さて、それから数日後。俺は永璃ちゃんと会っていた。彼女には、菊岡経由である頼みをしていた。
「それっぽい名前はいくつかあったが、ま、そこまでだな」
「え、どういうこと?」
「第一候補として上がったのは、ラフコフ残党。こんな馬鹿げた計画をする奴として、俺が真っ先に思い浮かべるのは奴らだからな。だが、さすがにラフコフの悪名の高さを警戒したのか、これに該当するのは無し。これは、仮にもラフコフの元幹部として断言する。
第二候補は二つ。まず一つはBoB初出場者。例の死銃は
それに、そもそもBoB予選受付は終了してないんだから、まだ登録してない可能性もあるしな」
「確定はできないわけね」
「結論だけ言えばな」
蓋を開けてみないことには、奴さんが誰なのかは分からない。が、見た目が変わらない可能性が高いのならば、
「蓋開けてみれば簡単だろうな。プレイヤーネーム特定できれば簡単だ。俺もストリーミング見ながら特定するつもりだ」
「出場しないにしても、君も潜るかもしれないわけだよね?」
「まあな」
「なら、サポートはお任せあれ!ってことで。私なら、菊岡さんのデータベースにもアクセスできるし」
「・・・くれぐれも無茶はしてくれるなよ」
「データベースに関しては菊岡さんの許可とってるので大丈夫です」
「そうじゃなくて。くれぐれも慢心しないように、ってこと。戦いにおいて、後方支援から叩くのは基本だろう?」
「全く。私のことばっかでいいの?」
「俺は自分の身は守れるからな」
「・・・そういう意味じゃないですけど・・・」
ため息交じりの永璃ちゃんの言葉に、俺は首をかしげることしかできなかった。
キリトのコンバート日は菊岡から事前に聞いていたので、俺はそれに合わせてログインした。おそらく先にインしてマーケットにいるだろうキリトを追いかけ、マーケットに向かった。
―――Side キリト
シノンに連れられてきたマーケットで、俺は彼女に案内される形で、例のミニゲームについた。と、そんな俺たちに、一人の小柄な影が近づいてきた。
「やっほーシノン。珍しいね女二人連れって」
「あ、ロー・・・じゃなかった、エヴォーラさん」
「そそ。ありがとね、そっちで呼んでくれて」
話しかけたプレイヤーは女の子だった。すっぽりとフードをかぶっていたから、直視するまでは気づかなかった。柔らかな色合いの、ちょっと癖毛な長い金髪は、先に行くにしたがってピンクのような色合いになっていた。目はぱっちりと赤い。控えめに言って可愛いアバターだった。―――胸はないが。
「私は、この人が、グロッケンで一番大きなマーケットにある、アンタッチャブルってミニゲームを知らないか、って聞いてきたもんだから、案内してたの」
「へえ。てことは君、やる気なの?」
「え、まあ、知り合いに、“お前なら少なくともいいところまでは行ける”って言われて」
「へえ・・・」
どうやら興味を持たれてしまったらしい。おそらく、この人も同じ女性プレイヤーとしてのシンパシーを感じているんだろう。好き好んでこんなアバターになったわけではないが、こういう時は役に立つ。
「あ、名乗り忘れてた。私はこういうものですよっと」
そういって、彼女はメニューをさっさと操作した。こちらに表示されたアバターカードに表示された名前は、“lotus”。・・・ん?
「普段はばれるのが嫌だから、エヴォーラって名乗ってるだけ。よろしくっぽい?」
可愛くウィンクされて、俺はあっけにとられるしかなかった。
―――Side キリト Out
いやー、面白い。完全に注文通りの反応じゃん。で、今の反応でほぼほぼ確定。この黒髪の子、キリトだな。
「え、ていうか、男!?この見た目で!?」
「俺もこの見てくれはびっくりしたんだよなー。というか、そこの彼女も最初びっくりしてたから安心して?」
「ほんっと詐欺よねこの見た目。本人のふるまいも相まって、下手な女より女らしいわよ、こいつ」
「それより、新たな挑戦者が現れたみたいだぜ?」
俺の言葉に、二人の顔が前を向く。突進していった挑戦者は、突然ぴたりと奇妙な体制で静止する。それは、NPCガンマンから出てくる赤い線をよけるように。そして、その線をたどって弾丸が飛んで行った。
「あれ、今のって」
「気づいた?あれが防御向けシステムアシスト、弾道予測線。通称、バレットライン」
「長いから、ライン、って呼ばれてるな。引き金に指をかけた瞬間に、そのラインが弾道を示して伸びる。つまり、狙った方向にラインは伸びるわけだ。だけどま、あのガンマンはインチキじみた速さの射撃能力があってだな、ラインが見えた時には、ご覧の通りってわけだ」
俺が喋っている間に、今のチャレンジャーはあっさりと負けていた。
「・・・なるほど。見たほうが早いって、そういうこと」
そういって、キリト(仮)はミニゲームに進む。その様子を、シノンは不安げに見つめていた。
「え、大丈夫なの、彼女」
「たぶん大丈夫だ」
「・・・どうして言い切れるわけ?」
「質問に質問を返すようで申し訳ないけど、なんであいつ、このミニゲームがあるって知ってたと思う?」
俺の言葉に、キリトの動きを見ながらたっぷり数秒考え、思い当たった。
「・・・ああ、知り合いって、そういう・・・」
「そういうこった」
そんな会話をよそに、キリトはサクサクと進み、かなりあっさりとクリアしてのけた。戻ってきたキリトに、俺はさっくりという。
「な、簡単だろ」
「確かに、コツが分かればイケる」
「・・・あんたら、どうやったらこんなゲームクリアできるのよ・・・?」
「あのなシノン。俺らスナイパーには馴染みないかもだけどさ。このゲーム、基本的にはラインが見えた時には手遅れ、ってことはそんなに珍しくないわけ。そんな状態で回避するにはどうすればいいと思う?」
「は!?見えた時には遅いものをどうやって回避しろって言うの!?」
「頭が固いよシノン君。
「はあ!!??」
シノンの驚きに、俺たちは首を傾げた。
「そんなに驚くことですか?」
「驚くわよ。そもそも、そんなのどうやってやるのよ!?」
「それはすぐ考えれば分かる話。実践でも役立つ技術だから、そう簡単には教えないけどね」
俺の言葉にシノンはあからさまにむっとしたが、何も言わずにおとなしくしていた。
さて、武器選びなのだが。
「あれだけプールされてれば、よっぽどの武器は買えるから、選び放題だな」
「おすすめは?」
「重めのアサルトがあればいいけどなー。もしくはLMG」
「あるわけないでしょ。ここは基本的に、初心者から中級車向けの武器を扱ってるところなんだから。精々言って、低STR向けの安価で軽量なものでしょうよ」
「それもそっか」
「あの、お二人さん。なんでアサルトライフル、って、拳銃弾より口径が小さいのに威力が高いんですか?」
「説明してもいいけど、炸薬量やら弾丸形状やらっていう、長ったらしい上にえらくマニアックになるわよ?」
「え、遠慮しておきます」
「賢明な判断だ。で、武器の希望ってあるか?」
俺の質問には答えられないようで、キリトは適当に周囲の棚を見る。と、ある一つに視線を注いだ。
「この世界にも剣ってあるんですね・・・」
その言葉で俺は大体察した。と、同時に呆れた。
「ジェダイにでもなるつもりかお前は」
「ジェダイ?」
「・・・分からんならいい」
呆れる俺たちをよそに、キリトはあっさりと光剣を購入。
「残金どれくらいだ?」
「え、っと、2万くらい・・・」
「つーことはハンドガンくらいか・・・アサルトやSMGだとマガジン考慮すると足らないからなぁ・・・」
てことは、必然的にメインは光剣になるわけで。・・・あんなのメインウェポンにする馬鹿はこいつくらいだろうなぁ・・・。
「何がいいと思う?」
「こいつなら大抵の銃は扱えるから、極端な話デザートイーグル50AEとかでも問題なさそうだな。だけど、あれって意外とリコイルがきついから、光剣と併用するってなると不向きかな。お手頃なレイジングブルとかはそもそもおいてないし・・・。何か希望があればこっちもそれを考慮するけど」
「あ、お任せします」
とのことだったので、適当に選ぶことにした。さて、光剣と併用するという前提なので、いちいちコッキングの必要なリボルバーは却下。セミオートハンドガンでそこそこの威力とリコイルっていうと、
「ファイブセブンなんかよくね?」
「P90の弾丸使う奴よね?」
「そそ。お手頃で威力もそこそこだし」
「いいかもね」
俺たちの一存で装備を整え、射撃練習も終えられたのはいいものの。
「やっべ、時間」
俺の言葉でシノンの顔も凍り付く。時間は既にBoB受付終了間際になっていた。
「走っても間に合わないわね・・・!」
「シノン!ヴィークル!」
「その手があった・・・!でも私は運転なんて・・・!」
「俺ができるから問題なし!」
俺たち三人とも走りながら会話を済ませる。GGOには、急ぎのためのそういうものも完備されているのだ。俺が先行して車のエンジンをかける。二人が乗り込んだのを見て、俺は車を走らせた。
ま、結論から言うとぎりぎり間に合ったことには間に合ったのだが。キリト(仮)を女と思っていたシノンが控室で着替えだし、その関連でキリトの頬にはきれいなモミジが刻まれるに至った。ちなみに俺は、かつてのアスナと同じように、装備の上からフーデットケープをかぶっているだけなので着替えはいらない。というか、俺の場合ここにいるというだけで人が集まってくるので、これは本当に欠かせない。
「さて、俺はちょいとやることがあるから落ちる。二人とも頑張れよ」
「はいはい」
「そっちもな」
二人の言葉を背に受けながら、俺はログアウト処理を行った。
さて、それから少しして、俺の携帯に着信があった。
「もしもし」
『BoB予選出場者名簿が出来上がったので、送るね。一応私の方でざっと見てみましたけど、ラフコフ幹部はいなかったよ』
「やっぱりか。それ以外の可能性は?」
『死にまつわる名前でパッと目についたのは、ステルベン、って名前。おそらく、今回がBoB初出場』
「ほう。ドイツ語か何かか?」
『ご明察、ドイツ語。意味はそのまま、死』
「ドストレートだなこれまた」
『とりあえず、引き続き調査を続けます』
「おう、頼んだ」
それだけで電話は切れる。俺としては、ドイツ語というのがとこか引っかかってならなかった。
はい、というわけで。
主人公の見た目→もしかしなくても:ぽいぬ(胸はない)
偽名の由来?ほかの候補がエランとかエスプリだった、っていう時点で察してください。
今回は調査回でした。
見た目がアレなので、初見の人の前では女っぽく振る舞っているだけです。知ってる相手ならそれ相応の対応になります。なお例の毒鳥さんには男と見抜かれた模様。
乗り物設定はオリジナルです。でもレンタバギーがあるのなら車もあってしかるべきだと思うの。
さて、次はBoB観戦&分析編です。ゲストキャラが出てきますのでお楽しみに。
ではまた次回。