タイトル通り思いっきり時間が飛びます。俺ごときでは間の細かい所を書くほどの文才はありません。
それでは今回分どうぞ。
新年が明けてから3か月経った、2025年3月。最前線は15層にまで到達していた。攻略ペースもどんどん上がり、今では一週間ちょっとで一層攻略、ということも珍しくなくなってきた。だが、やることはほとんど変わらない。連日、迷宮を目指して、到着したら潜って、レベリングをしながら攻略する。基本的にソロで動いている俺は、レベルの上がり方も他に比べて若干早く、適正レベルを若干以上大目に上回っていた。
そして、フィールドの雑魚と戯れつつ道を切り開き、俺は迷宮区に到着した。は、いいものの。
「やっぱり、か」
迷宮区の前に居座る大きな影。この層は全体的に湿地帯で、出て来るモンスターはそれに関連したものも多かった。そして、今回目の前にいるのは、それは大きな牛だった。高さだけ考えても、人の背丈は軽く超える。少なくとも、俺よりはデカい。攻略組でもかなり背が高いエギルより大きいだろう。何より、その存在感が大きい。
カーソルだけ飛ばすと、“The Boss of Buffalo”の文字。大きさや存在感からして、ただの雑魚ではないと思っていたが、やはり中ボスか。しかしなにより、この位置にいたのでは先に進むことは不可能だ。だが、HPバー3本を一人で削りきれると思うほど、俺は馬鹿でもない。少し前にクエストボスからドロップした今の得物“ブルードラゴン+5”は確かに優秀な武器だ。だが、あれを倒すとなると心もとない。スペア用の店売り武器のストックは一応あるが、それらをすべてつぎ込んでも無理だろう。最悪、第二層で習得したエクストラスキル“体術”を使って削りきるということもできるが、体術で与えられるダメージなど微々たるものだ。不可能ではないかもしれないが、倒しきる前にこちらの集中力が尽きて殺されるのがオチだ。だが、適当なところで切り上げて撤退に持ち込むのならば話は別だ。アルゴあたりに叩き売ってしまえばちょっとした小遣い程度にはなるだろう。
「そうと決まれば、行きますか!」
自分への喝も込めて口に出すと、そのまま武器を手にボスに向けて走る。相手もこっちに気付いて吠える。その声の大きさも、雑魚とは一線を画す。だが、それで怯む理由などない。むしろ、俺の心のうちでは面白くなりそうだとほくそ笑んでいた。
バッファローは俺の姿を見ると突進してきた。何とか回避ができたが、想像より
「こんなのありかこら!」
思わずぼやきながら、右足前の半身になった状態から左手で体術単発重攻撃技“剛直拳”を放つ。ややアッパーカット気味に放つこの技は、射程も短く単発だが、防御力をある程度無視してダメージを与える上に、盾などの防御の上から叩けばまずその防御を崩す突破力と高い
俺の予想に違わず、その大きな体を僅かながらものけ反らせた水牛から距離を取る。殴った左手の感触からすると、防御力もそれなり以上のようだ。全く厄介なことだ。もう一度側面から攻撃を仕掛けようとしたら、今度はその頭にある大きく立派な角を振り上げてきた。この間合いでは回避することは不可能と瞬時に断じ、咄嗟に後ろに飛んでダメージを軽減する。が、腹に入った、突き刺されたような感覚の大きさは俺の想像を上回っていた。
「こりゃ直撃貰うとそれなり、かな」
HPの減少量から一瞬で判断する。直後に戦闘を再開する。向こうのHPバーは、先ほどの剛直拳では数ドットしか削れていない。せめてウィークポイントの一つ二つくらい見つけないと、ここでの戦闘は無意味になってしまう。そう思いながら、敵の動きをじっくりと観察する。相手が頭を下げ、足を何回か掻く。それを見て、相手から見えない位置でピックを二本抜いた。予想通り突進してきた相手に対して、バックシュートで両方とも投擲する。ピックは両方とも俺の狙い通り両目に突き刺さった。その時のHPゲージの減りは、先ほどとは段違いだった。
「ま、お約束だよな」
目つぶしが有効というのはある意味お約束として、そこならある程度HPも減るだろうという俺の推測はビンゴだったわけだ。だが、相手はそれを受けて突進を注視し、その場で暴れだした。試しにその辺にあった小石を放り投げてみると、巨体に当たった瞬間にあっさりと砕かれてしまった。想像はしていたが、これでは近づけない。随分前のボス戦でチャクラムが使われたが、それくらいしか安定した攻撃手段がないだろう。
あまり情報は得られなかったが、最初の偵察戦としては上出来だろう。そう思いつつ、俺は踵を返してそこから離脱した。
その次の日、フィールドボス攻略のために、ボス攻略レイドがボスオブバッファローの討伐のため出発した。今回は、アスナとキリトはまとめてエギルのパーティに、俺はディアベルのパーティに、レインは聖竜連合―――ディアベルのギルドだが―――の一人であるリンド―――最初のフロアボスの時のディアベルのパーティメンバーの一人である曲刀使いだが―――のパーティに放り込まれていた。レイン以外はおおむねいつも通りといったところだ。レインに関しては、ボス攻略のたびにあちこちから声がかかるため、第一層以降レイドリーダーを務めるディアベルがその時の戦力バランスを鑑みて配置していた。
「にしても、単身でフィールドボス偵察戦なんて、相変わらず無茶をするね、ロータスは」
「うるせえ。そういう性分なんだよ、こちとら」
「とことん好戦的っていうか、悪辣っていうか・・・」
呆れたようなディアベルの声もどこ吹く風と俺は受け流す。過去に俺は、少し下の層で出て来る人型Mobに対してレベリングをしていた。普通のモンスターと違い、得物を自由自在に振るってくる人型Mobは集中力を使う代わりに経験値も多い。だが、基本的にレベリングというものは一頭の質よりも数を狩ることを重視する。だが、俺はそれを無視して、質のいい人型Mobの攻撃をかいくぐってはその首を刎ねるという方針を取っていた。人型である以上、首が飛べば問答無用でHP全損だからだ。そんな折、ディアベルたちのパーティに遭遇して、彼らをとても驚かせた。というのも、普通あの手のMobは普通に斬ってHPを削り飛ばすのがセオリーだ。そこをひたすら首チョンパで倒し続けるという俺のスタイルは特異過ぎたらしい。それに、今までのボス戦で、俺はとことん死闘というものを愉しんでいた。それが分かっているからこそ、ディアベルも呆れしか出てこないのだろう。
「それによ、今までも大体そうだったろ?」
「・・・言われてみればそうだけどさ・・・、そのまま死地にも行きそうで怖いよ」
「死闘の末で負けて死ぬのなら、それもそれで本望って思ってるからなぁ・・・」
俺のその言葉に、ディアベルはもう一つため息をついた。
「とにかく、今はわざわざ死に行くような戦い方をしないでよ?」
「へいへい」
こんなやり取りもいつも通りだ。
そして、その場に着く。見た目がただのでかい牛だからか、ボスレイドの面々はまったくと言ってもいいほど怯えはなかった。
「行くぞ。突撃!」
ディアベルの号令でレイドが突撃する。俺も真っ先に突入した。突進を最前列のタンクががっちり受け止める。さすがはタンク、俺なんかとは比べ物にならない硬さ。その隙に、俺は横からリーバーでその腹を長めに掻っ捌く。短めの硬直が抜けるや否や、踏み込んで左手でアッパーを繰り出し、もう一回踏み込んでそのまま裏拳で振り下ろす。体術二連撃技“
「まったく、無理無茶無謀は禁止って何回言えばいいの?」
「たぶん、何回言われても治んないぜ?」
「まったくもう・・・」
その技を放ったのはレインだった。どうやら、こいつも考える前に体が動く質らしい。俺がその最たるものだから、人の事は言えないが。
「俺はいったん下がる。頼んだぜ」
「了解!」
俺と入れ替わりでレインが前に出る。闘牛士さながらに牛を誘導してはその突進を受け止めるタンクの横から、一気にアタッカーが攻めていく。特に労せず、HPバー二本が消し飛んだ。だが、問題は、
「ここからだな」
「ああ」
俺もディアベルも、おそらくこの場にいる全員が分かっている。HPバーが最後の一本になってからが勝負なのだ。ここからひっくり返されかけた例は、今までのあまたのボス戦で数知れない。
牛がひときわ大きく吠える。その次の突進を受け止めんとタンク隊が楯を構える。その通りに突っ込んでくるあたりは、まあ、モンスターだから仕方ないというところはある。が、問題は、
「ぐうっ・・・!?」「なんだこいつ・・・!」「重い・・・!」
そのタンク隊が、そろってその重さにうめいたことだった。今まではそんなことはなかった。が、今は突進の勢いを完全に殺すどころか、数人がかりのタンク隊がまとめて押し返されている。
「おいおいまじかよ」
「うおぉりゃあぁ!」
「い・・・やあぁっ!!」
絶句する俺をよそに、アスナの代名詞たる神速のリニアーと、エギルの豪快な斧系共通二連撃ソードスキル「翔月双閃」がわずかな時間差で炸裂し、何とか止まる。その瞬間に、俺は一気に走りながら口走っていた。
「今だ、全員フルアタック!HPを削り飛ばせ!」
言いつつ、自分も疾風ノ太刀で切り裂く。それなりに使い込んだことで、これも威力が増大していた。俺と、一歩遅れたディアベルの号令で一気にアタッカーが突っ込む。だが、わずかながらも牛が頭を下げるのを見た瞬間、削りきれるだろうという俺の甘い考えは吹き飛んだ。このままでは間に合わない。そう判断する前に、体が動いていた。
「うるぁ!」
縦に回転しながら、かかと落としを繰り出す。それを複数回繰り出す、曲刀体術複合ソードスキル「爪竜連牙蹴」が突き刺さり、ボスのHPを散らした。直後に、ボスがその巨体をポリゴン片に変えた。その場に歓声が響く。結果的に今回のLAは俺になったわけなのだが・・・LAドロップはなんだろなっと。と、本当に軽い気持ちで戦利品を確認した俺だったが、そのアイテムを見た瞬間に思わず凍り付きかけた。
「・・・どうしたの?」
「いや。・・・何でもない」
何でもない風を取り繕って喜びの輪に混ざる。が、内心は決して穏やかなものではなかったのだ。
第十五層フィールドボスのドロップ品の中に、「斬破刀」などというアイテムがあれば、心中穏やかではなくなるというものだ。
斬破刀。つまりは刀。イルファングザコボルドロードが使った、あれとほぼ同質の物だろう。それが、今俺の手の中にある。その事実が、俺の心を穏やかならざるものにしていた。
はい、というわけで。まずはもう恒例となったネタ解説。
牙狼撃
テイルズシリーズ、使用者:ユーリ・ローウェル(TOV)、ジャオ(TOX,TOX2)
剣を突き立てて左手で吹き飛ばす。ダウンさせやすいということでこの段階ではそこそこ人気のあるソードスキルの一つ。武器種からも想像がつくとは思いますが、ここではユーリのそれを想定してます。
剛直拳 咢
この作品数少ないオリジナル技。技の詳細はそのままです。
翔月双閃
テイルズシリーズ、使用者:プレセア・コンバティール(TOS)
二回素早く斬り上げるだけ。本家では片手斧だが、ここでは無論両手斧。
爪竜連牙蹴
テイルズシリーズ、元技名:爪竜連牙斬、使用者:ユーリ・ローウェル(TOV)
前方宙返りよろしく回転しつつ斬る→そのままかかと落としで蹴る、を三回繰り返して最後に斬って終わる。傍から見ていると目が回りそうな技。何故技名が変わっているのかというのはスキットで「あれでは双竜連牙蹴」という発言から。無論、双竜連牙斬もあとで登場します。
斬破刀
モンハン、太刀
元ネタでは雷属性の太刀。フルフルの素材から作成可能。刃に青みがかかった長い日本刀を想像してもらえれば大体あってる。
ディアベルとロータスくんは普通にしゃべり合う仲です。前話にあった晩酌云々っていうのも、実はあの時が初めてってわけじゃなかったり。
レインちゃんとはお互いソロだけどときどきパーティを組む仲です。イメージとしてはくっつく前のキリトとアスナみたいな感じです。
人型Mobに限らず、ここでは首チョンパ=急速にHP減少で終了ということにしてます。まあ、普通で考えて首チョンパされて生きて攻撃してくるとか何そのホラーってことでこういう設定にしました。そのあたりの細かい設定はかなり後のネタバレも少し含まれますので、ここでは省略します。
ロータスくんは結構効率厨です。だからこそ、ある程度質を重視して人型Mobを首チョンパでぶっ倒し続けるというレベリングをしておりました。が、ひたすら人の首を飛ばし続けるというその光景は隣から見たら恐怖を覚えるもので。さらにそれをしている人間が淡々とそれを行っていたらそれはさらに増幅されるというもので。
レインちゃんあんたパーティ違うだろっていうのはただ単に彼女が勝手に突っ走ったことが原因です。あとでディアベルにお小言をもらうというちょっとした裏設定がありますけど、ほとんど意味ないので省略。
刀はドロップしたが、果たして・・・?そのあたりは今後にご期待。
ではまた次回。