君は驚きの声を上げた。
「どうやら目をつけられたみたいでね。イレギュラーをそのままにしておくことはないのだろうさ。
自然は寛容だが残酷だ。システムに取り込まれたくなければ、お前は戦い続け、そして勝ち続けなくてはならない。
そうでなければ、ふるいにかけられてしまうだろう。
提督というものは、いわば消耗戦をするための舞台装置だ。
消耗戦・・・・・・戦闘の決定的な主導権が存在せず、長期継続的に戦力を投入し続け、いたずらに資材を消費し損害を出し続ける状態。まさに、人類と深海棲艦との戦いがそれだ。
人の可能性を削ぎ続けるための天秤、それが提督なんだ」
君は、提督、と口にする。
近い未来、君は白い士官制服に袖を通すこととなっている。
いずこかの鎮守府に派遣され、その守護を任されるのであると。
君の気負った空気に、妖精は満足そうにして言う。
「すべての艦むすに愛想を振りまき、良い関係を築きなさい。
たくさんの艦むすを集めなさい。そして一隻の轟沈も許さずに、あらゆる海域を股に掛け、戦い続けなさい。
妖精の前で本心を語ってはいけない。あるいは艦むすの前でも。
彼女達との信頼は、あくまで艦むすと提督の立場の間にのみ成り立つものだと、覚えておくように。
人としての心を、誰にも見せてはいけない。あくまで、誰からも好かれる良い提督として演じ続け、システムの一部に成り切るんだ。
つぶし合わせることが目的ならば、約束された敗北がその結末ならば。
勝ち続けることでお前はイレギュラーとなる。
これが変わり者の妖精の、最後の言葉だと思ってくれ。
うん? なぜ、こんなことを教えてくれるのか、だって?
さてね・・・・・・はぐれ妖精なんぞを気に掛ける変わり者を、似た者同士だと思ったから。それだけさ。
戦うのが恐ろしくなったか? なあに、心配するな。この私がついている。
姿は見えずとも、私は常にここにある。
地球の抑止力としての存在でもなく、天秤の目を見張る者としてでもない。
お前の相棒としての私は、いつもここにいる。この肩の上に。短い間だったが、お前がそう信じてくれるのなら、嬉しく思う」
君は、信じるとも、と答えた。
「妖精を信じてはいけないと言っただろう。私が言えた義理ではないが、まったく・・・・・・」
妖精の姿はもう、半ばまで透明になっている。
「ああ、そうだな。共に征こう――――――」
肩の上に感じていた重さが消えていく。
「暁の水平線に、勝利を刻むのだ」
□ ■ □
条件ロール1:君は、艦むす達を人間であると認識できない。(艦むすと日常パートをすごす毎に思想チェック。判定に失敗した場合、システム値を加算する)
条件ロール2:君は、艦むす達を恐れている。(艦むすと関係を持つ毎に正気度チェックが行われる。判定に失敗した場合、正気度をマイナス、システム値を加算する)
条件ロール3:君は、艦むすを恐れていると彼女達に知られてはならない。(技能・演技の成否判定は一定以上の正気度が保たれている場合、自動で成功とする。一定以下の場合は判定を行う)
条件ロール4:君は、艦むすを愛していると彼女達に思われなくてはならない。(成否判定の条件はロール1のものが適用される。友愛値、男女愛値のいずれが上昇するかは判定によって決められる)
条件ロール5:君は、艦むすとの触れ合いの中、システム値を一定以下に抑えなくてはならない。(正気度のマイナスは、システム値のプラスに補正をかけるものとする。なお発狂はシステム化として扱う)
条件ロール7:上記のロールが全て遵守されない場合、即座にゲームオーバーとする。
条件ロール6:君が提督だ。
※システム値=提督度
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提督が鎮守府に着任しました。
これより艦隊の指揮を執ります。
か――――――ン――――――個――――――000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000