ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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52.銃の世界

 さて、慣れない仕事に若干苦戦しながら暮らしているときに、俺はBoBに参加するために酒場にいた。

 BoBとは、個人参加型のバトルロワイアルだ。なかなか豪華な大会で、第一回は碌な持ち込みなしでキルしては奪って無双するなんていう無茶苦茶なUSプレイヤーが優勝だったはずだ。それ以外は結構いい勝負で盛り上がったらしい。日程を見てみると、そこはフリーの日だったから、とりあえずエントリーしてみるか、と、参加してみることにしたのだ。予選に関しては、MP7A1とAS50、なにより牽制用に数本持っていたダーツが大活躍だった。何故ナイフじゃないのかは、単純に安定性と距離の問題だ。どちらにせよ、その手の武器は異常なまでの高威力設定なので問題はない。

 

 周りでおっぴろげにメインアームと思しきものを手入れしていたりコッキングしていたりするやつもいるが、俺からしたら、

 

(馬鹿かこいつら。わざわざ自分の手札見せてどうするんだ)

 

 銃は重たい。わざわざメインアーム二挺持ちなんてことをする奴はいない。俺だって、街を歩くときにAS50を背中に持つなんて言う馬鹿はしない。そんなことをしていたら、“私はスナイパーです”と言っているのと同義だからだ。対人戦というのは、どれだけ手札を隠したまま切れるかにすべてがかかる。実際、俺はレイジングブルとアレをまだ抜いていない。わざわざ最初からフルオープンなんていう技は、よっぽどそれに自信のあるやつか、大馬鹿者かどちらかだ。

 

 一分前になり、控室へ転送される。そこで俺は、服の下にあったアレ以外を素早く装備する。レッグホルスターにMP7A1が入り、腰のホルスターにレイジングブルが、背中にはAS50が装備された。レイジングブルはリボルバーだし、もう一つも射出可能な状態になっている。新たに装備された二つもすぐに撃てるようにして、俺は開始を待った。

 

 スタート地点に転送されて―――すぐに俺は舌打ちをしながら走り出した。俺が転送されたのは、ところどころに岩がある程度の荒野だ。碌な遮蔽物は見えない。走りながら予備のスコープだけを取り出してざっと周りを見渡す。ぱっと見たところプレイヤーはいない。後ろにもだ。パッと見えた近くの身を隠せそうな岩に隠れ、死角じゃないところに敵がいないのを改めて確認してから、俺はサテライトスキャン端末を取り出した。現在地だけは表示される設定なので、さっと現在地を確認し、―――心配したことを馬鹿らしく思った。

 GGOの世界観設定は、宇宙戦争の末に荒廃した地球だ。太陽などの環境設定は基本的に現代のそれがベースになっている。今回は夜明けくらいが世界観設定のため、太陽は東側にある。その太陽は今、俺の右手にあるから、俺は北を向いて座っていることになる。そして、俺がいるのは北東の端に近い部分で、マップ全域の幅を鑑みると、端まで1kmない場所。BoBにおいて、プレイヤーの初期位置は1km以上離れているため、少なくとも北と東に敵はいないとみていい。今の季節から太陽の位置を逆算し、南西方向に体を向ける。そのまま反転して、AS50のバイポッドを立て、狙撃体勢になった。こいつのキルレンジを考えると、運が良ければ・・・いた。

 距離は目算2000。少し苦しいか。でも、相手からこっちは見えていないはずだ。なにせ2000も距離が離れているのだ。スキルか道具を使ってようやく見える程度の距離だ。なら遠慮なく、しっかりとシステムアシストを使っていける。バレットサークルをしっかり合わせ、指をゆっくりと引き金にかけ、息を吐ききって止める。轟音とともに放たれた一撃は、正確に頭部へ吸い込まれ、その頭蓋を破裂させた。文句なしのキルである。素早くAS50をしまって、予備のスコープを取り出して索敵する。とりあえず、こいつのキルレンジに敵はいなさそうだ。一旦はここで15分まで待って、サテライトスキャンを見て行動することにした。

 遠方から聞こえる銃声と、回り込んでくるやつの警戒をしながら、俺はただ時間が過ぎるのを待った。こいつの銃声は大きいなんてもんじゃないから、寄ってくるやつの一人や二人はいそうなものだが、最初はやはりというかスキャンで位置やマップを確認してからということらしい。定石通り過ぎてつまらないと言われればそうだが、まあ当然だろう。行き当たりばったりは基本的にうまくいかない。手元の時計を見て残り14分であることを確認し、俺はスキャン端末を手に取った。サテライトスキャンはマップ右下、南東方向から始まり、直線的な軌道で北西へ、対角線を描くように抜けていく。俺が今いる北東の端にはもう敵はいないようだ。最寄りの敵は大体南西方向、距離的には、目算で3000mくらいか。このくらいなら、ゆっくりと見つからないように細心の注意を払って移動すれば、十二分にキルレンジに入る。そう思い、俺は周りの色に同化する上着を羽織ってゆっくりと移動しだした。

 

 さて、ゆっくりとある程度周囲を警戒しつつ移動してみたはいいものの。

 

(さすがにもう少しエンカウントがないとつまらん)

 

 あれから結局、俺はマップの北の端をゆっくりと走って移動しているわけなのだが、一切敵に出くわさない。10km四方のフィールド、そうそうポンポン出くわす広さじゃないことは分かってはいるが、つまらん。と、時間を確認して、ちょうどサテライトスキャンの時間であることを確認し、俺は端末を見た。最寄りの敵はあまり座標を移動していない。俺が移動したことにより、俺から見て南南西方向になっている。距離はそんなに縮まってはおらず、目算で2500以上。ここまで遠いと、さすがのAS50でもキルレンジ外だ。

 その周囲に灰色と白の点がいくつかあるところを見ると、その敵が周囲の敵を一掃しているのだろう。AS50は一旦ストレージにしまい込み、スキャンの表示が消えたことを確認してから、MP7を構えた状態で南西方向への移動を開始した。

 

 移動を始めてからしばらくして、スコープにぎりぎり影が見えた。方向としては東に近い方角。小高い丘のようになった岩の上にプレイヤーがいた。ぽつぽつと転がる岩の陰にいくつか、プレイヤーの影。その岩のプレイヤーは、銃を完全に固定させた大型銃を構えていた。すこし戦闘を見守って出された結論から言うと、

 

(芋かい。待ちかまえてマシンガンばらまくって、ただのアホか)

 

 “芋”というのは、一点にとどまり続けるプレイスタイルの事。全く動かず、待ち伏せするスナイパーは、スナイパーを示すスラングである“砂”と組み合わされ、“芋砂”なんて呼ばれたりする。

 確かにマシンガンは強力な銃弾を恐ろしい発射レートでばらまく反面、異常なまでに重い。そういう点では、見晴らしのいい場所でひたすらばらまく待ち伏せ戦法は確かに合理的な戦略の一つだ。が、おそらく“攻め手”であるアサルターも分かっているだろうが、

 

(発射レートが高いということは弾薬の消耗も激しいということ。そして、銃も弾も重いマシンガンは、持ち込める弾数には限りがある。追い込まれているのはあのマシンガンナーの方だ)

 

 これはいわば我慢比べだ。アサルターが少し頭を出したところを仕留め切れればマシンガンナーの勝ち。弾切れを起こすまで粘り切ればアサルターの勝ち。射撃制度の悪さを弾幕で補うマシンガンがいかに早く決められるかが勝負になるだろうが、俺からしたらそんなのは関係ない。何せ、あのマシンガンナーが陣取っているのは、()()()()()()()()()()()()()

 ゆっくりと悟られないように背後に回る。この間に、AS50を取り出して背負う。お互い闘っている最中なのだからスキャンは見ない、つまりこっちの位置はばれないはず。その間に、俺はスキャンを見た。すると、ここの周囲に残っているプレイヤーは二人だけ。つまり、この二人をぶっ倒せばとりあえずは安全なわけだ。念のためにMP7A1はしまわず、左手に上着の裏に仕込んであった麻痺毒付き投げナイフを取った。背後を取ってから、俺は静かに忍び寄り、撃ち合いに集中しているマシンガンナーの首にナイフを投げた。その直後、AS50を伏射体勢で構え、顔だけ出したアサルターが隠れている岩ごとアサルターを吹っ飛ばした。デッドアイコンが出たのを確認して、改めてマシンガンナーのお相手。ナイフを抜いてひっくり返し、そのまま今度は普通のナイフで目を一突き。俺の想像通り即死判定が出たのを見て、俺は一つ息をつくだけで走り出した。これだけの状態なら、即座に敵が寄ってくるだろう。それまでにどれだけ移動できるかが肝だ。

 

 

 そのあとは特に何事もなく走った。確か、ここから南に走れば都市部跡に入ったはず。スナイパーにとってはなかなかにきつい案件だが、俺からしたら大した問題ではない。AS50は既にストレージに入っていて、今のメインウェポンはMP7だ。この死角が多い状態でスナイパーを担ぐ馬鹿はいない。とりあえず、目下俺の目標は移動手段だ。AGI-STR型の俺にとって、移動速度は精々並み程度。これでは背後を取られる恐れがある。この廃都市に高い建物がない以上、俺の戦闘スタイルとここの相性は決していいものではない。が、それは一般的に言えば、という話で。加えてここは、都市跡と表現はしているが、周りはまだまだ未開の荒野な印象がある。つまり、ちょっとした狙撃スペースくらいならいくらでもあるのだ。それを利用し、隠れながら少しづつ位置の微調整をかけること、はや20分。ようやく獲物がやってきた。最低限の顔出しで見えたのは、ちょび髭とカウボーイハットにアサルトライフルを担いだ姿。こちらに向かってきていたのはギャレットとダインというプレイヤーだったはずだから、どちらかとみるのが妥当か。―――まあ、どっちでもいい。今俺は建物の影に隠れており、相手はアサルター。距離は目測で700から800といったところか。アサルトでは遠いが、あいつならむしろ近いくらいだ。素早くAS50を窓枠に引っ掛け、即座に狙いをつけてぶっ放す。仮に距離800とすれば、音速の3倍、つまり秒速1000メートルで飛ぶ物体のかかる時間は0.8秒程度だ。反射的に躱そうとしたようだが、弾丸のまき散らす衝撃波までは躱せなかったらしい。俺の狙い通り足をぶった切られ這いつくばったアサルターを、さらに追撃でもう一発。今度こそアバターが完全に粉砕され、もう一度ポリゴンで固まってからデッドアイコンが出た。なるほどアバターが粉砕されるとこうなるのか。と思いつつ、弾詰まり(ジャム)を防ぐために手動で次の弾を込める。弾丸に関しては、このゲームはマガジンに所定の操作をすればマガジンに直接入る。また、ストレージに入れる時にストレージ内のマガジンに入れるような操作をすれば、自動的にマガジンに入る仕組みになっている。俺も替えのマガジンはストレージに放り込んであるので、弾丸は直接ストレージ内のマガジンに補充される。そもそもそのストレージはSTRが多いほど増えるが、俺ほど装備が多いとそんなに弾丸を持てるわけではない。ま、そこは弾丸の強力さで補うスタイルだ。さて、さっきのスキャンの結果を信じるのならもう一人はいるはずなのだが、さてどうか。AS50のバイポッド付近を左手で、右手は引き金のあたりを持ち、なおかつ右手が腰のあたりに来るように構える。とりあえず、ここからは早く移動する必要がある。

 

 それからまた少しして、俺はうまく高所を取ることに成功した。入り口にはいくつかブービートラップを仕掛けておいたが、ぶっちゃけ気休めだ。こういう場所にトラップが仕掛けていない場合、大体敵はいない場合のほうが多い。ここはいくら建物が少ないと言っても、少しはあるのだ。トラップをデコイとして隠れるのも一つの手だ。だが、相手はいない。そろそろ60分のスキャンであることを確認して、スキャン端末を見る。と、比較的近くに二つの敵影があり、それ以外は灰色。つまり、残りは俺も含め三人だけだ。残りの二人の名前はそれぞれ闇風、それからXeXeeD。闇風はともかく、アルファベットのほうはなんて読むんだこれ。赤眼が確か、XaXaでザザって呼んだはずだから、これは・・・ゼゼードとか?

 問題は、先ほどの距離を考えると、闇風の移動範囲が明らかにAGI型のそれであることだ。仮称ゼゼードさんのAGIは俺と同じか、少し落ちるか、ってとこか。問題は闇風。移動距離から考え、全力を出していない可能性も考慮すると、アスナのステバラのまま、レベルだけレインくらい上げたような状態か。闇風のほうは見えなくても武器は大体見当がつく。大方ナイファーかサブマシンガンの類だろう。超近距離戦闘になる前に片を付ける必要がある。ゼゼードは・・・見たことないな、あんなの。大きさから言ってアサルトライフルっぽいが、上の四角くデカいのは、グレラン、か?こっちは中距離型か。近距離は最悪、俺はアレがあるから大丈夫か。

 おそらくAGI極である闇風を狙い撃つのは至難の業。ならば、ゼゼードから狙う。が、闇風に途中で邪魔されるのも癪だ。相手も動いているので、その動きを読み、俺は偏差射撃で撃つ。若干狙いは甘いが、この武器なら直撃じゃなくともダメージが入る仕様だ。目の前に落ちた弾丸に、闇風はとっさに近くの物陰に隠れた。次はゼゼード。こちらも偏差射撃で狙う。だが、相手は俺に気付いた様子もないのに回避してのけた。即座にもう一度狙いをつけ、今度はしっかり狙い撃つ。が、これは躱される。バレットラインは射程距離を忠実に守って表示されるから、他の武器でライン牽制をするのは不可能。なら、

 

(一か八か・・・!)

 

 もう一発。今度もしっかりと基本に忠実に。息を吐き切って止める。先ほどの弾道は目に焼き付いている。()()()()()()()()()()()()()()()、狙い撃つ。が、これは外れる。というか、むしろ当たったら俺が驚いていた。そして、撃たれた側はおそらくもっと驚いている。予想通り、これならばバレットラインはギリギリまで出ないらしい。その分正確に狙い撃つ技量が必須だが、その技量は先ほどの二発から風などを推測することで補った。

 相手は驚いている様子だが、やはりそこまでHPが減っている様子はない。考えられるのは、何かしらの防具をつけている場合。現実で衝撃波に防具が役に立つのか、というのは疑問が残るが、これはあくまでゲームなので、その効果は十二分だ。もちろん、これは掠る程度であることも影響している。そこそこVITにも振っているのか。アサルトライフルを持てることから、STR、VIT、AGIあたりにバランスよく振ったタイプか。もう一発、今度は隠れているあたりにもう一発叩き込む。が、デッドアイコンがともった感じはない。軽く舌打ちをしながら、マガジンを交換する。と、トラップが発動した。残りは三人で、ゼゼードは建物の影に隠れている。ということは、かかったのは闇風か。古いマガジンをそのままに、俺はAS50をストレージにしまった。そのまま、アンカー付きのロープを取り出し、固定を確認してから、俺はロープを伝って下に降りた。音からして、発動したトラップはそれなりに下の方のはず。リズミカルに壁をけ飛ばしながら下に降りる。闇風のAGIからして、一瞬で上がってくるはず。建物の中から聞こえるトラップの爆発音から、上手くすれ違いになっていることを確認して、俺は下がって行った。

 降りきったところで、俺はロープをストレージにしまう。はてさて闇風は今どこまで行ったのか。AGI極ではHPなんてたかが知れている。飛び降りるなんて真似をしたら自殺間違いなしだ。幸いなことに、闇風はおそらくかなりの数のトラップを起動させている。なにより、自分で自分のトラップに引っかかる間抜けはいない。ゆっくりとMP7A1でクリアリングをしていく。AGI極相手にこのレンジの戦闘は避けたかったが仕方ない。何より、オープンフィールドでのスピードを生かした戦闘で真価を発揮するAGI極である闇風も、屋内という閉所空間での戦闘は避けたかったはずだ。地の利は五分五分。

 やがて、俺が隠れていた部屋のあたりにたどり着いた。闇風もこの辺りを中心に調べているのだろう。微かな音が聞こえてくる。呼吸すらギリギリまで抑えて、お互い探し合う。と、ある部屋に入る影を見つけた。どうやら、ツキはこちらにあったらしい。相手を追って部屋に向かい、入ろうとした瞬間に―――闇風とかち合った。相手の顔には露骨な驚き、そしてこちらにはいら立ち。舌打ちをしながら、MP7をばらまく。ある程度の遮蔽物をうまく使いながら、壁を蹴っての三次元行動を行いながら、ひたすらアクロバティックな戦闘で撃ち合う。あっという間にマガジンを一つずつ使い切り、俺は内心で顔をしかめる。

 相手の得物は、おそらくキャリコM900系統の銃。これは特殊なマガジンを使用しており、最大装填数は確か50発。対して、こちらのMP7A1の装弾数は40発。相手は9mmパラベラム弾を使用するはずなので、こっちのほうが一発ごとの威力は高い。が、こんな場所ならばらまける相手のほうが有利だ。あまり切りたくない札ではあったが、仕方ないか・・・!

 MP7を持ち替えながら、上着の内ポケットから円筒の缶を取り出す。軽くバックステップをしながら、缶についたピンを歯で引き抜き、足元に転がしながら片目をつむる。瞬間、閃光と爆音があたりを包む。フラッシュバンではなくスモークと思ったのか、闇風は幻惑される視界の中、ランダムな回避行動を行う。対して俺は、閉じていた片目を開きながら、上着の中にあるショルダーホルスターからある拳銃を取り出す。一発勝負でぶっ放すが、かすめるだけで終わる。闇風のHPは間違いなく減ったはずなのだが、食らいつくすには至らなかった。軽く舌打ちをしながら、お互いは回復した視界でお互いの得物を撃ち切る。結果として、俺のHPはなくなり、闇風のHPは残った。

 これは後から聞いた話だが、この時、闇風のHPも数ドットしか残っていなかったらしい。闇風も、「あ、これ俺負けたわって思った」とのこと。勝敗を決したのは、俺が危惧していた通り、お互いの装弾数の差だったのだろう。

 

 ま、とにかく。そこで俺は奮戦むなしく負けたわけだ。まあ、それはいいとして、ひとこと言わせてほしい。

―――なあ優勝者のゼゼードさん改めゼクシードさんよぉ。レアもの、地の利、加えて俺との戦闘で消耗した闇風をただボコって終わりなのを威張るって、それってどうなのよ・・・?

 

 

 

 さて、それから数日後。俺はMMOストリームの中の「今週の勝ち組さん」という番組に出ていた。理由は、第二回BoB上位三名。

 

「そういえば、ロータスさんは普段の資金源がカジノということでも有名ですが」

 

「なんていうか、もともとそういう心理戦とかちょくちょくやってたから、そういう表情を読んだりするのが人より優れてるっぽい」

 

「へえ、そうなんですか!」

 

「一部プレイヤーでは有名ですよ。下手に仕掛けたら、文字通り身ぐるみはがされる、と」

 

「こっちとしても稼ぐためにカジノ行ってるわけで、相手が絶えないってことはいいことっぽい」

 

「そうですねー。どんなゲームも相手あっての物ですからねー」

 

「そうそう、お姉さんは分かってるっぽい!」

 

 リアルでは絶対使わない口調で元気に言い切る。俺からしたらこんな口調は甚だ不本意なのだが、まあ仕方がない。こういうのも一種の楽しみとして割り切ることにする。

 

「ロータスさんは、今回参戦者の中でも多様な武器を扱っていましたね」

 

「そうっぽい?」

 

「そうですよー。AS50、MP7、投げナイフ、ダーツ、それから、最後の銃は、トンプソン・コンテンダーに見えた、という情報が有力ですね」

 

「私も、最後の戦いではそれで攻めきれなかったのですよ。バリスティックナイフでも飛んで来やしないかと・・・」

 

「バリスティックナイフは好きじゃないっぽい。あれ、狙いづらいっぽい」

 

「へえー、それは意外―――」

「それに、自分で狙ったほうが早いし」

 

「・・・Oh・・・」

 

 完全に司会者の女の子が黙り込む。あっちゃーやっちゃった。でもまあ、事実だしなぁ。・・・あ、

 

「そういえば、装備と言えば。ラックに任せた激レア武器と地の利を生かして、手負いの相手を穴ぼこにした人もいたっぽい」

 

「いやいや、それは―――」

「そもそも、記憶が正しければ、あなたは前、AGI極最強説唱えてたっぽい。当の本人はAGI-STRとか、それもはや詐欺っぽい」

 

「それは心外ですよ。私だって、XM29がドロップしなかったら、AGI極にしてたでしょう。ぎりぎり、あの武器のSTR条件を満たすまでSTRを上げたんです」

 

「―――ふーん。そういうことにしておくっぽい」

 

 俺としては、ここは追及したかったところだ。AGI極最強説、というのはあながち間違ってはいないことは事実だ。実際、第二位の闇風はAGI極だし。ま、それには絶対条件としてクリアしなきゃいけないものがあるんだが、それはそれ。

 

「では、それぞれ、なぜここまでのし上がれたのか、その要因を聞いてみることにいたしましょう。まずロータスさんから」

 

「私は、何よりコンバートしたステータスのところにAS50がドロップしたのが幸運だったっぽい」

 

「ついでに言うと、その容姿も幸運でしたね」

 

「・・・まあ、そう、っぽい」

 

 ・・・うん、まあ、ランダム生成でこのアバターはまあ、幸運だったな。―――個人的に好きかどうかは別として。

 

「その代り、あのダンジョンは辛かったっぽいー・・・」

 

「どんな感じでドロップしたんですか?」

 

「当時はMP7がメインアームだったから、とにかくMP7を弾切れになるまでばらまいたっぽい。それでも削れなかったから、ナイフやら道中でドロップした銃やらで削ったんだけど、それでも届かなかったっぽい」

 

「え、じゃあどうしたんですか?」

 

「殴ったっぽい」

 

「「・・・は?」」

 

「・・・殴った、って、素手で、ですか?」

 

「それしか手段なかったから仕方ないっぽい」

 

「・・・えっと、なんていうか・・・」

 

 俺の回答に三人が固まる。ま、こうなりますよねー。ですよねー。でもさー、本当のことだから仕方ないんだ。完全に言葉を失った司会に、俺はさらに振った。

 

「闇風さんは、この好成績はどこに幸運があったっぽい?」

 

「そうですねぇ・・・なにより、あの閉所空間であなたに殺されなかったことでしょうか」

 

「あの空間じゃ、AGI極の素早さを十全に生かすことはできませんからね。あの戦いは見ごたえがありました」

 

「ありがとうございます。といっても、あれは、あのタイミングで見つかってよかったと思いますがね」

 

「と、言いますと?」

 

「あなたがおっしゃったように、僕のようなAGI極にとって、閉所空間のような完全に逃げ場のないフィールドは泣き所なんです。ロータスさんの装備、特にあのコンテンダーの弾丸は、相当強力なものを装填していたんでしょうね。若干掠っただけでもかなり持っていかれましたから。僕への最初の狙撃は牽制だったからあの程度でしたけど、あの後の後ろの取り方は完璧でした。背後からズドン、とやられていたら、こちらとしては防ぎようがない。最も、最後の掃射は、本当に死んだと思いましたがね」

 

「結果的に、闇風さんは首の皮一枚繋がって、それまで使っていなかった応急処置キットを二つとも使い切って回復。ロータスさんはここで脱落となったわけですね?」

 

「そもそも、コンテンダー最大の長所は強力な弾丸を込められることっぽい。なら、それを生かさない手はないっぽい」

 

「確かにそうですねー。

 そういえば、お三方はどうしてこのステータスバランスに?」

 

「さっきもちらっと言ったけど、私はそもそもコンバート組だから選択肢なんてなかったっぽい」

 

「私は、彼のAGI極が強い、という言葉を信じ、やってみようか、と思ったので、ですね」

 

「僕もAGIを中心に上げていたんですが、今のメインアームがドロップしてSTRを上げましたね」

 

「で、自分がでっちあげたAGI極最強説を覆すことにした、ってことでいいっぽい?」

 

「そんな、悪意あってこんなことをしたわけではありませんよ。ただ、今後はロータスさんのAS50のように、高いSTR値を要求する強力な武器の実装も大いに考えられますから、STRとVITをメインに上げていくバランス型が猛威を振るうことになるでしょうね!」

 

「そもそも、レア武器レア防具が落ちなきゃ意味ないっぽい」

 

「なら、最後はリアルラックが重要になるかもしれませんね」

 

 と、ここまで会話したときに、俺は違和感を覚えた。ゼクシードが突然、胸を握りしめて苦しみだしたのだ。それはまるで、心臓を一突きされたように。そのまま、彼はディスコネクト、いわゆる切断された。

 

「あれま、落ちちゃいましたね。ですが、番組はまだまだ続きます。チャンネルはそのままで!」

 

 司会者の女の子は何食わぬ顔でそのまま司会を続ける。俺と闇風もそのままトークを続けた。が、俺の胸の内は、何とも言えない感情が渦巻いていた。

 




 はい、というわけで。

 これだけ語尾が特徴的なら、まあ、見た目は説明なくてもバレる気が。

 今回は第二回BoBのお話でした。どうしても彼をBoBプレイヤーにしておきたいと思ったので、ならこのイベントは外せないでしょう、と言うことで。あ、ちなみに、サトライザーとロータス君は戦ってないのであしからず。

 MMOストリームは、ゼクシードがただどや顔するだけではなくなってます。それはそれとして、今回主人公何回「ぽい」って言った!?って自分でも思います。(笑)

 あと、エスコン7やってると思いますけど、宇宙戦争とかやってると、衛星のスペースデブリとか大丈夫なんでしょうか・・・。ちょいとネタバレになっちゃうので言いづらいんですけど、破壊・破損した衛星のスペースデブリがほかの衛星傷つけるくらいはあると思うの。あ、だから荒廃したのかもですけどね。

 さて、次からは本格的にデスガンの話です。これからも定期更新は頑張るので、よろしくお願いします。
 ではまた次回。

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