↑このマークがあるところを境に視点変更となりますので、よろしくお願いします。
さて、やることは分かっているんだけども、これはさすがに。
「全く、軽く無茶言うよねあの人」
「本当にね」
私の声にこたえるのは、彼から借りた黒天の後ろに乗る形で回収したフカさん。彼の言葉通り、彼女のギルド、ドッグアンドキャッツのメンバーは、この事態の援護に回っていた。
「ごめんなさいね、あの人の無茶ぶりのせいで」
「いいってことよー。私だってさすがに、ギルド本部をぶっ壊されるわけにはいかないしね」
スリュムヘイムは、位置的には央都アルンの直下に当たる。そして、ドッグアンドキャッツは数少ない旧ALOから存在する混成種族ギルドである以上、レネゲイドの集まる央都アルンに拠点を持つ。何かあれば、最悪は免れない。
「でも、どうするの?」
「もちろん、こうするよ」
言いながら、ストレアは武器を変えた。それは、驚くことに、
「ボウガン・・・!?存在したの!?」
「たまたまドロップしたんだー」
これは本当の話。仕事柄、ただでさえもロータスのログイン時間は少なく、さらに彼はGGOにもログインしているため、ALOでエリーゼとログイン時間が重なることは稀と言って良い。そのため、エリーゼのインするときは大体ストレアが協力していた。そして、彼女らが挑んだクエストの中で、遠距離攻撃ばかりしてくるボスを撃破するものがあった。彼女たちからしたら、遠距離攻撃を得意とする相手など、近くで飽きるほど見てきた。遠距離と近距離、その二つをまた平等に制するような馬鹿げた人間を近くで見ていれば、対処など問題にならなかった。で、その結果として手に入れたのがこれだった。普通の弓と比べると、手軽さと精度はこちらが上、射程距離と威力、そして連射速度は普通の弓が上、といった具合だ。というのは、ロータスに使い心地を聞いたときのお話。
「まずはあれ、行くよ」
「了解」
そういうと、彼女は背中から大剣を抜く。ねじれた二つの角をそのまま使ったような武器は、はっきり言って私のそれより重そうだが、彼女曰く、「パワーは力」、だそうな。脳筋と言ってはいけない。
まずはフカが飛び降り、大剣を振り下ろす。切り切る前に邪神を蹴っ飛ばし、そのまま受け身を取って間合いを開く。フカさんにタゲが行ったところに、私がクロスボウを撃つ。一瞬人型邪神の動きが止まったところで、共闘をしていたパーティの方にフカさんが素早く動いた。
「ほらほらほらほら、鬼さんこちら、手のなる方へー!」
さらにフカさんが挑発したことで、邪神はフカさんの方に攻撃をした。ということは、必然的に共闘していたパーティも巻き込まれるわけで。といっても、そのあたりはトッププレイヤーパーティ、問題なく回避する。ところに、さらに私がクロスボウで追撃する。足の遅い一人に向かって撃ったそれは、狙い通りヘッドショットとなり、一撃死を誘発した。その一矢で、下のパーティも私の存在に気付く。魔法を放つが、私たちの高度には届かない。その間に、フカさんは追い付いた援護部隊の力を借りて、プレイヤーたちと戦闘に入った。その隙を狙って、私はちょっと特殊なボルトを装填したクロスボウをさらに遠くに構えた。私は元MHCPとして、ある程度マップやプレイヤーデータにアクセスすることができる。それの応用だ。
―――直撃しなくていい。かく乱できればそれで十分。
しっかり狙いをつけて、放つ。山なりに放たれたボルトは、着弾と同時に爆発した。ロータスの持つ特殊な矢の一つである、爆裂矢から着想を得た、名前そのまま“爆裂ボルト”。混乱をしている隙に、黒天を飛ばす。狙ったポイントで飛び降りると、飛んでいる間に変えた、いつもの大剣を抜刀しながら振り抜いた。着地しながら受け身を取り、即座に立ち上がる。私にタゲが来たことを確認してから、ステップで回避する。距離を取ってから、私は指笛を吹いた。その音に合わせて飛び込んできた黒天の背中に飛び乗る。黒天は私の思った通り、爆裂ボルトの爆発でまだ混乱が抜けきっていないプレイヤーの上を低空でフライパスした。その私を追う形で、邪神のタゲがこっちに向いた。
「上に!」
私の掛け声で、黒天が上昇する。攻撃可能圏外に出たことで、タゲは下のパーティに移った。はたから見たら完全にトレインだが、こちらの目的を考えると仕方ないと割り切るしかない。
(時間稼ぎにも限度ってものがあるからね・・・!)
私は上空でクロスボウをまた構えながら、そんなことを思ってスリュムヘイムを見上げた。
ゲーマーとしては、こういう未踏破ダンジョンは隅から隅まで見てみたいというのが本音だが、時間がない。今回は初見RTAモードで行くほかない。で、こういう場だと特に、魔法攻撃と物理攻撃、もしくは物理防御と魔法防御がバランスよく配分されているプレイヤーは重宝される。理由は至極簡単、どんな敵が出てきても一定以上で戦果が挙げられるから。俺の場合、物理攻撃力と、属性付加魔法を併用した近距離魔法攻撃、弓を利用した中長距離物理攻撃、弓に属性負荷魔法を組み合わせた中長距離魔法攻撃と、自分で言うのもあれだがまんべんなくどんな状況でも対応ができるステータスバランスになっている。だが問題は、今回のパーティ、致命的に魔法攻撃力に欠けているという点だ。アスナはあくまでヒーラーなので、魔法攻撃力はお世辞にも高いとは言えない。アップデートで追加されたソードスキルには魔法攻撃力も付与されているが、あくまでメインは物理で、本職に比べれば雀の涙もいいところ。一般的に考えれば、このパーティの突破力を考えれば全く問題はないレベル。だが、それは
「くそが、やけくそみたいな物理耐性しやがって」
「どうにかならないかロータス!」
「無理だ。つーかやれてたらやってるっつーの」
キリトの問いかけに、苛立ち交じりに俺が返す。今相手にしているミノタウロスタイプの邪神は二体一組。うち一体は魔法耐性が高く、もう一体は物理耐性が高いのだ。幸いなことに、両方共耐性が高いということはなく、物理は魔法で、魔法は物理で殴ればいい。攻撃魔法を一応の実用レベルまで仕上げているのは俺だけなのだが、いかんせん俺だけでは突破力が致命的に足りない。レインも一応それ系統は習得しているが、そもそも彼女の魔法用途は若干特殊なので、直接火力としてはカウントしづらい。
なら物理耐性の低いほうをタコ殴りにしようと思っても、ある程度HPが減った段階で後方にさがり回復、その間に物理耐性が高いほうが前に出てきてタンクの役割を果たす。時間があればゆっくり料理することも考えるのだが、今回は時間がない。
「お兄ちゃん!メダリオン、だいぶ黒くなってる!死に戻りしてる時間はなさそう!」
リーファから声がかかる。と、いうことは、時間的余裕は少ないということか。こうなったら仕方ないか。
「レイン!あれやるぞ!」
「え!?この状態じゃ―――」
「かまわん!こいつらはあれくらい躱す!」
俺の言葉に、他は疑問符を浮かべる。というか、レインの反応のほうが正しい。
レインが詠唱を開始する。その詠唱の意味が分かるリズベットだけがぎょっとした。まあ当然と言えば当然で、この魔法はもともと
背後から大量の剣が降ってくる。その直後に俺が走り出した。それは例のミノタウロスに突き刺さる。もちろん、刺さらないものも多いが、そこは問題ない。地面に突き刺さった武器から刀を二本、つかんで引き抜く。まずは幻狼斬で足元を切り裂き、哭空裂蹴撃につなげる。さらに断空牙につなげ、冥斬封につなげる。そこまでつないだところで、次々に剣がこちらに飛んできた。
「ロータス君!」
「了解!」
手持ちの刀を投げつける。それによって、完全にヘイトが俺に向くと同時、回復が阻害されてほんの少しだが確実に、目に見えてHPが減る。そのまま、俺は突き刺さった剣を持ち替え続け、突撃系ソードスキルを連続発動する。最後の俺のチャージと、アスナのとどめが空中と地上ですれ違う。その間に、ボスだったポリゴンが散った。がら空きの俺の背中に攻撃しようとしていたもう一体のミノタウロスは、相棒が撃破された瞬間に、その動きを止めた。
「よし牛野郎、そこに正座」
寒さからか、若干歯を鳴らしながら放たれたクラインの言葉に、俺たちは各々の得物を構えた。
―――ちなみに、それからは5分もかからなかったことを追記しておく。さすがは脳筋パーティである。
さて、撃破した後はすぐに移動、の予定だったのだが。
「おいおい、レインにロータス、さっきのは何だよ!?」
「言わなきゃ・・・ダメだよなぁ・・・」
「たりめーだ!」
俺の言葉に、俺たちは揃って顔をしかめた。
「私のは、オリジナルの、・・・なんて言ったらいいんだろ、これ」
「さあ?一応は魔法でいいんじゃね?」
「じゃあ、オリジナル魔法、ってするね。名前はサウザンドレイン」
「あれって、聞き間違いじゃなければ、レプラコーン専用魔法よね?」
「うん」
「レプラコーン専用?ってことは、鍛冶に関するものか?」
「正確にはその応用。リズならわかると思うけど、大成功ってわけじゃないけどそれなりの成功品って結構たくさんあるのね。それを空間のはざまにあらかじめ潜ませておいて、射出する魔法」
「で、俺の方は、サウザンドレインとの連携を前提としたOSS《群》、“ワイルドコンビネーション”」
俺の言葉に、その場にいた全員が絶句する。
「それってつまり、
「もちろん。というか、そもそもこれはレインとの連携を前提として作ったOSSだから、他の誰かが使えるとは思ってない。実用性なんざ完全に度外視した、超イロモノOSSだ」
ついでに言うと、試し打ちをしてみたところ、条件付きで30連撃を超えたところまで行ったことを確認している。これはSAO時代の二刀流最上位ソードスキル“ジ・イクリプス”を超えるものだ。
「つーかそもそも、味方巻き込むこと前提でお前使わせたな?」
「だってこのくらいだったら躱せるじゃん?」
「躱せなかったときは?」
さっきも言ったが、最大で30連撃以上繰り出せるということは、それだけの量の剣が飛んでくるということ。それを躱せなかったら・・・まあ、うん。お察し下さい。
「目をそらすな!」
「まあ、時間もないし、先急ぐぞ」
「話題をそらすな!・・・時間がないのは事実だけど!」
追及を逃れながら、俺たちは先を急いだ。
はい、というわけで。
まずは久しぶり、ネタ解説。
フカの大剣
元ネタ:角大剣アーティラート、モンハンシリーズ
会心率の低さと攻撃力の高さに定評のあるディアブロス武器の一つ。抜刀大剣使い御用達装備の一つ。もともと両手武器使いって設定はあったので、いっそのこと見た目にもインパクトある武器にしちゃえ、ということで。
GGOでフカさん、ツヴァイヘンダーのフカ次郎なんて呼ばれてるらしいので、投稿するときに若干ほっとしてる自分がいる。
ワイルド・コンビネーション
テイルズオブエクシリア2秘奥義「我威留怒・魂微音維紫苑」
ガイアスとルドガーの共鳴秘奥義の名前変更版です。読み方は同じです。本家は光の剣をガイアスが降り注いで、そのうちの二つをルドガーがつかんで、二人で駆け抜けながら〆る技。
今回のロータス君の動きはアルトリウスの漸毅狼影陣の動きが一番近いのですが、技名がかぶるのと協力技なのでこちらの名称を採用。
さて、今回はスリュムヘイム攻略のお話でした。
時に女の子二人、君ら両手剣でバーサークとか下手な男より男ムーブしてない?大丈夫?あ、だからフカちゃんはフラれ(この先は血しぶきで読むことができない
一応ストレアはゲーム準拠で、ノームのアタッカー、にもなれるナビピクシー状態です。この設定、意外と面白い感じで生きるので案外便利だなーと思ってます。
スリュムヘイムの方は主人公コンビが暴れてますねー。ここまで暴れさせる予定はなかったのですが・・・今更か。
さて、もう一話キャリバーを挟み、そのままマザーズロザリオに突入します。ちょこっとだけネタバレしますと、原作にはほとんど出てこないキャラクターが主要キャラとして登場します。お楽しみに。
ではまた次回。