ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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87.強さの証明

 宣言と共に、両手に神器が顕現する。短剣というには大ぶりな、しかして直剣ほど大きくない、反身の二振り。その反応に、三人が構える。

 まず攻撃してきたのはユージオだった。光と動きからしてソニックリープか。そんなもの、百年以上前に幾度となく見てきた。突進までのわずかな間に、俺は二つの剣の柄を連結させるように打ち合わせる。瞬間、二つの剣は両剣の形をした弓となった。その刃を以って、ユージオの突進をいなす。そして、そのまま虚空から作り出した矢をつがえ、次いで突進してくるキリトに向けて撃った。だが、この程度は想像通りといわんばかりに、その矢をたたき落としてから、ユージオと同じくソニックリープを繰り出してきた。あえて一歩踏み出しつつ、弓の真ん中で受け止める。構えを戻しつつ、矢を手の中に作り構える。ある程度の狙いで放った矢は、横から繰り出された金色の花弁によって薙ぎ払われた。もう一発撃つ隙は与えてくれまいと読み、その場で跳躍する。俺の読み通り、キリトとユージオは挟撃の態勢に入っていた。より早く、秘奥義の硬直から抜けたユージオが、俺のいる空に向かってソニックリープを放つ。まったく、このような使い方は俺も、おそらくキリトも教えていないはずなのだが、咄嗟に思いついて実行し、成功させるその能力には舌を巻く。両剣としての特製を利用し、回転するようにいなす。着地を狙って攻撃してきたキリトには、両剣による連撃にて応戦する。が、その横から来た騎士アリスの剛剣には完全な防御は不可能と判断し、後ろに跳んで何とか衝撃をいなす。素早く弓を二度射て、いったん仕切り直しとなった。

 

「実際に目の当たりにすると、どう形容すればいいか分からないくらい異様だな」

 

「あぁ、こいつか?」

 

「アリスから、断片的な情報は聞いていた。が、よもやこれほどとはな」

 

「なるほど。この天廻の力は、すでに情報として知っていたわけか。道理で対応が速いわけだ」

 

「だが、俺が聞いていたのはあくまで心意の力の通りが異常なほどよく、様々な形態に変化するというだけだ」

 

「それだけでほとんどすべてなんだがな」

 

「あくまで、様々な形態をとる、というだけだろう。使い手の技量が伴わなければ器用貧乏で終わる。武器が強いんじゃない、あんたが強いんだ」

 

「そういってもらえると嬉しいね」

 

 それだけ言うと、俺は剣を投げる。半ば反射的に弾くその寸前、キリトが全力で後ろに跳ぶ。ほんの少しの間を開けて、間で剣が爆発した。爆風で、その後ろで援護の態勢を取っていたアリスすら怯む。その間に、俺は2人をするりと抜け、後衛にいるアリスに肉薄した。防戦ながらも天廻を弾き飛ばさんとする剛剣には舌を巻くが、俺には届かない。全ていなし、防ぎ躱し、反撃を織り交ぜすらする。しかしそれは相手も同じだった。一瞬仕切り直しの隙をついて、キリトの斬り上げが炸裂した。一瞬の隙をついた強打に逆らわず、得物を手放す。あまりにあっさりとした成功に、キリトとユージオが同時に斬りかかる。が、それは防いだ。なぜなら、弾かれ、砕かれた神器が再び俺の手の中に現れたからだ。

 

「なっ・・・!?」

 

「呆けてる場合か」

 

 2人を弾き、再び前進する。後方からの追撃は、弾かれて戻ってきた神器を再び炸裂させて牽制しつつ、天廻の片方を巨大化させて一撃を見舞いにかかる。防御に入ったアリスの上を飛び越し、後方からの一撃でアリスを弾きとばす。これにて、またしても仕切り直しとなった。

 

「どういうことだ・・・確かに手から剣は消えたはずなのに」

 

「おや、騎士アリスはそこまで教えていなかったのかね?」

 

「教えるもなにも、そもそも知りませんよ」

 

 なるほど、それならば仕方ないか。教えたつもりではあったが、どうやら思い違いだったらしい。

 

「天廻は俺と同化した武器だ。天命の一部も、俺自身と共有している。心意の通りがいいのもそれに由来する。己の手足を操るのとほとんど同等だからな。当然、心意の通りはこの世界において最もいい部類だ。俺限定の話ではあるがな」

 

「さっきの剣を爆発させるものも、あなたにとってはそう大した痛手にはならないわけですか。天命が攻撃以外で減らないうえに、天命の上限もかなり高い我々にとって、その程度の痛手を負うより、相手を攻撃できるという利点が勝る」

 

「その通りだ。察しのいい奴は嫌いじゃないぜ。そして、いくつ出すのも、ある程度どんな形にするのも思いのままだ。ま、普段は一刀で使うことが多いが、今回は事情が事情だ。二刀で戦う必要がある相手は久方ぶりだ。その時点で誇っていい」

 

「こちらから有効打の一つももらっていないくせに、よくいいますよ」

 

「それはお互い様だろう?

―――で、準備はできたのか」

 

 アリスとの問答を終えた俺の言葉に、キリトは突きの構えで応えた。ヴォーパル・ストライク・・・ではない。あれとは構えが違う。なにより、それなら今の間に合図があったはず。それらしい言葉もなかったところから見るに―――

 

(武装完全支配術、あるいは記憶解放術か―――!)

 

 となれば、こちらもそれ相応の対応が必要となる。天廻を一刀状態にして、少し大ぶりな、反身で片刃の、少し小さい両手剣―――打刀の形状へと変化させる。構えは正眼。

 

「来い―――!」

 

「エンハンス、アーマメント!」

 

 その瞬間、キリトの剣が巨大化し、一気に押し寄せてきた。なるほどこれはなかなか厳しい。一刀でなんとか受けるも、受けるだけで精いっぱいだ。剣の状態では、並の膂力では受けるだけですらままならない。全力で踏ん張り、なんとかその黒い奔流を受け切った。が、その直後。アリスの神聖術とユージオの突撃を見た。俺は即座に左手に天廻を再度展開し、担ぐような突きの構え。即座にキリトが反応したが、俺のヴォーパル・ストライクの発動が若干速かった。神聖術を無視し、ユージオの突撃を切り抜け、俺の剣はキリトに届いた。だが、射程不足。それは、俺も分かっている。キリトは、その背後からユージオ、そして前から防御を終えたキリトが同時に斬撃を見舞う。

―――が。その二つの斬撃は、両方とも寸止めで終わった。

 

「一つ、聞こうか。なぜ、止めた?」

 

「あなたの言葉を借りれば、ここで失うにはあまりに惜しい実力者だからですよ。力を求めるその道標としても、一人の戦力としても、ここで失うというのはあまりに惜しい」

 

「大体同じ、だな。それに、真の敵はあんたじゃない」

 

 その言葉に、後ろにいるアリスがあきれたような反応をしたのが気配で分かった。それもそうだろう。今まさに剣を向けている相手ですら、いずれ味方にしたい。そう言っているのも同義なのだから。

 

「戦場で、それは甘さとなるぞ」

 

「ダークテリトリーとの戦闘なら、な」

 

 俺の釘差しに、キリトは端的に返した。その言葉に、俺は笑みを漏らさずにはいられなかった。

 

「よかろう。先に進むといい。ただし、俺も同行する」

 

「いいのか?」

 

「どのような形であれ、無駄な消耗を強いたのは事実だ。生半可な状態で勝てるほどやさしい相手じゃないぞ。なにせこの世界の支配者だからな」

 

「強いのか?」

 

「俺なら勝てるだろうが、果たして手加減ができる相手かどうかってところだな」

 

「さっきのあんたよりは強いか?」

 

「おそらくは、な。もっとも、最高司祭猊下が本気で戦ったところなんて久しく見ていないから、確信はないがな」

 

 俺の言葉に、ユージオがかすかに息を呑む。それもそうだろう。今までのユージオとの立ち合いはあくまで訓練用の木剣を使った立ち合いにすぎなかった。今回のように、神器まで使っての打ち合いではない。その俺より強いというのだ。思わず臆しても無理はない。

 

「戦う前の俺の宣言を忘れたか?俺は確かに、こその思いと力がこの世界を壊すに足るかを見ると言ったはずだ。その俺が通すということは、少なくとも一太刀くらいは通るだろうよ」

 

「信じよう、2人とも。これだけの実力者がいうんだ、間違いはないと踏んでいいだろう」

 

「キリト・・・わかった。君がいうのなら」

 

「背後からやられる可能性は?」

 

「ない、とは言えないな。俺たちの脅威とみなしている以上、捨てきれはしない」

 

「それもないんじゃないかな。キリトたちと合流する前、整合騎士団の団長とやりあったんだけど、その時に攻撃するどころか休んでいけって言ったくらいだし」

 

「そうか。でも懸念ももっともだ。というわけで、変な動きしたら斬るぞ」

 

「まあ、当然よな。ただ、いらない心配だとは言っておく。

さて、案内しよう。こっちだ」

 

 やりとりの後、俺を先頭として最上階への昇降盤へ向かう。風素を心意で操作して、できるだけ静かに上がる。

 

―――そして、上がった先には、完全に目を開けた最高司祭がいた。

 




はい、というわけで。

主人公の神器がここでようやく明かされました。名前の天廻は、ライズで復活したシャガルマガラから取っています。なぜシャガル由来の名前なのか、というのはアンダーワールド大戦にて明かす予定です。

戦闘スタイルは某赤い弓兵リスペクトな、お前のような弓使いがいるかスタイル。まあそもそももともと剣士ですからね。そこに経験までプラスされている。そりゃもう強いです。

あくまで証明、ということなので、三人のいずれかと相討ちになるということはそもそも想定していない戦いなので、こういう結末に。というか、この三人のいずれが欠けてもこの先に差し障ってしまうので。

さて、次はアドミニストレータ戦の予定です。
ではまた次回。

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