ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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52.事態解決

「誰か来るぞ。二人」

 

 その言葉に、俺は即座に臨戦態勢になった。むろん、他人に気取られないようにだ。何せ昨日の今日だ、報復というのは十分にありうる。

 

「私が出ます」

 

「お願いします」

 

 レインが対応を申し出て、それをサーシャさんも了解した。念のため、その後ろに俺が、気配を消してついていく。レインが扉を開けた時、少しではあるが確かに、レインの警戒が和らいだ。

 

「コーバッツさん?」

 

「お久しぶり、いや、昨日ぶり、ですかな、レインさん。お話があってうかがいました」

 

「それは、昨日の徴税関連ですか?」

 

「無関係ではありません」

 

 その言葉に、俺はできるだけ扉の死角になるような位置からのぞき込んだ。

 

「とりあえず入れてもいいんじゃないか。その代り、妙な真似を見せたら・・・」

 

 そこまで言って、俺は鯉口を切る。それだけで、十分意味は通じる。が、コーバッツは動じなかった。

 

「大丈夫だよ。この人は信用におけるから」

 

「そうか。お前がそういうんなら、大丈夫だな」

 

 レインがそういうということは、大丈夫なのだろう。俺も刀を改めてしっかり納刀して、二人を中に招き入れた。

 

 

 その後、俺たちは奥の応接間に会していた。どうしてもこの人数が集まると少し手狭に感じるが、そこはまあ仕方ない。

 

「それで、彼女は?」

 

「彼女はユリエールさん。ALFのリーダーであるシンカーさんの副官さんよ」

 

「ALF・・・ああ、そういうことか」

 

 納得した俺と、一瞬の間の後に理解したアスナとは対照的に、キリトだけが理解してなかった。

 

「Aincrad Liberation Force―――早い話が軍だ。その様子だと、この呼称は内部でも嫌うやつがいるみたいだな」

 

「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

「いったいどこの綴命(ていめい)の錬金術師だお前は」

 

 エリーゼのまぜっかえしにはしっかり反応しつつ、先を促す。

 

「で、ギルドマスターの副官様がこんなところに来る、ってのは、一体どういう事態なんだ?」

 

「その前に確認しておきたい。エリーゼさんとレインさん以外の方々は今の軍の状況をご存じだろうか」

 

 口火を切ったコーバッツの言葉に、俺はかぶりを振った。白黒夫婦も、どうやら同じような状況のようだ。

 

「私から説明しましょうか?」

 

「いえ、私から説明します」

 

 レインの申し出に、ユリエールさんはやんわりと断った。その口から語られた内容は、なかなかに刺激的だった。

 

「今、軍の内情は、キバオウの独裁による暴走状態です。いつからか、あなたがたが目にした徴税行為は日常的に行われるようになってしまった。そこで、軍の内部からも出た、攻略をないがしろにしすぎているという不満を解消するために、一部上層部は軍のトッププレイヤーを最前線に送り込んだのです。フロアボスを討伐してこい、などという、無茶な命令とともに」

 

「それが、あんただったわけだな、コーバッツさん」

 

「・・・ああ。意固地だったのも、命令を守らなくてはという義務感が先立ちすぎていたから、というのは否定しない。もっと大切なものがあると気づくまでに時間がかかりすぎた。迷惑をかけてしまったな」

 

「いいって。で、その一件から何とか生存したコーバッツさんは、シンカーさん、だっけ?とにかく、ギルマスを中心人物とした、穏健派に与するようになったわけだよね?」

 

 エリーゼの確認に、コーバッツは頷いた。となれば、

 

「その努力があってなお、あのカツアゲ行為は止まらないほどに、肥大しているわけか」

 

「その通りです、キリトさん。・・・なるほど、あなた方なら、確かに徴税部隊など一ひねりでしょう。

 とにかく、コーバッツさんの遠征が失敗したことで、キバオウはさらにムキになりました。シンカーと丸腰で話し合おうと言って、自分だけ転移結晶で離脱したのです」

 

「シンカーさんは・・・?」

 

「彼はいい人過ぎました。キバオウの言葉を信じて、転移結晶も持たず・・・。今彼は、ハイレベルのモンスターがいる地帯にいると思われます」

 

「・・・ポータルPK・・・。ここまでの大ギルドの頭がやることじゃねえな」

 

 思わず舌打ちする。俺の苦々しい表情を見てか、コーバッツの眉間に皺が刻まれた。

 

「ああ・・・。私も、初めて知ったときには耳を疑った。同時に、こんな人物には従えないと思った。目的のために手段を択ばないと言っても、限度というものがあるだろうに・・・!」

 

 コーバッツの言葉には完全に同意だ。先ほども言ったが、大ギルドの頭がやる行動ではない。

 

「なら、やることは二つ。一つはシンカー救出。もう一つは、キバオウの脅迫」

 

「きょっ・・・!?」

 

 俺の口から出た物騒な言葉に、サーシャさんが怯えたような声を出す。でも、

 

「目には目を、歯には歯を。外法には、外法を。―――先に道を外したのは向こうだ。無理やりにでもゲロらせる。軍の中でも、できるだけ公なところで、な。これは俺が適任だな」

 

 あまりの俺の過激度合いに、サーシャさんとユリエールさんがドン引く。他の面子は、俺はやる気になればそういう手段に出ることもある、ということを、実体験をもって知っているため、少々の怯えはあっても驚きは薄い。真っ先にその手段に協力を申し出たのはコーバッツだった。

 

「では、私も協力しましょう。一応、軍の定例会議は、キバオウ派とシンカー派の両方が出席しますからな。その場をもって、襲撃すればよろしい」

 

「そうか。じゃ、その辺の手筈は頼んだ」

 

 俺の言葉に、コーバッツが頷く。コーバッツも俺の脅しをその身をもって体験したクチだ。その後に、レインが胸を張って宣言する。

 

「じゃあ、シンカーさんは任せて!」

 

「おう、頼むぜ相棒」

 

 そういって二人で手を叩く。その後に、レインが状況確認に入った。

 

「シンカーさんは、その状態で、どれくらい・・・?」

 

「もう、三日ほどになります。私が来たのは、徴税部隊をあっさりと打ち倒した人々が、今教会に滞在しているということ。それから、コーバッツさんから、その人々は信頼に置けるという言葉を聞いてだったので」

 

「なら、できるだけ早い救出が必要ですね」

 

「コーバッツ、次の会議は?」

 

「確か・・・明日の夕方からだったはずだ」

 

「よし、なら最速そこで人質救出からの脅迫続行が最善かな」

 

「ま、私としても、たまたまダンジョン見つけて救出する分には問題ないし」

 

「いえ、この件に関しては、あとできちんと対価をお支払いします。特に、あなたは、いわゆる“騙して悪いが”をしたら、しかるべき報復を行うことでも有名ですからね、エリーゼさん」

 

「・・・なら、こっちとしても断る理由はない。・・・ところで、戦力は多いに越したことはないんだけど」

 

 かなりとんとん拍子に進む話の中で、エリーゼが横目に白黒夫婦を見た。それに対する二人の反応は、正直信用にならない、というものだった。ま、こんな少しのやり取りで信じろ、なんて無理な話か。

 

「大丈夫だよ、パパ、ママ、この人、うそついてないよ」

 

 その判断の背を押したのは、意外にもユイちゃんだった。

 

「・・・本当?ユイちゃん」

 

「うん。なんとなくだけど、わかる!」

 

 笑顔とともに放たれた言葉に、アスナが折れた。

 

「では、私たちも協力させてもらいます」

 

「ユイはここでお留守番な」

 

「やだ!」

 

 キリトの言葉に、ユイちゃんは即座に拒否という反応を見せた。

 

「そうはいってもね、危ないから、ここで待ってて、ね?」

 

「やだ!パパとママと一緒に行く!」

 

「おお・・・これが反抗期か・・・」

 

「感心してないでキリト君も説得してよ!」

 

 こんな小芝居のようなやり取りはあったが、結局、エリーゼとレインという戦力を鑑みて、連れていくことになった。

 

 

 

 さて、場所は変わって、はじまりの街の中の、国鉄宮に来ていた。ここの上層部分が、丸ごと軍の本部と化しているらしい。その中を、コーバッツと、軍の正式装備をした俺が歩いていた。

 

「こんなにあっさり通るものなんだな」

 

「門番にも通達はしてあったからな」

 

「それって一種の懐柔じゃないのか?」

 

「そんなことはしていない。私はただ、出先で帰る途中の隊員と合流した、と言っただけだ。そもそも、人数が増えすぎて、ギルド員同士でも、装備くらいしか見極める術がない。かくいう私もだが、な」

 

 なんだそりゃ、と言いたいところだが、どこぞの金ぴかも、増えすぎて己の把握できる範疇超えてる、みたいなこと言ってたし、それと似たようなものか。

 

「さて、改めて確認するぞ。俺は、コーバッツの後ろで護衛として振る舞う。で、レインから連絡が来たら行動開始。てことで、いいな?」

 

「ああ。例のダンジョンはここの真下、転移結晶が使えることも確認済みだ。転移門からの距離も遠くない。レインさんにエリーゼさん、加えて、黒の剣士と閃光までいる。戦力としては過剰なくらいだろう。この場合はむしろ、私が会議に参加しないことのほうが怪しまれる」

 

「仮にも佐官だもんな。そういえば、キバオウは階級的にはどうなるんだ?」

 

「一応、中将ということになっている」

 

「ま、その辺は現実に即してるか。幕僚長、だっけ?自衛隊の頭も大体そのくらいだろう?」

 

「らしいな。私はよくわからん。ミリオタのやつに言わせるとこのくらいが妥当だそうだ。初期階級はそこから逆算で与えられた」

 

 そんな会話をしていると、コーバッツが部屋の前で止まった。

 

「ここか?」

 

「ああ」

 

 俺の言葉にそれだけ返答すると、コーバッツは三回ノックの後に部屋に入った。続いて俺も入る。

 

「コーバッツ中佐、到着しました」

 

「ご苦労、中佐。後ろが、例の護衛だな?」

 

「は。何分、人見知りがある故、いささか無口ではありますが、腕は立ちます」

 

「・・・まあいいか。護衛は中佐の後ろで待機したまえ」

 

 その言葉には頷きで返し、コーバッツの後ろで休めの姿勢で待機する。すでにウィンドウは不可視モードでメールの受信欄を開いている。他人からすれば、俺がメニューを開いているように見えないことはすでに教会内で実証済みだ。やがて、何人かの佐官があるまると、玉座のような椅子に座ったキバオウが口を開いた。

 

「さて、全員集まったところで会議を始める。といっても、いつも通り、定例報告ばっかやけどな。まずは、管理班。特筆することはあるか?」

 

「いえ、特にありません。最近は特におとなしいもんです」

 

「よし。なら次、高レベル隊。こっちに関しては、何か進捗はあったか?」

 

「はっきり申し上げて、ありません。あえて申し上げるとすれば、これだけ開いた経験値の差はそうそう簡単に埋まるものではなく、定例会議で特筆すべき報告があげられるようになるまでは時間がかかる、と、繰り返させていただくだけです」

 

「・・・ま、しゃーないか。あのビーター野郎にはシャクやけど、こればっかりはどうにもならん」

 

「それでよいのですか、キバオウ中将!」

 

「そうです!街の面々からも、軍は下層に引きこもってばかりの臆病者呼ばわりされているのですぞ!?」

 

「それはそれ、や。戦力を拡充するには人手がいる。でも烏合の衆じゃ意味ないから、訓練さしとる。練度が上がるには時間がかかる。それは説明したやろ」

 

「しかし!」

「最前線は甘ない。レベルだけじゃどうにもならん。なんとか安全マージン少し下くらいやったコーバッツがあっさりあしらわれたんや。それ相応の準備をする必要があるやろ。さっきも言ったように、シャクやけどどうにもならんからしゃーない」

 

 反論はあっさりと押しつぶした。なるほど、思ったより腐ってはいないみたいだな。

 

「場合によっては、街の人には、そのために協力をしてもらう必要がある。そこに、変更はありませんね」

 

「あくまで穏便に、好意的に、な。強引な手段はあかんで」

 

 ・・・なるほど、な。ある程度ぼかしたキバオウの指示を、部下が暴走した、ってとこか。

 

「ここまで来たら、さすがにワイも、青龍連合に追いつこう、なんてことはもう言わん。そんでも、中層から支援していくレベルにはする。そのための軍や。幸い、人手はあるからな」

 

 そう言いつつ、手の前で組んだ後ろの口元がほんの微かにゆがんだことを、俺は見逃さなかった。それで、何となく察した。コーバッツがあからさまに派閥の動きと反した行動をしていても、特にこれといったお咎めがなかったこと。あまりにも強引過ぎる手段による、シンカーの排除。それらから、キバオウの意図が何となく読めた。

 と、ここでレインからメールが来た。内容は、“シンカーさん救出完了。今から軍本部に向かうね”とあった。それを見て、コーバッツにそっと近寄って耳打ちした。

 

「連絡が来た。状況を開始する」

 

「了解した」

 

 それだけやり取りをすると、俺はぼそりとつぶやく。

 

「イクイップメントチェンジ、セットワン」

 

 瞬間、俺の全身が転移にも似た光に包まれる。突然のことに全員が驚いている隙に、俺は一気に上座に走り、キバオウの首筋に後ろから左手に握った刀の刃を突き付けた。突然のことに、全員一歩も動けなかった。

 

「全く、佐官クラスともあろう面々が情けない。コーバッツ隊のほうがまだ反応速かったぞ」

 

 その言葉に、ようやく一部が腰を上げる。

 

「で、この程度のあおりで反応するあたりが雑魚の証。

 圏内ではHPは()()1たりとも減らない。ノックバックは発生するけど」

 

 そういって、俺は右の逆手で小太刀を抜いて、逆手から準手に持ち替え、全体を見渡しつつ突き付ける。

 

「つまり、ここで俺が得物で打倒したところで、せいぜいがあんたらが気絶するだけ。最も、俺からしたらこの状態でも、ここにいる半分くらいは伸せる自信があるけど」

 

「・・・鮮血の蓮・・・!」

 

「な・・・!そんなはずは・・・!」

 

「おや、引きこもり集団でもそのくらいは知ってたか」

 

 否定の声は、俺の間延びした声で打ち消される。それにピクリと動いたのはキバオウだった。

 

「なんでや、貴様はその手のことはよー知っとるはずやろがい」

 

「おう、知ってるよ。もっと言えば、圏内でも経口摂取なら麻痺をはじめとした状態異常にならかかるってことも、麻痺した状態で他人に腕を動かされてもメニューは操作できるってこともね」

 

 その言葉に、キバオウが凍り付いた。現実なら確実に冷や汗が流れているだろう。だが、軍の面々は理解していなかった。

 

「言ってる意味が分からない?なら教えてやる。―――口の中に麻痺毒突っ込んで、無理矢理メニュー操作して、全損デュエルでPKすることも、もっと直接的に毒殺することも可能って言ってる。これでOK?」

 

 そこまで言って、ようやく理解した。ま、もっともその気はないんだけど。

 

「何がしたいんや。こんな事したら、お前さん、攻略組にフルボッコにされるで・・・!」

 

「その前に、自分がやったことを考えたらどうだ。例えば、シンカーさんを、未遂とはいえ、ポータルPKしようとしたこととか」

 

 俺の言葉に、軍の面々がざわつく。キバオウ派としては、なぜそれを知っているのか、ということで。穏健派は、どういうことだ、ということで。

 

「うすうす疑問には思ってたんだよ。そこまでの強硬手段に出る理由とか、コーバッツが、おそらくあんた側の集団である徴税部隊に対して、なんで真っ向から歯向かえるのか、とか。軍の主導権を握りたいのは分かるが、わざわざここまで強硬手段に出る理由はない。それに、コーバッツは、最前線に行けっていうあんたの指示にあっさり従ったところを見ると、もともとはあんた側の人間だったはずだ。だったら、派閥を裏切る行為を何度も繰り返すってことに対し、なんかしらでペナルティがなきゃおかしいはずだ。なのにそれがない。

 でも、今の会議の流れを見て、ようやく合点がいった。

―――自分たちが胴元になって、ねずみ講か博打でもやる気だったんだろ。いくら人数が多いっつっても、ここは最下層。搾り取るにも大本の資金が乏しい奴らからじゃ量なんざたかが知れてる。上層のいくつかを使えば、それだけ搾り取るのは容易になる。徴税がなくなるから、はじまりの街の住人からも、軍の内部からの不満も少なくなる。オッズをちゃんと管理できれば、自分たちには利益が出続ける。いいことずくめだ」

 

 さらに続いた俺の言葉に、また周囲がざわつく。

 

「いったい何を・・・。第一、ポータルPKってなんのことや」

 

「あら、とぼけるんだ」

 

 それだけ言うと、俺は周囲を見渡して言い放つ。

 

「この様子から察するに、メンバーにもそれは通達してなかったみたいだな。

 三日くらい前、シンカーさんと丸腰のサシで話したい、って騙して、この近くの高難易度ダンジョンの奥深くに置き去りにしたそうじゃないの」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「貴様、侮辱も甚だしいぞ!」

 

 俺の言葉に、叫びだす面々。黙っている一部は、冷静になっているのか、シンカー派の面々か、はたまた中立か。

 

「でも、確かにそのくらいから、シンカーさん見ないよな・・・」

 

「それがどうした!遠方へ遠征に行っているかもしれないだろう!」

 

「遠方って言っても、この世界なら、その気になればアイテムやらなんやらで、数分で数キロメートル単位を行き来できるんだぞ?」

 

 俺を置いてけぼりにして、めいめいに議論に入る軍の幹部の面々。そこに、俺の索敵スキルに反応があった。近づいてくる速度から即座に到達時間を分析し、俺は切り込んだ。

 

「なああんたら、少しいいか?なんでわざわざ俺がこんな真似してると思う?ましてや、わざわざこんな長ったらしくおしゃべりする理由。思いつくか?」

 

 俺の言葉に、全員が考え込む。ま、まっとうなやり方じゃないし、一発じゃ思いつかないか。

 

「だったら、聞き方を変えてやる。

―――わざわざこんな目立つやり方やるってのに、単独でやると思うか?それ以前に、こういう手段で来た時点で、なんで俺一人で動いてるって考える?」

 

 その言い方で、ようやく全員が感づいた。そりゃそうだ、だって俺がこの部屋に入ったときの名目は、コーバッツの護衛だったのだから。その時点で、俺の単独犯という可能性はゼロといっていい。護衛がすり替わっていたとしても、普通に考えて気づく。どこかで誰かと示し合わせる必要があるのだ。

 

「なにが言いたいんや」

 

「なに、初歩的なことだよ、諸君。―――視野を広げろ、ってこと」

 

 俺がそう言い切った直後、扉が開け放たれた。そこにいたのは、ユリエールさんと護衛としてついてきたであろうレイン、そして見覚えのない優男。おそらく―――

 

「シンカー大将・・・!」

 

 やはり、彼がシンカーさんだったようだ。しかし、大将とはずいぶんとたいそうな役職だ。

 

「遅くなって済まない」

 

「いえいえ。ちょうど尋問も佳境に入ってましたから」

 

 俺からしたら、このおしゃべりは狼煙であると同時に、時間稼ぎだった。長ったらしくしゃべる必要がないことを即座に察知した俺は、ここにつなげるためにああして楽しいおしゃべりに興じていた、というわけだ。

 

「さて、と。役者は揃ったことだから、改めてシンカーさんに問いかけましょう。この三日間ほど、何されてました?」

 

「この下にあるダンジョンの安全区画に避難していました」

 

「何故そんなところに?」

 

「キバオウさんに置いてけぼりを食らってしまって・・・」

 

「でも、当のキバオウさんはここにいますよね?なぜあなただけ?」

 

「キバオウさんから、丸腰で話がしたいと言われ・・・。転移結晶も、まあ大丈夫だろうということで、持っていかなかったんです。ダンジョンを突破しようにも、武器もない状態では突破できず・・・」

 

「つまりは、高難易度ダンジョンに、丸腰かつ転移結晶もない状態で放置されたわけだ。で、その話を持ちかけたほうは転移結晶でさっさと逃げた、と」

 

 俺の言葉に、シンカーさんは頷いた。

 

「そこでは気づかなかったのですが、しばらくして、ようやく騙されたと気が付きました」

 

「ありがとうございます。ま、警戒を怠ったのは油断といえるかもしれませんが、仕方ないかもしれません。俺がレインにそんなことされたとしても、すぐには騙されたと気が付かないでしょうから。何より、ここまでの強硬手段に出るとは思いづらい。しかも、よりによって大ギルドの副リーダーが。

―――で、なんか反論あるか?」

 

 俺の言葉に、キバオウは顔中に脂汗を書いているのではないかと思うほどに青ざめたまま、ピクリとも動かなかった。

 

「さて、俺の仕事はここまで、ですかね」

 

 そういって、俺は鯉口を二回鳴らした。静まり返った部屋に、チン、チン、と、その音が響いた。

 

「あとはあなた方の分野です。では」

 

 皮肉を込めて慇懃に一礼する。そのままレインを連れて退室した。

 

 

「・・・ねえ」

 

「ん?」

 

 本部を出る途中に、レインが静かに声をかけた。

 

「私は、絶対裏切らないから。何があっても、君をだますような真似はしないから」

 

「おう、分かってる。信じてる」

 

 それだけで十分だ。何せ、こいつは、人殺しに身を窶した俺を助けに来たような女だ。そんな奴を信頼しない理由などない。

 




 はい、というわけで。

 悩んだ挙句、若干というレベルじゃない無茶苦茶な解決法になりました。でもま、彼らしいっちゃ彼らしい。

 さて、この時点で想像以上に書き溜めが溜まっていることに気付いて、主、非常に驚いております。具体的にはif編投稿しているのが2018年なのに、2019年末くらい分まで投稿しきるくらい。いくら何でも多すぎ。

 さて、次は説明回からの繋ぎです。・・・後半は自分でもどうしてこうなったな展開がありますので、できればブラックコーヒーかカカオ配合率高めなチョコレートを手元に用意しておくことをお勧めします。

 ではまた次回。

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