ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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 お待たせしました。マザーズロザリオ編、始まります。


マザーズロザリオ編
60.絶剣


 キャリバーの話が終わってからしばらくして、俺はとあるうわさを聞きつけて、何とか昼間にダイブしていた。そのまま、キリトたちが暮らす、ログハウスを訪れていた。

 

「ようキリト。課題進んでるか?」

 

「ああ、大丈夫だ。・・・つーか、こっちまで来てわざわざそんなこと言うなよな」

 

「ハハ、悪い悪い」

 

 笑って言う。ここには全員、お互いのリアルをある程度知っている仲の連中しか来ないため、問題なかった。

 

「で、なんだよ、話って?」

 

「なんでも、超絶強い辻斬りプレイヤーがいるらしいじゃねえか。どうなのよそこんとこ」

 

「ああ、あれか・・・」

 

 そういうと、キリトは遠い目をした。

 

「強いのか?」

 

「そりゃもう。戦うルールはこっちに一任なんだが、そのかわりにとんでもなく強い」

 

「ほう。リーファとかは戦ったのか?」

 

「戦ったってさ。というか、キリトもリーファちゃんから聞いて、だったでしょ?」

 

「して、結果は?」

 

「全く歯が立たなかったです。空中戦得意だったのに、デフォ技だけで押し切られちゃいました・・・」

 

「そりゃ相当手練れだな・・・」

 

 俺の質問には、リズと本人が答えた。リーファはリアルで中学剣道全国クラスの強者だ。加えて、古参ALOプレイヤーということもあり、空中戦で彼女の白兵戦闘能力で勝る相手はそうそういない。それがデフォ技のみで負けた、となれば、遠距離で封殺された可能性もあるが、

 

「絶“剣”、っていうくらいだから、白兵戦が強いのか?」

 

「AGI高めなスピード剣士タイプで、白兵戦一本。あんたみたいに魔法も交えるタイプでもないわ」

 

 ちょっと待て。白兵戦一本だ、というのなら、

 

「空中白兵戦()()で完全にリーファが押し切られたってのか!?」

 

「お恥ずかしながら・・・」

 

「・・・いやいや、それは相手が悪いわ」

 

 俺ですら、空中限定でリーファと当たったら、油断したら簡単にやられる。それが、あっさりと負けた、というのは、にわかには信じがたいほどだ。

 

「つかそもそも、それだけ強いと挑戦者いないんじゃないの?」

 

「いや、それが、報酬が片手剣系汎用の11連撃OSSなんですよ」

 

「・・・ワーオ」

 

 思わず絶句した。これまでのOSSの最大は、確かユージーンの8連撃だったはず。それでも破格なのに、11連撃というのはトンデモもいいところだ。俺たちのワイルドコンビネーションとか、漸毅狼影陣(ざんこうろうえいじん)とかは縛りがキツ過ぎて到底実用レベルじゃないロマン砲だが、汎用性の高いOSSとなれば、その価値は破格だ。

 俺が普通に真っ向からデュエルをやったときの実力は、大体上の中ぐらいにあたる。ぶっちゃけ、キリトが負けるレベルとなれば相当なものなのだが、って、

 

「キリトは戦ってないのか?お前なら、この手の話は真っ先に飛びつきそうなものだが」

 

「戦ったさ。で、負けた」

 

「負けたぁ!?!?」

 

 思わず声が大きくなる。キリトは、サラマンダーのユージーン将軍と並んで、ALO最強の一角に名を連ねる。そんな奴ですら負かす相手がいるとは。

 

「俄然興味が出てきたな・・・。俺も当たってみるか」

 

「確かに、お前ならワンチャンだな」

 

 ことPvPや等身大クラスの人型ボスと限定すれば、俺はキリトにすら勝ち越す。であれば、俺なら勝てるかもしれない。かなり興味が出たので、連れて行ってもらうことにした。

 

 

 さて、その辻デュエルが行われてる場所に来てみた、はいいものの。

 

「おい、あれ、マジか?」

 

「マジだ」

 

「人は見た目によらんなぁ・・・」

 

 そこにいたのは、可憐なインプの女の子だった。ぶっちゃけ、ゴリゴリヘビーゲーマーのおっさん、つまり男だと思っていたので、これは意外過ぎた。

 

「さて、誰もいないのなら、次は俺でいいか?」

 

 次の対戦相手を探す相手の子に向かい、俺は進み出ながら周りに問いかける。どうやらいないようなので、そのまま対戦という流れになった。

 

「お、次はお兄さん?」

 

「ああ。対戦スタイルはこっちに一任と聞いていたが、間違いないか?」

 

「うん、そっちに合わせるよ。ボクはこれ一本、だけどね」

 

 そういって、腰に刷いた剣を叩く。その様子に、俺は目を細めた。リーファの言っていた通り、白兵戦一本らしい。

 

「なら、空中戦も地上戦も、魔法の有無もなんでもあり。その場に応じて、適切な判断を取る。どうだ?」

 

「へえ!大体片方、っていう人のほうが多いのに、そんなの初めてだよ!面白そう!最初は?」

 

「地上で」

 

「分かった」

 

 目を輝かせて返答すると、彼女は翼をたたんだ。俺の方も、全く警戒をしていない。少しすると、デュエル申請がこっちに来た。プレイヤーネームは“Yuuki”。ユウキ、でいいのかな。即座に受諾ボタンを押すと、カウントダウンが始まる。即座に剣を抜き放ったユウキに対し、俺はギリギリまで抜かなかった。10を切ったところで、ようやく俺は左手でアローブレイズを抜き放つ。そのまま、ぶらりと両手を下げただけの状態。構えとも呼べない、隙だらけの状態。それに、ユウキはただ怪訝な表情をしていた。

 

 カウントダウンが尽き、デュエルが始まった。直後に、ユウキが突撃してきた。ま、思いっきり隙だらけだからな。構えを取る前に、というのは分かる。だからこそ、その動きは見えやすい。

 ほんの少しの動作で、抜き胴の要領で横なぎを繰り出す。が、これは即座に反応された。・・・反応速度が速いな。即座に、右の拳で追い打ちをかける。それに、ユウキは間合いを取った。いったん間合いの外に逃げよう、という思考は理解できる。が、それは俺の思う壺だ。

 間合いを取る動きをした瞬間に、俺はアローブレイズを弓形態に変更した。即座に速射する。仕切り直しと思っていたユウキが驚愕に目を見開きながら迎撃にかかる。と、その矢は彼女が迎撃する寸前に小さな爆発を起こした。その陰に紛れ、今度は俺が突撃する。完全に回避に入るユウキだが、ほんの少しだけ、俺の()()()()()()刃が届いた。彼女が間合いを見誤ったわけではなく、武器が変わったことによって広がった間合いが届いたというだけだ。さらにバックステップで躱し、直後に突撃してくる彼女に、俺はスローイングタガーを投げた。それを弾いてなお突っ込んできた彼女に、俺は軽く受け止めながら後ろに下がって受け止めた。今度こそ仕切り直しだ。

 

「すごいね、お兄さん」

 

「そっちこそ。このくらいまでやれば、首を取れる場合も多いんだがな」

 

 俺の言葉は偽らざる本音だ。相手が白兵戦で無双の強さを誇るなら、わざわざ相手のフィールドである白兵戦で戦う理由はない。俺のもっとも得意とするフィールドも白兵戦だが、俺の場合は中距離もかなり得意だからな。加えて、相手が白兵戦一本というのなら、手の内の広さで俺の方が上を行くはず。ならば、間合いをかく乱してやればあるいは、と思ったのだが・・・認識が甘かったか。

 

(ちょいとギアを上げるかね)

 

 これだけの強敵となれば、出し惜しみは無用。俺は左足を少し引き、ニバンボシを中段付近に、拳を脇に持ってきた。構えの変化に、絶剣もギアが上がったことを察したのだろう。お互い、構えなおした。

 まずは、改めて小手調べ。一気に間合いを詰めて、そのまま上段から振り下ろし。これはいなされ、カウンターをさらに俺が左肘で合わせる。これはバックステップ。即座に間合いを詰めに来るユウキに、俺は左手でスローイングタガーを投げた。これはきれいにいなされ、そのまま突進してくる。今度こそ、俺は右から降り抜く形の、抜き胴の要領での薙ぎで斬り払おうとした。その寸前で、相手はひらりとこちらの斬撃を躱す。反撃を振りかぶってきたときはさすがに焦ったが、裏拳を使って何とかいなした。・・・初手で分かっていたつもりだが、

 

(なんつー反応速度・・・。こりゃキリトに匹敵、あるいはそれ以上か?)

 

 明らかに、今の胴の躱しは、想定していた一つの返しをされて、見てから回避した反応だ。俺だってPvP最強クラスとして、このくらいの返しはできるだけ読ませないような斬撃を心がける。なのに、それを見てから躱し、あまつさえ反撃までしてのけた。―――見かけによらない、とは言ったが、ここまでとは。

 

「非礼を詫びよう、絶剣。どうやら、俺の想像以上に、俺はあんたを見くびってたらしい」

 

「それは仕方ないよ。大体びっくりされるからね、ボク」

 

「だけど、報酬がどうだとか、そんなの関係なく、俺はただ、負けたくない。だからここから先は―――」

 

 息をついて、構えなおす。刀は担ぐように、左手は体側に。その状態で、宣言する。

 

「―――本気で、獲りに行かせてもらう」

 

 俺の言葉に、絶剣は顔色を変えた。はっきりと、俺の中のスイッチが切り替わったことが伝わったのだろう。―――それで十分。

 強く地面をけ飛ばす。ほんの少し早い俺の踏み込みに、相手が若干驚く。それもそうだ、俺は今まで、全力の踏み込みをしてなかったのだから。虚を突かれた一瞬で、俺は一気に詰め寄り、左手の拳をまっすぐに突き出す。これはバックステップで躱される。それを見越した俺の袈裟はいなされるが、続く逆袈裟は防がれ、逆に手首を返した薙ぎが来る。胴体を狙ったそれは、逆に間合いを詰めたことにより止められる。脳天を狙った唐竹割りは、薙ぎの腕を伸ばし、俺の後ろに肘を当てた反動で、回転するように逃れられた。左回りで反転し、俺は即座に脇構えから足元を斬り払おうとした。同じく下段で受けられ、即座に俺は前中するように飛び、そのまま後ろから上空へのがれた。追撃してきた絶剣を、俺は力で強引にたたき落とした。思った通り、インプという軽種族であり、なおかつAGIが高めなスピードタイプだから、バランスの取れたSTR-AGI型の俺がこうやって位置エネルギーも利用してやれば、叩き落とせる可能性は十分にあった。そのまま急降下し、追撃に入る。これは転がって避けられるが、即座に投げナイフで追撃する。何とかかすめながら躱される。が、俺からしたらそれは想定通り。そのまま、俺は左手を振り回した。と、先ほど投げた投げナイフが、曲線を描いて再び絶剣へと迫った。これにはさすがの絶剣も泡を食って逃れる。その光景に、周囲がどよめいた。

 俺がやったのは、リトリープアローをもとにしたオリジナル魔法を、投げる時に付与しただけだ。その魔法は、魔力で作った糸を、投げナイフの柄から俺に向かって伸ばす、というもの。これにより、俺は投げナイフを即席のペンデュラムに変えることに成功した。なかなか扱いが難しいが、槍以上弓以下という貴重な間合いの武器だ。これには、さすがの絶剣も回避に徹さざるを得ない。そこに、俺は片手でアローブレイズに武器を変え、ペンデュラムをくるりと二周させてたたきつけた。好機とばかりに飛び込んでくる絶剣だが、俺からしたら想像通りだ。そのままバックステップで間合いを取り、地面に向かって爆裂矢を打ち込む。それは、絶剣の速い踏み込みに重なり、彼女の足を確実に止めた。

 

(ここで決める!)

 

 覚悟を決め、アローブレイズを曲刀形態に変える。バックステップの反動と踏み込みの初速を羽根でブーストし、俺はリーパーを繰り出した。俺のその攻撃を好機とみて、バックステップで受けてから反撃しようとした絶剣だが、そうはいかない。十八番となった剣技連携を使い、転身脚につなげる。驚きながら受け、下がる絶剣をしり目に、俺はさらに左手のドライブツイスターへとつなげる。いなして攻撃をしようとする絶剣だったが、それは俺の抜刀とともに放たれた旋車に阻まれる。さらに左手の弧月閃につなげたが、これはいなされる。と、同時に、絶剣の剣が光った。俺の覚えのない構え。そこから来るのは、俺の知らない片手用直剣か、片手剣系汎用ソードスキル、そして―――片手剣系汎用ソードスキルである、絶剣の11連撃。

 まばゆい純白の光を見て、俺は即座に察した。間違いない、これこそ絶剣の11連撃。俺が剣技連携を止めたら、俺は長い長い硬直を強いられる。なら、剣技連携をフルに使ってしのぎ切るしか手はない。

 爪牙連牙斬、真空破斬、そのまま刀を納刀した裏拳で獅子戦吼(ししせんこう)を放つ。それでもなお彼女は止まらなかった。もう一発しのぐ気になればしのげるが、俺はそれをしなかった。

 

(こりゃ勝てねえわ)

 

 端的に言えばお手上げだ。俺の剣技連携にここまでついてこられた上に、初見の技に対応できるだけの能力。これだけされては勝てない。どちらにせよ、11連撃のうちの数発をもらっている時点で、俺のHPはかなり怪しい。が。

 

「・・・どういうつもりだ?」

 

 彼女が放った最後の一撃は、俺の胸の前で止まっていた。先も言ったが、とどめを刺そうと思えば刺せる。なのに、彼女は止めた。思わず混乱して、最後の体勢で固まる俺に、彼女はにこにこと笑って、そのまま俺の手を取った。

 

「おにーさん、強いね!うん、気に入った!」

 

「いや、だから、えっと、全く話が見えないんだが」

 

「ちょっとついてきてもらえる?」

 

 そういうと、彼女は俺の手を取ってそのまま上昇した。俺もあわてて上昇する。ギャラリーもあっけにとられている間に、俺たちは上昇していった。

 




 はい、というわけで。
 まずはあっさり流したネタ解説。

獅子戦吼
 テイルズオブシリーズ
 使用者:クレス・アルベイン(TOP)ほか多数
 獅子の頭を模した闘気を放つ。原作だと、総じて大きなノックバックやダウンを伴うことが多い技。ここだと一応魔法属性強めな体術スキル扱い。SAOでも出したかったんですが、その性質上、世界観的に若干無理があるかなー、と思いここで。


 正直ここはレインちゃんが主人公でもいいかなー、とは思ったのですが。あれこれ考えた結果、ロータス君主人公で行きます。

 初回はロータスvsユウキでした。どうせ二次創作ならね、オリ主vsユウキは書きたいなー、と思っていたのですが、これが難産でした。なまじ特化型にしなかったから、まあ難しいのなんのって。

 ペンデュラムみたいな例のオリジナルは、TOZおよびTOBのザビーダ(デゼル)の武器を参考にしました。そういえばああいう武器ってないなー、と思ったのがきっかけです。そういう武器を作るのではなく、オリジナル魔法を作っちゃうってあたりがロータス君クオリティ。

 ユウキの拉致()は原作通りですが、ここから思いっきり脱線していきます。正直どこまで書き切れるか、自分でも自信がありません。なにとぞよろしくお願いします。

 ではまた次回。

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