ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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今回も視点変更があります。視点変更の境目は前話の前書きを参照ください。


59.聖剣

 さて、RTAモードだから、こっちは急ぎ足だ。と、そんなときに、あからさまに檻が置いてあった。

 

「誰か・・・誰か、助けてはくださいませんか」

 

 儚い声でしゃべりかけるのは、中にいる女性。真っ先に助けに行こうとしたクラインを、残りの全員が目顔で止めた。

 

「罠だ」

「罠ね」

「罠です」

 

 即座にキリトとシノンとシリカが声をかけた。ま、俺もそう思う。だが―――

 

「なあ、あんた、どうしてこんなところにいるんだ?」

 

「私は、スリュムに奪われた秘宝を取り返しに来たのですが、捕まってしまって・・・」

 

 そこまで話を聞いたところで、ユイちゃんがこちらに向かって話しだした。

 

「この人、言語モジュールに接続されているだけでなく、HPがイネーブルになってます」

 

「AI化された、共闘もしくはぶっ倒せるNPC、ってわけか?」

 

「はい。ただ、この場合だと―――」

 

「罠よ」

「罠ね」

「罠だと思う」

「罠だと思います」

 

 それを聞いて、さらにリズとアスナとリーファが続ける。普通に考えれば罠以外の何物でもないんだが―――

 

「あからさま過ぎない?」

 

「そうなんだよなぁ・・・」

 

 レインの言葉には頷きを返す。基本的に罠はバレないように張ってナンボだ。

 と、少し考えたところで思い出す。

 

「なあ、ユイちゃん。ここって確か、スリュムの城だったよな?」

 

「え?ああ、はい」

 

「あんた、名前は?」

 

「私はフレイヤと言います」

 

―――まさか。

 

「なあ、あんた、連れがいなかったか?確か、えっと、ロキだっけ?」

 

「それが、お恥ずかしいことに、はぐれてしまって・・・」

 

 その言葉に、俺はにやりと笑った。―――ビンゴ。

 

「俺たちの目的は、スリュムをぶちのめして、エクスキャリバーを引き抜くこと。あんたの目的は、スリュムに奪われた秘宝を取り戻すこと。スリュムぶちのめした後、攻撃してこないと約束してくれるなら、一緒に行こう」

 

「それは願ってもないことです」

 

「決まりだ」

 

 それだけ言うと、俺はニバンボシを一閃した。格子がきれいに切り取られ、人ひとりが出られるくらいの空間ができる。そこから、彼女は外に出てきた。

 

「え、いいのかよ!?」

 

「安心しろ。今のやり取りで確信した。俺の予想があっていれば、こいつは心強い援軍だ。ぶちのめした後、攻撃しない約束も取り付けたし、さすがに協力した相手をプチっとやるほど不義理でもないだろ、仮にも神様が」

 

「え、神様なの!?」

 

「元ネタ通りなら、確か豊穣の女神のはずだ。まあ、―――いやなんでもない」

 

「なんだよ、気になるじゃねえかよ」

 

「なあに、今回に関しては、土壇場で知ったほうがたぶんいろいろ爆発してやる気出ると思うから」

 

 クラインの言葉はさらっと流す。その直後に、リーファが思い出したような顔をして、すぐにジト目になった。

 

「人が悪いですよロータスさん」

 

「安心しろ、自覚はある」

 

 その言葉にため息をついたリーファの肩を、レインが後ろからポンと叩いた。

 

 

◆   ◇   ◆

 

 

 何とか低空で回避をしながら、私は何とか時間を稼いでいた。それでも限界はあり、何とか回避を繰り返しても、下の動物邪神狩りパーティの攻撃をかすめることが多くなってきた。黒天のHPは私にはわからないが、そこまで高いわけでもないだろう。

 

「ごめんね、もうひと踏ん張りお願い」

 

 高空に退避して黒い背中をゆっくりと撫でながら語り掛ける。と、グルルと低い声で黒天は鳴いた。もう一度両手剣に変えて、私は黒天から飛び降りた。空中で両手剣を持ちなおし、ちょうどいいタイミングでカブトワリを繰り出す。ソードスキルの着地扱いで大きく着地ダメージが軽減されることは、過去に検証を済ませてある。私の攻撃は人型邪神の背中をざっくりと切り裂いた。簡単なソードスキルだったため、ソードスキルの後の硬直時間は短い。すぐに振り返って、相手の魔法に合わせて、私は二回担ぐようなモーションを起こして、ソードスキルの溜めを作る。お構いなしに何人か魔法を放つが、すぐに一人が気付いた。

 

「撃ち方やめ!やめろ!」

 

―――だが、気が付いたところでもう遅い。

 

「だらっっしゃあああぁぁぁいい!!」

 

 掛け声とともに、私がソードスキルをぶっ放す。両手剣上位ソードスキルが一つ、“震怒竜怨斬(しんどりゅうえんざん)”。非常に長い溜めの後、受けたダメージの10倍を上乗せして放つ一撃。セオリー通りタンクが前面にいたが、もともと強力なソードスキルが、先ほどの魔法ダメージを上乗せして放たれた結果、タンクは何とか残ってもその後ろが少なからずリメインライトになった。

 

「くそアマ・・・!」

 

 タンクの一人が毒づく。確かに、いくら受けて10倍返しするソードスキルと言っても、これだけの被害だとさすがにそれも納得できるお話。だけどこっちも絶体絶命だ。なにせこのソードスキル、溜めも長いが、上位ソードスキルゆえに硬直も長い。その間に袋叩きにされる。―――とは思っていなかった。その後ろから、槍系ソードスキル“クリムゾングライド”や、片手剣系ソードスキル“ヴォーパル・ストライク”、両手剣系ソードスキル“アバランシュ”、その後ろから両手剣系ソードスキル“クラッシュチェイサー”、両手槌系ソードスキル“ハードチェイサー”などが色とりどりの光を散らしながら残った数人を食らいつくした。

 

「さすがフカさんたち。ありがと」

 

「というか、あんた、ここまで計算に入れたうえでやったでしょ」

 

「あ、バレてた?」

 

「バレないと思った?」

 

 フカさんの言葉に、私はただ笑うしかなかった。実際、おそらく彼女たちはやってくれるだろうという計算の上でやったことなので何とも言えない。

 

「さて、ここは終わった。次行くよ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 フカさんの号令で、彼女たちは素早く離脱する。私も、残った人型邪神の攻撃をよけて、もう一度指笛を鳴らした。

 

 

◆   ◇   ◆

 

 

 さて、急いでダンジョンを進むと、いかにもな場所に出た。

 

「これってもしかしなくてもそうだよな」

 

 俺の言葉に、ユイちゃんが頷く。直後、アスナとリーファが詠唱して、バフをかける。それからさらに、フレイヤがバフをかける。と、左上のHPが増えた。

 

「こんなのあるのか」

 

「私も始めてみました」

 

 一同驚きも冷めやらぬうちに、ボス部屋の扉を開けた。

 

 ボス部屋に入ったとき、真っ先に目に入ったのは、黄金に輝く宝の山だった。

 

「うわぁ・・・」

 

「ストレージに入れて持ち帰りたいところだけど・・・!」

 

 そういうと、俺は詠唱を始める。同時に、左手のアローブレイズのギミックを発動、弓状態にした。詠唱が終わると同時に矢をつがえて放つ。それは財宝の近くに着弾し、電気をまき散らした。

 

「羽虫めが・・・我が財宝に手を出すか!」

 

「興味ないからな。こっちの目的の一つに、その山の中に埋もれてるだろう物があるんだよ。ま、今ので大体の目星がついたがな」

 

「ほう・・・ならばそういえばいいものを。頭を垂れるというのであれば、宝物など一つや二つと言わず持てるだけくれてやる」

 

「どうだか。あんたはそうそう気前よく手放すような奴じゃない。そうだろう?スリュムさんよ」

 

「わしを誰か知っていて、羽虫の分際で歯向かおうとするとは愚かな。

―――ん?そこにいるのは、もしやフレイヤ殿では?いよいよわしに嫁ぐ気持ちは固まったのか?」

 

「と、嫁ぐ!?」

 

「無礼者!我が一族の秘宝を奪っておいて、まだそのような世迷言を!」

 

「だよ、な!」

 

 無理矢理、俺は金色の槌を引っ張り出した。―――雷に反応したのは、間違いなくこいつのはず。

 

「うるぅぅらあああ!!」

 

 見た目の数倍はあろうかという重さのそれを、ハンマー投げよろしくぶん投げる。それは放物線を描いて、フレイヤの近くに飛び、彼女がそれをキャッチした。

 

「っしゃあ!!」

 

「しゃあ!じゃないよ危ないよ!?」

 

「それはすまん。でも、これで、―――本来の持ち主の手に帰ったわけだ」

 

 俺の言葉を全員が理解する前に、フレイヤの体が数倍に膨れ上がった。その顔は元の顔立ちはかけらもなく―――

 

「「おっさんじゃん!!」」

 

 キリトとクラインが驚きのあまり絶叫する。知ってた。それもそのはず、これの元ネタ、結構有名なお話なのだ。

 

「って!蓮野郎は知ってたんだろ!?」

 

「おう。有名な話だからな、トールが女装してミョルニル取り返しに行くってやつ。さっきの問答でもあったロキは、その時の連れ」

 

 信じられないかもしれないが、原典からしてこんなストーリーが存在するから仕方ない。まあ、それはそれとして、だ。

 

「今ならトールにヘイトが向いてる。やるぞ」

 

 さっきみたいな化け物耐性を持っているのならいざ知らず、こいつはおそらく全体的に高いステータスをもつ、というだけのはず。なら、出し惜しみは無用。

 

「ロータス君!使って!」

 

 その声とともに、ボスの近くに剣が降ってきた。誰の物かなど、確かめるまでもない。相変わらず気の利く娘だ。

 

「サンキュ!」

 

 この状態なら、遠慮なくやれる。スリュムの足元を狙って、俺が剣をとっかえひっかえしてソードスキルを連発する。たまにストンプが飛んでくるが、俺自身剣を投げて再利用しているうえに、レインも剣を回収しながらなので、弾数は実質無限だ。そんなことを繰り返していると、スリュムは膨大なポリゴンとなった。

 ふう、と、長くため息をつき、俺は刀をしまう。シュピーゲル(AGIの高いキャラ)でひたすら走り回ってSMG撃ちまくるのも大変だが、これはそれとは違う大変さがある。特に剣技連携は結構集中力を使うので、これだけ連発すれば余計に、だ。

 

「協力に感謝するぞ、妖精たちよ。おかげで余はこの雷槌を取り戻すことができ、宝を奪われた恥辱をそそぐことができた。そして、私をフレイヤとしてではなく、トールと分かって戦っていたおぬしには、褒美を取らす」

 

「そりゃありがたいこと。して、その中身は?」

 

「まあ急くな。

―――この雷槌ミョルニル、正しき戦に使うがよい。では、さらばだ」

 

 そういって、トールは姿を消した。と、ここで気が付く。

 

「なあ、エクスキャリバーはどこにあるんだ?」

 

「皆さん!玉座の後ろに、階段がジェネレートされています!」

 

「と、いうことは、そこに!?」

 

 返答を聞く前に、キリトを先頭に走り出した。

 

 

 階段を駆け下りると、そこには黄金の剣が鎮座していた。深々と黄金の剣は突き刺さっており、なかなか抜けそうにない。

 

「キリト、頼むぜ」

 

 俺の言葉に、キリトが進み出る。STRで勝るのはレインかもしれないが、ここでレインに任せるのも変な話だ。だがまあ、想定はしていたが、なかなか抜けない。全員の応援の甲斐あってか、なんとか剣は引っこ抜けた、ものの。直後に、ドガン!と、不穏な轟音が響き、城が振動しだした。

 

「なあ、これ、もしかしなくとも―――」

 崩れる?

 

 と、言い切る前に、地面が崩れた。

 

「スリュムヘイム全体が崩壊します!脱出を!」

 

「脱出って言っても・・・!」

 

 戻るための階段には、断層のような大きなズレが発生していた。普通で考えれば戻れない。

 

「ちっ、しゃーないか!」

 

 舌打ち一つ、俺は指笛を吹いた。かなりの間の後に、遠雷のような咆哮が聞こえた。

 

「リーファ!トンキーを!」

 

 俺の声に、リーファがトンキーを呼ぶ。と、ここで思い出す。

 

「メダリオンは!?」

 

「全然大丈夫!一割くらいは残ってる!」

 

「そいつは重畳!」

 

 そんなことを言っていると、まず黒天が到着した。真っ先に俺が飛び乗り、直後に阿吽の呼吸でレインが飛び乗る。その後に駆け付けたトンキーに、残りの全員が乗る。・・・のだが、

 

「キリト!早く!」

 

 そんなことを言ってられないのは、キリトの様子を見ればわかる。今の状態では、明らかにエクスキャリバーが重すぎるのだ。

 

「まったく・・・!」

 

 それだけ毒づくと、キリトはエクスキャリバーを放り投げた。その直後にトンキーに飛び乗り、離脱する。

 

「黒天!」

 

 それをみた俺の一言に、黒天は正確に応えた。即座に最高速でダイブすると、一気に剣に追いつく。だが、ここで問題が一つ。キリトのSTRでギリギリなら、それより低い俺のSTRでは確実に保持できない。

 

「私が剣を!」

 

「頼んだ!」

 

 後ろから聞こえた声に、俺はノータイムで応えた。俺なら無理でも、レインなら問題ないはずだ。最も、それはステータス上のお話。

 

「分かってるとは思うが、チャンスは一回だけだからな!」

 

「了解!」

 

 正確に、回転する剣に追いつく。追い越した直後に「獲った!」の声。そのまま、何とか上昇する。

 

「すまんな、重いだろうが頑張ってくれ・・・!」

 

 手綱を握りながら語り掛ける。人で言えば気合を入れるように、黒天は少し長めに吼える。その声と同様に少しずつ上昇し、その高度はトンキーに追いついた。

 

「はい、これ。重たいから注意して」

 

 それを、身を乗り出してキリトが受け取った。・・・やけに静かだが、大丈夫か?

 

「ふ・・・」

 

「ふ?」

 

「「「二人ともマジかっけーー!!」」

 

 と、思っていたら、全員が唱和する形で応える。

 

「なんですか今の!?」

 

「一気にダイブして追い付いただけだ」

 

 言いながら、俺は黒天の首筋を撫でる。そもそも、こいつが答えてくれなければ、この無茶な作戦は成り立たなかった。と、ヨツンヘイムに早くも変化が現れた。

 今まで氷に閉ざされた銀世界だったヨツンヘイムに緑が戻った。光が戻り、緑が萌えていく。これが、世界樹の恩寵の満ちた世界、ということなのだろう。ところどころで、トンキーに似た邪神がくおぉーんと鳴いていた。

 トンキーの前に、またウルズが現れた。

 

「見事に成し遂げてくれましたね。エクスキャリバーが取り除かれたことにより、木の恩寵は地に満ち、ヨツンヘイムはかつての姿を取り戻しました。これもすべて、そなたたちのおかげです。

 私の妹たちからも、そなたらに礼があるそうです」

 

 そういうと、今度はプレイヤーと同じくらいの大きさのNPCが両脇に一人ずつ現れた。

 

「私はヴェルザンディ。ありがとう、妖精の剣士たち」

 

「私の名はスクルド。礼を言おう、妖精の戦士たちよ」

 

 その言葉とともに、二人からそれぞれクエストの報酬が振り込まれた。・・・こりゃ相当だな。

 

「私からは、その剣を授けましょう」

 

 その言葉で、キリトの腕から力が抜けた。ようやく装備品扱いになって、その重量が抜けたのだろう。

 

「決して、ウルズの泉には投げないように」

 

「そうしようとしたらぶん殴って止めるからご安心を」

 

 俺の若干おちゃらけた口調に、女神たちはほほ笑んで、別れの挨拶を告げた。その背中に、クラインが声をかける。

 

「スクルドさん、連絡先をーーー!!」

 

 ・・・うん、そうだった。こいつはこういうやつだった。その言葉に、スクルドはもう一度振り返り、優雅に手を振った。

 

「クライン。あたし今、あんたの事心の底から尊敬してる」

 

 リズの感想に、俺は呆れたように笑った。

 




 はい、というわけで。
 これにてキャリバー編、終了です。まずはネタ解説。

クリムゾングライド
GE2、GE2RB、チャージスピア系ブラッドアーツ
 元ネタが長くなった。オーラをまとった突撃。溜めて突進するだけの、シンプルなもの。

クラッシュチェイサー
GE2、GE2RB、バスターブレード系ブラッドアーツ、元ネタ名前「CC・チェイサー」
 一気に突進してそのまま振り下ろす技。突進中からソードスキル判定で、ある程度横幅の移動には自由度があるが、ある程度の範囲内なので過信注意。

ハードチェイサー
GE2、GE2RB、ブーストハンマー系ブラッドアーツ
 一気に突撃して、こちらは横殴り。本家ではハンマーにブースト機構が付いていて、それをアフターバーナーよろしく一気にふかして突撃するのだが、今回はソードスキルなので、普通に突進するだけです。モンハンの狩技にもこういうのあればリーチの短さ補えると思うのに何でないんだろう、って主は思います。ワールドにあったらごめんなさい。


 これにてキャリバー編終了です。短い。まあ原作からして一巻分ないからね、仕方ないね。

 フレイヤさんのあれは明らかにあからさますぎるだろーってアニメ見て思ったので、ロータス君が早々に看破した設定に。元ネタにこれあるって知ったときの驚きは今でも忘れられません。
 最終戦ではさすがにワイルドコンビネーションは決めませんでした。一応トールさんも味方だからフレンドリーファイア防止です。どこらへんが“フレンド”なのかはさておくとして。
 せっかく主人公がドラゴンライダーになってんだから、拾ってもいいよね。という、主の勝手な思いにより、シノンさんの活躍はなくなりました。番外編でGGO編書いたら活躍させられるから勘弁してください。

 さて、この後はこのままマザロザに入るのですが、この期に及んで書き溜めが尽きかけてます。そもそも問題これ予約投稿してるのが2019年3月なので、まだ余裕あるかなーって思ってますが。目標、アニメ終了までにアリシ突入。

 ではまた次回。

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