32.決裂
「で、俺をどうするつもりだ?」
俺の問いかけに、アスナはすぐに答えなかった。というより、答えられない様子だった。もっとも、俺は背中越しなので、雰囲気で察するしかないのだが。
「あなたがどうしてこんな手段をとったのかなんてわからない。だから、頭ごなしに否定はできない。それでも、私はあなたを許すことはできそうにないわ」
「そうか」
かけられたのは拒絶の言葉。俺にとって驚きなどなかった。なにより、これなら何も知らない人間にとって嘘などないのだから、演技が演技でなくなる。わざわざ演技をした甲斐もあったというものだ。
「俺がこの手段をとったのは、ただ単にこっちのほうが効率的だったからだ」
「人殺しが効率的なんて、お笑い種ね」
「かもしれねえな。でも、ラフコフメンバーが殺すであろう数十人。俺が殺すであろう十数人。同じ命なら軽いがどちらかなんて考えるまでもないだろう。それに、ラフコフはもう空中分解。一石二鳥だ」
俺の言葉に、アスナは黙り込んだ。やがて、アスナは俺に向かって、はっきりと言った。
「確かにあなたのやったことで救われた人はいたかもしれない。でも、それであなたのやったことがすべて許されるわけじゃない」
「目的は手段を正当化しない。ま、当然だわな」
言いつつ、俺は右のつま先を一つ打ち付ける。このブーツは底に刃を仕込んだ特別製だ。底にあったものが移動する感触を確認して、俺は振り返りざまでアスナに後ろ回し蹴りを繰り出した。手を叩かれただけでなく、思わぬ感覚に一瞬アスナが悶絶した瞬間を見逃さずに、俺は即座にポーチの中から煙幕を取り出して地面に叩き付けた。
一瞬で広がる煙に周囲が目を閉じた瞬間に、俺は移動した。こんな状況で、よくわからない地形を移動する馬鹿はいない。だがそれは、よくわからない場合のみだ。俺にとってここは、文字通り庭同然だった。直後に移動した俺は、レインがいたと思われる場所に移動すると、索敵のModである“視覚強化”を使って周囲のプレイヤーを探した。すぐにそれは見つかり、俺は首筋に手刀を下ろし、レインの意識を狩った。
「すまんな」
一言だけ謝って、すぐに俺は隠し通路から飛び出した。
煙幕が晴れたとき、もうすでにそこにロータスはいなかった。さすがにこのダンジョン内で追いかけたところで、迷子になる落ちしか見えない。実質取り逃がしたということになる。
ワンテンポ遅れる形でエリーゼが合流した。エリーゼに気付くと、アスナはゆっくりと首を横に振った。
「あの人は、まったくもう、とことん馬鹿なのかねぇ・・・」
「男の子っていうのはそういうものでしょ」
「お、男を知った女の言葉ですなぁ」
「そんなんじゃないわよ!」
思わず噛みついたアスナを軽くあしらうエリーゼに、アスナはどこか既視感を感じていた。
(やっぱりこの感じ、ロータス君に似てる・・・)
そう、この二人はどこか似ているのだ。外見的なものではなく、雰囲気的な意味で。
「とにかく、もうここは出よう。用件はもう済んだんだし」
「そうね」
あれだけ固執していた割に、エリーゼの反応は薄いものだった。それにどこか不審さを覚えたが、アスナはいったんそれを置いておくことにして、気絶したレインを抱えて移動した。
「撒いた、か」
後ろを振り返りながら、俺は言う。念のため視覚強化を使って周りを見渡すが、追手はいない。きっちり撒いたことを確認して、俺は隠蔽スキルと集中を切った。
「これでもう、後戻りはできねえな。もともとないか、
とにかく、これであの少女が俺と同じところまで落ちることは防いだ。
エゴイストだと罵ればいい。独善者だと笑えばいい。
「さて、とりあえずカーソルの色をもとに戻すか」
このままでは動き辛い。幸いなことに、ほとんどの層のカルマクエスト開始の場所は頭の中に入っている。この層も例外ではない。グリーンに戻すまでには数日かかるだろうが、たかだか数日だ。
はい、というわけで。
今回は短めです。なので、先に投稿する形で。
今回からSAO終章となります。このお話がある意味分水嶺で、ここでの分岐です。ちなみに、このルートの条件をゲーム風に言うと、「アスナの好感度一定以上かつアスナ、レイン、エリーゼの合計好感度一定以上ではない場合」です。つまり、「アスナの好感度一定以下またはアスナ、レイン、エリーゼの好感度一定以下」の場合です。ここでそれはそれはざっくりとカットしている日常パートで、いかに彼女らの好感度を上げておくか、というのがキーですね。ちなみに分岐条件の好感度は高めという、マジで意味の無い裏設定があったり。
このルートに名前を付けるのなら、“血塗れの蓮”ってとこですかね。通称するなら“おひとり様ルート”といったところですか。
今書き途中なのですが、このペースで行くと、かなり終章は早く終わりそうです。もしかしたら一回ALOまで終わらせるかもしれませんが、そのあたりは未定です。
ではまた次回。