ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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 はい、どうも。

 宣言通りすぐ投稿しに来ました。今回さっそく改変その1があります。あと、ようやく主人公の名前が出ます。


1.ホルンカ

 日没の前に何とか次の村にたどり着いた俺は、そこで奇妙なプレイヤーに出会った。

 

「ほらほら持ってけ持ってケ~。アルゴ印の攻略本、たったの500コルだヨ~」

 

 待った、攻略本?ってか、俺結構休まず全力で走ってきたほうなんだけど、それをやすやすと上回るってことはあのプレイヤー何者、と考えたところですぐに思い当たった。

 

(あ、そっか、SAOにはCBTがあったんだっけ)

 

 CBT、つまりはクローズドβテスト。サービス開始前にバグチェックやバランス調整、サーバー負荷などのデータ採取を目的としたβテストの中でも、人数などを制限したもの。確かSAOでは公募制だったはずだ。

 まあ、そんなことはともかく。おそらくCBTの経験を生かして近道とか効率的なレベリングとかをしたのだろう。要するに、おそらくその攻略本を生み出したアルゴなる人物はほぼ間違いなくβテスターなわけだ。そう思いながら、情報は大切だと遠慮なくもらうこととする。

 

「オ?おにーさん、早いナ」

 

「そうなのか?俺は合理的な手段を取ったまでだが」

 

「それを迷いなく選べるプレイヤーは一握りだと思うゾ」

 

「ま、褒め言葉と受け取っとくよ。それより、ここに書いてある情報ってCBTの情報か?」

 

「まあナ。確実性が保証できるものもあるけどそうじゃない情報も多い。だから基本は無料」

 

「ってことは、確実な情報は有料、結果として500ってわけか」

 

「そーいうコト。おにーさん、頭の回転早いナ。名前はなんていうんダ?」

 

「ロータスだ。俺は頭の回転がいいとは思わないけどな」

 

「にゃハハハ、ますます気に入ったヨ。ちなみにオレっちがアルゴだヨ」

 

「そうか、よろしくな」

 

 そう言いつつ500コルを手渡す。

 

「ほい、毎度」

 

「これに書いてあるなら払わないけど、この辺でおすすめのクエストってあるか?」

 

「んー、ここだとやっぱアニブレだナ」

 

「アニブレ?」

 

「おっと、これ以上はお代をいただくヨ」

 

「いくらだ?」

 

「アニブレのクエストなら・・・そうだナ、300もあれば十分だナ」

 

「OK、そんだけなら安いもんだ。ほい」

 

 即決で決めて、メニューを操作して300コルをきっかり取り出す。すると、相手は意外そうな顔をした。

 

「そんなに簡単に信用していいのカ?」

 

「俺、昔っから人を見る目はあるつもりなんだよ。で、あんたからはなんていうか、悪意で情報をばらまいているとは思えない。これも、このちっさな本って言っても価値は500どころじゃねえだろ?つまりはそういうことだ。

 で、アニブレ?にまつわる情報をくれ」

 

「そう急くなっテ。アニブレっていうのはアニールブレードの略で、ここらだとそれなりに使える片手剣のことだヨ。あそこの家、見えるカ?」

 

「道具屋の看板がある家から、向かって右の家か?」

 

「そうダ。とにかく、そこを訪ねてお茶をごちそうになる。それからしばらく待つと奥から咳が聞こえるから、それがフラグ。あとはあっちにある森に潜って、リトルネペントの胚珠を渡せばクリアダ」

 

「さらに100出す。リトルネペントについて教えてくれ」

 

「追加料金は要らないゾ。もともと教えるつもりだったからナ。リトルネペントは植物系で、隠蔽(ハイディング)は効果がナイ。あと、通常と実付きと花付きがあって、花付きからしか胚珠は落ちナイ。実付きの身を割るとリトルネペントがわらわら湧いて出て来るから注意ナ」

 

「ソロで囲まれた場合は?」

 

「AGIに物言わせて逃げるのが一番だナ。無理に戦うのはおすすめできないナ」

 

「そっか。アニブレは売れば金になるのか?」

 

「それなりにナ。エンドまで強化しようって考えるやつは少なくないから、予備としても持っておくプレイヤーの一人や二人、いても何ら不思議じゃなイ」

 

「おっけ、サンキュな」

 

「今後ともごひいきニ」

 

「そうさせてもらうよ。とりあえずフレ登録いいか?」

 

「むしろこっちからお願いしたいネ。正式サービスでのお得意様第一号ダ」

 

「ほう、そりゃありがたいな」

 

 そう言いつつフレンド登録を終わらせると、俺はその場を離れた。

 

「んじゃーなー、お互い気を付けようぜー」

 

「そっちもナー」

 

 お互いにそう言いながらその場を離れた。とりあえず、武器にはある程度余裕がある。なら防具を固めようと防具屋を目指した。

 

 

 

 言われた通り町はずれの森で狩る。リトルネペントというのはなんだか―――というかそれなり以上にグロテスクなモンスターだった。最初こそてこずったこともあったが、根元―――と言っていいのかは疑問だが―――の部分がHPを削りやすいと気付いたらあとは楽だった。

 移動しながら何頭目かのリトルネペントを倒したところで、遠くから人の声がした。もしかしたら自分より手練れのプレイヤーかもしれない。そう思いながら、そちらの方に向かった。

 その声がしたと思われる地点に来た瞬間、先ほどまでの様子見精神は吹き飛んでいた。流石に目の前でプレイヤーがモンスターの大群に襲われているのを、はいそうですかとスルーできるほど俺は薄情ではない。一瞬で抜剣し、リトルネペント数体一気に散らす。本来、他人の獲物を横から倒すのはマナー違反なのだが、緊急時だから仕方ない。

 

「動くな!」

 

 一言強い口調で押さえる。どうやら腰が抜けているようだが、念のためだ。振り返り様に腰からスローイングピックを抜いて投げる。もしかしたらと投剣スキルをとっておいて、そしてホルンカでもピックを多めに購入しておいて正解だった。十分な行動遅延(ディレイ)を与えたことを確認する暇も惜しく、さらに接近してきたリトルネペントを右下から斜めに切り上げる。何やらシステムメッセージが出てきたが今は無視だ。そのまま横にいたリトルネペントを倒し、残っていた数体も一気呵成に攻めて終わらせる。後ろから多分15体くらいのリトルネペントがわらわらと湧いて出て来る。

 

(・・・上等!)

 

 自信の口元が緩むのが分かる。俺の悪い癖だが、こういう時には役に立つ。ぼんやりとそんなことを考えながら、もう一度相手に突っ込んでいった。

 やがて一通り暴れると、周りから敵はいなくなっていた。が、こちらもかなり限界だった。切らした息を整える間もなくポーションをあおり、注意深く周囲を見渡してから、助けたプレイヤーのほうを向く。

 

「さっきはきついこと言ってすみません。大丈夫ですか?」

 

 せめて優しく声をかけながら手を伸ばす。よく見るとこのプレイヤー、なかなかどうして愛らしい見た目をしている。・・・というか、なんだろこの髪の色。染めているのか?銀髪に少し茶髪・・・じゃないな、金髪が混じったような柔らかみのある色は、―――いったいどういう配合をしたのだろうかこれ。

 そんなことを考えていると、そのプレイヤーは手を握り返してゆっくりと立ち上がった。手小さいなー。俺が大きいだけか。

 

「ありがとう、ございます。えっと、―――」

 

「ロータスです。とにかく間に合ってよかった」

 

「レインっていいます。それと、私のほうが年下だと思うので敬語はなしでいいですよ」

 

「あ、そうで・・・コホン。そっか、ならそうする。けど、そっちも敬語なしで頼むな、堅苦しいの苦手だから。見たとこ同年代だし。で、どうしてあんなことに?」

 

「この辺で狩りをしてたら、突然さっきの植物みたいなやつが群れを成して襲ってきて・・・」

 

 それを聞いたとたんに、俺は顔が険しくなるのがはっきりと分かった。群れを成して襲ってくる、というのは自然に発生するとは思えない。それに、戦っていて分かったのだが、こいつらは足がそこまで早いわけではない。全力で走り続ければ容易に振り切れる。アルゴによる情報と照らし合わせると、おそらく―――

 

「なら余計間に合ってよかった。PKされてからじゃ遅かった」

 

「え・・・?」

 

「聞いたことがあるんだよ。わざと大量にモンスターを引き連れて、そのタゲを近くのプレイヤーに擦り付けるっていう行為があるって。トレインって言って、一般的には非マナー行為。それを利用したMPK、そいつにあったんだろうよ」

 

 おおかた、実をわざと叩き割ってからレインにそのタゲを擦り付けたのだろう。その犯人が目の前にいなかったことに半ば以上本気で感謝した。―――もしいたら問答無用でぶった斬るだろう。

 淡々と話す俺に、レインは驚きに目を見開く。

 

「そんな・・・!この世界で殺すってことは、現実世界でも殺すってことなんだよ?」

 

「だけど、ここで殺したからって現実世界で裁くのは難しい。何せゲームの中なんだからな。ところで、そっちって胚珠は手に入れたの?手に入ってないのなら手伝うけど」

 

「胚珠?」

 

 俺の質問に首を傾げるレイン。一瞬目を奪われたが、すぐに気を取り直して説明しにかかる。

 

「その前に一つ確認。おたく、メインアームは?」

 

「これ」

 

 近くに落ちていた自分の剣を拾い上げて見せる。

 

「耐久値大丈夫か、それ」

 

「え?」

 

「俺も半分知ったかだけど、どうやら鞘とかなしに地べたに直接放置して暫くすると耐久値の減少が発生するらしい。念のため確認しときな」

 

「分かった。・・・大丈夫、あと6割くらい残ってる」

 

「そっか、ならよかった。それと、さっき言ってた胚珠についてだけど―――」

 

 一通りアルゴから得た情報を話すと、レインは完全に食いついていた。

 

「分かりました。私もやります」

 

「OK、いい返事だ。とりあえず、この辺のリトルネペント根絶やしにしますか。一応確認だけど、もう大丈夫?戦える?」

 

「もう流石に」

 

「結構。パーティ登録しときたいけど、このクエ、ソロ専だからな・・・。じゃ、行くか」

 

 そう言って歩き出す。定期的に後ろを確認することは忘れないようにして、俺は歩き出した。振り返った先にあるレインの顔に、怯えだとか恐怖の類は一切なかった。もし先ほどの光景がフラッシュバックしても、俺も先ほどの戦闘でレベルアップして今レベル5だ。守りながら戦うことくらいはできるだろう。そう高を括っていた。

 

 

 

 それからというものの、あたりのリトルネペントを二人で乱獲し、胚珠を二個取ったところで、俺は隣にいる少女に声をかけた。その間に、俺が一つ、レインは二つレベルが上がっていた。

 

「さて、これでクエの達成条件は満たしたわけだが・・・どうする?」

 

「どうする、っていうと?」

 

「出会ったばかりから考えるとレベルが上がってる。もう少しここでレベリングしてやれば、実をたたき割っても返り討ちにできるくらいのレベルになるはずだ。そうすれば、今後も戦いが楽になる。どうする?」

 

「いや、そこまで手伝ってもらえればありがたいけど・・・」

 

「なら決まりだ。もう少し付き合おう。俺は情報を買った口だからよくわからんけど、何回も受けられるのなら、何本も持っておくに越したことはないし」

 

 そう言うと、抜剣したままの自身の得物を片手でくるくると回す。そのまま周りを見渡すと、近くで物音がした。そちらを見てみると、

 

「うわぁ・・・」

 

 思わず声が出ていた。レインに至っては声すらない様子だ。

 その敵は、一言で表すなら“でかいリトルネペント”と言ったところか。だがただのリトルネペントでも十分に気持ち悪い。それが大きくなったとあればお察しだ。

 そこまで考えた瞬間に手が勝手に動いていた。レインに向けパーティ申請を行う。

 

「レイン、システムメッセージは?」

 

「来たけど、これって承認して大丈夫なの?」

 

「承認しろ、時間がない。あいつをぶっ倒すぞ」

 

「ええ!?」

 

 会話をしながらカーソルを飛ばす。“Big Nepenthes”・・・でかいネペント。うん、そのままだな。ボスの定冠詞はついてないし、HPバーは一本だけ。二人でかかれば十二分に消し飛ばせそうだ。

 

「見たところ警戒すべきはその図体と、あとは、リトルネペントよりさらに多い四本の、蔓みたいなやつが生えてるくらいか。慎重に行けば問題なさそうだ。なにより、あの頭を見てみろ」

 

 そう言われて、レインも頭を注視する。そこには、いくつかの花と実がついていた。

 

「実を割らないようにすれば大丈夫だ。花がいくつかついてるってことは胚珠もいくつか取れる可能性がある。なにより、経験値もたくさんもらえそうだしな」

 

「実を割っちゃったら・・・?」

 

「逃げる。敏捷に物言わせれば、今の俺らのレベルなら十二分なはずだ。だけど、あんたが嫌ならやめる。どうする?」

 

「・・・その顔見たら嫌とは言えないよ、まったく」

 

「決まりだ」

 

 返答をする前から、自身が獰猛に笑っていることには気づいている。昔からそうだ。強敵、難関相手だと委縮するどころか奮い立つ。今回はそれが悪い方向に行かなければいいが。返答と同時に、ふたりともが飛び出した。どうせ隠密など持っていないのだ、隠れていても仕方がない。―――かなり後になってから、この手の敵には隠密が効果を発揮しないということを知ったのだから、結果オーライというべきなのかもしれないが。

 

「うらぁ!」

 

 吠えながら横に曲刀を一閃。それにうめきながら、相手は頭を軽く後ろに反らせた。

 

「そら、よ!」

 

 溶解液のモーションを見て、即座に俺は左横に得物を持ってきた。システムが認識したことを確認した直後に一気に抜き放つ。システム外スキル「ブースト」―――という呼称は後で知ったのだが―――で加速された横一閃「真空破斬」が相手の下部に当たり、行動遅延が発生した。

 

「レイン!」

 

 俺の叫びに呼応して、はさみうちの構図から繰り出された片手剣のソードスキル「ホリゾンタル」が丁度俺が斬った反対側に炸裂する。二発ともクリティカル扱いになったのだろう、それだけでHPバーがやすやすと黄色に変化した。やっぱりこいつ、そこまで強くないな。

 

「気を付けろ!」

 

 声をかけながら、俺も相手の動きに注意する。ボスは突然暴れだすと、あろうことかその二本の蔓を鞭にして自身でその実を割った。

 

「んなぁ!?」

「え!?」

 

 二人そろって素っ頓狂な声を上げる。さすがにこの展開は予想していなかった。まあ確かによく考えてみれば、自分で実をたたき割ればプレイヤーを簡単に排除することができる。まあ、少し冷静に考えてみれば当然なのだが。

 

「くそっ」

 

 忌々しく吐き捨てながら、俺は片手剣系汎用ソードスキル「虎牙破斬」で一気にデカネペントをぶった斬る。あえて振り下ろしを両手で行ったことが功を奏したのか、二段目の振り下ろしはビッグネペントを文字通り両断した。が、そのHPを消し飛ばすことはなく、技後硬直(ポストモーション)の間に行われたレインの猛攻でようやくそのHPを消し飛ばした。

 

「で、どうするの、これから」

 

 あれを倒したことにより、俺はさらに二つもレベルが上がっていた。レインのほうもレベルが上がったことは確認した。ということは、レインのレベルは計算上最低で4なのだが、俺が二つ上がったということはおそらくレインも二つ、ないしは三つ上がったはず。となると、推定レベルは6ぐらいか。さらに、俺たちはここらのリトルネペントがRDBに載るのではという勢いで狩っていた。ざっと見た感じ、数は50、いや下手したら60を下らないが・・・

 

「行けるかもな」

 

 俺はもとより店売りの武器を使っていて、念のため予備として数本持っている。そのストックはまだ余裕があったし、このペースなら後々で一本二本売る必要があるかと思うほどだ。武器の心配はない。問題はレインだ。

 

「行くぞレイン、武器の貯蔵は十分か?」

 

「大丈夫、いけるよ。それと、それには思い上がったな雑種が、とでも返せばいい?」

 

 この年代にこのネタは厳しかったかと思っていたら、食いついてきたということに少々意外感を覚えた。その感覚から頭を素早く切り替え、軽く鼻で笑い飛ばす。

 

「そのくらいの余裕があるんなら大丈夫だ。行くぞ!」

 

 そう言って突っ込んでいく。下の細くなった部分を手に持った曲刀で両断していく。レベルが先ほど8になったことによる恩恵なのだろう、リトルネペントは容易く一撃で沈んだ。だがHPが減るスピードを見るに、結構ぎりぎりだ。時々向こうに行きそうになるリトルネペントを、剣とは別の手に持った複数のピックでこちらにタゲを移させる。そんなこんな戦いをしていると、いつの間にか周りのリトルネペントはいなくなっていた。たまたま位置が近かったこともあり、確認し終わると二人そろって背中合わせでへたり込んでしまった。

 

「さすがに、きちぃ・・・」

 

「まったく、誰よ、あんなの倒そうって言ったの・・・」

 

「俺だな、悪い。てか、お互い無事で何よりだ」

 

「本当にそれだよ・・・」

 

 少しして、ようやく上がった息も戻ってから街に戻り、さっさとクエストを終わらせた頃には、もう日が昇っていた。ということは、一晩中狩りをしていたということになる。

 

「悪いな、振り回しちゃって」

 

「いえ、私もだいぶ楽だった。レベルもだいぶ上がったし」

 

「そう、か。ま、今日はゆっくり寝なよ。俺は、まあ、どこでも寝られる口だし、男だし。でも君は女の子なんだから。ところで、君はどうするの?」

 

「攻略していきたいとは思ってるよ。ゲーマーなら当たり前でしょ。でもその前にひと眠りしたいかな」

 

「そっか。ならここでお別れだな。俺はもう少し先に進むから」

 

「そうなんだ・・・無理しないでね。あ、フレンド登録しとこうよ」

 

「そだな」

 

 そう言ってお互いにウィンドウを操作する。フレンド一覧にrainの名前を確認してから、俺は軽く手を上げた。

 

「んじゃな、また会う機会があれば」

 

「はい!」

 

 そう言われた笑顔に、不覚ながらも少し見とれてしまったのは秘密だ。

 

 

 

 結局アニブレはさっさと売り払ってしまった。だがその代金でポーションは今持つことのできる限界所時数まで購入できたし、ずっと装備していた曲刀の耐久値も回復させることができた。数本あるとはいっても、一本あるかないかはここ一番で影響するかもしれない。そして、街を歩きながら攻略本をざっと読み、一つの項目だけはじっくりと読んだ。

 曰く、ここからふたつ先の村近くで受けることのできる「年寄りと大猪」というクエストの報酬は曲刀で、この曲刀は限界まで強化すればこの先数層にわたってメインアームとして活躍できる性能とのこと。正直なところ、今のままでは火力不足が否めなかった俺にとって、これは朗報以外の何物でもなかった。

 改めてマップを開く。これまでの経験からすると、次の村まで約3km、その次まではざっくりで6、7kmくらいといったところか。どちらにせよ、一晩中狩りをしていた影響か、頭の回転が鈍くなってきていることくらいは気づいていた。

 

(とりあえずは次の村まで行って、そこでひと眠りしてから次の村で武器調達。そこかその先でもう一休みして、んでもってそっからはノンストップだな)

 

 迷宮区に一番近い村―――トールバーナというらしいが―――はここから数えて4つ先だ。2つの村を休息なしで駆け抜けることになるが、まあ仕方ない。もとよりここも何もなければスルーする予定だったのだ。そもそも、成行き上とはいえ俺がここまでレベリングしていることが異様だし。ポ○モンの四天王戦とか相手より平均レベル5か7くらい低い状態で初回クリアとかざらだったし。それはともかくとして、

 

「行くか」

 

 気合を入れる目的も兼ねて立ち上がった―――途端に、意識が遠のいていく感覚がした。まるで強制的に意識を落とされたような感覚。視界には“Disconnection”の文字。その文字を見ながら、ぼんやりと最初の茅場の言葉を思い出した。

 

『正確には、10分以上の外部電源からの切断、2時間以上のネットワーク回路切断、ナーヴギアのロック解除、または破壊や停止の試み。これらの行為がなされた場合に、諸君らの脳は破壊される』

 

 てことは、最短で10分、最大で2時間が俺の命のリミット、ってわけか。ただの、どこにでもいる人間だったはずなんだがなぁ・・・。大学、は・・・単位も危なかったし、留年するくらいなら中退させるって言われてたし。そもそも、こんなすれすれだったら就職先なさそうだし。ま、でもこんなことになっちゃったら、どちらにせよお先真っ暗か。でもよ、俺だってまだやりたいこととか、たくさんあるんだよ。だったら、こんなところで―――

 

「くたばっていられるか・・・!」

 

 再び戻った視界は、無様に地面に臥した状態だった。どうやら接続先を有線ではなく無線にして、保険としてポケットWi-Fiの設定も入れておいたのが功を奏したのだろう。これだけ時間があれば、ある程度その手の知識に明るい親父の指示も仰げたはずだしな。しかし、―――救急車の中とか病院の中ってWi-Fiは果たして大丈夫なのか?確かにどっかで電波の影響を受けにくくなったって見た気はするけどさ。ま、そんなの今はどうでもいい。とにかく今は、

 

「行くか」

 

 一歩でも先に進む。そんでもってこの世界から抜ける。それだけだ。

 




 はい、というわけで。

 プロローグでリアルネームが出ないのはともかくとして、キャラネームすらも出ないという。と言っても、タイトルからそのままなので、予想ついた方もたくさんいらっしゃると思いますが。

 そんでもってレインちゃん登場。レインって誰だよって方はぜひロストソングをプレイしてみてください(ダイマ。髪色の表現がものすごく悩みましたけど、こういう表現で落ち着きました。どうやって表現すればいいんだよって本気で頭抱えました。

 あと、投稿時にはすっかり忘れてしまった技解説。今後ほかの作品の技を使ったらここで紹介していきます。

真空破斬
 テイルズシリーズ、元使用者:クレス・アルベイン(TOP)、ガイ・セシル(TOA)など
 腰溜めからの横抜刀。抜き放ちざまに横に一気に薙ぎ払う。元ネタだと真空破が起こるが、そんなことはありません。

虎牙破斬
 テイルズシリーズ、元使用者:クレス・アルベイン(TOP)、スタン・エルロン、リオン・マグナス(TOD)、ロイド・アーヴィング(TOS)他多数
 飛び上がりながら切り上げて着地しながら振り下ろす。片手で切り上げて振り下ろすだけの、かなりノーマルな状態。中には空中で蹴りを入れたり、拳を入れたりする人もいるが、ここのもののイメージしているのはいたってどノーマルなもの。


 ほかにも、ネタを知っているような場合はそのネタを技の名前として採用する場合があります。ご注意を。
 
 以降、技を流用した場合、ここで紹介していきます。

 次は間が空きます。ではまた次回。

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