それからしばらくして、俺は相変わらずオレンジ狩りを行っていた。普段はおしゃれなどまったく興味の無い俺だが、変装のためにその手の知識はおのずとついていた。今日の獲物はいつもの刀と小太刀ではない。最近、俺のスキルリストに現れた、とある妙なスキルを試すためだ。
武器を構え、狙いを付ける。俺の目標は、少し先にいるオレンジだ。俺は隠蔽スキルを完全習得していて、しかも俺が陣取っているのは完全に相手の死角の位置。相手がこちらを確認するには、頭を動かして俺のほうを凝視するしかない。そんなことをしている間には、俺は完璧に捕らえられる自信があった。そのくらいのトレーニングはしている。
俺の手から離れた得物は過たず、相手の眉間を一撃でとらえた。続いて第二射を素早くつがえ、放つ。今度は右胸に命中した。その一撃がとどめとなり、目標はポリゴン片へと変化した。
(着弾点が20cmくらいずれたか。まだまだだな、俺も)
俺はゆっくりと得物を背中に背負った。そのまま歩いて、先ほど一人の命が散ったところに転がっている二本の剣を回収した。本来剣はこんな使い方をするものではないというツッコミはさておく。
(しっかし、慣れは必要だが、これは結構使えるな)
勘のいい人は気づいているかもしれないが、俺が新たに習得したスキルとは、その名も“射撃”だった。弓を使ったもので、威力は弓自体の攻撃力に、放つ物による攻撃力を上乗せするというもの。その特性上、スタン値はそんなに高くないのだが、
まあそんなのは置いておくとして、とにかくこれのおかげで俺は今まで得意としてきたロングレンジを、独壇場といってもいいものに進化させることに成功したのだ。結果的に何が起こったのかといえば、誰にも気付かれずに超長距離からの狙撃のみでキルするという、およそ一般的には考えられない所業をも可能としたのだ。今までの俺は遠距離からの攻撃で動きを止めて、その上で接近してとどめを刺していたため、接近する一過程が省略できるようになったのだ。これは地味にかなり大きい。しかも、完全なサイレント&ハイドキルができるというのも特徴。何せ、音らしい音といえば弓を放った時の弦が鳴る音くらいだ。そんな小さな音を、少なくとも30mは離れている距離で聞き取れる相手がいたら知りたいというものだ。
とにかく、俺からしたらかなりこれは楽なことだ。何せ、今まで外したらそれで使い捨てだったところが、矢や剣が飛んできたとなれば一瞬でも固まる。その間に第二射で仕留めればいいのだからから、後は俺の練度次第だ。その練度もそんなに低いものとは言えなくなってきたので、ざっくり言ってしまえば二発あればほぼ確実に当てることができるのだ。
とまあ、解説はこの辺にして。とにかく、俺は相も変わらずオレンジ狩りをやっていたわけだ。あれから時間も経って、季節は空きを通り越して冬一歩手前みたいなところまで来ているのだが、俺のやることは一切といってもいいほど変わっていなかった。あれから俺が殺したプレイヤーは数知れない。PoHの噂は最近聞かないから、俺のカウントではPoHが殺した人数より、俺が殺した人数のほうが上をいっていてもおかしくないところまで来ていた。
(こりゃ、どっちが化け物かわからないな)
ここがもう一つの現実である以上、俺が殺人鬼であるという事実は変えようがないだろう。しかも、人を殺すという作業を、眉ひとつ動かさないどころか嫌悪感すらも抱かずに淡々とこなすことができるなど、それはもはや人の形をした化け物と呼んで差支えないだろう。なら、それができる俺は化け物以外の何物でもない。ゲイザーとアルゴにはこれでもかと言うほどの口止め料を積んで、レインとエリーゼに俺関連の情報がいかないようにしている。つまり、彼女らは俺が今どこで何をしているのか、俺がこれまでに何人殺したのか、どんな奴を相手にしたのか、それらが分からないということだ。俺が、服装だけでなくウィッグや眼鏡も使って変装しているということを知っているあいつらからすれば、俺とのエンカウント確率なんてそれこそちょっとしたレアモンスター並になるだろう。まあもっとも、俺が変装しているという
この血色のコート、名前を“カースドブラッディロゼコート”は、第十五層フロアボスドロップのブラッディコートと、セルムからもらった“ロゼコート”を合わせ、さらに強化したものだ。直訳すれば“呪われた血まみれで深紅の外套”である。これを作成したリズに「あんた本当に呪われてるんじゃないの?」と割と本気のトーンで言われたように、かなり物騒な名前である。直後に軽く脳天チョップして黙らせたが、俺も半分そう思っている。もう半分は、呪われてしかるべきという自虐だ。
こうして行動しているのは、二つほど目的があった。一つ目は、ラフコフ残党の再結集の阻止。そもそも人間がいないのでは、再結集も何もない。もう一つは、PoH自身の殺害。ジョニーはあのまま投獄コースだろうし、どうやら捉え損ねたザザは捕縛、投獄されたようだから問題ないとして、一番危険なやつがそのまま野放しになっているというのは大いに問題だ。あいつは探し出して殺す必要がある。他ならぬ俺の手でだ。あいつとタイマンで勝てるかどうかはわからないとしか言いようがないが、このユニークスキルがあれば、少なくとも先手は取れる。それで死ぬのならそれまでということだ。これ以上は巻き込めないというのもそういう理由だ。あいつ相手では、生半可な実力の味方はかえって足手まといでしかない。これがある意味最善手なのだ。俺もあの時から強くなった。
とにかく、今は我慢の時だ。焦らず一人ひとり殺していけばいい。正直に言って、このだだっ広いSAOの中でPoHを探すなどというのはかなり難しいと言わざるを得ない。見つかったらラッキー程度に思うべきだろう。だからこそ、一つ目の目的を遂行する必要があるのだ。一つ一つでも芽は摘んでいく必要がある。
(一回帰るか)
射撃スキルは確かに便利なのだが、いかんせん集中力が持たない。現実でも弓道とかアーチェリーとかクレーとか、とにかく射撃系の類をやって居れば多少はなれというものがあったのだろうが、俺はそんなことをした覚えはない。必然的に弓で狙いを付けて放つというだけでも剣を振るうより神経を使う。まあもっとも、便利な上に合理的であるから使っているだけなのだが、そうでなかったらとうの昔に切っているスキルの一つだろう。時間は過ぎて、最前線はもう間もなく70の大台に突入するというところだ。そして、俺のレベルは相変わらず攻略組並の水準をキープしていた。
(今日はこのまま狩りに向かうか)
定期的なレベリングも兼ねた、最前線でのフィールド漁り。もうすでに全体評価がストップ安の俺にとっては他人からのヘイトなど些細な問題に過ぎなかった。それに、腐っても最前線だから、ただフィールドで適当に勝っているだけでも、かなりレベリング効率は高かったのである。もっとも、場所によってはやはりポップしにくい場所というのもあったのだが、そのあたりはご愛嬌だ。加えて、俺は刀と小太刀の二刀流、しかもその得物も、刀は名刀、小太刀は妖刀という組み合わせ故に、DPSはおそらくこのアインクラッドでも一二を争う。狩場になりかけているところを見るや否や、さっくりとそのDPSで一気にレベリング、などということも結構ザラだったのだ。そして、俺は今からそれを実行しようと、転移門のある街に向かって歩き出した。
相変わらず射撃スキルを使ってスニークハントを繰り返していた俺は、何度目かのリザルトメッセージを閉じた。この作業も、もはや慣れたものだ。すぐに次の目標を探しにかかるところで、微かな悲鳴を耳が捉えた。
(まったく、お人よしだよな)
自分で呆れながらもそちらへ向かう。幸いなことに、ここは林とはいかないものの木はある。空中機動くらいは俺も習得しているから問題ない。スニーキングに関しては言わずもがなだ。
手ごろな木に登って周囲を見渡す。リアルだとそんなによくない目も、こっちでは問題ない。すぐに目的の相手を見つけた俺は、普通の矢をつがえて、素早く狙いを付けて放った。狙いは、二人組で攻撃していると思われる片割れ。狙い通り、放たれた矢はそのまま相手に突き刺さった。もともと抵抗していてダメージが入っていたこともあったのだろう、そのまま相手はポリゴン片となった。突発的になぜかいきなり死んだ相棒に茫然としている間に、そのまま第二射をつがえ放つ。今度は少し外れて首筋に突き刺さった。それでようやく遠距離から射撃を受けていると気付いたのだろう、相手の意識がこちらに向く。が、どうやらその襲撃者は“窮鼠猫を噛む”という言葉を知らなかったようだ。自分の襲っていた相手の刃が、自分のとどめを刺すものになったということを、その死んだ相手が知っていたかどうかは、神のみぞ知るというものだ。そのとどめを刺したのが誰かというのは、考える必要もない。いや、考えたくない。
(何を考えているんだ、俺は。彼女をこんな道へと落としたのは俺だって言うのに)
音を立てずに木から降りる。そのまま立ち去ろうとする前に俺の前に誰かがいた。いや、そんな気がしただけだろう。こんな偶然があってたまるか。その幻像の傍を通りすぎようとしたときに
「待って!」
背中にかけられる声。だが、俺は気付かないふりをした。一時期とはいえ、背中を預けた相手だ。今でもたぶん、背中を預けるとしたら、この声の主たる少女以外にはいない。だが、
(俺に、あの子の傍にいる資格はもうない)
俺のような外道に、わざわざ関わらせる理由などない。外道は俺一人で十分だ。
何をするでもなく、私はただ、遠ざかっていく背中に手を伸ばすことしかできなかった。パーティを組んでいたからわかる。あの背中は、“追ってくるな”と暗に言っているのだ。もともとそんなに口数が多いほうじゃない。だから、こうして察することに慣れてしまった。あの、ラフコフ勢力についていったときのような背中を見ては、追うことなどできるはずもない。
「逃がしちゃった、か」
いつの間にか、後ろにはエリーゼさんが来ていた。彼女は今回囮になってくれたのだ。作戦としては、彼女が囮となってPKerをおびき出し、それを殺しにかかるロータス君を捕まえる、というものだった。第一射で遠方からの狙撃を悟った私は、隠蔽スキルを発動させたまま、地面に突き刺さった矢から大体の方向を察知して、コンプリートした索敵スキルをフル活用してロータス君をあぶりだした、というわけだ。だけど、結果はこの通り。
「はい・・・。なんか、追えませんでした」
「ま、そういうもんでしょ。男ってなんでこういうときにこんなに面倒くさいかねぇ」
腰に手を当てて呆れたように言うエリーゼさんは、どこか様になっている。というか、ロータス君にそっくりだった。似たのか似せたのかはわからないが、元が彼の癖であるのは間違いないだろう。
「まあ、仕方ないんじゃないですか、ロータス君ですし」
「まあねえ・・・」
そう言ってため息を一つ。ぽりぽりと頭の後ろを掻いて、エリーゼさんはゆっくりと反転した。
「行きましょ。今日の目的はもう達したわけだし、彼を追いかけるにも情報が少なすぎるわ」
「はい」
そう言われて、私たちは帰路についた。
俺は相変わらず狩りをしていた。このままここで狩りをするというのはいくつか目的がある。一つ目は、言わずもがなレベリングや素材集め。二つ目は、情報集め。最前線だけあって、様々な情報の宝庫なのだ。これを逃す手はない。三つ目は、最前線に出て来るプレイヤーを狙ったPKer狩り。三つ目に関しては半分エンカウントのようなものなのだが、まあ案外これが大事だったりする。まあ、今日のエンカウントは想像以上に意外過ぎたが。
(まさかあいつらが最前線まで出張ってくるとはな・・・)
俺に限った話で考えると、わざわざ最前線まで出張ってくる理由はない。それは彼女たちも共通しているはず。さらに考える必要があるのは、俺の射撃スキルに関して何らか情報が流れている可能性がある点だ。知っていてもやられる類のスキルがこれに当たるが、知っているのと知らないのとでは警戒の度合いが違う。必然的に、難易度も段違いになってしまう。まあ、そんなことなど関係ないくらいまでに俺の腕が上がりだしたから、そこまで問題ではないうえに、最悪クロスレンジでぶっ倒すという手がある以上どうにでもなるところはあるのだが。そちらのほうの鍛錬を怠る俺でもないから、腕も落ちていない。
そんなことを考えながら狩りをしていると、システムメッセージが出てきた。どうやらレベルが上がったらしい。さすがは最前線、経験値の落ちる量が多い。だが、その代り消耗が激しいのもまた事実だ。
(今日のところはこのくらいにして帰るか)
そう思って武器をしまった瞬間に、視界の端で何かが動いた。そちらを見ると、なにやら狐とリスを足して二で割ったような小動物がいた。そして、俺はそれに見覚えがあった。見た瞬間に、大体は察せてしまう程度には。俺はゆっくりとその小動物の傍に行くと、しゃがんで一言だけ言った。
「案内してもらえるか」
言葉が通じたとは思えないが、その小動物は少しの間まじまじと俺を見て、すぐに背中を向けて歩き出した。何せ小さいので追うのには一苦労すると思っていたのだが、そんなことはなかった。というのも、そこそこ広い道しか通らないのだ。やがてたどり着いた小さな穴も、あの時とほとんど変わっていなかった。あの時と同じように、装備を解除して中に入った先は、まるでずっと変わらないかのような、神聖とも思える不思議な空間だった。
(変わんねえのな。変わったのは、俺のほうか)
あれからここまで、本当にいろんなことがあった。いつの間にかこの手は血に塗れて、振り返ればそこにあるのは屍の山だ。寝れば絶えず断末魔が聞こえ、深くも眠れない日々。それでも、俺はずっとこんな生活を続けていく。それが俺自身の業だからだ。少なくとも、あの時にここに似た空間に訪れたときはこんなことになるとは、本当に夢にも思っていなかっただろう。
そんなことを考えていると、後ろから足音が聞こえてきた。微かに振り返ると、そこには見覚えのある青年と、その隣には一人の少女がいた。
「よ、セルム。久しぶりだな」
「そうだね、ロータス」
まるで久しく会っていなかった親友のようなやり取りをすると、セルムは俺の隣に座った。
「元気そうで何よりだ」
「そっちもね。君の様子は聞いてたよ」
その言葉に俺は驚いた。彼はあくまでNPC、しかもこういう限られた状況下でしか会えないようなNPCだ。そんな彼まで情報が回るほど、俺も有名になっていたということだろうか。
「あ、いや、そういうわけじゃなくてね。この子に聞いたんだよ」
そう言って、隣にちょこんと座っている女性の頭を撫でた。空洞に近いその瞳に何が映っているのか少し気になった。
「心が読めるのか?その子。いや、ちょっと待てよ」
そこまで来て、少し考える。ナーヴギアは、脳波を観測して、それをアバターに反映させる端末だ。ということは、その中から感情のパラメータを読み取ることも可能なのではないか。また、それをもっと突き詰めれば、今誰がどういう思考をしているのか、というところまで推測することも可能なのではないか。つまり、この女性の正体は―――
「プレイヤーの精神面を観測、もしかしたら分析まで行う、AIか」
一瞬NPCと言いそうになったが、こんな高性能なNPCがわんさといてたまるかというものである。ここまで来たら、もはやAIという表現のほうが適切だろう。
「その通り。彼女たちは分析を行うことはないけどね。もともとは、プレイヤーの精神状態を観測、問題のあるプレイヤーの下に赴いてカウンセリングを行うAIだ。
「らしい、っつーのは?」
「彼女自身がぽつりぽつりと漏らす情報をまとめるとそうなる。もっとも、何らかの影響でこのような状態になってしまっているけどね」
「その影響の原因が何か、ってのは・・・分かってりゃ世話ねえよな」
「そうだね。精神的な健康に関するプログラムの精神的健康を取り戻すために話すって言うのも、おかしな話だけど」
「まあ確かにな」
セルムの言葉に、俺のひとつ笑みをこぼす。その顔を見て、セルムの表情は少しだけだが沈んだ。
「君も、いろいろあったみたいだね」
「ああ、まあな。・・・本来、俺みたいな人間がここに来る資格なんて、もうないのかもしれないがな」
「そんなことはないよ。君は優しいからね。この子達も、君が危ない人じゃないとわかっているからこそ、こんな風にいるんだよ」
確かに、俺たちの周囲にはいつぞやと同じように動物がたくさんいた。兎は目を閉じて蹲っているし、猫は丸くなっている。リスは手に持った木の実を頬張っているし、木にとまっている鳥たちはこちらをじっと見つめたり、落ち着かないように体をぶるりと振るわせたりしている。どれも、警戒している様子はなかった。
「俺は何人どころか何十人と人を殺した極悪人だぞ?そんな人間が優しいわけねえだろ」
俺の言葉に、セルムはゆっくりと首を振った。
「違うよ、君は優しい。そうでなければ、とっくの昔に、あの長髪の少女や、君の知り合いらしいあの女性の傭兵を巻き込んでいるはずだろう?」
「ただのエゴだよ」
「優しさなんてたいていそんなものだよ」
まるで諭すように言われたセルムの一言に、俺は言葉を失った。そう言われてみれば、そうなのかもしれないと思ってしまう。
「・・・本当にお前って、不思議なやつだよな」
「変わってるってよく言われるよ」
「なんとなくわかる気はするがな」
いつの間にか、俺の肩には先ほど俺を案内した小動物がいた。ゆっくりと指で頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
「結構人懐っこいのな」
「そんなことないよ。今でこそこうだけどね。前会ったとき、僕があのコートを着たら似合わないって言われたって言ったろ?」
「あー、そんなこと言ってたなそういや」
「その論評をしたのが、その子の元の飼い主でね。その子も、最初は噛まれたって言ってたよ」
「へえ・・・。お前も丸くなったのな、テト」
ぽろっと思わず漏れた俺の一言に、セルムが目を丸くした。
「その子を知っているのかい?」
「え?」
一瞬、驚いたことに驚いたが、すぐに原因に思い至った。大方、さっきの一言だろう。
「ああ、名前ね。実を言うと、俺が好きだった本にテトに似たやつがいてな。そいつの名前がテトなんだ」
「なるほどね」
そこまで喋ったところで、俺は場所を、例の少女の前に変えた。その目は完全に空洞で、何も考えていない・・・いや、何も考えられないような顔をしていた。
「この子、名前はなんていうんだ?」
「ストレア、って言うらしいね。意味は分からないけど」
「ストレア、ね」
ストレスケアとかでストレアかな、などと少々余分なことを考えながら、俺はストレアの目を覗いた。その目は相変わらず空洞で、吸い込まれそうなほどだった。
「そういえば、ストレアはどうして俺に目を付けたか、って言ってたか?」
「言ってはいた、けど意味が分からない」
「とりあえず聞かせてくれ」
「一言、『白の花畑』と。そう言っていたよ」
「・・・なるほど」
一瞬俺も意味が分からなかったが、すぐに理解した。
「たぶん、それは花言葉だろうな。俺は、ちょくちょく白い花が咲く花畑に足を運んでたから、おそらくそれを指しているんだろう。でも、なぜそれが理由となるのか、ということまではわからないが」
「なるほどね」
あの花の花言葉は「苦難の中の力」で、他の意味はなかったはずなのだが、いったいどういう意味なのだろうか。確かにここまで平穏無事だったかと言われれば、決してそうではないという回答になるのだが、そこまでの逆境だろうかというところもまた事実だ。
「ま、とにかく、よろしくな、ストレア」
「・・・よろしく」
やはり、声もどこかうつろだ。カウンセリングプログラムということは、言語モジュールもより高度なものが採用されているはずなのだが、こんな状態であるということは何かあったのかもしれない。
「何らかのバグの蓄積かな?それか、あんまりにも対象が多すぎてプログラムエラーを起こしたか、ってとこかな。どちらにせよ、正常な状態ではないことは確かだよな」
「暫く僕のほうで匿うことはできるけど、どうする?一度誰かに相談すべきだとは思っていたんだけど、ここまでくる人は少なくてね」
その言葉を受けて、俺は暫く黙り込んだ。
「このまま放っておくわけにもいかないけど、いまGMコール使えないしなぁ・・・。悪いセルム、頼むわ」
「うん、お安い御用だよ。どうせこんな生活だから、食料とかも傷めることのほうが多くてね」
「そか、それならよかった」
それだけ言うと、俺は立ち上がった。ここは確かに居心地がいいが、だからといってずっと居座るわけにもいかない。
「行くのかい?」
「ああ。また来るよ」
「待ってるよ。この子たちも、君が来るのを楽しみにしているようだ」
「・・・そか」
一瞬間が空いたのは思わぬ言葉による驚きだった。
「またな」
「ああ、また」
それだけ言うと、俺はその場を去った。
はい、というわけで。
19:30頃といったな、あれは(ry
いやはや、時間計算をミスってしまっていて。申し訳ない。
あと、一瞬だけ書きかけで投稿してしまいました。混乱させてしまいすみませんでした。
それはさておき、今回はかなり長いですね。しかも、前半は地の文ばっかり。台詞ほとんどなし。これはひどい。
実はこれ、前半だけ(4700字程度)で一話にする予定だったのですが、あまりにも時の分が多すぎるということで、長くなること覚悟で本来二話分を一気に投稿するという流れに相成りました。
剣をつがえて放つというのは、ネタバレ防止につき名前は明かせませんが、原作でも整合騎士の一人がやってましたね。しかもあの人も赤いって言う。ここで例えとして挙げている某赤い弓兵と言うのは、あの「弓道の矢なんて当たると思えば当たるもの」とかいう、全世界の弓使いに喧嘩を売るあの人です。
セルムって誰だよって方は6話を参照です。こういう、橋渡し的な役目であり、本来ならMHCPがやっていたであろうことを、もうちょっと彼にやってもらいたかったのですが、そこまできっちり動いてくれませんでした。ロータス君だし仕方ない(諦め。
それと、ストレアとか誰それという方はSAOのゲームをプレイするといいです。HFもLSも、キャラのいろんな面が見れていいですよ(ダイマ。
この次は一気に話が飛びまして、グリームアイズあたりです。ここから先、かなり視点が女子陣になることが多くなります。表舞台は彼女たちだし仕方ない。
ではまた二週間後。