ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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 はい、どうも。

 やっぱり二コマも空きがあると暇です。どっかに無理矢理埋めるんだった。

 さて、今回はいよいよイルファングザコボルドロード戦です。原作とはいろいろ違いますが・・・その辺はご容赦ください。

 それではどうぞ。


4.第一層フロアボス戦

 迷宮区の道すがら、アスナがぽつりともらした。

 

「ねえ、あなたたちは他の、エムエムオーゲーム?ってやったことあるの?」

 

 あー、やっぱりこいつニュービーか。てかそもそもゲームとは今まで縁がなかった人種か。

 

「俺はこれが二作目かな。でも、前やってたやつは総プレイ時間50時間にも満たないだろうし、ま、ほぼ実質これが初めて」

 

「私はこれが初めて」

 

「俺は何作かやったことあるな」

 

 上から俺、レイン、キリト。あの時の解説と言い、やっぱりこいつ根っからのゲーマーだな。

 

「そう。じゃあ、他のゲームだと、こういうときって会話をしたりするの?」

 

「そんなことはないかな。キーボードやマウスは操作のほうに使ってるから、基本的にチャットはしない、というより物理的にできない。ボイスチャットがあるのなら話は別だけど」

 

「そう。これからはどうなるのかしら?」

 

「さあな。でも案外普通になっちまうんじゃねえか?」

 

 俺の言葉に、フェンサーが反応する。首の後ろで腕を組みながら、さりげなくネームを確認する。えっと、Asuna、か。アスナ、でいいだろうな。・・・まさかと思うが本名じゃなかろうな。

 

「どういうことかしら」

 

「外食に行くとか、ダンジョンに潜るとか。そう言った感覚に近いものになるんだろうな、ってこと。早い話が慣れるんだよ。攻略するってことに」

 

「私はそうは思わないけど」

 

「少なくとも俺はほぼ確信してるぜ?このペースだ、攻略に年単位の時間がかかるのは確実だろうよ。だったら、慣れないほうが不自然ってもんだ」

 

「そうだな。ある種日常の一部になってるかもな」

 

 キリトがそう締めくくると、微かな笑い声が聞こえた。体勢を変えずにそちらを見ると、微かにフーデットケープが揺れている。

 

「おかしなことを言うのね。こんな非日常が日常になるなんて」

 

「そうかな」

 

 少しだけでも柔らかくなった雰囲気の中で、俺は切り出した。

 

「さて、改めて確認するぞ。基本的に俺とレイン、そっちふたりで行動。片手剣二人が相手の斧槍(ハルバート)をカチあげて、残りの二人が一気に特攻。HPを削るなり飛ばす。ダメージを受けた場合はアタッカー二人を優先してPOTローテ。これで大丈夫だな」

 

「ああ、それで大丈夫だ」

 

「ええ」

 

「うん。でも、カチあげるってよくわからないんだけど・・・」

 

「なあに簡単だ。振り下ろされた得物に対して剣を振り上げてぶち当てるってことだ」

 

「それ、ちょっと不安」

 

「大丈夫、簡単だ。(・・・多分)

 

「ちょっと待ってなんか聞こえた」

 

 そんなどこかコミカルな雰囲気に水を注すように、外から声をかけてきた人間がいた。

 

「おい」

 

 その声のほうを見ると、そこにはどうやったらそんな髪形になるんだろうというような男・・・キバオウがいた。

 

「ええか、ジブンらは大人し雑魚コボルドの相手しとれよ。ボスはこっちが相手するからな」

 

 なんか棘があるってレベルじゃねえなこりゃ。明らかに悪意しかねえぞ、これ。

 

「分かってる。それが俺たちの役目だからな」

 

 キリトのその返答に一つ鼻を鳴らすと、そのままキバオウは自分たちの隊に帰っていった。

 

「・・・何あれ」

 

「さあ?」

 

 当の本人もこの調子だ。ただ単に因縁つけただけならいいんだが・・・一応気に留めておくか。

 それに、心なしかキリトの顔が少し暗い気がする。

 

「ところでキリト、なんかあったのか?少し表情が暗いようだが」

 

「・・・まあ、ロータスになら教えていいか。俺の剣を買い取りたいって交渉を何度か持ちかけられててな」

 

「お値段は?」

 

「約40k。相場から考えれば、それだけ出せば同じくらいの性能にはなるはず、なんだけど・・・」

 

 40kっていうと、4万か。確かにそれは気になるわな。と、そんなことを考えていると、横からモンスターが突撃してきた。無造作に横一閃。それだけで、そのモンスターはポリゴンとなった。

 

「あれこれ考えるのは後だ。今は目の前のことに集中しろ」

 

「・・・ああ」

 

 その顔が少し明るくなっていたことに、俺は一つ笑んだ。

 

 

 

 

 

 特に何事もなくボス部屋前にたどり着いた俺たちに、ディアベルはこっちを向いて声を張った。

 

「ここまで来たら言うことは一つだ。勝とうぜ!」

 

 それに応じて鬨の声が上がる。ノリいいなお前ら、と例によって冷めたことを思いながら、俺は扉を開かれる様を無機質に見ていた。

 

 扉が開き切り、レイド全体が中に入る。光量が増え、ボスが大きく跳躍して目の前に来てから一つ大きく吠えた。同時に取り巻きが三匹ポップする。それを確認して、ディアベルはその剣を抜剣しながら宣言した。

 

「突撃!」

 

 その声を待っていたとばかりに、レイド全体が突撃した。雑魚の一頭に向けてレインが走る。振り下ろされる相手の得物に、一発でレインの剣があたり、相手の斧槍が跳ね上がる。さらなるレインの追撃で完全に相手の反撃が封じられたところで、俺が前に出る。打ち合わせ通り、横に避けたレインの横から狙いすました一撃を首元にお見舞いする。それにより相手が爆散したことを確認して、俺は二体目に相対した。

 

「スイッチ!ゆっくりでいいからな、レイン。貰わないことに重点を置いて、落ち着いていけ」

 

「それ、君の言えること?いつでも大丈夫だよ」

 

 返答を聞くや否や、俺は相手に真空破斬を当てる。硬直の間にレインが飛び込み、その喉元にスラントをぶち当てた。HPが一気に削れる。その時に、背後から会話が聞こえた。

 

「当てが外れたやろ。ええ気味や」

 

「なんだって?」

 

 これは、キリトとキバオウ?なんか気になるな。

 

「とぼけても無駄やで。ちゃーんと聞かされとんのや。お前がどんなあくどい方法でLAを乱獲してたかってな!」

 

「ロータス!スイッチ行くよ!」

 

 背後から絶句する気配。直後に飛んだレインの声で現実に引き戻される。だが、俺も少なからず驚いていた。あの時の言葉から察するに、キバオウも本サービスから始めたニュービーのはず。ならばなぜ。そんな疑問を覚えながら、俺はレインとスイッチした。淀みない動作で轟破ノ太刀を喉に突き立てる。その動きの間にも考えた。そもそもが、なぜキバオウが、キリトがβテスターということを知っていたのか。これは簡単に予想がつく。情報を買ったか、何らかの目的で提供されたか。買ったところでそう大したメリットはない。だが、提供されたとあれば話は別だ。提供した側にも何らかの目的があると考えるのが自然だ。そう考えながら剣を引き抜いて、左手で刀剣を投げつける。それもクリティカルで決まり、相手が爆散する。手の甲を前に向けて投げる“バックシュート”はその当てづらさもあって硬直が短い。すぐに次のセンチネルに向かおうと思ったところで、ボス攻撃隊から「ラスト一本!」の声がする。同時に、最後のセンチネルが三体ポップした。

 ボスが直後に武器を放り投げる。そして、腰に差した剣に手をかける。そこで、俺はどこか引っかかった。

 

(ん、どうしてだ?)

 

「ロータス!」

 

 考えることで沈みかけた思考がレインの声で浮上する。相手の斧槍を紙一重のところで躱して、その首にボーンカトラスを突き立てる。そのまま引き抜きながら蹴飛ばす。瞬間に、ディアベルがボスの前に出る。その時にちらりと此方を見た気がした。そのままソードスキルを発動する構えに入る。抜き放った剣を見て、俺の脳裏に一つの言葉がよぎった。

 

『聞くところによると、この層の守護獣は、曲刀によく似た、細く長い片刃の剣を使うと言う』

 

 そこで、気付いた。曲刀によく似たということは、曲刀ではないということと同義だということは簡単に想像がつく。そして、あの攻略本に書いてあったのは、湾刀(タルワール)、つまりは曲刀。これらが示す情報はただ一つ。

 

「悪いレイン、ちょっと任せた!」

 

 制止するレインの声を振り切って走る。その間に、ボスはその体をギリギリまでねじっていた。間に合えと心の中で願いながら足に力を籠める。

 

「駄目だ、全力で後ろに飛べー!」

 

 後ろからキリトの声が聞こえる。その声に、俺の足は一瞬だが止まった。それが功を奏して、ボスの全範囲攻撃をもらうことはなかった。が、曲刀という先入観から囲んでいたボス攻撃隊のほぼ全員の頭上に黄色のエフェクト。お約束ともいえるバッドステータスの一つである、気絶やスタンの類だろう。そして、ボスはそのうちの一人、先陣を切ってボスに突っ込んでいった青髪の騎士に狙いを定めて、その剣を輝かせた。地面すれすれから繰り出される下段のソードスキル。それに、俺は無意識のうちに強く地面を蹴って大きく一歩を踏み出していた。あえて体を一回転させ右足で踏み込み一瞬だけ溜めを作る。システムが起動すると、そこから一気にブーストをかけて、曲刀系ソードスキル“ドライブツイスター”を繰り出した。全力かつ最速で繰り出されたそれは、ギリギリながらもボスの切っ先の方向を変え、ディアベルのすぐ横を通り過ぎさせた。こっちが硬直で動けない中、短い硬直を終えた後に出された振り下ろしと突きは、カイトシールドできれいにパリィされていた。周りを見ると、陣形もリセットされている。

 

「まったく無茶をするね、君は」

 

「自分の利己心目当てにわざわざ戦力削ろうとする人間に言われたかないね」

 

 普通の声量のディアベルに対して、彼にしか聞こえない声量で答える。その瞬間にディアベルの表情が暗くなった。その後に、ボスが距離を取って左腰に剣を持っていく。それを見て、俺は剣を持った右手を八相より少し高いくらいの位置に持っていき、双牙斬の初段で相殺する。それにお互いがノックバックをする。その時に、ディアベルにしか聞こえない程度の声量で言った。

 

「話はあとで聞く。おそらくはあんたがβテスターだってことや、キバオウになにを吹き込んだのかとか、その辺も含めて、な。だが今はボスを討伐することが先決だ。今は戸惑ってる場合じゃない。

 ディアベル、刀スキルの詳細はわかるか?」

 

「刀?・・・ちらっと聞いたことはあるけど、実際に相対したことはないから、わからない」

 

「了解。なら、慎重にいこう」

 

 と、言っているそばから、キンという金属音。ボスのほうを向くと、キリトが敵の攻撃をパリィしていた。それを見て、元の声量に戻して言う。

 

「おそらく範囲攻撃は囲まなきゃ来ない。全範囲の、しかもあの感じだと高確率スタン攻撃を乱射されたら勝負にならないからな。とにかく、あいつらが時間を稼いでいる間にPOTと攻撃の見極めを頼む」

 

「あんたはどうするんだよ」

 

「俺も傷は浅いし、もともと俺の隊はあっちだからな。加勢してくる」

 

 そう言ってキリトたちの下に向かおうと数歩踏み出したところで、並走してくる人間がいた。

 

「センチネルは全滅させたよ。まったくもう、ヒヤヒヤさせないでよ」

 

「悪い。んじゃま、あいつらの援護に回るぞ」

 

「了解!」

 

 そう言って、俺たちはボス攻略を再開した。

 

 キリトの見事なパリィにより、ダメージは順調に入っていった。が、十何回目でそれも途切れた。

 

「しまっ・・・」

 

 上から来るところが、ぐっと起動を変えて下から襲い来る。咄嗟にソードスキルを停止させるが、それにより硬直をくらう。

キリトが吹っ飛ばされる。それを受けてアスナも吹っ飛ばされた。咄嗟に次の攻撃をパリィするために二人の前に出る。地面すれすれから切り上げるあれを食らったら、おそらくあの三連撃でお陀仏だ。ミスは許されない。虎牙破斬で反らす準備をしつつ、集中力を研ぎ澄ませる。すると、

 

「ぬおぉりゃぁ!」

 

 方向と見まがうばかりの声と共に、別のソードスキルがボスに炸裂する。確かこれは、両手斧のソードスキル“ワールウインド”。

 

「あんたらは暫く下がってろ。アタッカーにタンクやられちゃ立場ないからな」

 

「悪い、任せた」

 

「サンキュ、助かる」

 

 こちらに振り返りながら、その技を放った巨漢は言った。確か、エギルだったか。キリトの言葉をキーにして、俺たちは一旦下がった。

 

 下がってからも、キリトはその経験を生かして相手の攻撃を指示し続けた。その指示はどれも的確で、防御するタンクもその指示に従って完璧な防御を繰り返した。それに、あの限界戦闘が効果を発揮したのか、この場に至ってもアスナの技のキレは落ちなかった。やがて、邪魔そうにアスナがフーデットケープを掴んで放り投げる。露わになったその美貌に、男どもが見とれる気配がした。俺は一度見ているのでそんなことはない。

 

「おら、ぼさっとすんな!」

 

「次、右下からの切り上げ!

 

 俺の喝とキリトの指示で隊が元の動きを取り戻す。このままいけばいける。そう思った矢先に、タンク隊のうちの一人が武器を落としてしまった。とっさに拾いにかかる。だが、場所が悪かった。

 

「早く離脱しろ!」

 

 その場所が背後だと悟ったキリトがすぐに大声を出す。が、その声むなしく、ボスがそれを囲まれた状態と認識して、また例の全方向ソードスキルを繰り出しにかかった。ボスが垂直に飛ぶ。その瞬間に、キリトが飛び出した。

 

「届けぇーーーー!」

 

 その気合がシステムにも伝わったのか、キリトのソニックリープはソードスキルを発動する前のボスに命中。ボスが仰向けに落ちると、その手足をばたつかせた。それを見て、キリトがもう一つ指示を飛ばす。

 

「全員、全力攻撃(フルアタック)!囲んでいい!」

 

 その声に、今までの鬱憤を晴らすように全員が囲んで総攻撃を仕掛ける。だが、その甲斐もあと一歩及ばず、ギリギリHPが残るくらいになってしまった。

 

「レイン、ロータス、アスナ!最後の攻撃、一緒に頼む!」

 

「はい!」「おうよ!」「了解!」

 

 最後のキリトの指示に俺たちが追随する。

 

「せい・・・やぁ!」

 

「い・・・やぁっ!」

 

 まずはアスナとレインがそれぞれリニアーと瞬迅剣で牽制する。

 

「うっ・・・るぁ!」

 

「はあっ!」

 

 それに続いて俺とキリトが、それぞれ疾風ノ太刀と縦斬を浴びせる。が、HPは本当に1ドットだけ残った。それにお互い獰猛な笑みを漏らすと、キリトの刃が上に返る。

 

「う・・・ぉぉぉぉおおおおお!!」

 

 片手用直剣二連撃ソードスキル、バーチカル・アーク。その最後の一撃が、ボスのHPを刈り取った。ワンテンポ遅れて、ボスがその巨大な体を爆散させた。

 一瞬の静寂。その後に、部屋は割れんばかりの歓声に包まれた。

 

 




 はい、というわけで。まずは使用技解説。

ドライブツイスター
GE2ロングソード△攻撃系BA。NPCではリンドウさんが使用。
 元ネタだと、踏み込みの距離が伸びて、敵に接近すると一回転して斬り上げる技。その踏み込み距離とスタミナ消費がないということで移動用BAとしても優秀。こちらでは使い込むことで威力とクリティカル率が上がる。硬直はちょっと伸びる程度。ちなみに主はロングを使うと“困った時のドラツイ”レベルでよくお世話になるBA。

瞬迅剣
テイルズシリーズ、使用者:ロイド・アーヴィング、クラトス・アウリオン、ゼロス・ワイルダー(TOS)、ルーク・フォン・ファブレ、アッシュ(TOA)など
 踏み込んで突き一発。以上。シンプルイズベスト。

疾風ノ太刀
GE2ロングソードゼロスタンス系BA。NPCではピk・・・ジュリウスが使用。
 元ネタだと、ゼロスタンスの直後の△攻撃が多段ヒットになるBA。構えが変わるわけでもなく、結構便利なBA。だけど主はこれを使うのならドラツイを使う。こちらでは多段ヒットになることはないが、リーチと威力が少しづつ伸びて、硬直もわずかに伸びる。

 瞬迅剣の説明が雑?これくらいしか言うことがないんです許してください。


 ここではディアベルさんが生き残りました。彼を生かすか殺すかは悩んだところではあったのですが、結局生かしました。今後の登場ではほぼオリキャラとなってしまいます。だってほとんど人物像とか描写ないし。

 ではまた次回。

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