ボス攻略の翌日は、たいてい休養日になることが多い。俺としては、休養日といっても強制ではないのだから、レベリングに励もうか、と思っていたのだが、やや遅寝坊した俺に届いていたメールで、その考えはおじゃんになった。というのも、今日の16:00頃、第一層の攻略会議が行われたところに集合してほしい、とのことだった。議題は、俺について。さすがに欠員裁判はまずいだろう、という、半ば義務感から、俺はのそりと、とりあえずの拠点の宿屋を引き払い、適当に外で時間をつぶすことにした。と、フィールドに出ようとしたところで。
「なんでおたくらここにおるん?」
「一応監視役だし、私たち」
悪びれず答えるエリーゼ。つまり、俺の位置は大体フレンドで監視していて、俺がフィールドに出そうだったからついてきた、ってか。ここまでくると執念すら感じるぞ。
「ま、ちょうどいいや」
そういうと、俺は踵を返した。
「レイン、今からお前の家に行っていいか?」
「え、いい、けど・・・、どうして?」
「暇つぶしにその辺で狩りでも、って思ってたからな。暇つぶせるんなら何でもいいや、って気分なんだよ」
「・・・そうなんだ」
あれ、俺なんか変なこと言ったかな。レインの声が明らかに今数トーン沈んだんだが。
「ま、とりあえず行こうぜ」
「そうね。ほらレインちゃん」
「ああ、はい」
エリーゼの言葉に、俺ら三人は移動を始めた。
集合時間は夕方で、場所も転移門からそんなに遠くないと来た。このレインの家も、郊外といっても転移門と距離がそんなにあるわけでもない。ということで、
「レイン、なんかお茶菓子でもないか」
「はいはい、ビスケットとかでいい?」
「おー」
雰囲気に合わせた木目調の家具に木の器が置かれ、そこにビスケットが盛られる。ちょうどいいタイミングでお茶も出てきた。軽く口をつけて、俺はかすかに驚きつつ笑った。
「よく覚えてたな、俺の好み」
「甘めのカフェオレ調、でしょ?」
そう、俺の好みの味だったのだ。俺の言葉は本当に俺の本音だ。これだけ時間が経っているのだ、忘れていても全く不思議ではない。というか、俺としては忘れているもんだと思っていた。
「何となく覚えてた」
「記憶力いいのな」
「君にも覚えあるでしょ、なんでか分からないけど覚えてた、みたいなこと」
「結構あるな」
「そういうことよ」
ま、そういうことにしておくか。とにかく、俺たちは完全にくつろいで完全にコーヒーブレイクをしている。もともと暇つぶしの延長だし、時間はかなりある。それに、ここ最近の俺らは攻略がほとんどだった。正直、ここらでブレイクも必要だろうとは思っていた。
「今日の話題は、ま、間違いなく俺だろうな」
「それ以外に何があるの、このタイミングで」
「だよなぁ」
なんか話題ないかなー、と思いつつ口にした俺の言葉は、エリーゼのまっとうな突っ込みによってつぶされた。ま、道理だよな。と、昨日の夜のメディアを思い出した。
「そういえば、新聞見たか?」
「見たわ。毎度毎度、一つ階層クリアしただけでよくもまああそこまで書けるものだね」
「まあそういいなさんな。奴さんらも、この閉塞した環境下でネタ探しにはリアル以上に血眼なんだろうさ。
それにしても、鬼神って。仮にも片方美少女に対して言う呼称じゃねえだろ」
「そうかなぁ。ぴったりじゃない?片方赤いし」
「おいおい、その理論だと俺は最後、大量破壊兵器でも使わなきゃいけないことになるぞ。それもこいつに対して」
「・・・何の話?」
「昔のゲームの話だ」
完全に置いてけぼりを食らったレインに対し、俺は短く答えた。実際これは、もう20年近く前のゲームのネタだ。話せば長い。そう、古い話だ。さてどう要約しようか。
「戦闘機のゲームでな。主人公とその相棒がいて、その主人公の通り名みたいなものが、円卓の鬼神。で、その相棒が、片方の主翼を赤く塗ったイーグル、って言って分からんな。ま、戦闘機に乗ってるわけだ」
「イーグル、って、羽根が動くやつ?」
「そりゃたぶんトムキャットだな。あれこれ用途は違うけど、ま、その辺は省略するぞ。軽く2、30年くらいは第一線で飛んでた名機だよ。その片翼を赤く塗ってた、って話だって、その相棒が片翼で基地への帰還したに成功したって設定によるもんだしな」
「え、片翼で基地に帰還したってどういうこと?」
「そのまんま。実際にもあるんだがな、接触事故で片方の主翼の大半が千切れ飛んで、それでも戻ってきた、って話だ」
「可能なのそんなこと?」
「というかあれ、実話をもとにしてたんだ」
「まあな。ま、イーグルが特殊なんだが。詳細は俺もいまいち理解してないから省略するけど、このF-15イーグルって戦闘機は、理論上は主翼の半分を失っても水平飛行が可能なんだと」
「でもそれは理論上だし、片方の翼しかないんじゃコントロールは難しいんじゃない?」
「その通り。でもまあそこは世界最高峰の一角を長いこと占めていた名機だ。その辺の制御システムも並みじゃない。それに、イーグルに乗れることが一種の称号で、乗り手はイーグルドライバーって呼ばれる。つまるところ、腕利き。一級品の機体と、超一流の乗り手だからこそできる、常識はずれの技だ」
嘘のような話だが、本当に実話を基にした設定なのだ。画像検索かけると片方の主翼が文字通り根元から千切れているのだから本当に驚きだ。
「で、この呼び方についてなんかコメントあるかね、鬼神殿」
「え?まあ、あんまりかわいくないなぁとは思うけど。そんなこと言ったら、アスナさんだってかつて鬼って呼ばれてたし」
「まあ、あの時は鬼だったな」
「ひどいこと言うね。アスナに言いつけるよ?」
「それは勘弁してくれ。マジでテーブルナイフが飛んできかねない」
見た目は本当に可憐なのだが、怒らせると本当に怖い。実力、ルックスもさることながら、その温厚にして苛烈な性格が攻略組を束ねる一助になっているのは間違いない。あとから二人に聞いた話だと、“素のアスナはほんわかお姉ちゃんって感じ”らしい。本当に怒らせなければいいだけだ。ま、その場合矛先が向くのは俺じゃなさそうだが。
「そういえば、新聞にも載ってたけど。本当に一年もコンビ解消してたの?ってくらい息ぴったりだよね」
「ま、ここしばらく前衛でコンビ組んでたしな」
「それだけで呼吸って戻るもんなの?」
「まあ、私たちは長かったからね。過去の経験から大体こうだろうなー、って」
「そんな感じだな」
「・・・もうやだこの子たち」
呆れたようにエリーゼが額に手を当てる。つっても、
「事実だからなぁ・・・」
「ねぇ・・・」
俺たちの言葉に、もう一度深くため息をついた。ため息をつかれるのも何となくわからなくはないが、本当にそんな感じなのだからどうしようもない。
「アスナとキリトみたいに長い付き合いならともかく、こんなに長いことコンビ解消しといて、ちょっと組んだだけで呼吸が戻るって・・・そういうもんなの?」
「体が覚えてる、って感じだな。たぶんこう動くはずだ、っていうのがお互い分かる感じ」
「そうだねー。あと、ロータス君はすぐ突っ込んでいくから、ワンチャンスはたいていお互いがフォローに回ってラッシュになってることが多いかな」
「多いな、そういうこと。レインは比較的堅実なんだけど、たまーに突っ込んでいくからな。ま、どちらにせよ、HPの少ない中ボス程度だったら、そのラッシュでジ・エンド、っていうのも少なくないぜ?」
「もう少し守るってことも考えなよ」
「攻撃は最大の防御っていうじゃん?」
サムズアップしながら言う俺に対し、エリーゼはもはやあきらめにも似た表情を見せた。
「そういえば、エリーゼは俺の監視が終わったらどうするんだ?」
「んー、そのまま攻略組に残ってもいいけど、正直それは私の性に合わないんだよねー。なんていうか、窮屈っていうのかな。ボス攻略だけ参加するっていうのも、それはそれでどうかと思うし。だから、多分今までの傭兵稼業に戻ると思う」
「・・・そうか」
「でも、もうちゃんと依頼は選ぶ。あの時みたいな依頼は受けない。いくら取り繕っても、私が犯罪の片棒を担いだことは変わらないけど、最低限、これから先、私の依頼で苦しむ人は生まないようにしたい」
「そうか」
「大変そうだね」
レインの気遣うような一言に、エリーゼはあっけらかんと笑った。
「確かに大変だけど。女傭兵エリーゼ、っていう噂自体はアルゴさん経由で広めてもらったからね。実力だって、今回の一件で攻略組にも追い付けるってはっきりと分かったし。追いすがるのがいっぱいいっぱいなところはあるけど」
「最初は大体そういうもんだ。クラインたちだってそうだった。俺たちみたいに最古参の攻略組ばっかりってわけにはいかないからな」
「ロータスは?」
「攻略組に戻る。気楽にソロやりながら、時々レインとパーティ組みながらやっていくさ」
「・・・オレンジも、倒していくんだよね?」
少し暗めなトーンで聞いたレインに、俺はふと少しだけ微笑んだ。
「コソ泥程度なら精々が軍に突き出すか監獄送りで終了だ。レッドの生き残りなら、殺す」
大を殺して小を生かす。どちらかしか選択できないのなら、俺はレッドを殺して、そいつが殺すだろう何人かを救う。それが、俺の選択だ。
「やっぱり、どうあっても君は、自分の手を血で汚す道を選ぶんだね」
「選ぶんじゃねえ。もう選んだんだよ」
どこか絶望にも似た諦観の言葉に、俺ははっきりと答えた。それに、レインは手を俺の手に重ねた。
「なら、今度は勝手にいかないでよ?」
「・・・ああ」
ここまで思ってくれている相手を置いていくほど、俺も人でなしになったつもりは無い。さて、雑談つっても俺の種はなくなっちまったな。ま、もともと俺の雑談の種なんて底が知れてるんだが。
「あー、やっぱり俺、こういう雑談にゃ向いてねーなー」
「どうしたの急に」
「もうすでに話す種がなくなったんだよ。俺からの話題がもうない」
俺の言葉に、二人はどこか納得したように笑った。
「まあ、それは・・・」
「ロータス君だし、ねぇ」
その二人の言葉に、俺はため息をついて顔を掻いた。思い当たる節がありすぎる。もう人との距離の調整方法などというものを完全といってもいいほど忘れ、必要以上の接触をしないビジネスライクだけな関係ばかり積み重ねてきたせいで、俺はこの手の雑談の種になりそうなイベントにはとんと無縁になっていた。加えて、この世界に来てからは戦闘三昧。ひたすらに迷宮やフィールドで狩りを繰り返していた。この手の雑談の種になりそうなのは、戦闘でのことくらいのものだ。
「・・・ま、否定する要素がないわな」
「本当だよ。私たちが護衛についてから休息と補給以外で戦闘関連のこと、本当に何一つやってないんだもん」
「そうそう。観光すら一切しないってどういうことよ」
「いや、観光も少しはするぞ」
「て言っても、補給の時に街並みを眺めるくらいでしょ。そもそも、そんなに補給しなくて、食料はどうするの?」
「簡単な料理だったら出先でできるしな。空腹紛らす程度にはなるだろ。野戦食なんてそんなもんだ。味なんざ二の次」
「いや、そうかもしれないけどさぁ・・・」
「でもその食料は・・・モンスタードロップ?」
「おう。おかげでジビエがなかなかうまいということを発見できた」
「ジビエ・・・?」
「リアルで言えば、家畜とかじゃなくて狩猟した生き物の肉を利用した料理。鹿とか猪とか」
「君の腕なら、文字通り飛ぶ鳥を落とすことも可能か」
「その気になりゃ余裕」
「鍋とかどうするの?」
「適当にその辺でちぎっておいた適当な山菜を適当につぶすなりしてアレンジして鍋に一緒にドーン」
そういうと、二人がそろってジト目になった。うん、俺も空腹を紛らせれば大丈夫って考えてたからなぁ。
「ま、雑なことは百も承知なんだがな」
「そもそも、料理スキル取ってないんでしょ?煮えるの?」
「あれ、知らねえのか?料理過程ってオプションをいじりまくればほとんど手動にできるんだぞ」
「・・・え、それほんと!?」
身を乗り出して食いついてきたエリーゼに対し、少々のけぞりながら俺は答えた。
「そういう日常系オプションタブの羅列を見ていくと、料理に関するオプションがある。そいつをあれこれいじったり、隠してあるタブをやったりするとできる。最も、リアルに近い仕様になっているみたいで、あれこれタイミングがシビアだから、たいていデフォに設定するらしいけどな。何より楽だし」
俺の回答に、納得したようにエリーゼは身を引いた。
「つまり、リアルで料理ができる人なら、かなり楽ってこと?」
「ま、そうなるな。料理スキルに依存するのかは、アルゴかゲイザーあたりに聞いてみないと分からんが。加えて、この世界はそろいもそろって妙な味や見た目が多いからなぁ。研究は必要だと思うぞ」
正直なところ、俺はたぶん料理スキルの熟練度に応じてその辺のタイミングやらなんやらがシビアになるのだろうと考えている。あれだ、某モンスターのハンターなゲームで高級肉焼きセットと肉焼きセットでこんがり肉ができるタイミングが違うのと同じだ。つまり、料理スキルを取っていない=強制ゼロの俺はタイミングが最高にシビアというわけだ。
「ちょっと待って、タイミングがシビアなら、どうして食べられるレベルになるの?」
「知ってるか?料理を失敗するやつは三つに分けられる。レシピを見ないやつ、深く考えずにアレンジしだすやつ、味見をしないやつ。この三つだ」
指を三本立てながら、俺が言う。これでAKを片腕で抱えていれば明らかに
「つまるところ、細かく味見をしながら、大体どうすればどういう味になるかって考えながらやってた。最初は結構苦戦したんだが、パターン化できればなかなか野戦食の研究ってのも案外面白い」
「気持ちが分からなくもないのがなぁ・・・」
実際、これ案外面白いんだ。ラフコフはそこらのフィールドにいるプレイヤーを狩ることが多い。その性格上、野戦、野宿がかなり多い。俺は楽しんでPKする口ではなかったから、何かしら楽しい要素を見つけて、それを目的として楽しそうな演技をするのが案外自然でよさそうというというのが経験則で分かったのだ。以降、実用性があることもあり、俺のささやかな趣味になっている。
「てことは、私たちと一緒にフィールドに出た時に食べていたものって」
「ほとんど俺の手作り。てきとーに宿屋の厨房を借りた」
「それってできるの・・・?」
「それなりに大きそうな所なら、NPCに交渉すれば案外あっさり貸してくれるぞ。最も、場所によるが。あとは、自作のレシピ使ってどうにでもする」
「もしかして、案外努力家?」
「たまたまそれにはまったってだけだ。この世界だと、戦闘か趣味くらいしかやることが無いからな」
「それは君みたいなボッチだけだと思うけど」
「やかましわ」
途中で話題が尽きたとは思えないほど、案外次から次へと話題が出てきて、当初の懸念などなかったかのように時間はすぐ過ぎていった。
俺たちは時間より10分程度早めについていた。だが、その時点でかなりの人数が集まっていた。フルレイドでもう45人を超えることは絶対になくなった。最近では、40人を超えないときもある。今集まっているのは、大体30人くらいと言ったところだろうか。この辺は、クラインはじめとする社会人連中の時間厳守がかなり浸透しているのだろう。ま、俺みたいに学生でもしっかり時間を守るやつも少なくないが。
議題が俺についてなので、俺が後ろに座ってはいけないだろう。という、半ば義務感とともに、俺はすり鉢状になっている広場の真ん中近い位置に陣取った。
攻略組が集まるということで、必然的に議長は現在攻略組の長を務めているヒースクリフになる。これは暗黙の了解だった。その彼は5分前に登場すると、全体を見渡した。そこにはすでに全員がそろっていた。
「時間にはまだ少し早いが、揃っているようだから始めよう。
まずは、フロアボス攻略した直後に集まってもらったことを謝罪する。同時に、諸君の貴重な時間を、必要以上に使用しないことを剣に誓おう。
さて、では早速。議題は一つだけだ。私は、ロータス君の監視を解いてもいいと考えている。理由は、監視をつけてからの行動と、前回の攻略での活躍によるものだ。反対意見があれば聞かせてほしい。そのうえで、多数決をもって決を採ろう」
その言葉に、真っ先に手を挙げたのはリンドだ。手での指名を受け、彼がその場で起立する。
「俺が問題と考える点は二つ。一つは、時期尚早だ、ということだ。これに関しては、彼ほどの戦力を、監視という形で縛り付けるメリットのほうが少ない。それはよく理解できる。それを考えれば、あくまで俺の私見であるという前提の上で言わせてもらえば、特に問題ないと思う。全体の是非は、まあ、最後の多数決で分かるだろ。
もう一つ。これはロータスにも聞きたい。それは、こいつの目的が分からないということだ。ここまで、PKのそぶりが全くなさそうというのは、Ccで送られた監視役のレポートにも書いてあった。それに、あの攻略戦での動きも、全力で戦っているように見えた。一時期はPKギルドに所属していたような奴が、今更わざわざ殊勝に攻略に全力で取り組む?裏があると考えるのが自然だ。そのうえで聞く。ロータス、お前、何が目的だ」
ま、リンドならまっとうだよなぁ。ましてや、こいつは俺がモルテをPKするとこに居合わせてるわけだし。ま、ご指名とあれば答えないわけにもいくまい。挙手をしてヒースクリフの指名を受けると、俺は立ち上がった。
「俺の目的はただ一つ。このクソゲーの犠牲者を、俺が減らせる範囲で減らすこと。攻略組に入ったのは、ただ単にここから早く抜け出したいから。ラフコフに入ったのは、ラフコフのメンバーが殺す数十人と、俺が殺すラフコフメンバー十数人ならどっちが少ないか、って話の結果だ。それと、リンドから聞いてるかもしれないが、この際はっきりさせとく。モルテを殺したのは俺だ」
突然のカミングアウトに、周囲がざわめいた。これは二人にも、直接俺の口からは言っていない。だが、俺の口ぶりからブラフなどではないことを瞬間的に悟ったのだろう、ほかと同様にぎょっとしたような顔を見せた。
「もともとモルテは抹殺対象だった。監獄にぶち込む、やむを得ないのなら殺す。そう思ってはいた。ちょうど50層を攻略し終えたくらいに狩りに出た時、たまたまリンドの集団とかち合った。50層攻略直後ってことで、戦力拡充を計画していたんだろうが、疲弊していてしかもなおかつ攻略組じゃないような集団だったにもかかわらず、俺たちは若干苦戦してな。で、たまたま間違えたふりをして、その場にいたラフコフメンバーの連れ全員を消した、ってわけだ。もちろん、モルテも含めてな」
「・・・マジかよ、リーダー」
ハフナーが信じられないように問いかける。それに対する回答は、
「まさかこんなところでカミングアウトするとは思っちゃいなかったがな」
意外感丸出しの肯定だった。それに、また周囲がざわついた。
「確かお前さんも含めて5人くらいのパーティだったと記憶しているが?」
「その通りだよこの野郎。何なら一人一人名前挙げていこうか?」
「よく覚えてんな、んなの」
「印象的過ぎて逆に忘れらんねぇんだよ」
俺の言葉に、半分以上呆れたようにリンドは吐き捨てた。ま、それもそっか。敵だと思ったら、その敵が敵の仲間を躊躇なく斬り殺して、挙句の果てに口止めだもんなぁ。印象に残らないほうがおかしいか。
「ま、俺からの回答は以上だ。他に何か質問があれば答えるが?」
その言葉に、手を挙げたものは一人。チョコレートの肌を持つ巨漢、第一層から攻略組でタンクを張り続ける両手斧使い、エギルだ。
「なら、もし攻略組に戻らなかったらどうするつもりだったんだ?」
「知れたこと。オレンジ狩りだ。もっと言ってしまえば、レッド狩りだな」
「それは、レッドを殺す、ってことでいいのか?」
「ああ。俺は投剣スキルでいえば一日の長があると自負しているからな。それに、麻痺スキルに長けたやつ―――ジョニーブラックのことだが―――を間近で見てきたんだ。麻痺って動けないやつを殺すくらいは朝飯前なんだよ」
「加えて、あの白兵戦能力か・・・」
「ま、そういうこった」
誰かのつぶやきに、俺が同意する。実際、この中でも俺に白兵戦で敵うやつはそんなにいないだろう。
「それがお前さんの選んだ道か」
「そうだ。曲げる気はない」
俺の回答に、エギルは着席した。議場を見渡したヒースクリフは、挙手がないことを確認して、自ら手を挙げた。
「私からも質問させてくれ。それは、これからも曲げるつもりは無いのかね?」
「ない」
即答だった。これは金輪際曲げるつもりは無い。監視が外れても、俺はラフコフの残党や、レッドを狩っていく。これが俺の流儀だ。
「・・・よかろう。では、ほかに質問、意見等はあるかね?」
再び全体を見渡す。だが、挙手はなかった。それを見て、ヒースクリフは再び口を開いた。
「よし、では決を採ろう。賛成か反対か、挙手をしてほしい。彼の監視を解くことに賛成の人は」
それに対する反応は、ほとんどの挙手。それを見て、ヒースクリフは決断を下した。
「反対の決を採る必要はなさそうだね。では、現時点で彼の監視を解く。時間を取らせて済まなかった。では、解散」
その言葉に、全体が散会した。それを受けて、二人がこちらに話しかける。
「これで、私たちもある程度自由、ってこと?」
「そうなるな。ま、エリーゼとしても、傭兵業の関連で自由が奪われるのは正直よろしくないだろ」
「そうだね。でもま、この三人で組めないのは、ちょっと寂しい気もするけど。ほら、私基本的にソロだから」
「ま、そっちにもそっちの事情はあるだろ。仕方ない」
「そういってもらえるとありがたいけどね。また困ったことがあったら言ってよ。もしメールが届いても反応なかったら、第一層の教会孤児院に行ってみて。たぶんそこで子供の相手してるから」
そういって手をひらひらさせて去って行った。攻略組だと、こういう別れはよくある。死と隣り合わせというのはそういうことだ。ここにいるのは、それこそ生粋のゲーマーか、命と隣り合わせの状況を楽しめる大馬鹿者、それか戦う理由というやつをはっきりと見つけたやつくらいだ。
とにかくこうして、俺は晴れて(?)自由になった。去り際、彼女の手がほんの少しだけさみしそうに見えていたのは、気のせいであってほしいとも、そうでなくてほしいとも思っている。
はい、というわけで。
なんつーか、各所にエスコンやらテイルズやら仕込んだ回ですね。それぞれ解説は飛ばします。あれこれぐちゃぐちゃになると思うんで。
書くのに時間はかかりましたね、このお話。雑談パートとか本当に考えながら書いてました。雑談とかなに話せっちゅーねん。こちとら大学で誰とも喋らないとかザラだっての。・・・泣けてきた。
ここでようやく彼の行動原理が全体にカミングアウト。ぶっちゃけ、この辺がこの物語の好みというか、受け付けるかどうかの分水嶺だと思ってます。こういう形の主人公って個人的に好物なので。ま、所詮は二次創作だしいいよね、と思って。
これで監視は解けたわけなのですが、当たり前ですが縁がなくなったわけではありません。これ、必要なのです。少なくとも個人的には。
さて、次回は一度オリジナルを挟み、74層へと進みます。そのあと、また更にオリジナルが挟まります。本編より長くなるSAO編、お付き合いいただければ幸いです。
ではまた次回。