ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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 はい、どうも。

 今回はフロアボス討伐後のお話です。多分にオリジナル要素コミコミです。そして超短いです。

 それではどうぞ。


5.戦いの後

 一つ息をついて、剣をゆっくりと鞘に納めた。ゆっくりと目を閉じて顔を上に向けた。

 

「ありがとうな、三人とも」

 

 そんなことをしていると、キリトがこっちに来て話しかけてきた。それに俺も微笑みを返す。

 

「いいってことよ」

 

「パーティでしょ、私たち」

 

「そうだよ、キリト君」

 

「呼び捨てでもいいよ、レイン」

 

「あ、そう?でもなんか、キリトって呼ぶよりキリト君のほうが呼びやすいからそっちで呼ぶね」

 

「ええ・・・」

 

 それに俺が笑ったところで、近寄ってくるもう一つの影。そちらを向くと、褐色の肌をした巨漢がこっちに来た。エギルだ。

 

「Congratulation. 見事だよ、少年。間違いなく今回のMVPだ」

 

「言いすぎだよ」

 

 皆、ボス戦が終わったことで、一息つけるということもあって、リラックスしていた。それぞれが勝利の余韻をかみしめていた。

 だが、お祝いムードは長くは続かなかった。

 

「なんでだよ!」

 

 一気に視線が集まる。その視線を受けた張本人は、怯むことなど知らないといった風情でさらに言葉を続けた。

 

「なんでディアベルさんを見殺しにしようとしたんだ!」

 

「見殺し?」

 

「だってそうだろう!あんたはボスの使ってくる技を知ってた!あの調子なら、おそらくそのすべてを!そのうえで、あんたはこっちのことなんて知らない風にふるまった!これを見殺しにしようとしたと言わずしてなんというんだ!」

 

 それに、場の雰囲気が騒然となった。ちらちらとこっちを、より正確にはキリトを見やる視線も一気に増えた。

 

(嫌な雰囲気だな)

 

 その状況下で、考えうる最悪の状況を頭の中でシミュレートする。その方向に行かないことを祈りながら、その線が濃厚でありそうだというのも分かってしまった。

 

「きっとこいつ、βテスターだったんだ!だから、ボスのスキルとその軌道をすべて知ってたんだ!」

 

 ボス攻略中の言葉は、おそらく俺とディアベルしか覚えていないし、覚えていたとしても、全体から考えればごく一部に過ぎない。そして、この言葉が憶測を呼んだ。そこからさらに、憶測が憶測を呼ぶ。そして、俺の想定していた最悪の一つに踏み込む呟きを、俺ははっきりと聞いた。

 

「待てよ。あの攻略本、βテスターが書いたものなんじゃないか?」

 

「てことは、βテスターが俺たちをはめるために?」

 

「それが正しいのなら、あの情報屋とこいつがグルってことか?」

 

 止まらない。最悪だ。このままでは反βテスターの風潮は免れられない。

 

「ふざけた・・・」「あなたたち・・・」「お前ら・・・」

 

 俺とアスナとエギルが揃って反論しようとする。誰が先に言うかアイコンタクトを取った瞬間に、後ろから嘲るような笑い声が聞こえた。

 

「キリト・・・?」

 

 俺が疑問符を出しながら振り返ると、嗤った当の本人は、とてつもなくふてぶてしい表情で言い放った。

 

「元βテスター・・・?俺をあいつらと一緒にするな。SAOのCBT倍率は凄まじいものだった。その中にコアゲーマーが果たしてどれくらいいたと思う?平均の状態を比べれば、今のあんたたちのほうがよっぽどかマシだ」

 

「な、なんやと!?」

 

 その言葉にキバオウが噛みつく。だが、俺はキリトの言葉の本質が見えた。だから、これがおそらくキリトの想定通りだということも分かってしまった。

 ちらりとディアベルを見やる。彼はうつむいて唇を噛みしめていた。俺と同じで、この言葉の意図が読めたのだろう。そして、今自分がとるべき行動も。

 

「俺は常に攻略の最前線にいた。LAも数えきれないくらい取った。ボスのスキルを知っていたのは、βテストの時に、上層で刀を使うMobと散々やり合ったからだ。ほかにもいろいろ知ってるぜ。情報屋なんか、それこそアルゴが知らないような情報もな」

 

「な・・・」

 

 俺はレイドに背を向けた。おそらく、今の俺の表情は凄まじいことになっているだろう。

 

「そ、そんなのもはやチートや!反則や!」

 

「経験の有効活用と言ってほしいな」

 

 最後の言葉が火をつけた。キリトへの罵倒が容赦なく浴びせられる。やがてその響きは混ざり合い、“ビーター”という響きが生まれた。

 

「“ビーター”・・・、いい響きだな、それ」

 

 そういうと、キリトはウィンドウを操作する。すると、キリトの装備はひざ丈のロングコートになった。おそらくボスのLAドロップだろう。

 

「そうだ。俺はビーターだ。ほかのβテスターなんかと一緒にしないでくれ。

 これから俺は二層の転移門を有効化(アクティベート)しに行く。ついてきてもいいが、その時は初見のMobに殺されるくらいの覚悟は背負って来い」

 

 そう言って、キリトは背を向けて、次の層への螺旋階段を昇っていった。その姿が完全に見えなくなる前に、アスナが追いかけようとする。それを、エギルとキバオウが呼び止めた。

 

「なあ」「ちょっといいか」

 

 それに対して、エギルが一歩引く形で呼び止めた。

 

「あいつに伝えてくれへんか。“今回は助けてもろたけど、ジブンのやり方は認められん。わいはわいで、クリアを目指す”と」

 

「俺からも伝言頼む。“次のボス戦もよろしくな”って伝えといてくれ」

 

「分かった。確かに伝えるわ」

 

 そういうと、アスナはその敏捷度で螺旋階段を駆け上っていった。その姿が半分以上見えなくなったところで、俺は向き直りながら言った。

 

「ディアベル。覚えてるよな」

 

「・・・ああ」

 

 その言葉に、ディアベルは沈痛な表情のまま頷いた。

 

「さて、と。言うまでもないが、逃げるなよ?逃げたら、物理的に叩きのめす」

 

「逃げないよ。というより、逃げられないよ」

 

「そうか。ならいい。

 お互い疲れてるだろうから、単刀直入に聞くぞ。あんたもβテスターだな」

 

 俺のその確認の問いかけに、周りがざわめく。だが、俺はディアベルしか見ていなかった。

 

「沈黙は肯定と受け取るぞ」

 

「・・・いったいどこでそう思ったのかな」

 

「最初に疑問に思ったのは、ここに来るまでにキバオウが俺らに対して無駄なことを言ってきたことだ。それも刺々しく、な。俺らとしては、なんでキバオウがそんなに噛みついてくるのか、その理由の説明がつかなかった。それに、キリトがβテスト時代、LAボーナスを取りまくってたってことを知ってた、ということも不自然だ。キバオウにとって、そんな情報を知っても特にメリットはないからな。だけど、必要のために提供されたのなら話は別だ。例えば、キリトのメインアームを買い取るため、とかな。

 それに、ラスト一本になって突っ込んだ時、あんたこっちを見て得意げに笑ったろ?そこで鎌かけてみたらビンゴ、ってわけだ」

 

「ということは、あの時の僕はきれいに乗せられた、ってわけか・・・。

 うん、認めるよ。僕もβテスターだ」

 

 その言葉に、ざわつきは大きくなった。

 

「じゃあ二つ目の質問。どうして黙ってた?」

 

「それは、言うに言い出せなくて・・・。βテスターってことで嫌われたりしたら、って思うと、どうしてもね・・・」

 

「その辺は俺には理解できないんだが・・・、ま、パーティプレイに慣れた人間の思考ってやつなんだろうな・・・

 じゃ、もう一つ。キバオウにキリトのことを教えた理由は?」

 

「・・・LAボーナスを取るのに、キリト君が邪魔だったからだ。彼のやることは完璧だから、彼がいてはLAはまず不可能だ」

 

「だからあいつが鍛えたメインアームを買い取ることで、少しでもあいつの戦力を削ろうとした」

 

「だって仕方ないじゃないか!」

 

 今まで淡々と答えていたディアベルが、突然感情を吐き出すように大声をあげた。

 

「ゲーマーとして、LAを取りたいと思うのは当然だろう!?だけど、あのLAゲッターがいたらそんなことは無理なんだ!だったら、それを排除しようとするのは、そんなにいけないことなのかよ!?」

 

 それは、恐らく今までずっと我慢し続けてきた、青い騎士の本音だった。周囲が一気に静かになる。そのすべてを吐き出すような独白を聞いて、俺は一つため息を吐きながら苦笑した。

 

「いいのか悪いのかなんて関係ない。俺は真実を知りたいだけだ。欲望?んなの上等だ。俺だって、目的のために本当に合理的なら、どんなあくどい手も使うつもりだしな」

 

 そこまで言うと、くるりと背を向けた。

 

「ちょお待てや、ジブンこそ逃げるんかいな!」

 

 キバオウの声に、俺は足を止めた。だが、キバオウのほうを向くことはない。

 

「逃げるつもりはない。俺が聞きたいことはもう聞いた。俺はおたくらのパーティメンバーってわけでもない、ただのソロプレイヤーだ。ボス攻略のために手を組んだだけの、な。あとはあんたたちの話だ」

 

 そういうと、俺は二人が昇っていった螺旋階段を上っていった。

 




 はい、というわけで。
 なんでや!がないのは仕様です。誤字などではありません。じゃあキリトを糾弾したのは誰なんだ、と思う方がいるかもしれませんが、それはおいおい明かしていく予定です。

 ディアベルさんをだいぶ人間臭くしてみました。が、・・・果たしてこれでよかったのかと結構迷っております。でもこうなっちゃった以上このまま突き進む所存であります。

 次は閑話です。ストーリーにはまったくかかわらないと言っても問題ないレベルです。ちょっとだけ関わるところはあるのでナンバリングは連番にします。12/10までには絶対投稿します。そうじゃないと内容が完全にそげぶ食らいますので。

 ではまた次回。

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