ノシ棒:短編集(ポケモン追加)   作:ノシ棒

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ぽけもん黒白4

黒白:8日目

 

 

いかんいかん。

この一週間、食っちゃ寝を繰り返してしまった。

自室の布団から台所までしか移動した記憶が無い。

だってご飯とか掃除とか洗濯とか、全部トウコちゃんがしてくれるんだもん。

おにいちゃんは座っててって言うんだもん。

手伝おうとすると、わたしの生きがいなのにって泣きそうになるんだもん。

だから仕方ない……わけあるか。

このままでは俺は本格的に駄目になる。

刺激だ。

生きるための刺激を得なければ、腐ってしまう。

というわけで散歩しようぜ、ポチ。

 

「ニンガー……」

 

ああ、気遣ってくれたのか。

いいってのに。

でもまあ、ありがとよ。

周りの奴らの言うことは気にするな。

俺は気にしてない。

だから、いいんだよ。

 

「……バーニンガ」

 

まったく、しょげた声を出すな。

わかったわかった。

帰ったら一緒にDVD観てやるから。

 

「ンバーニンガガッ!」

 

うるせえ。

途端に元気になりやがって、こいつは。

そら行くぞ、と玄関を出る。

出た所でぽすり、と飛び込んで来る見慣れたふわふわ頭。

結構なスピードだったが、髪に衝撃が吸収されたのか。

おおう、リアルコットンガード。

 

「おに、お、おにいちゃ……たす、たす……」

 

なんぞ?

 

「あー、クロにいさんだぁ! ねね、そのままトーコちゃん捕まえててえ!」

 

「ひゃー!」

 

この独特なアクセントの口調は、ベルちゃんか。

おはよう、二日振り。

 

「もうお昼だよ。クロにいさんのお寝坊さん」

 

にこー、と大きめの帽子を抑えて笑うベルちゃん。

ウェーブが掛かった短めの金髪が、すっぽりと帽子の中に収まった。

トウコちゃんが見た目がふわふわなら、ベルちゃんは中身がふわふわな子だな。

それで、どうしたのさ。

 

「トウコちゃんのお着替えするの」

 

「やーっ! やーっ!」

 

なるほど。

それで逃げ出したトウコちゃんを追って来た、と。

受け身がちなトウコちゃんがこれだけ嫌がるのも珍しいな。

どんな服を着せようとしたのさ。

 

「んとね、クロにいさんに送った写真の服。トウコちゃんてば、あれ以来一度もあのお洋服着ようとしないんだよ」

 

ああ、あれか。

まあトウコちゃんの趣味には合わないだろうな。露出多めだったし。

似合ってたけどね。

 

「だよね! お兄ちゃんに見せるために買ったのに、トウコちゃんたら、恥ずかしがっちゃってあれから一度も着ようとしないの。

 それでね、トウコちゃんのママにお願いされたの。もう無理矢理着替えさせちゃおうって」

 

「あうう……」

 

「駄目だよ、トウコちゃん。せっかく勇気を出してイメチェンしたんだから、ちゃんとクロにいさんに見てもらって、感想聞かなきゃ」

 

感想って。

あいつみたいなことを言うなあ。

あいつって誰、と小首を傾げるトウコちゃん達。

ほら、あいつだよ。一度会ったことなかったかな。

俺の学生時代の同期。

 

「あー、あのすっごくキレイな人」

 

「……むう」

 

この前も新しく買った水着の感想聞かせろって、ガレージに押し掛けて来てさあ。

それで色々あって。

 

「着る」

 

「トウコちゃん? ど、どうしたの?」

 

「行こう、ベルちゃん。着替え、手伝って」

 

お、おう。

急にやる気になったな、トウコちゃん。

 

「負けない、から」

 

「あ、まってよー!」

 

気を付けて帰れよー。

ってもう見えないし。何だか解らないけど、慌ただしいことで。

さて、もう二人共行っちゃったぞ、チェレン。

 

「気付いてたんですか、クロイさん」

 

もちろん。

上手く隠れてたけど、気配の消し方がまだまだ甘いな。

 

「あの二人には付き合いきれませんよ、もう」

 

はは、そう言うなよ。

女の子と損得抜きで付き合えるなんざ今の内だけだぜ。

 

「興味ありませんよ、そんなの」

 

クイっとメガネを上げるチェレン。

今日も優等生キャラだなあ。

ブレザーが似合ってることで。

 

「そんなことよりもクロイさん、聞いて下さいよ。今度、博士がポケモンをプレゼントしてくれるそうなんです。とうとう僕達もトレーナーになるんですよ!」

 

そう、か。

お前達ももう、旅に出る年か。

トレーナーになるにしろ何にしろ、旅の目的はちゃんと持っておけよ。

 

「ええ、もちろん。僕は最強を目指します」

 

チェレン……それは、辛いぞ。

やめとけよ。

折角の旅なんだからさ、楽しく観光でもしてさ。

 

「余計な口出しはしないで下さい。トレーナーになる以上、強くなる以外に、何があるっていうんですか。

 僕はあなたとは違います。途中で諦めた、あなたとは」

 

……そうだな。

俺は何も言えないわな。

頑張れ、チェレン。

満足がいくところまで、自分の力を試してみろ。

きっといろんなことが解るようになるさ。

 

「ええ、そのつもりです。覚えておいて下さい。いつか僕は、あなたの前に立つ。そして勝つのは僕だ」

 

はは、そうなるといいなあ。

 

「最強のポケモントレーナーに、僕はなる」

 

では今日の所はこれで、と去っていくチェレンを見送る。

 

「バーニンガプププ……!」

 

うるせえ。

笑ってやるな、ポチ。

男の子は誰もが通る道なんだ。いやさ、病気か。

たいていは中学二年くらいに掛かるんだけど、あいつは早熟だったからなあ。

しかし、博士にポケモンをもらう、ね。

明日はアララギさんとこに行ってみるか。

 

 

 

黒白:10日目

 

 

やって来ましたポケモン研究所。

アララギ博士に会いにきました、とだけ受付に告げ、中へ。

アララギさんに会うのも一年振りか。

本当はいの一番に挨拶に来なきゃいけなかったのに、あんまりにも居心地が良すぎて先伸ばしてしまっていた。

うーん、本格的に堕落してるな、俺。

 

「ハァイ! クロイ君、元気してた? もう、いつ挨拶に来てくれるかと待ちくたびれちゃったわ!」

 

お久しぶりです、アララギさん。

相変わらずお綺麗で。

 

「やあねえ、もう。冗談が上手いんだから!」

 

いえいえ、冗談なんかじゃ。

ばしーん、と背中を叩かれる。懐かしいなあ、この痛み。

ところでアララギさん、聞きたいことがあるんですが。

何でもあの三人にポケモンを渡すとか。

 

「そうそう! 初心者用の三体をね。ああ、誰がどの子を選ぶのか、楽しみだわ!」

 

俺の世代はボール渡されるだけでしたからね。

外したら旅は終わりとか、リスキーすぎる。

 

「それで、話を聞いて私の所に来たってことは、納得いってないってことでしょう?」

 

それは……はい。

やっぱり、アララギさんに誤魔化しは通用しませんね。

誤解の無い様に言っておくと、俺はあの子達が旅に出ることや、トレーナーになること自体に反対はしていないんです。

ただ、あなたの手から、ポケモン博士が手ずから旅の支援をすることは、俺は頷けません。

見識を広げるためや、学業のため、純粋に観光のためでもいい、旅の理由はたくさんあります。

そうして子供達は自分を見つめ、職に就く。

でも、ポケモン博士の支援を受けるということは、研究に協力するということ。

図鑑を埋めるためには、たくさんのポケモンが集まる場所に足を運ばなくちゃいけない。

つまり、どんな形であれ、チャンピオンロードを目指すことになります。

あなたの手からポケモンを受け取ったなら、あの子達はもう、専門トレーナーになる以外なくなる。

旅を終えて将来、どんな職に就いたって、戦いから離れることは出来なくなる。

それは、あの子達の可能性を狭めることになるんじゃないですか?

 

「そうね……。ねえ、クロイ君。この町の様子を見た? あなたがカノコタウンを出てからまだ数年しか経ってないけれど、たったそれだけでこの町は変わったわ。

 もちろん、良くない方向にね。この町にはもう、あの子達を含めて子供は10人もいないのよ。

 あなたは子供たちの可能性と言ったけれど、カノコタウンに居る限り、あの子達に未来はないわ。この町を出ない限りは」

 

……はい。

解ります。

 

「でも、だからと言ってあなたのように強引に出て行ってしまっては、皆の反感を買うことになる。それは悲しいことよ。

 どれだけ寂れても、ここはあの子達の故郷なんだから。だから、あの子達が旅立つには、理由が必要なの。

 ポケモン博士からの正式な依頼だっていう、理由が。博士っていう肩書のおかげで、子供を一人旅立たせる度に、国からこの町に補助金も入るしね」

 

……申し訳ありませんでした。

結局は、俺のせいですね。

町に金がないことくらい、わかってたのに。

 

「ああ、もう! 責めるために言ったんじゃないんだから、落ち込まないの! ほら、しゃんと背筋伸ばしてなさい!」

 

はい。

ありがとうございます、アララギさん。

俺達に出来ることは、あの子達を見守ることと、本当に苦しい時にそっと手を貸してやること、ですね。

アララギさんに教えてもらった大人の務め、ちゃんと覚えてます。

 

「よろしい! それでこそ私の知ってるクロちゃんだわ!」

 

ばしーん、と叩かれる背中。

こうやって力尽くで元気にさせられると、敵わないなあって思っちゃうよ。

やっぱりアララギお姉ちゃんはすごいや。

 

「じゃあクロイ君、またね! 今度一緒に食事でもしましょう!」

 

ばびゅーん、と去っていくアララギさん。

はは、忙しい人だな。

今度一緒に食事でも、か。

楽しみだな……って、どうしたよ、ポチ。

 

「ンー……」

 

何だよ。

言いたいことははっきりと言えよ。

何言うかは想像つくけどさ。

はいはい、アララギさんもお前のお眼鏡に適いましたか?

 

「アリャモエンワ」

 

うるせええええ!

うるせえよお前ポチこの野郎ォォゥゥァァア!

俺の子供の時からの憧れのお姉さんによくも!

マナーモードON、じゃねえよ!

出て来やがれポチィ!

このっ、アララギさんは十二分にモエルわ!

モエルーワ!

 

 

 




とりあえずここまで
続き?
要望があれば(震え

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