ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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44.不穏な気配

 さて、そんなことがあった帰り。久々に、何となく夜にアルゲートのエギルの店に来た。ここは、まあもちろん時間にもよるが、夜はたまにバーになっている。本人曰く、趣味らしい。趣味で夜遅くまでバーとは粋なものだ。ま、エギルのなかなか趣味のいい家具のチョイスにより、ここは大人の富裕プレイヤーの間で隠れ家的人気を博している。らしい。ま、当の本人ちょくちょく店空けてたりするから、そういう点でも本当に趣味なのだろう。

 

「よう」

 

「おお、お前さんか。あれか?」

 

「おう、あれだ。久々に飲みたくなってな」

 

 見た目こそいかつい黒人巨漢なので、初見だとどうしても腰が引けるのだが、俺が攻略組復帰したボス攻略でも全く嫌な顔をしなかった、数少ないメンバーの一人だ。

 俺の目の前に置かれたロックグラスに入っているのは、大きめの氷と明るい茶に似た液体。

 

「しっかしまあ、よくもまあこんな世界に酒なんざぶち込んだよなぁ。未成年も多いだろうに」

 

「現実で酔わないからいい、という考え方なんだろう。ガキンチョの舌に酒はまずいだろうしな。どちらにせよ、ゆっくり飲めるんならいいじゃねえか」

 

 そういって、エギルは店の外に一瞬だけ出てすぐに戻ってきた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、今日は俺もゆっくり飲みたいんでな。客も来なさそうだし、店じまいだ」

 

「おいおい、クライン当たり来たらどうするよ」

 

「また今度売値をサービスしてやるよ」

 

「売値つってもぼったくり価格なんだろ?」

 

「失礼な。ぼったくりはしねえよぼったくりは」

 

 そんな馬鹿話をしつつ、マスターも自分のタンブラーに酒を注ぐ。相手が軽くグラスを上げたのに合わせ、俺も軽くグラスを上げて一口。

 

「なんかあったのか?」

 

「それがな、聞いてくれよ。キリトがよう、ラグーラビットの肉取ってきたんだよ」

 

「ラグーラビットぉ!?」

 

 驚きから、思わず大きな声がでる。ラグーラビットといえば、こちらの世界では最高級品の肉だ。しっかり調理すれば、それはそれは美味だという。現実世界で言う最高ランクの和牛などがこれに位置する。

 

「最初は俺に取引持ちかけてきたんだがな、あいつ、アスナを見るや否やそっちに行きやがって・・・。畜生、食いたかった・・・」

 

「ああ、なんつーか、ドンマイ・・・。同情する」

 

 かなりご愁傷さまだ。極上の食材があるのに食えないとは、生殺しである。俺だって同じ立場なら地団太を踏むだろう。

 

「しかも、アスナもアスナで護衛振り切ってキリトの誘いに乗ってるし」

 

「わっはっは、若いとは良きかな良きかな」

 

「笑いごっちゃねえよ。そのアスナの護衛、かなりアスナに入れ込んでたみたいだしなぁ」

 

「へえ、どんな奴なんだ?」

 

「ん?かなり細い奴だったぞ。細いっていうより、痩せてるって感じだな。確か名前は、クラ、なんたらとか言ってたな」

 

 口元までもっていった、グラスを持った手が止まった。馬鹿話をして上がってた口角が下がる。

―――まさか。

 

「クラディール、か?」

 

「あー、そうそうそんな名前だった!」

 

 一気に酔いがさめ、頭が冷えた。

 

「ん?お前さん知ってるのか?」

 

「・・・昔のことだ」

 

 一回グラスを置いて、ゆっくりと氷を指で回す。こうすると少しだが、中身が冷える。そうか、あいつが。あいつが、アスナの、護衛。俺の昔の意味を的確に感じ取ったのだろう、エギルが少し黙った。

 

「しっかしまあ、なんでアスナに護衛なんざ。生半可な奴だったらかえって足手まといだろう」

 

 努めて元のトーンで話す。だが、先ほどの穏やかに飲んでいるような気分ではなかった。

 

「なんでも、最近何通か、殺害予告の手紙がKoBに届いたらしくてな。で、一応念のため、幹部陣に護衛が付くことになったんだと」

 

「へえ。かなり最近の話なのか?」

 

「ここ一週間くらい、だったかな。お前さん、その手の話聞かないのか?」

 

「興味がないからな」

 

「おいおい、しっかりしろよ若人。もう少し人生楽しむ努力したらどうだ」

 

「悪いが、そんな努力のやり方を知らなくてな。それと、若人なんて言ってると爺臭く見えるぞ」

 

 軽口の応酬をしつつ、冷静に頭を回す。あいつが、アスナの、護衛。なら、殺すチャンスはいくらでもあるはず。ただ、あいつも仮にも、レッドの生き残りのようなもんだ。俺たちの教え通り、殺すときは確実に、一発で。それを徹底するはず。とすれば、今は機をうかがっていると考えるのが自然。手紙もおそらく、そのための仕込みだろう。だが、大きな疑問がある。

 ごまかすように、俺は話題を変えた。

 

「なあ、そういえばキリトはどうするんだ?あいつのことだ、マイホームなんて持ってないだろ。厨房借りる、って思いつくような奴じゃねえだろ、あの戦闘バカは」

 

「そういえばそうだな。聞いてねえが、アスナの家に行くんじゃねえか。アスナは料理スキルコンプしたって言ってたし。案外押しの強いアスナだし、無理矢理パーティ組むくらいはするんじゃないか」

 

「やりそうだな、そのくらいは」

 

 最後の一口を飲み干す。その反応を見て、エギルが声をかけた。

 

「どうする、もう一杯飲むか?」

 

「いや、今日はもういい」

 

 それだけ言うと、俺はお代をテーブルに置く。―――考えることは山積みだ。ゆったり酒飲むのはまた今度。

 

「ごっつぉさん」

 

「おう、また頼むぜ」

 

 それだけやり取りをすると、俺は店を出た。

 

 

 

 店を出て、拠点の宿に戻って考える。やはり、疑問が残る。俺らの、仕留める機会をしっかり見極め、一発で殺すという教訓を守っている、と考えるのが、やはり自然だ。となると、この場合はアスナがターゲットと考えるのが自然。が。

 

―――アスナを殺す?アスナ信奉者のあいつが?

 

 それが、ずっと気になっている、大きすぎる疑問。妄信的に信奉している相手を殺す、というのは、なかなかない発想だ。護衛についたのはまだわかる。そうすれば、信奉している相手のそばにいる理由ができるからだ。だが、ならばなぜ。

―――いや。

 そばにいる理由が欲しい。そのためには、()()()()()()()()()()()()()()()()()。なら、ターゲットは、―――キリトか。アスナのキリトに対する思いは、少し見ていればバレバレだ。ターゲットにする理由としては十二分。

 しかし、キリトか。ならある程度機会をうかがうのも分かる。正面切って殺すというのも難しい。さすがに俺も、アスナの目の前で殺しをするほど命知らずじゃない。本気でブチ切れたあいつを相手取るのは怖い。攻略の鬼対鬼神の片割れ、字面はいいかもしれんが、当人からしたら本当に怖い。さすがにその時は、この命を散らす覚悟をする必要もあるやもしれん。

 

(・・・とりあえず、考えるのは後にするか)

 

 ならば、普通に接触できるタイミングを計るか。なら、どうせ明日は迷宮攻略の予定だった。そこでの接触を狙うか。そう思って、俺は眠りについた。

 

 

 

 翌日。74層の転移門広場に、意外な影が意外な状態でたたずんでいた。珍しいな、と思いながら、俺は近寄って声をかけた。

 

「よう、キリト。珍しいな、待ち人か?」

 

「ああ、ロータスか。・・・まあ、そんなとこだ」

 

「アスナか?」

 

「ああ。って、なんでわかったんだ?」

 

「昨夜、エギルんとこで一杯飲んでな。そん時に、ラグーラビットの一件を聞いたんだよ。ところで、その様子から察するに、アスナが待たせてるのか?」

 

「ああ」

 

「珍しいな、アスナが遅刻なんて。ま、お邪魔にならんうちに先行くわ」

 

「そっか。そっちは攻略か?」

 

「まあな。てか、装備みりゃ分かるだろ」

 

「それもそうだな」

 

 お互い、最前線に出ることを想定した、現状の最高装備。それは、見るやつが見れば一発でそれと分かるような、独特の雰囲気がある。

 

「んじゃ、俺は先行くぜ」

 

「おう、またな」

 

 そう言い残すと、俺はその場を離脱、するふりをして、物陰に隠れた。さっきも言ったが、アスナは基本的に時間をしっかりと守る口だ。そのアスナが時間を守らない、ということは、何らかの事情があるはず。もし万が一、クラディール関連であるのであれば。と、考えていると、転移門が光った。そのあと、なにやらキリトと交錯した。直後、悲鳴を上げてキリトが吹っ飛ばされた。アスナが胸の前で腕を交差させる形で肩を抱えているところを見ると、どうやらラッキースケベが発動したらしい。・・・つってもアスナ、ありゃ半分不可抗力だろ。あの至近距離はさすがに躱せないわ。揉んだのなら問答無用で鉄拳制裁待ったなしだが。と、再び転移門が光ったところで、アスナが素早くキリトの陰に隠れた。出てきたのはクラディール。

 

「アスナ様、勝手をされては困ります!ギルド本部までお戻りください!」

 

「嫌よ!今日は活動日じゃないでしょ!大体、なんであなた私の家の前で張り込んでるのよ!?」

 

「私はアスナ様の護衛です。それには、家の監視も―――」

「含まれないわよ!!」

 

 ・・・もともとアスナ信奉者だったが、こりゃひどくこじらせてんなー。はたから見りゃただのストーカーだぞこれ。どこぞの第四真祖の監視役じゃねえんだから。と、無理に腕をつかんで引きずって行こうとするその腕をキリトがつかんだ。

 

「悪いな。あんたのとこの副団長様は、今日は貸し切りなんだ。それに、あんたよりはましに護衛が務まると思うぜ。そんじょそこらのやつなんざ一ひねりにできるしな」

 

 その挑発まがいの―――いや、これは明らかに挑発か。とにかく、その言葉に、クラディールは顔面を朱に染めた。

 

「貴様ァ・・・それだけの大口を叩いたからには、それ相応の覚悟というものがあるんだろうなぁ・・・!?」

 

 あーあ、こりゃダメだ。ただでさえも実力者のキリト相手に、こんだけ血を上らせちゃだめだ。PvPは冷静さが肝だ、って俺言ったはずなんだけどな。ま、関係ないか。

 デュエルに関しては、キリトが一刀のもとにクラディールの得物をへし折った。幅の広い両手剣の(しのぎ)を重量片手剣で強打すれば、ま、ああなるわな。

 

「得物を変えて仕切りなおすなら付き合うけど、そうまでする意味は―――」

「くそがあああぁぁ!!」

 

 キリトの言葉は途中でぶった切られた。短剣を持ったクラディールが、怒りそのまま突進する。が、横合いからアスナが得物を弾いた。

 

「あ、アスナ様―――」

「クラディール。指示を告げます」

 

 動揺するクラディールをよそに、アスナは淡々と告げる。

 

「副団長権限で、現時刻をもってすべての任務を解除。以降、別命あるまで本部で待機。以上」

 

「そんな―――」

「これ以上は時間の無駄です」

 

 きっぱりと、淡々と言い切ったアスナに、クラディールはうなだれた。小声で何か言ったようだが、聞き取れなかった。が、空中にデュエルのリザルト表示が出たことで、クラディールがリザイン宣言をしたのだろうと気づいた。そのままクラディールはグランザムへと転移した。

 

(―――厄介だな。さすがにKoBの本部に乗り込むわけにゃいかん。だがま、何もできないって保証ができただけ、ましとするか)

 

 そう思うと、俺は迷宮へと向かった

 

 

 

 迷宮へ続くダンジョン―――昨日ボス狩りをやったあの森だ―――で雑魚を狩っていると、俺は妙なパーティを見つけた。見つけた、というより、妙な音を聞いた、というべきか。とっさにメニューから隠密用の装備に変えると、上手く物陰に隠れた。そのまま、索敵スキルの応用である遠視スキルでそちらの方向を見つつ、静かに隠れる。と、別の二人組。こちらは分かりやすい、白と黒。音をできるだけ殺しつつ、そちらに回り込んだ。

 

「よう、お二人さん」

 

 静かに俺は声をかける。と、二人が驚いて声を上げようとするのを、唇に人差し指を当てて押さえる。

 

「静かに。感づかれる」

 

 空いているもう片方の手で方向を指さす。それで二人とも、その奇妙なパーティに気付いた。で、ここで一つ問題発生。

 

「でも私、装備が・・・」

 

 アスナは、いつも通り、KoBの白基調装備。これではさすがに目立ちすぎる。さっと俺はメニューを操作した。パッと目についた隠密能力が高そうなやつって言うと、

 

「これでも使え」

 

 ぽいと俺は適当な黒いフード付きのコートを放る。それに袖を通して、三人で隠れた。ちなみに、俺はすでに某緑茶チックな装備になっている。顔の無い王は使えないが、十分な隠密性を備えているはずだ。

 最前線である以上、パーティを組むのは自然だ。俺やキリトのように、ほとんどソロで狩り続けている輩のほうが珍しい。だが、多すぎるパーティは、かえって首が回らなくなる。だから、普通に攻略するときは5、6人で攻略することが多い。だが、あの集団はそんなちゃちな集団ではない。見たところ、10名はいようかという、普通の攻略と考えれば大集団だ。仰々しすぎる。それに、動きがそろいすぎている。これでは、突発事象が複数発生したときに、かえって対応が遅れることが想定される。それに、一様にそろえられた、あの深緑の装備。

 

「軍、か?」

 

「やっぱりそう思うか。でも、軍は最近前線に出てきてないぞ」

 

「こっちでも、前線に出てくるなんて情報は聞いてないわ」

 

 どうやら俺の直感は当たっていそうだ。アスナが聞いていないということは、本当に今回は突発事象である可能性が高い。ここは、

 

「俺が尾行してみる。どうせ索敵スキルそんなに高くないだろうし、隠密ボーナスのある装備も大量にあるしな」

 

「そう、だな。悔しいが、俺たちよりその手のスキル、高そうだしな」

 

 キリトも適性を認めていた。ま、この辺はあれだな、昔取った杵柄というやつだ。こんな形で生きるとは思ってなかったが。

 

「つーわけで行った行った。俺だってお忍びデートにこれ以上介入する気はねーよ」

 

「「デートじゃない!」わよ!」

 

「息ぴったりじゃん。あ、それは返さなくていいぞ。その手のやつなんざ大量にあるから」

 

 俺の茶化しに、揃ってしかめっ面をする白黒夫婦。もうこいつら夫婦でいいだろ。いつまでラブコメ空間作ってる気だ全く。ま、そんなわけで二人を先行させると、俺はゆっくりと、一定距離を保ちつつ気配を殺してあとをつけた。

 

 

 

 そのまま一定距離でつけて、気づいたことがいくつかあった。一つは、少なくとも全員がそれなりのレベルには達していること。装備は業物とはいいがたいが、それなりでそろえている。が、その装備でやっているということを考えれば、討伐時間は長いとはいいがたい。そして、これは軍らしいと言えばそうなのだが、非常に規律正しい。足音はほとんど崩れないし、陣形の指示も比較的適切。だが、一番の問題は指揮官の性格だ。体力などの不足を気力でカバーしようとするきらいがありすぎる。こういうところで、体力不足は致命的だ。その辺はどうしても実践不足と言わざるを得ない。それを無理に気力でカバーしようとすれば、最悪死を招く。それを分かってやっている節がない。陣形は手堅く、無理な攻撃をしない。深追い禁止を厳命しているのがよくわかる攻め方だ。だからこそ、適度な休息が必要だろうに、この指揮官はそれを考えていない。というより、する余裕がない、の間違いか。それもおそらく、レベリングや経験の不足だろう。ま、はっきり言って、

 

(認識が甘い)

 

 もう少し練度を上げてから出直してこい、というのが本音。ましてや、慎重を期してというのは分かるが、高々迷宮区攻略ごときに2パーティ分もの大集団で人海戦術をしている時点でアホと言わざるを得ない。迷宮区攻略なんぞ、最悪ペアでもできる状態まで経験なり積んでから出直してこいというもんだ。かといって、今中断させるのは、それなりにリスクがある。

―――いや。これまでの傾向を考えれば、迷宮に入ってすぐに安全圏はないはず。それに、迷宮区はほとんど暗く、集中力を食う。なら。

 装備を変える。あえて木に近い色の装備から、くすんだ赤い色フードが付いた、顔の見えない装備に変える。相手の視界を分析しながら、上手く相手の死角を突いて静かに接近する。とうの昔に隠密スキルは最低限まで解除してある。そもそも、今の俺の装備は、くすんでいるとはいっても、森の緑の補色に当たる赤い装備。索敵スキルや周囲の注意を払えば十二分に感知できる距離にいるはずなのだ。それができないところからも、練度の低さがうかがえる。頃合いを見て、俺は一気に間合いを詰めつつ、スローイングタガーを投げた。もちろん、当てる気はない。だが、脅しには十分なる。実際、耳元で風を切る音がして、弾かれたようにこちらを向く。が、その時はもう遅すぎる。司令官の首級をとれる位置に、俺はオニビカリを添えた。寸止めではあるが、それがはっきりとわかる寸止めだ。ま、当然ではあるが俺のほうにはパーティメンバー数人から刃が突き付けられている。だが、俺は全く委縮などしなかった。する道理もない。

 

「全く、ここまで俺の接近に気付かないとは。反応したやつも半数いない。それに、反応したやつも、俺が寸止めする前じゃなくて、その一秒後くらいに反応してるだろう。その前にはスローイングタガーを外した音が聞こえてるにもかかわらずだ。本当に俺が首を取りに来ていたらどうするつもりだ?」

 

 俺の疑問に答えるやつはいない。そもそもが反応もできていないやつもかなりいるのだ。

 

「これだけ人間がいるのに、警戒も何もあったもんじゃない。出直してこい」

 

 距離を取って刀をしまう。もとより斬るつもりなんざ一切なかったから、装備はそのままだ。パチンという鯉口の音で、ようやく相手も警戒を解く。司令官だけ、その緊張の糸は切っていなかった。それに関しては正解だ。彼我のレベル差を考えれば、抜刀で腕の3、4本は飛ばせる。

 

「貴様、何者だ」

 

「なに、通りすがりの元プレイヤーキラーのごろつきだ。少なくとも一息入れたほうがいい。動きに疲れも見える」

 

「私の部下はそんな軟弱者ではない!!」

 

 俺の言葉に、司令官はかっとなって怒鳴り返した。が、俺は全く動じなかった。

 

「そういう意味じゃない。人間ずっと集中できるわけじゃないんだ。そういう点では、少なくともマックスの集中じゃないだろう。こんな緑だらけの場所で、普通なら目立って仕方のないこんな装備のやつに、あんたは首を取られかけたんだ。しかも、10人以上なんていうふざけた大集団でありながら。

 この先、すぐに迷宮区がある。幸いなことに頭数はいる。交代で見張りを立たせて休憩すればいい。少なくとも今よりはましになるはずだ」

 

 怒鳴り声に全く委縮しない、俺の静かな言葉に、司令官は黙り込んだ。

 

「貴様、なぜそんなことを言う」

 

「さすがにこんなに大量に目の前で死なれたら寝覚めが悪いのでな。警告はした。行くも帰るも、それはそちらが決めることだ」

 

 それだけ言い残すと、俺は迷宮に向かった。さて、これが吉と出ることを祈るか。

 




 はい、というわけで。

 今回から一気に原作介入です。
 クラディールと決着付けるはいいものの、情報源どうするよ。ということで考えたのが、エギルの店。別に本職もバーテンみたいなもんだから問題ないよねこの人。というか、このあとがきを書きながら思ったこと。・・・一応この主人公20代前半設定なんだがなぁ、なんで若干哀愁すらも漂うのか・・・。ま、そんなこと言ったらエギルだって30くらいだし。まあいっか。

 鎬、というのは、刃物の横っ面のところですね。横っ面って書いてもよかったんですが、ぴったりな表現があったのでそのまま採用。

 補色というのは、色円環での対岸に位置する色のことです。緑の場合は赤、黄色の場合は黒がそれにあたります。いわゆるトラ柵をイメージすると分かりやすいのですが、その組み合わせは非常に目立つ組み合わせとなります。要するに、ロータス君は自ら隠密性をかなぐり捨てたわけですね。
 あ、ちなみに格好としてはエミヤ[アサシン]を思い浮かべていただければ大体あってます。キャリコとコンテンダーはありませんが。それでもさっさと首を出せ状態にしてしまうあたり、実力差が相当だから帰れ、って話ですね。・・・これで折れないあたりさすがコーバッツさん石頭。

 さて、次回はいよいよ74層攻略となります。その後は、またオリジナルエピソードを少し挟んでからの原作沿いです。オリジナルエピソードが多いなぁifルート。
 ではまた次回。

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