ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

4 / 128
 はい、どうも。

 間が空くという言葉はどこに行ったんだという連日投稿。と言ってもね、流石に2コマも空きがあると暇というもので。
 今回は完全にオリジナルです。

 では今回分どうぞ。


2.武器と情報

 そこから二つ先の村に着いたのは意外にも二日後だった。メダイ―――この前の村だが―――についてからはすぐに宿屋で休んで、結果的に半日近く潰すことになってしまったので、実質一日半で攻略してしまったことになる。確かにあそこでリトルネペントをさんざん乱獲したから、レベルには事欠かないだろうが、こんなに早く攻略できるとは思ってもみなかった。

 

「ま、とにかく、(くだん)のクエを探すとしますか」

 

 攻略本の情報が正しければ、クエの発生場所は村外れの小屋とのことだから、とりあえずそこを探すこととした。この手の基本は・・・

 

「聞き込み、しかないよなぁ・・・」

 

 もともと人と会話するのが得意ではない俺にとってはなかなかに苦行だ。が、仕方あるまい。

 

 

 

 憂鬱な気分で開始したクエ探しだったが、意外なほどあっさりと見つかった。というのも、“村外れの小屋にいる老人の家はどこか”と聞くと、NPCは揃って同じ場所を教えてくれたのだ。加えて、何人かのNPCは“偏屈爺”とか“変人”とか言っていたところを見ると、この村においては結構有名な設定なのだろうか。至極どうでもいいが。

 

「ま、とにかく、今は前に進むか」

 

 教えられた場所へと向かう。一応方向感覚にはがあるほうだ。

 その感覚を頼りに進むと、確かに小屋があった。だが、これは小屋というより、

 

「・・・あばら家?」

 

 結構割と本気でこれ本当に住んでいるのかよと突っ込みたくなるような、ぼろぼろのまさに“あばら家”だった。

 

「ま、ともかく入ってみるか」

 

 伊達に情報収集していたわけではない。その情報から、大方クエストキーは想像がついている。

 

「おお、なんじゃ。若いのがわしみたいな老いぼれに」

 

(偏屈爺って雰囲気じゃないよな、物腰柔らかいし)「不躾ながら、少々お力を貸していただきたくて参りました。俺のために武器を作ってはくださいませんか、おじいさん」

 

 その言葉を発した瞬間に、老人の頭の上にクエスチョンマークが表示された。クエストが起動したのだ。

 

(うし、ここまでは想定どおり)

 

「しかし、わしに剣を作らせたいのならば、それ相応の素材、腕前を見せてもらうことになる。それでもかまわんかの、若いの」

 

「問題ありません。どのような素材が必要なのですか?」

 

「その前に問おう。おぬしはどのような武器が欲しいのじゃ?」

 

「曲刀です。ちょうどこんな感じの」

 

 そう言って、腰に差した自身の得物を前に掲げた。それを見て、老人はそのあごひげに手を添えた。

 

「そうさな・・・。村はずれの大猪、そのヌシの牙なんかがよいかもしれんのう」

 

「分かりました。村はずれの大猪の牙、ですね?」

 

「そうじゃ。ヌシの体はほかのそれに比べて大きく、白い。見れば一発でわかるじゃろう」

 

「分かりました。では、行ってきます」

 

「くれぐれも気を付けよ。彼の者の突進を食らえばひとたまりもないだろうからの。くれぐれも、体は大事にすることじゃ」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言いながら小屋を出る。白くてでかい大猪・・・それってどこの乙○主だと思いながらも村を出発した。村はずれ、というのがどこを指すのかはちゃんと攻略本に概略が書かれていたので問題ない。そう思いながら、俺はまた歩き出した。

 

 

「そら、よ!」

 

 もう何頭目かの猪をポリゴンのかけらに変えながら歩く。平地であるというのはある意味楽なものだ。始まりの街あたりにいたフレンジーボアより体力も多ければ、どうやら攻撃力も高いようだが、突進しかしてこないのならばまったく脅威ではない。不安要素を挙げるのならば、こちらの武器の耐久値が心もとなくなってきたことくらいか。だが、こちらもまだストックは残っている。そのストックも、今装備しているものを除けば一本しかないわけだが。

 

「こりゃ、新しい武器の耐久値によっては新調の必要があるかもなぁ」

 

 そんなことをつぶやいていると、また再びモンスターがポップする。そちらに目をやると、明らかに大型のモンスターがポップしていた。

 

「・・・まあ、確かに、こっちも白くてデカい猪だけどさぁ・・・」

 

 その体毛は白いが、全体的に見ると茶色の体毛も見える猪。その体は先ほどまで戦っていた“ワイルドボア”よりさらに一回りか二回り大きい。そして、その鼻の両端には、反り返った、大きく、見るからに丈夫そうな一対の牙。・・・と、ここまで言えば察しのいい人は気づくかもしれないが、早い話がド○ファンゴだ。

 

「ま、でも無駄に知能があるよりこの手の相手のほうが楽か・・・」

 

 カーソルを飛ばすと、出てきた名前は“The Giant Wild Boar”。そしてそのHPバーは二本。

 

「げ」

 

 おそらく、あの雑魚猪を一定以上狩ると出現するタイプだろうが、どこからどう見てもソロで挑むタイプの相手ではない。が、ここまで行ったらもう後にも引けない。

 

「・・・仕方ねえ、か」

 

 呟くと、得物を水平に構えて走る。相手もこちらに気付いたのだろう、何回かその場で足を動かすと、そのまま突進してきた。くるりとその場で躱すことで事なきことを得る、が。

 

「確か本家だと・・・!」

 

 左回りで振り返ると、やはり大猪は大きな円を描いて、もう一度こっちに向かってくるようだ。落ち着いて動きを見切り横に躱し、その後ろを追いかける。丁度牙をこちらに向けて振るった瞬間に、俺は大きく跳躍して、そのまま得物を振り下ろした。丁度眉間―――といっていいのかはわからないが―――に、ほぼ垂直に振り下ろされた剣はクリティカル判定だったようで、ジャイアントワイルドボアのHPが目に見えて減る。今は何とか相手に跨っている状態なので、相手も振り落とそうと暴れまわる。が、そうは問屋が卸さないと剣をがっちりと握り、足を閉じて踏ん張った。さらに力を込めて深くまで得物を突き立てると、今度はわざと振り落とされた。吹っ飛ばされた直後に受け身を取る。高校の授業で柔道をやっていたことがこんなことに役立つとは思ってもみなかった。即座にウィンドウを開いて、アイテムストレージからもう一本剣を取り出す。出て来るか出てこないかくらいのタイミングで横に転んだ。立ち上がって剣を改めて握りなおすと、剣を正眼に置き、半身で構える。脳天に突き刺した剣はかなり深く突き立てたからだろう、痛そうに大猪ももがくが、まったく外れる気配はない。そして、動くたびに少しずつ向こうのHPは減っていっていた。もっとも、こちらとしてはそれが狙いだったわけなのだが。

 突き立てた剣は、そのままではダメージはない。が、動かすことで、武器の攻撃力と相手の防御力に応じたダメージが入る仕組みになっているのだ。つまり、ああして敵がもがくたびに、突き立てられた剣は中で動き、ダメージが入ることとなる。しかもクリティカルで。―――我ながらよく咄嗟にここまで考えられたものである。

 

「ま、それでもそんなダメージは微々たるもんだから、攻撃は必須だけど」

 

 そんなことをつぶやいていると、相手が突進を仕掛けてきた。それに対し、横に躱して腹を横一閃。突進している最中にもHPが削られているのを確認して、わずかながら口元が緩む。追撃しようとその後ろを追う。追いついたところで攻撃を敷かせようと思った矢先に、こちらに向かってその牙を振りかざしてきた。もっとも、その程度は予想済みだったので簡単に回避してリーバーを命中させる。そのまま後ろを取ると、技後硬直(ポストモーション)が終わるや否や振り返る。と、HPバーがちょうど一本消えた。このペースだと結構楽ができそうだ、と思いながら改めて剣を構える。再び突進してくる相手に対し、今度は左手に持った二本のピックを目に投げる。狙い違わず真っ直ぐに目に刺さったそれに、相手は突進を中断して盛大に暴れた。ピックはすぐにとれたものの、暴れたことによりHPはさらに減って危険域(レッドゾーン)一歩手前で止まる。その間に一気に潜り込み、ほんの少し前に習得した曲刀二連撃ソードスキル「双牙斬」を繰り出す。空中で技後硬直を終えると、その着地した先はたまたま、本当にたまたまだったのだが、眉間に突き刺さった剣の上だった。そのまま重力に任せて剣を蹴り、両手で剣を握ったうえで、大上段から目いっぱいの力で一気に振るいながら一回転して斬り、さらにゆっくりと一回転して着地。瞬間に、後ろで夥しいポリゴンが弾ける音がした。まさかと思いつつ振り返ると、そこに大猪の姿はなく、最後の最後までその命を削り尽くすのに尽力した自身のもう一つの得物とドロップアイテムが落ちていた。そして、その上空には少々大き目の“Congratulations”の文字。どうやら、こっちが想定していた以上に脳天の剣のダメージが大きかったようだ。

 

「ええ・・・」

 

 確かに最後は漫画か何かのようにきれいに決まったが、それ以外を考えれば、“あっけない”の一言に尽きる戦闘だった。もっとも、こんな最初からハードモードのクエストを要求されても難しいが。

 軽く血振りをして得物をしまう。アインクラッドで得物に血が付くということはありえないが、気分の問題だ。そして、その場に転がっているもう一つの得物を手に取って、プロパティを確認する。と、

 

「うっひゃー」

 

 思わず変な声が出た。耐久値、残り5。つまり、あと一秒でも戦闘が長引いて居ようものなら、間違いなくこの剣は消えていたということである。というか、耐久値残り一桁なんてかえってレアな状態なのではなかろうか。どちらにせよ、この剣はここでお別れだ。内心でお礼を言って、その地面に突き刺した。そして、もう一つのドロップアイテムを確認する。アイテム名は“大猪の大牙”か。ってちょっと待て、

 

「ストレージ格納不可!?」

 

 思わず大きな声が出る。ストレージに入れれないってことは、手で持って行けってか!?つくづくこれソロ向けのクエストじゃねえ!?そもそも、もう少し上に上がってから受けるべきクエだよなこれ!?

 とにかく、一対でドロップした大牙を両肩に担ぐ。ってこれ、両方とも結構ずっしり来るな。AGIのダウン補正はかからないと思うけど、気分的にきつい。雑魚猪が出てきたらひたすら逃げるしか手がねえな、などと考えながら、俺は爺さんの小屋へ向かった。

 

 

 なんとかエンカウントを避けながら小屋にたどり着いた時には、もう辺りは夕暮れだった。視界が狭い猪だったから良かったものの、もしこれが馬みたいな視野の広い動物だったら詰んでいるだろうという場面がいくつかあった。どちらにせよ、日が暮れればエンカウントする可能性が高くなるので、間に合って良かったと割と本気で思った。

 

「爺さん、持ってきましたよ、牙」

 

 戸をノックしながら小屋の中に声をかける。すると、中から戸が開いて爺さんが出てきた。

 

「おお、これが」

 

 目を見開いて牙を受け取った爺さんは、そのまま歩いて奥に入って―――行きかけて、こちらに声をかけた。

 

「二本とも剣にしてよいのか?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「うむ、任された。さぞかし疲れたじゃろう。その辺で寝て待っておれ、若いの」

 

 そう言って改めて奥に入っていった。確かにあの大猪相手はくたびれた。ゆっくり寝て待つとしよう。そう思って、そこにあった椅子に腰かけてそのまま眠ってしまった。

 

 

 

「ほれ、起きろ、若いの」

 

 爺さんから声をかけられる。目を開けて外に目を向けると、仄かに地上戦が明るくなっていた。ちょっと寝すぎたか。って、そんなのはどうでもいい。

 

「剣はどこに?」

 

「これじゃ。お前さんの目は節穴か、馬鹿者」

 

 ・・・我ながら、目の前の人間が持っているのに気付かないとは。不覚。あれだな、帽子被りながら帽子何処だとかいうあの類いだな。

 

「ほれ、鞘に入れておいたでの。大切に使うことじゃ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 プロパティを見るのは後だ。そのまま小屋を出ようとすると、爺さんが声をかけてきた。

 

「おお、そうじゃ。聞くところによると、この層を守る守護獣は、曲刀によく似た、細く長い片刃の剣を使うと言う。気を付けることじゃ」

 

「分かりました。頭にいれておきます」

 

 そういうと、その場を離れた。もうすでに、手に入れた剣、ボーンカトラスは既に装備されている。今の俺は、早くこの剣を振りたい思いで一杯だった。

 後に、この忠告をもっとちゃんと覚えておくのだったと、本当に後悔するとも知らずに。

 

 

 そうとも知らずに、俺はボーンカトラスで狩りをしていた。どうやらあの牙を削って、その上から金属を覆わせてつくられたと思しきその剣は、なかなか以上の性能と耐久値を持っていた。耐久値の消耗が早いとか、そう言ったこともない。こうして戦っていても、今までの武器とは一線を画すことがよくわかる。これまで戦ってきたモンスターも速攻で倒すことができた。重さもあまりなく、あの苦労に似合う報酬だ。

 

 そんなこんなで、次の村にはすぐにつくことができた。武器は先の村まで装備していたものに戻していた。あれほどのものだと少々もったいない気もしたからだ。それに、あの大猪は腐っても中ボス扱いだったのだろう、経験値をたんまりと落としていった。こちらもレベルが上がっているわけである。

 村にたどり着いてから、例によって武器屋で新たな装備を物色し、予備用も含めて三本購入。そして、ちょくちょく使っていたポーションを補充すると、アルゴの攻略本を買う。新たなそれを手に取って、歩きながらページをパラパラめくっていく。と、面白そうなクエストがあった。

 

(“逆襲の牝牛”。農場を手助けするだけの簡単なお仕事。途中に出現する牝牛の攻撃力はそこまで高いわけでもなく、レベリングにおすすめ。ただし、時間がかかるので注意。追記、クエスト報酬のクリームはなかなかに美味。―――へえ)

 

 ただでさえも娯楽が制限されているのだ。食の娯楽くらいは復活させてもいいだろう。そう思いながら、そのクエストの受注に向かった。

 

 クエスト内容を端的にまとめてしまうと、“牧場の牝牛―――もっと言ってしまえば乳牛が、何らかの影響で暴走して人を襲うようになってしまった。こうなってしまっては殺してしまっても構わないからどうにかしてほしい”ということだった。ま、それなら仕方ないか。と、思いながら牧場内に入った俺を待ち構えていたのは、異常に目をぎらつかせた乳牛だった。

 これだけ聞けばそこまで怖くはなさそうと考える人もいるだろう。だが想像してみてほしい。まだら模様の、見たところほとんど普通の乳牛が、こちらを食らい殺さんとばかりに睨んできているのだ。しかも闘牛かと思うように息が荒い。それがざっと数えて・・・10頭から20頭ほどいる。奥には難を逃れたであろう乳牛が遠巻きにこちらを見ている。シュールな恐怖である。

 

「あーもう、仕方ねえかな」

 

 ウィンドウを操作して、ボーンカトラスを装備する。そして、音をはっきりと立てながら抜剣する。生憎と突進してくるだけの能無しは先ほどまで飽きるほど相手にしてきたのだ。しかもうち一頭は中ボスというおまけつきで。この程度は楽勝の部類だろう。

 数歩歩いたところで一気にダッシュする。それに呼応するように向こうも走り出した。が、

 

「バーカ」

 

 嘲笑いながら跳躍、正面から突進してきた牛の背に手を当てながらロンダートの要領で飛び越す。そのまま体制を整えて、後ろにいた乳牛の上に跨った。すかさず片手で短いながらも存在する角を掴む。―――角切やってないのかここの牛は、とどうでもいいことを考えながら、がっちりと暫くつかんでいると、そのまま相手の群れへ突っ込んでいった。体勢を変えて、タイミングを見計らって跳躍。あの牛にはかわいそうだが、囮になってもらうしかあるまい。俺の予想した通り、あの牛はそのまま一頭に突っ込んでいき、そのままお互い動かなくなった―――ところで、他の狂った乳牛たちがその二頭の体に食らいついた。この手の動物で共食いというのはあまり聞かない話ではあるものの、これで狂った意味が分かった。おそらく、この共食いが原因なのだろう。だが、今はそんなことどうでもいい。

 傍観に徹していると、やがて二頭はその体をポリゴン片の集合へと変えた。直後に、抜き放ちざまに真空破斬を放つ。足元を狙ったそれは、狙い違わずに数頭の脚を刈った。それに、数頭の牛が群がって食らいつくす。その光景を無機質に眺めながら、俺は冷静に考えていた。

 

「やっぱり、こいつら・・・」

 

 大元の原因はともかくとして、おそらくこいつらは共食いしかしない。ならば、一頭でもいいから動きを止めてしまえば、あとは相手が食らい殺す。ということは、ソードスキルは必要ない。こちらが必要なのは、相手の行動を誘導することだ。

 

「ま、それなら簡単だわな」

 

 そう言いつつ剣を構えなおす。その顔はいくらか吹っ切れたように明るくなっていた。

 

 

 それから数時間後。

 

「ったく、どんだけ出てくんだこいつら・・・」

 

 武器をボーンカトラスから店売りのブレードに切り替えて、ひたすら足を刈って牛に食い殺させるということを繰り返していた俺は、次から次へと際限なく出現する敵に辟易としていた。ちらと後ろを見ると、どうやら牛舎のほうから次々と狂った乳牛が突進してきているようだ。

 

「なーんでこいつらはこんなに出て来るかなぁ・・・」

 

 時間がかかるとはこういうことかと割と本気でアルゴを恨んだ。おそらくあの情報屋はここまで掴んだ上で書いていた可能性がある。つくづく人が悪い。

 

「ま、でも楽に攻略できることは確かだよなぁ」

 

 なにせあくせくして殺す必要はない。足を刈りさえすれば、あとは相手のほうが勝手に殺してくれる。こちらが手を貸してもいいが、そうすると時間がかかる。普通のゲームならば、ある程度リスクを冒してでも相手に攻撃を仕掛ける。だが、死にかけるリスクと両天秤ならば、どちらを取るのかは火を見るよりも明らかだ。

 

「でも流石に飽きるな、こんだけ単調だと」

 

 一歩間違えば死ぬという局面でも、俺は戦うことに一種の快楽を覚えたいらしい。とことんゲーマーだなと我ながら思った。

 

「だけどあんまり時間をかけてもいられないよなぁ・・・」

 

 一刻でも早く攻略をする。それが、俺にとって目下一番の目標であり、行動原理だ。

 

「しゃーない、か」

 

 これだけの量を相手にすれば、耐久値は大きく減るだろう。下手すれば耐久値全損、などということがあり得るかもしれない。だが、こちらが今装備しているものを含めて、ブレードは三本ある。それだけあれば十分だ。

 

「んじゃ、行くか」

 

 喝入れのためにも声を出して、片手で抜剣して、右に剣を向けて水平に構える。そのまま群れに向かいながら、俺は自分の頬が自然と緩むのを感じていた。

 

 

 

 それから少しして。

 

「ったく、ようやく終わった」

 

 あの狂った乳牛どもの始末を何とか終え、ポーションを一気飲みしながら受注した場所である詰所に向かう。耐久値は何とか半分を少し切ったくらいで止まっていた。そもそも、最悪一本無くなるということを考えていたことを思えば、まったく余裕だった。

 詰所に入ると、夫婦の上のクエスチョンマークは消えていなかった。

 

「とりあえず、妙なことになった乳牛はどうにかしました。殺すしかなかったですけど・・・」

 

「それでいいわ。そう言ったのは私たちなのだから、あなたが気に病む必要はないわ。でも、別の問題が発生しちゃったの」

 

「別の問題、と言いますと?」

 

「牛が逃げちゃったんだ。どうやら、普通の牛が狂った牛に怯えちゃったみたいでね」

 

 これって、要するに捕まえてこいってイベントか。わあ面倒くさい。しかも牛って結構逃げ足早いらしいじゃん。

 

「どのあたりに逃げたのかとか、見当ってつきますか?」

 

「逃げた方向からすると、西の草原地帯かな。あそこは草も生えてるし」

 

「分かりました。最後まで付き合いますよ」

 

「本当かい!?いや、それはなんというか、ありがたいのだが・・・」

 

「問題ないですよ。乗り掛かった舟ってやつです。で、牛が逃げたのは西方の草原地帯、でしたね」

 

「ああ。僕たちもあとから追いかける」

 

 そう言うと、詰所を飛び出した。こういうのはさっさと終わらせるに越したことはない。

 

 やがて、牛の群れを見つけた。のんびりとしているその光景だけ見れば平和そのものだ。が、その遠く先に、何頭か猪がいることを索敵スキルが教えた。

 

「なるほどね、防衛戦ってわけか」

 

 こうなったら仕方ない。ボーンカトラスを取り出して抜剣する。そのまま一気にダッシュすることはせずに、そこで静かに待った。

 

 

 それから少しあと。俺のレベルとこれまで戦ってきた経験、そしてボーンカトラスの強さも相まって、さっさとぶっ倒した頃にNPCの夫婦が馬車に乗ってやってきた。

 

「ああ、やっぱりここにいた。って、剣を抜いて、どうかしたの?」

 

「いや、猪が襲ってきたので。ぶっ倒しただけです」

 

「そっか、ありがとう。乗ってください、送っていきますよ」

 

「お願いします」

 

 この手のやつは楽をしてさっさと移動するか、レベリングも兼ねて徒歩で移動するかというものだ。正直に言って楽をしたかった俺は、お言葉に甘えることとした。牛?しらん。後ろからついてくるんじゃね?

 

 

 戻ってクエスト達成を確認すると、もうすでに夕方になってきていた。が、移動中は眠ることができたから、眠気などはほとんどない。もともと俺は比較的どこでも眠ることのできるクチだ。揺れる馬車の上など、俺にとってはゆりかご同然だ。気づくと、俺はNPCに起こされて、詰所の前にいた。

 

「さてと、仮眠もできたし、とっとと次の街に行くか」

 

 次の街、トールバーナまでに夜明け前までに向かう。目下最大の目標はそれだけだった。

 




 はい、というわけで。
 まずは解説を。

双牙斬
 元ネタ:テイルズシリーズ、使用者:リオン・マグナス(TOD)、ルーク・フォン・ファブレ、アッシュ(TOA)など
 斬り降ろして飛び上がりながら切り上げる。イメージとしては虎牙破斬逆バージョン。ここでイメージしているのはTOAの二人のそれ。

 意外と丁寧な主人公。クエストなんかはこんな感じがいいかなーと適当にあたりを付けながら書きました。
 というか、垂直飛びしてから脳天に剣を突き刺すって主人公怖い。それにトールバーナまでの日数が分からず半分感なのですが・・・適当すぎるかなとだいぶ不安になっております。
 指摘等あれば感想なりメールなりでお願いします。

 ではまた次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。