ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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45.変わらない距離

 さて、そうして迷宮攻略をしていると、ある程度進んだところで安全圏にたどり着いた。そこにはすでに先客が腰を下ろしていた。が、それはあまりに無警戒だった。

 

(全くこの小娘は・・・)

 

 呆れつつ、となりに腰を下ろす。と、リラックスしたからか、欠伸が出た。どうやら思った以上に緊張していたらしい。思わず座った瞬間に目をしばたいてしまった。ちゃんとコンディション管理しないとな。

 

(人のこと言えんな、これじゃ)

 

 目頭をこすりつつ、そんなことを考える。と、隣から声がかかった。

 

「眠たいの?」

 

「まあな。寝不足にはなってないと思っていたんだが」

 

「なら寝れば?」

 

「そうしたいのはやまやまなんだがな・・・」

 

 場所が場所だけに、そこまで無警戒になるわけにもいかない。と、言おうとして欠伸が出た。と、レインが足を伸ばして、自身の太ももをぽんぽんとたたいた。意味は分かる。が、さすがにそこまで甘えるのはな、なんだかなぁ。

 

「大丈夫だって、私も強いし」

 

「知ってる」

 

 ・・・そういう問題じゃないんだっての。いろんな意味で。と、もう一度強く瞬きをした。・・・あかん、これじゃ今後にも支障が出るな。

 

「じゃ、少し、お言葉に甘えるわ・・・」

 

「うん、ゆっくりね」

 

 そういうと、俺はゆっくりと眠りに落ちた。眠りに落ちる寸前で、体が優しく寝かされたように感じた。

 

 

 

 それから少しして、俺ははっきりと目が覚めた。どうやら結構しっかり寝れたらしい。体勢は、ま、想像通りっちゃあ想像通りの膝枕。

 

「悪いな。わざわざ」

 

「いいよ、今更だし」

 

 見上げる体勢から、上半身を起こす。視界の端の時計に目をやる。大体30分くらい寝ていたらしい。

 

「誰か来たりしなかったか?」

 

「特に誰も。君が来る前に、アスナさんとキリト君が来たけど、そのくらい」

 

「そうか」

 

 とりあえず、クライン当たりに殴られるようなことはなさそうだ。あいつ、俺がこういうの(膝枕)されてるの見たら血涙流しそうだからな。比喩でもなんでもなく。・・・そんなにがっつくから女が寄ってこないんじゃねえの、とは本人の名誉のためにも言わないでおく。

 

「思い出すね」

 

「なにをだ?」

 

「25層攻略の時。同じようなことしてたなーって。立場は逆だったけど」

 

 言われて思い出す。そういえばそうだった。

 

「膝枕まではしなかった覚えがあるがな」

 

「ま、そこはそれだよ。ねえ、またパーティ組まない?」

 

「ま、こっちとしても断る理由はないな」

 

 そういってメニューウィンドウを表示させる。そのままパーティ申請を送ると、自分のHPの下にもう一本別の表示が加わった。

 

「さて、早速攻略に行くか?」

 

「そうだね。フォーメーションはいつも通り?」

 

「おう、いつも通りだ」

 

 いつも通りの感覚で攻略再開と行こうとしたところで、俺が一つの異常に気付く。

 

「なあ、あれなんだ?」

 

 それは、真正面から迫ってくる人影。数は二つ。だが、その様子は。

 

「なんていうか、なんであんな必死?」

 

「つか、どっかで見覚えねえか?」

 

「奇遇だね、私もそう思った」

 

 その影は安全圏に入ると、急停止をかけた。その二人を見て、呆れて俺が声をかける。

 

「なぁにしてんだお前ら」

 

 俺の一言に、二人は顔を見合わせて笑った。その笑いがこちらにも移り、しばらく笑い合っていた。

 

 

 

 で、その笑いが収まった後、事情を聞いて。

 

「で、それであんなふうに走ってきた、と」

 

「はは・・・」

 

 ごまかしたように笑うキリトに、俺は呆れが多分に混じったため息交じりの苦笑を浮かべた。全く、現状攻略ツートップも一皮めくればただの少年少女か。ま、当然っちゃ当然か。

 

「で、どんな感じなんだ、そのボスって」

 

「名前は、確か、グリームアイズ、って名前だったな。見た目は、山羊頭みたいなほうの悪魔で、大剣を持ってた」

 

「となると、力で押してくるパワータイプって考えるのが自然か・・・。盾持ちが大量にほしいな」

 

「ブレスとかにも警戒しないとね」

 

「盾、ねえ・・・」

 

 キリトの言葉を受けて、さらに俺たちは分析をかける。そのあとに、アスナが怪訝な顔を向けた。

 

「・・・なんだよ?」

 

「キリト君、何か隠し事してない?」

 

 それにかすかに表情の変わるキリト。・・・全く、それじゃばれるぞ。

 

「どうしてだ?」

 

「だって、片手剣の最大の長所って、盾を持てることでしょ?私の細剣(レイピア)とかなら、スタイル重視で持たないって人も多いけど・・・怪しい」

 

「それこそスタイルだろうよ。仮にもキリトも体術持ってるわけだし」

 

 疑いの目を向けるアスナを、俺はため息交じりに諌める。その言葉に、アスナも追及をあきらめたようだ。

 

「それもそうね。そもそも、他人のスキル構成を聞くのはマナー違反だし。

 そろそろいい時間だし、お昼にしましょうか」

 

「あれ、そんな時間・・・だな」

 

 視界の端で時間を確認すると、確かに昼過ぎになっていた。気づかなかった。

 

「そういえば、二人は今から攻略しようとしていたのか?」

 

 キリトの疑問に、俺たちは揃って黙り込む。うん、全く反論できないぞー。

 

「昼飯抜きで攻略する気だったのか?」

 

「黙れ小僧(戦闘狂)

 

 某白い狼みたいな声になったが、仕方ないと思う。すっかり忘れてただけだ。

 

「なら、私たちも腹ごしらえしよっか。どうせ作ってきてるんでしょ?」

 

「俺かよ!?ま、作っては来てるが、粗雑極まりないからな」

 

 思わず突っ込みつつ、ストレージから今日の昼食を広げる。横からの視線にはもうすでに気付いていたので、俺はうち一つを放った。

 

「えっと、これは?」

 

「鹿肉っぽいものの蒸し焼き香草包み。その葉っぱは皿っつーか包み紙代わりにもなるが、食えんからな。どうせこれ目当てだったんだろ?」

 

 言われた通り包み代わりの香草を開けると、焼かれた肉独特の色合いのものがそこにあった。隣で咀嚼する俺を見て、レインも口にする。

 

「おいしい」

 

「うん、いい出来だ。個人的にはもっとレアぐらいがちょうどいいが」

 

「ねえ、私にも食べさせて」

 

 俺たちの様子を見てか、アスナが横から顔を出してきた。レインから差し出されたそれを一口かじって、アスナは驚いたように声を上げた。

 

「確かロータス君って、基本的に戦闘スキルばっかだったよね?」

 

「だな。ほんの一部例外はあるが。どうしてだ?」

 

「普通、料理スキルがないと、料理って体をなさないよね・・・?」

 

「ほとんどマニュアルに切り替えてやった。ましてやこれなんざ適当な串にぶっ刺して焼いたやつを、臭み消しになりそうな香草で包んでアイテム設定しただけのモンだ」

 

「適当な串にぶっ刺して、焼き加減は?」

 

「練習だ」

 

「いや普通それじゃ済まねえからな!?」

 

 キリトからツッコミが入った。が、俺からしたらそうだからどうしようもない。かの赤軍の白い悪魔だって射撃のコツは練習らしいし。練習ってすごい。

 

「・・・驚いたわ。スキルなしの料理なんて無理のはずなのに」

 

「無理じゃねえ。タイミングがやたらシビアなだけだ。だったら見切っちまえばいい」

 

「・・・そういう問題?」

 

「そういう問題だ」

 

 俺の返答に、アスナは額に手を当てた。・・・うーん、俺からしたら本当にそういうもんなんだがなぁ。

 

「ところで、アスナのそれは、サンドイッチか?」

 

「うん。一つ食べる?」

 

「ならありがたく」

 

 言葉に甘えて一つ口に放り込む。と、想像以上にうまい。

 

「めっちゃうまいな。金取れるぞこれ」

 

「そんなに?」

 

「どうやって作ったのか気になるレベルだ」

 

 少なくとも、ポッと適当にレシピに放り込んだだけ、なんて馬鹿な話はあるまい。そう思っての問いかけに、アスナは胸を張った。

 

「これまでの味覚エンジンの分析データの賜物よ。その結果、あれこれ作り出せたんだから。例えばこれ」

 

 そういわれて三人が手を出す。ぺろりと舌でひとなめしてみれば、それはまごうことなき

 

「「「醤油だ」」」

 

 見た目の色があっていないのは、まあ、ご愛嬌というか、仕方ないというか。そもそもがここまで再現できた時点で驚きだ。

 

「ほかにもあるわよ」

 

 そういわれてまた三人とも手を出す。と、

 

「「「マヨネーズだ」」」

 

 これまた驚き。ここまで再現できるもんなのか調味料の味って。このままだとポピュラーな調味料は一式そろえられそうだ。

 

「こりゃ本格的に金がとれるぞ」

 

「すげえよアスナ!」

 

 俺の感心した、冷静な言葉とは逆に、キリトは興奮してアスナの手を取っていた。突然のことだからか、頬を赤らめるアスナに対し、俺は思わず口角が上がるのを自覚した。

 

「ロータス君」

 

「へーへー、分かってますよー」

 

 何をしようかを先回りされて、俺はあきらめたように声を上げた。ちっ、からかうと面白そうだったのに。

 

「だ め だ か ら ね?」

 

「分かったっての」

 

 言外の圧力に、俺は本格的にからかうのをあきらめた。と、そんなことをしていると、遠方に感。半ば反射で目をやりつつ、いつでも抜刀できる体勢に移行する。見えた人影に、俺は再び力を抜いて体制を戻した。

 

「なんだ、あんたか」

 

「なんだとはご挨拶だな。いきなり斬りかかることも辞さない雰囲気を一瞬でもだされたら、こちとら警戒するしかねえじゃんか」

 

 俺の言葉に、寄ってきた相手、風林火山のクラインはため息をついた。

 

「それもそうだな。悪い」

 

「いや、いいってことよ。キリトも。元気そうで何よりだ」

 

「だな」

 

 と、そこでクラインの視点が行ったり来たりした。その先はアスナとレイン。と、突然気を付けをして、

 

「くくくクラインと言います24歳独身―――」

 

 と、最後まで言い切る前にキリトの腹パンで強制終了。HPは全く減っていないもののダメージフィードバックはしっかり入る。うん、お見事。

 

「ひ、ひでえよキリの字・・・」

 

「「いや、今のはリーダー(クライン)が悪い」」

 

 クラインの抗議が俺と、風林火山の誰かのツッコミで笑いに変わったところで、改めて世間話になろうとした。ところに、索敵にもう一度引っかかった。

 

「多いな」

 

「え?」

 

 レインの言葉には反応せず、俺は反応のあったほうを睨む。

 

「ん、どうしたよ?」

 

「集団が来る」

 

「みたいだな。二つぶんか?」

 

「いや、多分一つだ」

 

 俺の様子に気付いたクラインが俺に問いかけ、返答にキリトが乗じる。想像通りであるなら、あいつらのはずだ。横目で索敵の光点を数える。どうやら死んではいないようだ。

 

 想像通り、近づいてきたのは軍だった。指揮官を先頭に、集団は俺たちの近くまでまっすぐに来た。どうやらやり過ごす、ということはできないらしい。

 

「休め!」

 

 その号令で、集団が崩れ落ちる。だが、指揮官はこちらに向けて言い放った。

 

「私はアインクラッド解放軍、コーバッツ中佐だ。君たちは、マッピングを済ませているのかね?」

 

「俺はボス部屋前まで済ませてある」

 

「結構。ならば、そのデータを提供してもらいたい」

 

 その遠慮のない物言いに、俺は眉を動かした。

 

「もう少し言い方ってもんがねえか、あんた」

 

「そうだぜ、マッピングの苦労が分かってんのかよ」

 

 俺の言葉に、クラインも同調する。その反応に、指揮官は毅然と反論した。

 

「我々はゲームクリアのために動いている。君たちがプレイヤーである以上、我々に協力する義務がある!」

 

「お前―――」

「いいよ、クライン」

 

「キリト!」

 

「もともと街に戻れば公開するつもりだったんだ。少し早まるだけだ」

 

 そういうと、メニューをスクロールする。そのままマップデータを確認すると、指揮官は社交辞令のように―――実際そうなのだろうが―――「協力感謝する」といった。その反応に何か思うところがあったのだろう、キリトが声をかける。

 

「ボスにちょっかいだすのはやめといたほうがいいぜ」

 

「それは私が判断することだ」

 

「他人の忠告も聞いたほうがいいと思うがな。それに、人数が足りない上に、メンバーの疲労もたまっていると見える」

 

「私の部下はそんな軟弱者ではない!!貴様ら、さっさと立て!!」

 

 俺の指摘に、指揮官はかっとなって怒鳴った。俺はその様子に、一つため息交じりに言葉を漏らした。

 

(またそれか)

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いや、あんたが他人の忠告を聞かない、ってことを再認識したってだけだ。さっきといい、な」

 

 俺の言葉に、指揮官は怪訝な顔をした。どうやら、本気で心当たりがないらしい。

 

「装備を変えなきゃわからんか」

 

 そういうと、俺はメニューをスクロールした。先ほど使っていた、顔の隠れるくすんだ赤色のフードを身に着ける。そのまま、顔を隠している部分をスライドさせ、露出させる。

 

「これで、ようやくわかったか?」

 

「同一人物という確証がどこにある!?」

 

「なら、これでどうだ」

 

 そういうと、俺は一歩で間合いを詰めてオニビカリを首筋に当てた。それに、部下の何人かは反応できたようだ。

 

「さっきよりは反応が良くなってるっぽいな。だが、まだ遅い。俺が間合い詰めた時点で反応しないと間に合わないぞ。それに、反応したはいいけど体が動かなかったやつもいる。へばりだしてる証拠だな。何より、この刃紋は覚えてるだろ?」

 

 峰を肩に乗せ、ゆっくりと目の前を通過させつつしまう。それに、軍のメンバーも得物をしまった。

 

「赤装束に二刀流・・・まさか、鮮血の蓮・・・!」

 

「あら、まだその通り名残ってたんだ」

 

 俺の言葉に、軍の何人かがおののいた。いつもは微妙な反応になることが多いのだが、今回ばかりはこの物騒な通り名に感謝だ。

 

「馬鹿な、やつはラフコフに所属していたはず・・・!」

 

「いつの話してんだよ」

 

 呆れて声を出す。俺がラフコフに所属してたのなんざ相当前だぞ。ラフコフが討滅された、なんてすでに情報が出回ってるはずなのに。

 

「ま、だからこそだ。今のおたくらはぶっちゃけ隙だらけ。その気になれば5分で全員殺せるね」

 

「ならばやってみろ。この数相手にそれができるかどうか」

 

 その指揮官の声に、何人かが抜剣する。それを見て、俺は目を細めた。

 

「ほう、よく吠えた」

 

 言いつつ、俺は右手を刀にかける。周囲は思わぬ一触即発に動揺するが、

 

「止めるな!」

 

 俺が一言言い放つ。

 

「でもよ・・・!」

 

「なに、ちょっと灸をすえるだけだ。それに、こいつらの口ぶりから察するに、こいつはボスの首級をお望みのようだからな。ここらで俺一人に負けるようでは、おとなしく引き下がったほうがいいってもんだ」

 

 何より、こいつらの底はもうすでに見切っている。俺からしたら、これは本当に灸をすえるだけだ。

 

「全員、突撃!」

 

 その言葉に、部下がそろってこちらに向かってくる。それに、俺は抜刀せずに近寄った。まず手始めに、上段から得物を振り下ろそうとした一人を、その手首を取って勢いそのままにぶん投げる。囲むように背後から来た相手は顎を殴ってから当身で黙らせる。そのまま回転させて時間差で近寄ってきた相手数人に向かって投げると、そのままそのあたりの集団は崩れた。

 

「さて、と。これで半数くらいはやったかな。で、まだやる?」

 

 あっという間、それも得物を使わずに、HPを一ドットも減らさずに、だ。手加減できる相手っていうあたり、練度の低さがうかがえる。

 

「なにをしている貴様ら!さっさと立たんか!」

 

「OK、後悔するなよ。言っとくが、俺は一時オレンジなんざ気にしないから」

 

 ラフコフの時といい、今といい、オレンジの時期は長かった。俺からしたら今更拘泥する理由がない。あえて刀ではなく、取り回しのきくオニビカリを左手で抜き放つ。それだけで、数人が委縮した。

 

「前衛、攻撃開始!」

 

 その声で、大体4人ぐらいの盾持ちが突貫する。装備から言っておそらくタンク。だが、俺からすれば、

 

「ぬるい」

 

 まっすぐ走るように見せかけ、直前で跳躍して、正面のやつに膝蹴りをかます。相手は驚きつつ防ぐが、俺からしたらこのくらい想定内。勢いそのままタンクを飛び越して、その後ろに突貫する。

 

「なにをしとる!攻撃隊、攻撃開始!」

 

 その号令で構えるが、その時にはすでに遅い。俺はもう懐に飛び込んでいた。

 向かって右のやつはオニビカリで得物を叩き落とし、正面のやつは振り下ろしてきたところに得物を側面から思いっきり蹴とばし、振り返りざまオニビカリを納刀して突き出された槍をもってぶん回して投げる。これにさらに数人巻き込まれたことを確認せず、俺は最後衛に近いところに踏み込んだ。

 

「全員―――」

「遅い」

 

 指揮官が指示を飛ばそうとするが、その時にはすでに遅い。俺はその兜の目の前にオニビカリの切っ先を突き付けた。

 

「もう一度聞くぞ。まだ、やるか?」

 

 静かに問われた問いかけに、相手は完全に固まった。ここまで、俺は攻撃らしい攻撃を一切していない。にもかかわらず、約半数ずつも戦闘不能にし、一度は指揮官の首級を取るところまで行っている。実力差は火を見るよりも明らかだ。

 

「ならば、ここは退こう。だが、貴様とボスの強さの質が違う、ということは間違いがあるまい?」

 

「あんた、まだそんなこと―――」

「そうか。そこまで言うんなら、止めはせん」

 

「ロータス君!」

 

 キリトの言葉にかぶせるように言った俺の言葉を、アスナが驚愕の声で追従する。

 

「そこまで言うのなら、止める理由はない。ただ、―――死んでも後悔するなよ」

 

 俺の言葉に、指揮官は背を向けて去って行った。その集団が向かうのは、奥の方向。どうやら、忠告を聞き入れる気はなかったようだ。

 

「全く。あそこまで頭が固いとは」

 

「それよりなんで止めさせなかったのよ!?」

 

「ああも意固地になってる相手を説得するほど暇じゃない。死ぬのなら勝手に死ね。と、言いたいところだがな。さすがにあそこまで言った手前、放っておくってのもな。そういう相手には、古今東西これのほうが効くだろ?」

 

 軽く拳を作りながらの言葉に、アスナは呆れてため息をつきながらこめかみを押さえた。

 

「何たる脳筋思考・・・」

 

「でも、そっちのほうが速そうだなー、っていうのは、賛成かな」

 

「レインちゃんも!?」

 

「だって、話を聞かない相手に対して対話なんて無理なんだし。だったら一回無理矢理でもおとなしくしたほうが早そうだし」

 

「あいつら、よもや本当にフロアボスに挑むつもりじゃないだろうな・・・?」

 

「俺が後をつけよう。何、あの練度を考えれば、索敵スキルをコンプリートしてるやつはおらんだろう。隠密っていう点では、俺が一番だろうし。それに、あれだけ言った手前、俺なら様子を見ても不自然ではないし」

 

「私も行く。隠密スキルなら、私もコンプリートしたし」

 

「俺としてはレインが来てくれることは万々歳なんだが・・・」

 

 ちら、とキリトたちをうかがう。キリトはサムズアップで、アスナは目線で返した。

 

「攻略の鬼神、幸運を祈る」

 

「俺は核ミサイルの再突入でも阻止せにゃならんのかよ」

 

 クラインに至ってはこのノリだ。ま、問題はないだろう。

 

「よし、なら行くか。こっちも索敵で探りながらにはなるが、ま、あれだけの大集団だ。どうにでもなる」

 

「そうだね」

 

 それから、俺たちの追跡が始まった。

 




 はい、というわけで。
 今回は74層迷宮区でのお話でした。

 なんていうか、主人公コンビのやり取りが結構面白いです。微笑ましいというかなんというか。

 料理のマニュアル設定に関してはオリジナルです。そういうのがあってもいいよなー、っていうちょっとした遊び心です。

 そしてコーバッツさん、石頭度合いが増している気が。気のせいじゃない、ですよね。ま、この人のおかげで少々この後の展開が少しばかり楽になりそうなので、ま、このくらい石頭でもいいかなー、と思わなかったり。

 最後のほうのクラインのセリフはエースコンバットゼロのセリフですね。最終決戦の途中のムービー内でのAWACSの台詞です。結構このセリフ好きなんですよね。

 さて、次回は74層ボス攻略です。当たり前ですが主人公たちがいるので違う展開になります。その関連でこの先のオリジナルエピソードにつながるわけですが、それは次回のお楽しみということで。

 ではまた次回。

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