ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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今回、一瞬だけキリト視点があります。


54.下ごしらえ

 さて、それから数日後。俺は永璃ちゃんと会っていた。彼女には、菊岡経由である頼みをしていた。

 

「それっぽい名前はいくつかあったが、ま、そこまでだな」

 

「え、どういうこと?」

 

「第一候補として上がったのは、ラフコフ残党。こんな馬鹿げた計画をする奴として、俺が真っ先に思い浮かべるのは奴らだからな。だが、さすがにラフコフの悪名の高さを警戒したのか、これに該当するのは無し。これは、仮にもラフコフの元幹部として断言する。

 第二候補は二つ。まず一つはBoB初出場者。例の死銃は黒星(ヘイシン)持ちの骸骨面ボロマントなんだろ?そんなやつ、俺の記憶にある限り誰もいない。となれば、今回に合わせてアバターをコンバートなり作成するなりして、今回に臨むはず。なら、初出場と考えていいはずだ。だけど、こっちは今までは全く違う格好をしていた可能性も高いから、可能性の範囲内。もう一つは、“死”や“殺し”に関する名前。これに関してはぶっちゃけないと思ってた。が、結びつけようと思えばいくつかある。けど、そもそもこんな血腥いゲームなんだから、特に何も思わずそういう名前にしている可能性は高い。だからこっちもそういう線もあるだろうな、程度。

 それに、そもそもBoB予選受付は終了してないんだから、まだ登録してない可能性もあるしな」

 

「確定はできないわけね」

 

「結論だけ言えばな」

 

 蓋を開けてみないことには、奴さんが誰なのかは分からない。が、見た目が変わらない可能性が高いのならば、

 

「蓋開けてみれば簡単だろうな。プレイヤーネーム特定できれば簡単だ。俺もストリーミング見ながら特定するつもりだ」

 

「出場しないにしても、君も潜るかもしれないわけだよね?」

 

「まあな」

 

「なら、サポートはお任せあれ!ってことで。私なら、菊岡さんのデータベースにもアクセスできるし」

 

「・・・くれぐれも無茶はしてくれるなよ」

 

「データベースに関しては菊岡さんの許可とってるので大丈夫です」

 

「そうじゃなくて。くれぐれも慢心しないように、ってこと。戦いにおいて、後方支援から叩くのは基本だろう?」

 

「全く。私のことばっかでいいの?」

 

「俺は自分の身は守れるからな」

 

「・・・そういう意味じゃないですけど・・・」

 

 ため息交じりの永璃ちゃんの言葉に、俺は首をかしげることしかできなかった。

 

 

 

 キリトのコンバート日は菊岡から事前に聞いていたので、俺はそれに合わせてログインした。おそらく先にインしてマーケットにいるだろうキリトを追いかけ、マーケットに向かった。

 

―――Side キリト

 

 シノンに連れられてきたマーケットで、俺は彼女に案内される形で、例のミニゲームについた。と、そんな俺たちに、一人の小柄な影が近づいてきた。

 

「やっほーシノン。珍しいね女二人連れって」

 

「あ、ロー・・・じゃなかった、エヴォーラさん」

 

「そそ。ありがとね、そっちで呼んでくれて」

 

 話しかけたプレイヤーは女の子だった。すっぽりとフードをかぶっていたから、直視するまでは気づかなかった。柔らかな色合いの、ちょっと癖毛な長い金髪は、先に行くにしたがってピンクのような色合いになっていた。目はぱっちりと赤い。控えめに言って可愛いアバターだった。―――胸はないが。

 

「私は、この人が、グロッケンで一番大きなマーケットにある、アンタッチャブルってミニゲームを知らないか、って聞いてきたもんだから、案内してたの」

 

「へえ。てことは君、やる気なの?」

 

「え、まあ、知り合いに、“お前なら少なくともいいところまでは行ける”って言われて」

 

「へえ・・・」

 

 どうやら興味を持たれてしまったらしい。おそらく、この人も同じ女性プレイヤーとしてのシンパシーを感じているんだろう。好き好んでこんなアバターになったわけではないが、こういう時は役に立つ。

 

「あ、名乗り忘れてた。私はこういうものですよっと」

 

 そういって、彼女はメニューをさっさと操作した。こちらに表示されたアバターカードに表示された名前は、“lotus”。・・・ん?

 

「普段はばれるのが嫌だから、エヴォーラって名乗ってるだけ。よろしくっぽい?」

 

 可愛くウィンクされて、俺はあっけにとられるしかなかった。

 

―――Side キリト Out

 

 

 いやー、面白い。完全に注文通りの反応じゃん。で、今の反応でほぼほぼ確定。この黒髪の子、キリトだな。

 

「え、ていうか、男!?この見た目で!?」

 

「俺もこの見てくれはびっくりしたんだよなー。というか、そこの彼女も最初びっくりしてたから安心して?」

 

「ほんっと詐欺よねこの見た目。本人のふるまいも相まって、下手な女より女らしいわよ、こいつ」

 

「それより、新たな挑戦者が現れたみたいだぜ?」

 

 俺の言葉に、二人の顔が前を向く。突進していった挑戦者は、突然ぴたりと奇妙な体制で静止する。それは、NPCガンマンから出てくる赤い線をよけるように。そして、その線をたどって弾丸が飛んで行った。

 

「あれ、今のって」

 

「気づいた?あれが防御向けシステムアシスト、弾道予測線。通称、バレットライン」

 

「長いから、ライン、って呼ばれてるな。引き金に指をかけた瞬間に、そのラインが弾道を示して伸びる。つまり、狙った方向にラインは伸びるわけだ。だけどま、あのガンマンはインチキじみた速さの射撃能力があってだな、ラインが見えた時には、ご覧の通りってわけだ」

 

 俺が喋っている間に、今のチャレンジャーはあっさりと負けていた。

 

「・・・なるほど。見たほうが早いって、そういうこと」

 

 そういって、キリト(仮)はミニゲームに進む。その様子を、シノンは不安げに見つめていた。

 

「え、大丈夫なの、彼女」

 

「たぶん大丈夫だ」

 

「・・・どうして言い切れるわけ?」

 

「質問に質問を返すようで申し訳ないけど、なんであいつ、このミニゲームがあるって知ってたと思う?」

 

 俺の言葉に、キリトの動きを見ながらたっぷり数秒考え、思い当たった。

 

「・・・ああ、知り合いって、そういう・・・」

 

「そういうこった」

 

 そんな会話をよそに、キリトはサクサクと進み、かなりあっさりとクリアしてのけた。戻ってきたキリトに、俺はさっくりという。

 

「な、簡単だろ」

 

「確かに、コツが分かればイケる」

 

「・・・あんたら、どうやったらこんなゲームクリアできるのよ・・・?」

 

「あのなシノン。俺らスナイパーには馴染みないかもだけどさ。このゲーム、基本的にはラインが見えた時には手遅れ、ってことはそんなに珍しくないわけ。そんな状態で回避するにはどうすればいいと思う?」

 

「は!?見えた時には遅いものをどうやって回避しろって言うの!?」

 

「頭が固いよシノン君。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、これはどこに撃ってくるかを予測するゲームってわけだ」

 

「はあ!!??」

 

 シノンの驚きに、俺たちは首を傾げた。

 

「そんなに驚くことですか?」

 

「驚くわよ。そもそも、そんなのどうやってやるのよ!?」

 

「それはすぐ考えれば分かる話。実践でも役立つ技術だから、そう簡単には教えないけどね」

 

 俺の言葉にシノンはあからさまにむっとしたが、何も言わずにおとなしくしていた。

 

 

 

 さて、武器選びなのだが。

 

「あれだけプールされてれば、よっぽどの武器は買えるから、選び放題だな」

 

「おすすめは?」

 

「重めのアサルトがあればいいけどなー。もしくはLMG」

 

「あるわけないでしょ。ここは基本的に、初心者から中級車向けの武器を扱ってるところなんだから。精々言って、低STR向けの安価で軽量なものでしょうよ」

 

「それもそっか」

 

「あの、お二人さん。なんでアサルトライフル、って、拳銃弾より口径が小さいのに威力が高いんですか?」

 

「説明してもいいけど、炸薬量やら弾丸形状やらっていう、長ったらしい上にえらくマニアックになるわよ?」

 

「え、遠慮しておきます」

 

「賢明な判断だ。で、武器の希望ってあるか?」

 

 俺の質問には答えられないようで、キリトは適当に周囲の棚を見る。と、ある一つに視線を注いだ。

 

「この世界にも剣ってあるんですね・・・」

 

 その言葉で俺は大体察した。と、同時に呆れた。

 

「ジェダイにでもなるつもりかお前は」

 

「ジェダイ?」

 

「・・・分からんならいい」

 

 呆れる俺たちをよそに、キリトはあっさりと光剣を購入。

 

「残金どれくらいだ?」

 

「え、っと、2万くらい・・・」

 

「つーことはハンドガンくらいか・・・アサルトやSMGだとマガジン考慮すると足らないからなぁ・・・」

 

 てことは、必然的にメインは光剣になるわけで。・・・あんなのメインウェポンにする馬鹿はこいつくらいだろうなぁ・・・。

 

「何がいいと思う?」

 

「こいつなら大抵の銃は扱えるから、極端な話デザートイーグル50AEとかでも問題なさそうだな。だけど、あれって意外とリコイルがきついから、光剣と併用するってなると不向きかな。お手頃なレイジングブルとかはそもそもおいてないし・・・。何か希望があればこっちもそれを考慮するけど」

 

「あ、お任せします」

 

 とのことだったので、適当に選ぶことにした。さて、光剣と併用するという前提なので、いちいちコッキングの必要なリボルバーは却下。セミオートハンドガンでそこそこの威力とリコイルっていうと、

 

「ファイブセブンなんかよくね?」

 

「P90の弾丸使う奴よね?」

 

「そそ。お手頃で威力もそこそこだし」

 

「いいかもね」

 

 

 

 俺たちの一存で装備を整え、射撃練習も終えられたのはいいものの。

 

「やっべ、時間」

 

 俺の言葉でシノンの顔も凍り付く。時間は既にBoB受付終了間際になっていた。

 

「走っても間に合わないわね・・・!」

 

「シノン!ヴィークル!」

 

「その手があった・・・!でも私は運転なんて・・・!」

 

「俺ができるから問題なし!」

 

 俺たち三人とも走りながら会話を済ませる。GGOには、急ぎのためのそういうものも完備されているのだ。俺が先行して車のエンジンをかける。二人が乗り込んだのを見て、俺は車を走らせた。

 

 

 

 ま、結論から言うとぎりぎり間に合ったことには間に合ったのだが。キリト(仮)を女と思っていたシノンが控室で着替えだし、その関連でキリトの頬にはきれいなモミジが刻まれるに至った。ちなみに俺は、かつてのアスナと同じように、装備の上からフーデットケープをかぶっているだけなので着替えはいらない。というか、俺の場合ここにいるというだけで人が集まってくるので、これは本当に欠かせない。

 

「さて、俺はちょいとやることがあるから落ちる。二人とも頑張れよ」

 

「はいはい」

 

「そっちもな」

 

 二人の言葉を背に受けながら、俺はログアウト処理を行った。

 

 

 さて、それから少しして、俺の携帯に着信があった。

 

「もしもし」

 

『BoB予選出場者名簿が出来上がったので、送るね。一応私の方でざっと見てみましたけど、ラフコフ幹部はいなかったよ』

 

「やっぱりか。それ以外の可能性は?」

 

『死にまつわる名前でパッと目についたのは、ステルベン、って名前。おそらく、今回がBoB初出場』

 

「ほう。ドイツ語か何かか?」

 

『ご明察、ドイツ語。意味はそのまま、死』

 

「ドストレートだなこれまた」

 

『とりあえず、引き続き調査を続けます』

 

「おう、頼んだ」

 

 それだけで電話は切れる。俺としては、ドイツ語というのがとこか引っかかってならなかった。

 




 はい、というわけで。

 主人公の見た目→もしかしなくても:ぽいぬ(胸はない)
 偽名の由来?ほかの候補がエランとかエスプリだった、っていう時点で察してください。

 今回は調査回でした。
 見た目がアレなので、初見の人の前では女っぽく振る舞っているだけです。知ってる相手ならそれ相応の対応になります。なお例の毒鳥さんには男と見抜かれた模様。

 乗り物設定はオリジナルです。でもレンタバギーがあるのなら車もあってしかるべきだと思うの。

 さて、次はBoB観戦&分析編です。ゲストキャラが出てきますのでお楽しみに。

 ではまた次回。

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