ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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※前半に若干の胸糞?があります。
※後半に向け、ブラックコーヒーを準備しておくことをおすすめします。


epilogue.変化した現実

 ALO事件が完結してから少しした、拘置所にて。そこには、とある一対の影がいた。

 

「―――こんばんは、須郷信之さん」

 

「誰だ?」

 

 突然のあいさつに、獄中の人物―――須郷信之は目を上げた。

 

「何者でもありませんよ。あなたの研究を知っているものです」

 

「なんだと・・・!?」

 

 青年と思われる影の言葉に、須郷は目の色を変えた。

 

「ということは、僕の支援をしてくれる、と言うことか・・・!?」

 

 青年は答えない。そのまま、彼はただ、無言で近づいていく。

 

「お、おい、何とか言ったら―――」

 

「うるせえよ、クソボケ」

 

 突然、声が低くなる。と、須郷の声が途切れた。声を出そうとしても出ず、ただ溢れるのは生暖かい液体だけ。その事実に、須郷は助けを求めるような目を向けた。

 

「もし仮に、お前の研究が評価されて、法がお前を許したとしても、―――俺がお前を許さねえ」

 

 そういうと、彼はゆっくりと、手に持った刃を目へと持ってきた。怯える須郷をよそに、そのままナイフを一突きする。それを最後に、須郷はこと切れた。そのまま、彼を殺した人間は、着てきた服を鞄にしまって、何か小型の物を耳につけながら獄を出た。

 

「終わったぞ」

 

『分かった。できるだけ早くね』

 

「ああ」

 

 そういうと、彼はほとんど音を立てずに廊下を歩く。ポケットからハンカチを取り出し、返り血をぬぐう。帰り道の中、彼は自身の手を軽く見つめた。

 

(人殺し、か)

 

 

 

 その翌日、拘置所にて殺人が起きた、という記事が、朝刊をにぎわせた。犯人は防犯カメラなどに映っておらず、謎の犯行として様々な憶測を呼んだが、結局手掛かりなしで迷宮入りすることになる。その記事を見ながら、彼女は俺に問いかける。

 

「よかったんですか、先輩」

 

「何が?」

 

「彼女が、誰がこれをやったかを知ったら、きっと悲しみますよ」

 

「・・・だろうな。でも、こうでもしないと、俺が俺を許せない」

 

 彼女から、あいつが彼女に何をしたのかを聞いた。マインドコントロールだけならまだよかった。だが、彼の言葉通り、あいつは考える限りの凌辱を彼女にしていた。性的にも、精神的にも、仮想世界の肉体的にも。彼女のあれは、マインドコントロールと凌辱の末の物だったのだ。と、いうのは、目の前にいる天才ハッカーがすべて暴き出した。グランドクエスト前に言い淀んだのは、その時にこの可能性に思い当たったからだそうだ。今回の行動は、それを見てから、俺が3Dプリンターで作ったナイフを使って、彼女のサポートを受けたうえでやった行為だった。

 彼女にとって不幸中の幸いだったのは、マインドコントロール下にあったということ。つまり、彼女はどこか夢を見ているような状態で、強い実感がなかったということだ。だがそれでも、()()()()()()を受けた記憶は残っているようで、最初のほうはどこか怯えたように俺にべったりだった。今は大分緩和されてはいるが。というか、―――そんな姿もかわいいと思ってしまう俺も俺だが。

 

「ま、そうですよね。私も、ここまではやばいな、と思いましたから」

 

「そうか」

 

 そう言いつつ、俺は彼女への報酬で付き合って入った店のコーヒーを手に取った。

 

「でも、君にやらせるよりは、俺のほうがいいだろう。慣れてるからな」

 

「・・・そう、ですか」

 

 彼女が目を伏せる。その目の中に映る感情に、俺は顔に出さないレベルのざわつきを覚えた。

 

 

 

 それからしばらくして、俺たちは東京のマンションの一室で荷解きをしていた。というのも、廃校になった校舎を再利用する形で、SAO帰還者向けの学校が開設されることになったのだ。そして、あのままでは住所不定無職になりかねなかった俺に対し、菊岡が気を回して講師職という形での雇用を約束してくれた。ついでに言うと、これは特例実習扱いにもするらしく、あとは教員採用試験さえ受かれば教員免許が取得できるとのこと。と、いうのは本人から聞いた。その手の教育周りは文科省の管轄で総務省では手が出せないはずだが、その辺はうまくねじ込んだらしい。こればかりは感謝の一言だ。

 

 で、学校なので、もちろんレイン―――虹架も、そこの生徒になる予定だ。前から、アイドルなどに憧れていたから、そっち系の学校でもいいのでは、とは言ったが、何も知らないバカ丸出しはさすがに恥ずかしいと思ったらしい。SAOのネトゲという性格上、遠方からの生徒向けの寮に入ることもできたのだが、彼女の希望で俺とルームシェア、もとい同棲をすることになったのだ。ま、俺としても、こんな可愛い彼女と同じ部屋で暮らせることに文句はない。

 

 

 

「さて、とりあえず飯にするか」

 

「そうだね。手伝うよ」

 

「お、そりゃありがたい」

 

「だって、こと家事に関しては、私のほうが上だし」

 

「なにおう。俺だって一通りはできるっての」

 

「私は一通りくらいとうの昔にマスターしましたけど。しかも現実で」

 

 そんな言い合いをして、どちらともなく笑って。結局、二人ともがほとんど同じくらいの負担でご飯を作って、笑い合いながらそれを食べる。それが、俺はとても心地よかった。

 

 

 

 虹架はそこまで大荷物というわけでもなく、俺に至ってはボストンバッグ一個分という超軽量だったので、荷解きはその日のうちに終わった。むしろ軽く掃除をする暇すらあったほどだ。お互い寝床にそこまでこだわりはなく、普通に布団だった。布団も含めた家具家電あたりは菊岡が手配してくれたらしい。そのおかげで荷物が超軽量で済んだのだが、布団はダブルサイズが1セットのみ。つまり何が起こるかと言えば、

 

「実際にやってみると、結構ドキドキしない?これ」

 

「そうだな。でも、虹架の顔が見れるのなら、それでいいかな」

 

「・・・いきなりそういうこと言わないでよ」

 

 俺の不意打ちの言葉に、虹架は薄暗い部屋でも分かるくらい頬を染めて、顔の半分を掛布団で隠した。かわいい。じゃなくて。

 まあつまり、横で寝ることになるのだ。おのれ菊岡、謀ったな!GJ!じゃなくて。

 

 その、なんだ。俺だってまだ20代の男なわけだ。で、相手は17歳の、それなりに()()()()()少女なわけで。―――つまりは、そういうことである。

 

「ねえ、その、蓮、さん」

 

「・・・なんだ?」

 

「あの、さ、その、蓮さんも男の人だから、・・・そういうこと、したいの?」

 

 ・・・思わず生唾のみ込んだ俺は悪くねえ。だって、目の前で可愛い彼女が照れながらこういうこというわけだぞ?何も思わないような奴がいたらそれはおかしい。

 

「・・・まあ、正直なところ、したい」

 

「なら、その、・・・いい、よ?」

 

―――その後のことは推して知るべしである。

 

 

 ただ、ご丁寧にちゃんと()()()()()()まで揃えていたあのドぐされ眼鏡は絶対一回以上ぶん殴る。

 

 

 

 

 ALO事件が終結して、新学期が始まって少しした5月。エギルことアンドリュー・ギルバート・ミルズ、およびリズベットこと篠崎里香の主催で、SAOクリアの打ち上げオフ会が行われることになった。場所は、エギルがリアルで経営している喫茶店兼バーのダイシーカフェ。奥さんと二人で開いた店で、亭主がSAOにとらわれている間、奥さんはこの店を守り抜き、隠れ家的人気を博していたというのだから、いい夫婦だなぁとつくづく思う。その中で、俺はレインから少し離れて、カウンターのほうにいた。

 

「おまかせでハイボール一丁」

 

「いいのかよ、仕事は?」

 

「今日の分はもう仕舞いだ」

 

「そうか。ほい」

 

「サンキュ」

 

 グラスを受け取って、一口飲む。ウィスキーの香りと炭酸のバランスのいい、いい仕上がりだ。

 

「そういえば、お前さん、レインとはどうなんだ?」

 

「どう、とは?」

 

「付き合ってんだろ、お前ら」

 

 エギルの言葉に、ロックを飲んでいたクラインがむせた。

 

「てめ、ロータス、お前うらやましいぞ!」

 

「つってもよ、最近は相手できてなくてな。寂しい思いさせてないか不安なんだよな」

 

 と、言いつつさらに飲む。喪男相手にこんな話題とか酒無しでやってられるか。

 

「それに関しては大丈夫だ」

 

「何をもってして」

 

「いいか、女ってのは、惚れた男がいると魅力が三割増しになるんだよ。今のレインはまさにそうだ。幸せでたまらない、って顔してる」

 

「だといいがな。次、スコッチのロックで」

 

「はいよ」

 

 さらに追加を頼み、レインのほうを見る。我が彼女ながら、確かにかわいくなっている気がする。気がする、じゃなければいいな、と思ってしまった。

 

 

 

 ほろ酔い加減で、俺たちは帰路についた。エギルの話を聞くと、未成年側にもほんの少しだがアルコールの入った飲み物を提供していたらしい。「ほぼほぼジュースだから、バレないだろうし問題ない」とのこと。それでいいのか。と思った俺はおかしくないはず。

 並んで歩いていると、虹架は唐突に、つないだ手を恋人繋ぎにしてきた。驚いていると、レインはさらに腕を絡ませてきた。

 

「珍しいな、今日は」

 

「だってさ、ああやってみんなとわいわいするのも楽しいけど。・・・私は、あなたのそばにいたいもん。甘えたいもん」

 

「いつももっと甘えても・・・っていうのは、今の俺が言えることじゃないな、ごめん」

 

「いや、分かってるつもりなの。でも、・・・もっとって思っちゃうの。キリ―――じゃないや、和人と明日奈見てると余計に、さ」

 

 まあ、あの白黒夫婦は本当にお似合いだろう。いろいろかみ合っている。何より、互いが互いを強く思っている。あの二人を見ていて、プラスして若干のアルコールも相まって、今のこの状態なのだろう。

 

「虹架」

 

「何?」

 

 その先、何を言おうとしたとしても言わせない。不意打ちのキスだろうが知ったことか。俺だって、こんな可愛い状態を見せられて、何も思わないはずもない。それに、―――入っている酒の量はこっちのほうが数十倍上だ。こっちも理性の限界ってものが低くなっている。ゆっくりと唇を離すと、少し切なそうな声が聞こえた。

 

「伝わった?」

 

「十分に」

 

 それだけで十分だった。

 

「帰るか」

 

「そだね」

 

 そうして二人はゆっくりと一緒に進みだした。

 




 はい、というわけで。
 とりあえずはこの話のあとがきを。

 前半というか、冒頭はゲ須郷への天誅でした。いやね、流石にね、惚れ込んだ彼女にあそこまでされたらブチギレ不可避ですわ。防犯カメラとかなかったのかよ、って話は、彼女が暗躍してた、ってことでひとつ。

 で、後半はひたすらこの二人のイチャコラでした。爆発しやがれテメーら。そもそも誰だよこんなの立案したやつ←

 明日に、全体のあとがきを投稿予定です。その後、正史のGGO編に入ります。
 ではまた明日。

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