ノシ棒:短編集(ポケモン追加)   作:ノシ棒

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東方Project 幻想郷の傘屋さん6

太陽の畑に近付いてはならない。

 

それは人間に問わず、妖怪に問わず、幻想郷に住まうもの全てにとっての共通認識である。常識、と言うやつだ。

幻想郷縁起にあるところの安全な幻想郷ライフを送るためには、決して近付いてはならない聖域と呼ばれるものがある。いいや、魔境、と表した方が適切だろうか。近付けば命の保証は無い。そんな場所が幻想郷には多々あった。

妖怪の山とは正反対に位置する奥地、南向きに傾斜するすり鉢状の草原にあるその畑もまた、そんな場所の一つ。

太陽の畑、という名が現わす通り、夏になるとそれはもう見事な向日葵が咲き誇るという。

夏の夜には、妖怪の楽団によるコンサート会場として賑わうのは、幻想郷の芸術家達の間には有名な話である。

そんな素晴らしい土地がまるで地獄のように忌み嫌われ、忌避される理由・・・・・・それは、この一帯を凶悪な妖怪が根城としているからだ。

 

人間に対する友好度は最悪、危険度は最凶。凶悪どころではない。

礼儀を欠く手合いへの容赦などなく、礼という概念が薄い中堅までの妖怪にとっては出会ったが最後、命尽きるまで嬲られ、蹂躙され尽くすだろう。

妖怪殺しの妖怪である。即ちそれは、恐怖の中の恐怖ということに相違ない。

もちろん友好度最悪と記される通り、人間であっても例外は無い。それどころか、虫の居所が悪ければ、視認された瞬間に踏みつぶされて終いだ。

幾度となく繰り返される惨劇に、いつしか太陽の畑は、その美しい景観とは裏腹に忌むべき場所として広くしられるようになったのである。

妖怪が向日葵に吸わせた血はいかほどになるか。

伝え聞くだけでも身の毛がよだつ。

 

曰く、暇つぶしに高笑いしながら、泣き叫ぶ虫妖怪を足蹴にしていた。

曰く、掃除をしようと羽ぼうきを作るために、烏天狗の羽をむしり取っていた。

曰く、遠方で陰口を利いた人間の長屋を、辺り一面ごと妖力を練り合わせた光線で焼き尽くした。

曰く、本来自由奔放なはずの妖精が、太陽の畑では必死に隠れ潜んでいる理由は、見つかったが最後その妖怪が持つ傘の先端で、目玉を抉り抜かれるからである。

曰く、曰く、曰く。

例を挙げれば枚挙に暇がない。

 

見た目にも惑わされてはいけない。

外見は可憐な少女なれど、その微笑みの下には恐ろしい形容不可能な何か、暗き澱が詰まっている。

正に、妖怪だ。暴力と理不尽の権化。恐るべきもの、そう称されるに足る存在だ。

あれを愛らしい笑みだなどと言うものは、よほどの強者か、見た目でしか物事を判断出来ぬ夢想家か、彼我の実力差さえ解らぬ愚物か。

とかくその妖怪が、究極加虐生物などと呼ばれるのは、理由があるということだ。

 

太陽の畑に近付いてはならない――――――。

踏み入れたが最後、五体無事では帰れぬぞ。

先も説明した通り、それが幻想郷での共通認識、常識だ。

 

そんな、誰もが忌避する場所に、二人の少女が訪れていた。

 

 

「ふっふっふ、ここがあの女のハウスね!」

 

「ややや、やめようよう! やめようようってばあ! ここって、ここってあのフラワーマスターの家だよ!」

 

「やっぱりここで間違いなかったのね! 一番強い奴をやっつければ、そいつが一番強いってこと。つまりここにいる妖怪を倒せば、アタイが最強ってことね!」

 

「無理無理、無理だって! やられちゃうよ!」

 

「アタイってば天才ね!」

 

「あああ、どうしてこうなったの。どうしてこうなったの!」

 

 

少女二人は生い茂る向日葵の高い背を、“羽”を震わせて飛び越えながら、騒ぎ声を上げる。

少女達は人間ではなかった。妖精、と呼ばれる自然現象の具現である。

あろうことか妖精種の少女達は、この畑に住まう妖怪に挑もうとやってきたのだ。

無謀、と言う他ないだろう。

いかに自然の具現化された存在であるとしても、恐怖の権化、恐ろしい者達の総称である妖怪の、その最上位にいる者を相手するには、自然の力はあまりに心許ない。

そして少女達が着地した先は、そこだけ向日葵が植えられておらずぽっかりと開いた、いかにもという様な空間。

 

 

「いない・・・・・・ね」

 

「きっとアタイを怖がって逃げてっちゃったんだわ! んんーっ、アタイってば何て最強なのかしらー!」

 

「本当かなあ」

 

「これはもうアタイの勝ちね! これでアタイが幻想郷最強! アタイはかざみ何とかに大勝利して」

 

 

少女が勝ち名乗りを上げようとした、その瞬間。

 

 

「あら、楽しそうね」

 

 

時が、止まった。

少女の肩に手を置いた何者か。

何者かの正体など、今更言うまでもない。

ここは太陽の畑なのだ。

 

 

「ひ――――――!?」

 

「・・・・・・っひ! ・・・・・・ひぅ!?」

 

「うふふふふ、楽しそうね。二人して遊んでいたのかしら。私とも遊んでくれない? ねえ」

 

 

恐怖が頂点に達すると、声など出ないと言う。

少女達は悲鳴にならない悲鳴を上げる。

最強を自称するだけのことはあり、少女には力があった。だから、彼我の力量の差を正確に読み取ったのである。

己の肩に掛かる細指からは、尋常ではない握力が伝わってくる。万力のように締められていく指。

肩の骨が軋みを上げてもなお、少女達は悲鳴すら上げられなかった。

 

 

「ねえ、さっき、私の名前を言いかけてたみたいだけど」

 

「あわわ、あわわあわわあわああわ」

 

「ほら、遠慮しないで最後まで言いなさいな。私の名前を」

 

「あうう、あうあうああうううあう」

 

「聞こえなかったの? 私の名前を、言ってごらんなさいな。ねえ」

 

 

恐ろしくて、背後を振り向けない。

目が合ってしまえば、それだけで心臓が止まりかねない。いいや、その前に目玉を抉り抜かれるか。無事では済まない、そんな予感がひしひしと細指から伝わる。

背筋が凍った。冷や汗も、比喩抜きで凍りつく程に。

少女の流した冷汗は氷の粒となって、きめ細やかな肌の上を転がり落ちていった。

 

 

「ほら、ねえ、ほら。遠慮しずに、言いなさい。ねえ、ほら、さあ、言って。さあ、さあさあ、さああ――――――」

 

 

少女達の頭上から覗きこむ、底知れぬ真紅の瞳。

幼い精神の箍を崩壊させるには余りある瘴気が、直接注ぎ込まれる。

 

 

「う、ううううあああああああっ!」

 

「ああ、あああ、うわああああんっ!」

 

 

力を振り絞り、手を振り払う少女達。

二人は後ろを振り向かず、全速力でその場から飛び去った。

 

 

「ばばば、ばーかばーか! これで勝ったと思わないことね!」

 

「はっ、はやく、はやく帰ろう! おうち帰ろう!」

 

「ばーか! ばーか!」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

 

太陽の畑に住まう最凶の妖怪、フラワーマスターを知る者ならば、驚愕することだろう。

この時、花妖怪はあろうことか追撃を加えなかったのである。少女たち二人を見逃したのだ。

確かに礼を欠いた行いなどしなかったが、そも何をすることも出来なかったが、常の花妖怪ならばそれでも羽をもぐぐらいはしそうなものだが。

 

 

「ひっ、ひう、うわーん!」

 

「あだいざいぎょうなのにぃ・・・・・・ああーん!」

 

 

いいや、あるいは、少女達の恐怖を煽っていたのかもしれない。そちらの方が面白いと思ってのことだろう。

存在として自由に空を舞うことを約束されているはずの少女達は、飛ぶ事を忘れてしまったかのように、時にお互いぶつかり合いながらほうほうの体で逃げ去っていく。

泣きじゃくりくりながら逃げる少女達。

花妖怪の笑い声がずっと少女達の耳に木霊していた。

 

 

「ふふ、うふふ、ふっふふふ、うふふふふふふふふ――――――」

 

 

美しき太陽の畑に静寂が戻る。

後に残るは、向日葵の葉鳴りと、花妖怪のさざめく笑い声。

そして、みしみし、みちみち――――――と、何かが引き千切られていく破滅的な音。花妖怪の両手に握り込まれた傘が、じっくりと時間を掛けて、圧し曲がっていく。

花妖怪の顔には変わらない、裂けるような笑みが張り付いていた。

少女二人を逃がしたことが、もったいないと言わんばかりの。

ああ、ああ、口惜しや、口惜しや。だが今は未だ、時を待とうぞ。

 

 

「次こそは、次こそは・・・・・・」

 

 

花妖怪の呪詛を吸い、向日葵達は一層美しく咲き誇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

 

 

 

 

最近評判の幻想郷入りした新参者。

小傘屋の主人であるところの傘屋は、着実に幻想郷内傘屋のシェアを拡大しつつあった。

彼が作る丈夫な傘が妖怪たちの目に留まり、有力妖怪御用達の品となったからである。

未だ新参でありながら、人里内で小傘屋は品質だけでなく、ブランド力を付けつつあった。

ほとんど傘業界を独占しているようなものであり、同じ職人たちのやっかみを買いそうな所だが、しかしその主人である傘屋は鼻に掛けた様子もなく、慎ましい生活を送っている。

というのも、元々が閉鎖空間である幻想郷内の流通はそこまで大きく動くことはなく、また傘など一度買われてしまえば長く売れることはないからである。

同じ傘業界の職人から恨みを買わないのも、普段は彼等も別の仕事に手を付けていて、こうして年中傘ばかり張っている傘屋の方が珍しいからだ。副収入がありそちらの方が実入りが良いのだから、こんな割に合わない仕事など譲ってやろうではないか、ということだ。

そうなると主と副職が入れ替わるのも早く、専業傘屋はいまや幻想郷ではこの男唯一人となっていた。

上手くスキマ産業に身を置いた形である。いいや、入り込んだのか。

 

しかし、一度傘が売れてしまえばしばらくは収入が無くなるのは傘屋も同じだった。

多くの職人たちと同じように、売り物が消耗するまでの間、材料費、生活費諸々は、日雇いの仕事を請け負うことで稼いでいる。

職人のコミュニティなど狭いもので、元々たった一つの能しかないのだから職人になったような人間達である。そんな複雑な仕事など出来るはずもなく、下請けか伝手による内職しかすることはない。外の世界でいうところの、アルバイトというやつだ。

では傘屋はというと、例に漏れず伝手を頼って今日も日銭を稼いでいた。

先生、と呼ばれる人里の守護者から紹介された、さる商店の従業員の仕事である。

 

 

「傘屋さん、これは何と言う道具なんだい? 音楽が流れるものだとは解るんだけど・・・・・・」

 

「ああ、それは音楽プレーヤーですよ、霖之助さん。いや、そのまま耳にあてても何も聞こえませんよ。波の音が聞こえる、じゃなくて。イヤホンを付けないと。その前に充電も必要ですし」

 

「また電気か。動力が同一規格にまとめられているのは便利だと思ったけれど、こっちで使う分には不便だね」

 

「産業革命すっとばしてますもんね、こっち。霊力とか妖力が中心の世界なんだから、魔法技術みたいなのが発展するのかと思いきや、やっぱり一般家庭には浸透しませんし。

 ましてやここにあるようなゲーム機で子供たちが遊ぶなんて、ここが幻想郷である限り、そんな発想は出ないんでしょうね」

 

「いいや、そうでもないよ。子どもたちは遊びの天才さ。このゲーム機だって、外の世界のおもちゃだと説明したら、すぐに遊び方を理解したよ。必要なものも、全部自分たちで準備してしまった」

 

「へえ、それはすごい。でも紫さん達は何も言わなかったんですか? 外の技術が普及してしまうのは、あまり歓迎出来ることではないのでは」

 

「はは、所詮は子供のおもちゃじゃないか。あれはそんなに危惧するものではないだろう。こっちでも蹴鞠にして遊ぶのが一時期流行ってね。その時だって、賢者達のおとがめはなかったから、大丈夫さ」

 

「そうですか。なら安心ですね・・・・・・ん? 蹴鞠?」

 

「僕も何回か誘われて、中々の腕前になったんだよ。いや、足前かな。ほら、こんな風に」

 

「やめっ、やめろォ! メガドラ様を足蹴にするんじゃ、あああああ」

 

「一度使うと二度と使い物にならなくなるのが困ったところだね。使い捨ておもちゃか。なるほど外の世界の贅沢品、ということか。ほら、傘屋、今度は君が蹴るといい」

 

「あああああ」

 

 

そこは幻想郷では珍しい、外の世界の道具を専門に取り扱う店。

魔法の森、その入口に面した危険な場所にある店の名を、香霖堂といった。

傘屋が雇われ従業員として働いている店である。

外の道具だけではなく、魔法の道具、妖怪の道具、果ては冥界の道具までをも取り扱う珍品専門店であるが、客の入りは滅多に無い。

それはひとえに、商品に値札が貼られていないため、品物が欲しければ店主に相談しなければならない、というルールのせいであった。店主がこれがまた生真面目な性格で、いい加減な者の多い幻想郷の面々にとって、非常に付き合い難い男だったからである。

傘屋も生真面目な性質であるが、打てば響く所もあり、からかい甲斐のあるということでこちらは年を経た妖怪を中心に受け入れられている。

足して二で割れば丁度いいような男達であった。

馬が合うらしい二人が、こうしてああでもないこうでもないと、無為な会話に時間を費やしながら在庫の整理をしていた、その瞬間のことである。

がらり、と扉の開く音。

 

 

「お邪魔するわ」

 

 

時が、止まった。

霖之助の表情筋が全て凍りついたようにして動かない。

客だ。客が来たのだ。

だが霖之助は出入り口を振り向くことが出来ずにいる。異様な圧力が声の主より放たれていた。

時間を空間ごと縛りつけるような濃密なプレッシャーの中、傘屋は「ああ咲夜さんも能力を使っている時、こんな気持ちなのかな」などとあっけらかんと考えていた。

「いらっしゃいませ」と道具の整理を中断し、にこやかに接客に入る傘屋。

『雨を防ぐ程度の能力』によって、雨あられと降り注ぐ圧力を受け流したのだ。

 

 

「うふふ、そう固くならないで欲しいわね、店主さん」

 

「いらっしゃい。珍しいね、君がここに来るなんて」

 

 

ここに来てようやく再起動する霖之助。

招かれざる客に対しても、接客サービスを忘れないのは流石だが、流れる冷汗は止められない。

よくないパターンに入ったことを感じているのだ。

こういう手合いの客が来店した時、店が無事であったためしがない。

 

 

「ええ。でもごめんなさいね、今日は買い物に来たわけじゃなくってよ」

 

 

ひやかしであると公言しても、嫌みを感じさせないのは、その客が気品溢れる女性であるからか。

薄らと浮かべられた可憐な笑みが、酷く似合っていた。

恐ろしい程に。

 

 

「安心して。お金は払うわ」

 

「・・・・・・ははあ、つまり商品を買いに来た訳ではないと。では、何をお求めかな?」

 

 

すうっと、白磁のような指が真っ直ぐに伸ばされる。

その先にはきょとんとした顔の傘屋が。

 

 

「貴方のお店の従業員を」

 

「これはこれは、お目が高い。ただいまタイムサービス中でしてね、ええ」

 

「いや、俺はまだ勤務時間で」

 

「いいじゃないか傘屋さん。ほら、行ってきなよ。後は僕が全部やっておくから安心して外に出てくれさあ早く行ってくれ今すぐに」

 

「話のわかる店主さんで嬉しいわ。確か・・・・・・こーりん、だったわね。覚えておいてあげるわ」

 

「それはどうも。何度も顔を合わせているはずだけどね。名前・・・・・・」

 

「いや、だからですね」

 

 

抗議する傘屋を無視し、彼女は財布を取りだす。

勤務時間と等価の金を支払おうというのだろう。

無視して攫ってしまえばいいものを、そうしないのは彼女が大妖怪であるからか。

時を経た妖怪は理性的となり、貸し借りや約束といった決まり事を守ることを重視するようになるのだ。

霖之助が弾いたそろばん通りの金額を出そうと、彼女は紙幣を数える。

傘屋の代金を手渡された時、霖之助は気付いた。

紙幣が、赤い。

それを掴む彼女の手から、血が滴り落ちて――――――。

 

 

「こ、これは、まさか返り血では・・・・・・!」

 

「あら、ご不満? お金に綺麗も汚いもあるかしら?」

 

「いや、それは、しかし、一体誰の・・・・・・」

 

「誰の、だなんて嫌ね。私が怪我をしているとは思ってくれないのかしら?」

 

「君が? 馬鹿なことを。君ほどの大妖怪を傷つけられる者が、そうそう居るはずがない」

 

「あー、ちょっと、霖之助さん。あのですね」

 

「そうね。最強の妖怪だなんて噂が立って、本当に迷惑しているの。

 最近は礼儀を弁えた人間も、妖怪も少なくて、つまらないわ。遊びに来てくれた方には、素敵なおもてなしをしてあげる事を約束しているのにね」

 

 

くすくす、くすくすと笑いながら、彼女は指先を伝う血を舐め取る。

くちゅくちゅと情欲をそそる音。

ちゅぷ、と細い指先と紅い舌から伸びる銀の橋に、傘屋は腰の後ろに鈍い衝動を感じた。

 

 

「待ってくれ。この店に来る途中で君が誰かを手に掛けたのだとしたら、僕の責任にも・・・・・・」

 

「気にする必要はないわ。貴方には関係の無い事よ」

 

 

彼女はさも何でもないと言った風に、ぴしゃりと吐き捨てる。

有無を言わせぬ態度。

窓ガラスがひび割れ、品物が倒れる。凄まじい妖力が彼女を中心に吹荒れた。

発せられた妖気に霖之助は無理矢理口を閉ざされた。

 

 

「受け取りなさい。対価よ」

 

「・・・・・・まいどあり」

 

 

肩を竦めて霖之助は紙幣を受け取る。

諦めた様子だった。

冷静を装ってはいたが、紙幣を受け取る際の手の震えは隠せてはいなかった。

妖気におびえたのではなく、店内の荒れ具合に心を痛めている様子だった。

面白いという様に彼女はにいいと笑う。

このように、大妖怪を前にしておびえを見せぬ者は、たとえ半妖であっても珍しい。

裂けるような笑みだった。

彼女が店に踏み入ってからこちら、霖之助は決して目線を合わせようとはしなかった。

台風を存在として恐怖するものはいない。現象として受け取るしかない。

はやく過ぎ去ってくれと、ただ思うのみである。

 

 

「うふふふふ・・・・・・それじゃあ、行きましょうか。ねえ、傘屋」

 

「いや、だから、いいいいっ!? たたたっ!」

 

「まさか、嫌だなんて言わないわよね?」

 

 

そっと握り込まれる傘屋の手。

細くて白い彼女の両の手に握り込まれ、武骨な職人の手が硬直する。

傘屋は総身が緊張に強張るのを自覚した。掴まれた腕の骨が危険な音を立てて軋む。

真っ直ぐに彼女を直視出来ず、掌にじっとりと汗が噴き出てくる。

心臓がドキドキと、痛いくらいに脈打ち始める。

このままでは耐えられないと、無理矢理振りほどこうと思っても、そうは出来なかった。細くて白い指はひたりと吸い付いて、離れない。

 

 

「嫌、なの? ねえ・・・・・・?」

 

 

じとりと下から覗きこむように、上目使いで問う彼女。

細指がまるで万力の様に傘屋は感じた。

比喩ではなく、本当に、物理的な意味で。

骨が軋む。

靭が伸びる。

筋繊維が破断されていく。

傘屋の指の体積を無視して、押し別けるように彼女の指が喰い込んで来る。

びち、びち、びち・・・・・・破滅の足音がはっきりと傘屋には聞こえていた。

 

 

「いやじゃないです! どこへでも、喜んでお供させて頂きます!」

 

「そう、ありがと」

 

 

曲がっていく手を涙を浮かべてさする傘屋。

手は職人の命である。いくら今は本職から離れていたとしても、大事にせねばならないというのに。

痛みを堪え捻れ曲がった指を一つ一つ霊力で元に戻しながら、傘屋は彼女のなすがままに、引き摺られていく。

掴まれた場所が手首に変わったが、大して良くはなっていない。

うっ血し始めた手首から先が、嫌な色に変わり始めていた。

 

 

「じゃあ、あなたの所の従業員さん、借りていくから」

 

「ええ、こんなのでよかったらいくらでもどうぞ」

 

「こんなのって・・・・・・俺の意思は・・・・・・」

 

 

ごゆっくり、と良い笑顔で霖之助に見送られながら、引きずられていく傘屋。

店を出る瞬間に足で自分の傘を引っ掛けて帯に差したが、傘に描かれている趣味の悪い目玉模様は、何とも迷惑そうに歪められていた――――――ような気がする。

 

そのまま人里の方へと歩んで行く二人。いいや、引きずられていく傘屋。自力で歩かせるつもりはないようだ。

彼女は傘屋の様子など意に介してはいないようだった。焦点は常に前に、視線は固定されていた。

反対の手に握られた傘屋謹製の鉄傘が、ミシミシと叫び声を上げている。めったな力では曲がらないように、妖怪の武具職人に頼んで鍛えてもらったはずの鉄だったが、彼女の握力には耐えられないようだ。じわじわとした圧迫に、軋む音は一層激しくなっていく。

当然傘屋の手首もあらぬ方向へと傾いていく。

と同時に傘屋の顔色も、自分が持つ趣味の悪い傘のように、紫色に染まっていく。

人里の道行く人は一斉に家屋に引っ込み、戸の隙間からこちらの様子を覗っていた。

 

 

「おい、見ろよあれ、花妖怪だぜ・・・・・・何て恐ろしい。笑ってるよ、きっと誰かを殺した帰りなんだ」

 

「よせ、直視するな! 気が触れるぞ!」

 

「あいつ、腕がひん曲がってやがる。確か職人長屋のあんちゃんだったよな。可哀想に」

 

「きっと、あのまま引き摺られていって、喰われっちまうんだ。ああ、恐ろしい恐ろしい」

 

「ああ、そうだな。なんてうらやましいんだ・・・・・・!」

 

「ひぃぃっ、こっ、ここっ、こっち見た!」

 

「う、うああ、あああっあああ! ししし死にたくねえよおう!」

 

「人里だってのに、おかまいなしかよ! クソッ、妖怪め!」

 

「GO TO U・S・C! GO TO U・S・C!」

 

「しいっ! 声がでかい、気付かれるぞ!」

 

 

ひそひそと聞こえる声は、彼女の加虐性を恐怖するものばかり。

誰も助けに入ろうなどという者はいなかった。恐ろしくてたまらないのだ。守護者を呼べ、という声さえ上がらない。どうか嵐よさってくれと、声を押し殺して祈るばかりだった。あるいは小さく声に出して。

上級妖怪の聴覚に余すことなく届くそれらは、傘屋の腕を容赦なく砕いていく。

唇を噛み締めながら、彼女の顔色も傘屋と等しいまでに青紫に染まっていた。

我慢しかねているようだった。

そしてそれに、いつ爆発するのか、と恐怖する人々。前衛芸術と化していく傘屋の腕。それを見て恐怖を煽られ、悲鳴を上げる人々。負のスパイラルである。

強張っていく彼女顔が、傘屋の腕の残り耐久度を予感させる。

脂汗を流しながら、傘屋は口を開いた。

 

 

「幽香さん。そろそろ手を離して頂きたいのですが。その、また勘違いされてしまいますよ?」

 

「黙って歩きなさい」

 

「・・・・・・はい」

 

 

黙って歩を進める傘屋。

そのまま二人は人里を抜けた。

向う先は解っている。

そう、踏み入ったが最後、生きては二度と出られないとされる、幻想郷屈指の危険区域――――――太陽の畑だ。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

太陽の畑に臨した場所。

一件の簡素なログハウス、そのテラスで傘屋と彼女は向きあっている。

さざ波のような風が舞う。

物理的な威力を伴う程の殺気を至近距離からぶつけられてなお、傘屋は涼しい顔で言う。

 

 

「やっぱり何度来ても、素敵なお家ですね」

 

「そうかしら? ありがとう」

 

 

くすくすと笑って彼女は答える。

 

 

「そうですよ。丁度品の趣味もいいし、これはオリジナルブレンドのアロマかな。うん、いい香りがする」

 

「私のお気に入りなのよ」

 

「幽香さんの香りですね」

 

 

空気が軋む。

彼女の表情が一変したが、見ないふりをして傘屋の言葉は続く。

 

 

「温かくて、柔らかくて、それでいて・・・・・・寂しい香りがします」

 

「――――――そう」

 

 

風が凍る。

たなびく細く吹く風を目視してしまえるかのような錯覚。

凍える風を見詰めて、彼女は今まで時を過ごして来たのだろうか。

 

 

「なら寂しくないようにしてくださらない? ねえ、傘屋。あなたも向日葵達の養分になってくれる?」

 

「まあ、俺が死んだ後は灰をそこらに撒いてくれたらいいですけれど」

 

 

そっと首元を、動脈に爪を立てる彼女に傘屋は苦笑する。

 

 

「まったく、無理して悪役なんてやらなくてもいいのに」

 

「無理ですって?」

 

「顔、すごく引きつってますよ。そうまでして人間の期待に応えなくったっていいんですよ。別に、恐怖の大妖怪じゃなくたっていいじゃないですか。

 イメージを守る必要なんてないでしょうに」

 

 

うっと喉を詰まらせる彼女。

引っ込められた手が、握りこぶしを作る。

ぱきん、と軽い音。

彼女の握りこぶしから、血が滴っていた。爪が割れた音だった。

割れた先から修復されていくのは、彼女の妖力が絶大である証拠だ。

 

 

「霖之助さんにも誤解だって、言えばよかったじゃないですか。さっきの血も、爪が割れちゃったからなんでしょう?」

 

「花は孤独に咲くものよ。私は強者として生きて、そう振舞って来た。今更言い訳などしないわ」

 

「でもそれはきっと、寂しい生き方ですよ」

 

「人間に同情される謂れなんてないわ。自分に都合のいいことをわめくしか能がない羽虫の分際で、おこがましい」

 

「そして貴女はその虫を喰らう食虫花、ですか。そうは見えませんけどね。むしろ――――――」

 

「むしろ、何? 言ってみなさいな」

 

「いえ・・・・・・まあ、こんなぬいぐるみを持ってる人には、似合わない台詞だなあと」

 

「え・・・・・・? あっ! やっ! 見ちゃだめ!」

 

 

こんな、と傘屋が指差したのは、窓ガラス越しに見える室内。

小さく整えられたベッドの、枕元にちょこんと座っている熊のぬいぐるみだった。

席を勢いよく立ち上がった彼女が背にガラスを付けて、傘屋の視線を遮る。

凍えていた風が、燃えるように熱くなったように感じる。

開いた間合いは傘で埋められた。

痛い。

 

 

「か、かっ、関係ないじゃない! 関係ないじゃないの!」

 

「痛い痛い痛い」

 

「い、いいじゃない! 可愛いものが好きで悪い!? 悪いの!? それで貴方に迷惑かけた!? 株価が暴落するの!? 世界が滅びるの!?」

 

「ま、待った待った落ち着いて! マスパは不味いですって! 射線上にあるものを考えて!」

 

 

傘の先端に集まっていた妖力の輝きが霧散する。

広域殲滅妖力砲である。

傘屋の背に向日葵畑が無ければ間違いなく放たれていただろう。

妖怪との付き合いでは、あまり口を滑らせない方がいいというのは言うまでもないだろう。

彼等は人間など簡単に殺してしまえる手段を幾つも備えているのだ。

ちょっとしたことで機嫌を損ねてしまえば、そこまでだ。

例えそれが照れ隠しであったとしても。

 

 

「何なの? 可愛くないと可愛いものを集めたらだめなの? 馬鹿なの!? 死ぬの!?」

 

「いや、だからですね」

 

「ぐぎぎ、ぎぎぎ・・・・・・どうせ私は可愛くなんかないわよ・・・・・・!」

 

「そんな歯を食いしばらんでも」

 

 

奥歯をギシギシと軋ませながらテーブルを叩く彼女。

一打毎に水平であった卓上が傾いていくのが恐ろしい。

 

 

「寂しくなんてないわ」

 

「そうですか」

 

「ないんだから。ほんとよ? 人間の心配なんていらないわ」

 

 

うっ血している手首に優しく花の蜜から作られた軟膏を擦り込まれつつ、傘屋はまた苦笑した。

まったく、この人らしいなあ、と。

傘屋の気配を察知したのか、不機嫌そうな気配。

肩口まで伸ばされた翠色の髪から覗く、紅い瞳が傘屋を睨む。

 

 

「あ、つつっ」

 

「だ、大丈夫? きつくなかった?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。ちょっと染みただけですから。もう痛くなくなりましたよ」

 

 

おっかなびっくりといった体で傘屋に触れる彼女。

研ぎ抜かれた刃のような切れ長のまなじり。ゆるやかにウェーブがかかった翠色の髪。小さな鼻に、薄い色合いの唇。

白い簡素なブラウスに、赤いチェックのスカートとおそろいの柄のチョッキが良く映えている。

それぞれのパーツ全てが鋭く整っていて、触れれば骨までざっくりと切れてしまいそうな、怖気を振るう程の美貌だった。

 

 

「痛くない? ねえ、本当にもう痛くないの?」

 

「もうそれほどには。薬が効いたんですね。ありがとうございます」

 

「本当に? 隠してると酷いわよ」

 

「いや、そんな怒られても・・・・・・」

 

 

そんな彼女が今、冷たい美貌に涙を浮かべている。

涙を浮かべて、鼻水をすすってさえもいる。

まるで自分が犯してしまった所業を後悔するように。

ともすれば見下されて蔑まれていることを心底思い知らされる凄味を醸すその顔に、涙を滲ませながら鼻をすすっているのだ。

それを傘屋に悟られてはいないと思っているのだろうから、指摘はしない。

先ほどまで万力の様に傘屋を締めつけていた指は、今は反対にやわやわと傘屋の腕を撫で、薬を塗り込んでいた。

幻想郷に伝え聞く最凶の妖怪像からは、考えられない光景だった。

思いつめた表情で凄味を滲ませながら、ぐすぐすと鼻を鳴らしているのは、むしろ不気味である。

 

 

「迷惑、かけたわね。ごめんなさい」

 

 

素直に頭を下げる姿も、これも普段の彼女を知るのならば信じられない光景だった。

 

 

「私、落ち込むと周りが見えなくなっちゃって・・・・・・」

 

「いいんですよ。気が滅入っていたら、そういうこともありますよ」

 

「子供達は皆、私が近付くと泣いて逃げちゃうし・・・・・・」

 

「後ろから声を掛けられて、びっくりしちゃっただけですよ、きっと」

 

「えうう」

 

「ああ、ほら、泣かないで」

 

「何よばかぁ。ばかぁ」

 

 

傘屋のとりだしたハンカチを遠ざけようと、「うぐーっ」と両手で胸板を押してくる彼女。

ほほえましい光景に見えるが、彼女は膂力に長けた妖怪である。される傘屋はたまったものではなかった。

傘で叩かれる方がよっぽど良い。直接力を注ぎこまれるのがどれだけ危険か。

肋骨がひび割れていく音が体内に響く。

 

 

「いぎぎぎぎ」

 

「あ、ちょっ、傘屋!? ご、ごめんなさい!」

 

 

苦悶を噛み殺し、内傷を霊力で回復させる。

霊力発現の修行を始めてからこちら、弾幕ではなく自身の傷を癒すことに使われる方が多かった。

傘屋も癒しの力を行使する方が得意である。これは傘屋に修行を付けてくれた国守の神の影響だろう。双つ神様々である。二柱で御利益二倍二倍。どこかの駄目脇巫女とはえらい違いだった。

山の神社に傘を奉納しに行こうと心に決めながら、傘屋は彼女に呼ばれた理由をまとめてみた。

自然と頬が緩むのは、痛みのせいではない。

 

 

「なるほど。まとめると、一緒に遊びたかったのに怖がられて、逃げられたのがショックだった。それで笑うしかなかった、と」

 

「・・・・・・そうよ、文句あるの?」

 

「まさか。たまたま警戒心が強い子達だったんですよ。きっと」

 

「・・・・・・ん」

 

「まあ、愚痴ぐらいはいくらでも聞きますよ。でもそこで折れちゃあだめです。ね、次がんばりましょう?」

 

 

次、とはもちろんのこと、彼女のやさしいお姉さん化計画のことである。

黒白の魔法使いあたりならば、似合わないと腹を抱えて笑うだろうが、この二人は本気である。

 

傘屋が彼女と初めて出会ったのが、彼女の落とした日記帳の中身を改めそれを届けたからであり、どれだけ彼女が本気であるかを知っているからだ。

余談であるが、運悪くその時の彼女は歌の練習中で、自作の歌をフリ付きで向日葵に披露していた真っ最中だった。

羞恥に悶える彼女に半殺しにされたのは、今ではいい思い出である。

お詫びにと傘屋が作った傘を買ってくれるお得意様の一人になってくれたのだから、これくらいのアフターサービスに付き合うのは当然だ。

その日から、何かと傘屋は愚痴の聞き手として彼女の自宅に招待されるようになったのである。

 

 

「どうして怖がられちゃうのかしら・・・・・・」

 

「ああもうほら、鼻をかんで。もっとこう、にこやかにしてないと、子供たちに好かれませんよ」

 

「こ、こう?」

 

 

ぐっと堪えて、彼女は笑った。

背筋に氷柱を刺し込まれたような感覚に傘屋は震える。

怖い。

爛々と紅く輝く眼。裂ける唇。

こんなにも笑うことが苦手な女性も珍しい。

がんばれと言った手前、これは無理そうだと言う訳にはいかない。

 

 

「そ、そうそう。そんな感じですよ。はは、は・・・・・・」

 

「ん・・・・・・ありがと」

 

 

本人にしてははにかんだつもりなのだろうが、怖い。

彼女から目を逸らすようにして、傘屋は天を仰いだ。太陽が目にしみる。

 

ニヤリ、ニタリ、ギシィ、ククク――――――と頬笑みを練習している彼女と最も付き合いが深い人間は、これは間違いなく自分であるだろう。

霊夢や魔理沙とも付き合いが長いが、深くはないのだ。付き合いが深くなれば、その人の違った側面が多く見えて来る。

例えばこんな、彼女の意外な一面が。

 

趣味はお花を育てること。

なりたい職業は歌のお姉さん。

将来の夢はお嫁さん。

日記には自分の事をゆうかりんと書いている。

子供大好き。一緒に遊びたいが、輪に入れたためしがない。

等々。

 

傘屋が知った彼女の一面は、幻想郷中から最凶の妖怪として恐れられているものとは、全く正反対のものだった。

彼女自身も物怖じしない人間と出会えたことは嬉しかったらしく、それは多くの事を教えてくれた。他愛もない、彼女自身のことを。

そこで傘屋は気付いたのである。

 

幻想郷の先入観を全て取り払って考えるならば、つまりは彼女は――――――風見幽香という、妖怪は。

彼女が誇る容姿と力から、他者に無用な勘違いを巻き起こす、勘違い系の妖怪なのだということを。

 

 

「ん、よし。元気でた。ありがとね、傘屋」

 

「そうですか」

 

「どうしたのよ、そんなにやにやしちゃって」

 

 

口を尖らせて不機嫌さをアピールしている幽香。

やぶにらみの眼がナイフの先端を思わせて、恐ろしい。いつ刺されるのかと肝が冷える。

しかし一人しんみりと考え込んでいたからか、傘屋の口は滑らかになっていたようだ。

 

 

「いえ、なんだかんだ言ってもほら、やっぱり幽香さんは可愛いな、と」

 

「は、え? か、かわ、かわあああ!?」

 

 

高まる妖気。

傘屋は墓穴をほったことを気付いた。

だがもう遅い。

 

 

「あ、いや! い、いまの無しでお願いします! いえ、幽香さんは可愛らしいですが、いやそういうことではなくてですね! 待って、それは本当にやば――――――」

 

「あああああ・・・・・・ばかあ!」

 

「い――――――!」

 

 

肩口から先が視認不可能になる程の、神速のストレート。

実の所、幽香が恐れられている最たる理由は、純粋な暴力に依るものであった。

長く生きた妖怪はその時間に比例する妖力を持つ。彼女も例に漏れず、花妖怪の呼び名が指す能力である『花を操る程度の能力』は、おまけ程度でしかなかった。

恐るべきは純粋に高い妖力と、桁外れの身体能力である。

 

脅威の膂力で殴りつけられた傘屋は、悲鳴を細く残し、血反吐を撒き散らして地面を転がる。

かつて鬼の四天王に受けた必殺の一撃とは、全く比べ物にならない威力だった。

当然、こちらの方が上である。

 

 

「は、恥ずかしいことを言うんじゃないわよ! な、な、殴るわよ! 殴るわよ!?」

 

「殴る前に、言って欲しかったで、す・・・・・・」

 

 

中々に洒落にならないレベルの吐血でのたうつ傘屋だが、幽香は一瞥もくれる事は無い。ぎゅっと目を瞑り、あうあうと何事かを口走りながら、両手を振り回すのに忙しそうだった。

性根は純粋な乙女なのだろうが、立ち居振る舞いがどうしようもなく強者なのだ、と思い知る傘屋だった。さすが究極加虐生物である。

妖怪との触れ合いは常に命の危険が付きまとう。猛獣もかくや、いいや野生の虎の方が可愛らしく見えるだろう。

一通り慌ててから冷静になったのか、幽香は惨状に気付いて傘屋に駆け寄る。

 

 

「ああっ、ま、またっ! ご、ごめんなさい傘屋」

 

「いえ、いいんです。いいんですよ・・・・・・」

 

 

双つ神の巫女仕込みの霊力で内傷を癒し、どうにか立ち上がる傘屋。

そんな傘屋の様子を、ちらちらと幽香は盗み見る。

何かリアクションを求めているようだが、ここで間違った対応をすれば痛い目を見るに違いない。

虎が親愛の情でもって人にじゃれついたとしても、それで人が無事でいられるか、という話だ。

彼女と交友を持とうとするならば、自己治癒能力の一つや二つがなければ、事故で普通に死んでしまう可能性が大なのである。

そして、それに彼女自身があまり自覚が無いということが、一番の問題であろうか。

力を制御するには常に気を張っていなければならず、遠慮のない対応はそれだけ傘屋が信頼されているという証拠にもなるのだが。

全く悪意の無い行動が、全て暴力に繋がってしまう。

勘違い系は伊達ではない。

 

彼女自身は大したことはないというつもりでかもしれないが、あんなレベルの殴打を喰らえば今度こそ死んでしまうだろう。

よし、と傘屋は作務衣についた土を払った。何をかいい事を考え付いたという顔。

 

 

「よし、解りました。ここはお詫びということで、幽香さんのために一肌脱ぐこととしましょう」

 

「ふえっ?」

 

「ちぇえええええん! 来てくれ、ちぇえええええん!」

 

 

天高く、声を張り上げる傘屋。

 

 

「うにゃあーん!」

 

 

すると間もなく、不思議な事が起こった。

じわりと空間が滲んだかと思えば、どこからともなく緑色の帽子を被った小柄な少女があらわれたのだ。

帽子の脇からは猫の耳がはみ出し、スカートに空けられた穴からは、こちらも二つに別れた猫の尻尾が飛びだしている。

空中でくるくると三回転すると、すとんと器用に着地して、傘屋へと歩み寄って来る少女。

 

 

「あー、傘屋さんだー。こんにちわ!」

 

「はい、こんにちは。早速だけど橙、助けてくれないか?」

 

「もっちろん!」

 

 

どーん、と飛びつく少女を危うげなく抱き上げる傘屋の袖を、幽香が引く。

 

 

「ねえ傘屋、今この子、どうやって現れたの? 妖術にしては、構成がおかしいように見えたんだけど・・・・・・」

 

「ああ、あれはにとりさんの実験で、ちょっと、まあ、色々ありまして」

 

「実験? 何の?」

 

「量子的にどこにでもいたりいなかったり・・・・・・。まあまあ、それは今は置いておきましょうよ。さあ今回のゲストはこの橙ですよ」

 

「え、ええっ!? い、嫌よ! 何をするつもりか解らないけれど、どうせまた怖がられちゃうんだから!」

 

 

少女を怖がらせないためにか、そっぽを向く幽香だったが、この少女が何者かを問う事はなかった。虚空から瞬時に現れてみせたのに、である。

そう、少女は知名度だけならば、幻想郷内でもかなりの高位にあった。

妖怪の賢者の、式の式。その名を橙(チェン)という、化け猫の少女である。

虚空から現れたのも、妖怪の賢者の式の式、と考えればなるほど相応しい能力であるのかもしれない。

 

 

「んー・・・・・・? あ、このお姉さん知ってる!」

 

「知っているのか橙」

 

「うん! どえすさんでしょ? 里の皆が言ってたよ!」

 

「どえっ!?」

 

「あ、ごめんね。えっと、アルティメット、何だっけ?」

 

「ゆうえすしぃ・・・・・・」

 

「こ、こら橙、そんな言葉どこで覚えてきたんだ!」

 

「人里。みんな言ってたよ。このお姉さんは、三度のご飯より人間の悲鳴が好きなんだって。特に子供の」

 

「・・・・・・枯れたい」

 

「幽香さんしっかり!」

 

 

膝から崩れ落ちた幽香に掛ける言葉がない。

見目が幼い相手からの言葉であったことが余計に堪えたのだろう。うつ伏せにピクリともしなくなった。

これは早い所ことを進めた方がいいだろう。

幽香が枯れる前に。

 

 

「ねー傘屋さん。このお姉ちゃんにいじめられてるの? 顔が怖いし、やっぱり悪い人?」

 

「えううっ!?」

 

「違う違う、このお姉ちゃんがね、皆と遊びたいんだけど、人数が足りないからって。だから助けてくれーって橙を呼んだんだ」

 

「わああ、一緒に遊んでくれるの?」

 

 

ぴょんと傘屋から飛び降りて、幽香へと近付く橙。

幽香はどう対処したらいいのか解らないといった風に、おろおろとしていた。

 

 

「えっ、えっ、ええっ!?」

 

「ほら、幽香さん。今ですよ」

 

「や、やめっ、背中押さないでよ! ど、どうしたらいいのか解んないじゃないの!」

 

「いいんですよ、解らなくても。頭で考えるのなんかやめましょうよ」

 

「で、私はこんな感じに振舞ってればいいわけだ。面倒なとろこばっかに呼んでくれるよね、ほんと。

 いきなり花の大妖怪の相手しろなんてさあ。そろそろ脳天気で純粋元気な橙ちゃんは品切れよ。

 そこんとこ、解ってるの? 指の一本二本もらわなきゃ割に合わないんだけど?」

 

「橙ちゃんはそんな大人っぽいこと言いません」

 

「外からきた屑人間見つけたら私に一番に知らせなさいよ。最近、血の味が口寂しいわ」

 

「ほ、ほら幽香さん。この子と一緒に遊んで来たらどうです? そこに隠れてる二人も一緒に。ほら、出ておいで」

 

 

そこに、と傘屋が指差せばがさがさと向日葵が揺れ、二人の少女が転がり出て来る。

 

 

「ひいいっ! ばれてる、ばれてるよチルノちゃあん!」

 

「ふっふっふ、これはこうつごーね。最強のアタイは逃げる訳にはいかないんだから!」

 

「チルノちゃああああん!?」

 

「アタイが勝てばアタイが最強ね! さあリベジンだ!」

 

「それリベンジだよチルノちゃん! やめてー!」

 

 

緑の髪を頭の横で一束ねにした少女に、水色の髪を大きなリボンで結んだ少女。

二人の背には薄い羽が。少女達は妖精と呼ばれる自然の具現した存在だった。

確か湖に住む氷妖精と、その親友だったか。

霊夢や魔理沙につっかかっていくのを何度か見たが、傘屋にとってはこれといった面識はない相手だった。

この際だから巻き込んでしまえ、という傘屋の魂胆である。

 

 

「おっと、今日は弾幕ゴッコは無しだ。これだけ参加人数が多いんだから、バトルロイヤル方式でいこう」

 

「私も入ってる!?」

 

「バトルロイヤルってなーに?」

 

「つまり、最後まで勝ち残ってた奴が最強、ってことさ」

 

「うなー」

 

「わかりやすくていいわね!」

 

「勝負方法も特別なものにしよう。そうだな・・・・・・」

 

「ちょ、ちょっと傘屋! 貴方何を勝手に・・・・・・!」

 

 

幽香には悪いが、やはり人間を相手するには彼女は強すぎるのだ。ましてや人間の子供など。

強き者は弱き者の気持ちなど、解らないという。それは真理だと傘屋は思う。

 

あまりにも強者。

あまりにも強靭。

あまりにも強力。

 

絶対者足り得る彼女が、子供などという、弱さの象徴とも言える存在にそれ程まで執着を注ぐ理由。

それは、彼女の中に弱さが、欠片も存在していないからではないだろうか。

弱者を庇護することで、自身に弱さを取り入れ、それを慰めにしようとしているのではないだろうか。

人はそれを強者の理屈であると言うのかもしれない。

だが傘屋には、それは孤独な妖怪の母性ではないかと、そう思うのだ。

 

幻想郷に来てすぐのことだ。傘屋は賢者達と語らったことがある。

その場で語られた話題の一つに、こんなものがあった。

曰く、完全な存在などない。

妖怪が人間の精神的エネルギーを必要とするように、あらゆるものは弱さとも呼ぶべき欠けたる部分を持っているのだ。

陰陽併せ持つのが存在の必定である。幻想郷の住人ならば、なおさらのこと。

他の強い心で補わなければ、括らなければ、精神の存在である妖怪は消えてしまう。それは恐怖か、あるいは――――――。

妖怪たる私も例外ではない、とそう言って、賢者は哀しそうに星を眺めていたのを覚えている。

それは、花を愛でている幽香に良く似た横顔だった。

 

自らが強者であればある程、他者に弱さを求めねば、存在し得ない者達――――――妖怪。

普通の妖怪であるならば、人間に恐怖を与えていればそれで事足りるだろう。だが幽香は普通の妖怪などではない。普通の妖怪などでは、断じて違う。

幽香は花を愛でる妖怪だった。生命として圧倒的に弱き草花を愛する妖怪だったのだ。

花妖怪である。力無き花を庇護し、愛でること。その尊さを、産まれたその時より知っている。

だから、恐怖をばら撒く側であるはずが、幽香は気付いたのだ。

人間の儚さ、愛おしさを。

まるで花のように咲き誇る、弱き者の、一瞬の命の輝きを。

 

妖怪は恐怖を具現する。

普通の妖怪は物理的な手段でしかそれを為し得ないが、幽香程の妖怪となれば、息をするのと同じように自然に、当然の様に、そこに在るだけで恐怖を与えられるのだ。

彼女が人里で恐れられているのは、何もその妖力や膂力だけが理由ではない。無自覚な立ち居振る舞いもあるだろうが、それだけではなかったということだ。

恐怖は生へしがみ付く原動力である。つまり恐怖とは、生の輝きである。何とかして生き延びよう、死にたくないと思える余地があるからこそ、恐怖は産まれるのだ。

その生命の最後の閃光が、妖怪を生き長らえさせるのである。

そして時を経た大妖怪ならば、同じ妖怪相手であっても恐怖を糧とすることが出来る。

存在の次元が違うのだ。化物も更なる化物には無力、喰い物になるしかないということだ。

 

だが、と幽香は思ったという。

全ての花は――――――命は、本当に散る瞬間こそが、真に美しいのだろうか。

そう自問したという。

答えなどとうに解っていたというのに、せずにはいられなかったという。

幽香は花妖怪なのだ。答えは解っていた。だが妖怪である自身の本能が、その答えに異を唱えていた。

 

だが、だが、だが・・・・・・。

幽香は長い時を掛けて、自らに問いを発し続けた。

殺したらしい。

たくさんたくさん、殺したらしい。

歯向う人間を。無抵抗な人間を。同じ仲間であるはずの妖怪を。その間中、ずっと。

妖怪なのだ。当然である。

例え自らの行いに心が悲鳴を上げていたとしても、そうしなければ、妖怪の業に従わなければ、消えてしまうのだ。

 

だが、だが、と言い続け、そして幽香は一つの答えを眼にした。

それは最も弱き種族である人間の営みの中にあった。

花咲くように輝く人間の、最後の命の瞬き。確かにそれは、美しいものである。

だが、それ以上に人間が輝き、咲き誇る時があったのだ。

それは、愛する人をその腕に抱いた時。

それは、親が子を抱き上げた時。

人が、大事なものを守ろうと決意した、その時――――――。

あるいはそれは、愛と呼ばれるものであろうか。

幽香が目にした人間の最も強い感情、命が輝く時――――――それは恐怖などではなく、愛だった。

 

その瞬間、幽香の中で全てが合致したという。

幽香は花妖怪である。

咲き誇る花は、愛でられるべきなのだということを、知っていた。

強烈に憧れたという。焦がれたという。幽香の中で、制御不可能な強い欲求が爆発していた。

ああ、ああ、愛されたい、と。

私も誰かに愛されたい。そう思ったという。

太陽に向かう、あの花のように――――――。

 

だが自分は時を重ねた妖怪だ。多くの人間を、妖怪を殺しすぎた。恐怖される側の存在でしかないのだ。そんな存在が愛されるには、どうしたらいい。

簡単だった。

ある意味、人間や妖怪達と寄り添って生きて来た大妖怪は、心の機微を把握しているのだ。

心とは鏡であるということを、よく理解していた。

ある一つの感情を向ければ、同じものが返ってくるのだ。

ならば、愛されるには、愛すればよい。簡単だ。私は人を大事に思う事が出来る。

こうやってにこやかに頬笑みかけたら、きっと――――――だが返答は、殺意の刃だった。

結局その時も、いつも通りに恐怖をばら撒いてお終いだったそうだ。

 

幽香は考えた。

心は鏡だが、それが曇っていては澄んだ景色は映らないだろう。

ならば綺麗な鏡であればいい。

そう、子供だ。

子供を愛することが出来たならば、きっと。

相手は人間でなくてもいい。妖怪であっても、幼い精神性であるならばよい。

初めは彼等に好かれることから始めよう。

そして、いずれは――――――。

 

 

「勝負方法は、そうだなあ・・・・・・」

 

 

傘屋は思う。

人間と妖怪の合いの子、という話はよくある。傘屋の身近ならば、霖之助がそうだ。彼はその身に流れる血の半分が妖怪だった。

幻想郷ではそう珍しくもない事例かもしれないが、「二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」と締めくくられる話がほとんど無いこともまた、事実だった。

何もそういう物質的に人間と愛を交わした話でなくてもいい。

例えば忠誠や、恩義、好意に友情・・・・・・河童が解りやすい例だろうか。古事に曰く、葛の葉狐。物語ならば、雪女、あるいはゴンという妖怪の子狐の話が有名だ。

人間を愛してしまった妖怪。その末路。

それは幽香も承知のうえでのことだろう。それでも――――――。

 

妖怪の愛は、いつも切ない。

 

 

「よし、じゃあ勝負の方法は鬼ごっこだ! お日様が赤くなった時に、鬼になってたやつが負けな。最初は幽香さんが鬼だぞー」

 

「にゃにゃーっ!」

 

「よし! その挑戦受けて立つ!」

 

「ひぃ、鬼より怖い!」

 

 

言うが早いか、ぴゅうっと飛んで逃げていく三人。

誰が一番強いかを決める勝負からは完全に趣旨が外れているというのに、誰もそれを指摘しない。あまり頭がよろしくはないようだった。

氷妖精は特にそんな感じである。

さて、と逃げていく三つの背を仰ぎながら、傘屋は困惑したままの幽香に向き直る。

 

 

「え、えっと、えっと」

 

「ほら、何をしてるんですか幽香さん。早く10数えないと」

 

「で、でも、追いかけたりしたらまた怖がらせちゃうかもだし!」

 

「怖がられてますかね? あれ」

 

「ゆーかが鬼だー!」

 

「ゆーかが来るぞー!」

 

「こ、怖くないわよー。怖くないわよー。ふ、ふふ。うふうふふうふふふふふふ」

 

「うわあん、うわああん!」

 

「あたいってばさいきょ・・・・・・ひぃやっぱり怖、っくない! こわくな・・・・・・うわあああん!」

 

「泣いてるじゃないのあの子たち!」

 

「何を馬鹿な。あれは汗ですよ」

 

「違うでしょ!」

 

「涙という名の心の汗ですよ」

 

「違うでしょ!?」

 

 

適当に返事をし、傘屋も空へと飛び上がった。

傘を肩に風を掴めばこの通り。ふわりふわりと飛んでいく。

子供達とはめいいっぱい遊ばせて、最後に自分が鬼になってお終いという筋書きでいいだろう。

問題は幽香が力加減を誤ることだが、幼く見えても彼女たちは妖怪に妖精だ。少しばかりの負傷など、問題はない。

むしろ自分の方が気を付けなくては。

力加減の出来ない大妖怪と遊ぶなど、命がいくつあっても足らない。

相当入れ込んでいなければ出来ない事だよなあ、と自分自身がおかしくて傘屋は笑った。

 

 

「このっ、後で覚えてなさいよ!」

 

「ははは、俺を捕まえられればの話ですけどね」

 

「後ろからマスパ撃ち込んでやるんだから!」

 

「やめて。それだけは本当にやめて」

 

 

観念したか、幽香が「いーち、にーい・・・・・・」と数を数え始める声がする。

ぶつくさと文句を言っていた幽香だったが、口の端が持ちあがっていたのを傘屋は見逃さなかった。

それは変わらず怖い笑みだったが、だがとても、とても嬉しそうに見えたのだった。

数を数えるために後ろを向いた時、幽香が目元をさり気なく拭ったのは、これは見ぬ振りをしておくのが正解だろう。

 

 

「よーし捕まえるわよ・・・・・・一人目!」

 

「アッアッ」

 

「ぴちゅん!? つ、つぶれ、ちるのちゃんがつぶれれれ」

 

「あっあっ」

 

「ふ、復活するから! 妖精だからほら!」

 

「あたいってばさいきょーね!」

 

「た、たーっち!」

 

「アッアッ」

 

「ち、ちるのちゃんがシャーベットにうわああああ」

 

「あっあっ」

 

「はい復活はやく」

 

「アタイッテバサイキョーネ!」

 

「付き合ってられんにゃー」

 

 

傘屋はそんな嬉しそうな声を耳にしながら、高度を上げた。

見下ろせば、辺り一面が黄。

ここは太陽の畑。

生きては二度と出られないとされる、幻想郷屈指の危険区域。

今日だけは、子供達の笑い声が響く場所――――――。

 

 

「ねえ、傘屋!」

 

「はい、何ですか幽香さん!」

 

「今日はいい天気ね!」

 

「ええ、本当に」

 

 

向日葵に囲まれて傘屋を見上げる幽香が、両手で口元を覆って、大声で叫んでいた。

その後、小さく口が何かを発したように動いたが、それは聞こえなかった。

言い終えた幽香が手を振っている。

その顔には、自然な笑みが浮かべられているように見えた。

まるで向日葵のような、明るい笑みが。

高度を上げたせいで本当はよく見えなかったが、そう思ったのだから、それが全てでいいではないか。

 

 

「さあ皆! 覚悟はいいかしら!」

 

「ひいいっ! あれは狩る側の顔だよう!」

 

「あ、アタイは最強、最強なんだから、なんどやられても立ち上がる。そう、絶対、絶対にだ!」

 

「逃げるが勝ちだよー、にゃーん」

 

「あ、あ! 逃げないで! 待ってえ!」

 

「いや、鬼なんだから逃げるでしょ。常識的に考えて」

 

「このっ! 待ちなさいよ傘屋!」

 

「俺にだけ弾幕使うのやめてくれませんかね。あ、あれ? 思ったよりも足遅・・・・・・あれー?」

 

「えううーっ!」

 

 

傘屋はいつものように傘を開こうとして、やめた。

たまには傘を差さぬ日があってもいいだろう。

今日はこんなにも向日葵が綺麗なのだから。




幻想郷の子供達の間でゲーム機を蹴り飛ばす遊びが流行しているのは、公式設定。
幻想郷は地獄か・・・・・・!?

※U(アルティメット)S(シンセツ)C(くりいちゃあ)

私は悪くない。悪いのは紳士諸兄らであるとここに言いたい。

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