その体勢のまましばらくしていると、隣で軽く唸りながらゆっくりとレインが目を覚ました。微かな声にそちらを向くと、寝ぼけ眼でぼんやりと周りを見渡し、直後に見る間に顔を赤くした。
「ご、ごめん!」
「いいって。ゆっくり休めたのならそれでいい」
なかなかかわいい反応が見られたし、という言葉は内心に留めておく。
実際、ゆっくり休めるかどうか、というのは、効率に大きく響く。休息の充実度合いはそのまま、集中力に直結するからだ。十分な休息をとったうえでの行動かそうでないかで、DPS、被弾率、判断能力に影響が出るというのは、過去にデータを取ったことによる結果が示している。それはそのまま、生存率にも直結するということも、そこから体感していた。だからこそ、手間を承知の上で俺もわざわざ街に戻っているのだ。効率を重視するのなら、なぜパーティを組まないのか、というのは、俺の性格に起因するから、まあ仕方がないが。
「ところでよ、そっちじゃソロか?」
「え?ああ、うん、そうだけど」
「ならパーティ組まないか?さすがにここをソロで切り抜けるきつさは、お互い身に染みてるだろ」
「そう、だね。わかった、いいよ」
その言葉を受けて、俺はレインにパーティ申請を飛ばす。少しして左上に再びrainの字を見て、俺は改めて自分の得物を確認した。できれば、刀スキルはさらしたくない。それに、体力的に余裕のある前半だったから使えたのであって、少なからず消耗している今の状況で慣れない得物を振り回すのは自殺行為だ。幸か不幸か、今使っているのは曲刀だから、わざわざ装備を変更する必要はない。
「そっちはどうだ、行けるか?」
「うん、おかげさまで大丈夫」
「OK、じゃ、行くか」
そういうと、俺たちは立ち上がった。
それからの攻略効率は飛躍的に向上した。それは、データを取るまでもなく体感することができた。二人いるから手数が増えるというのもあるのだが、何より戦闘に欠ける集中力が段違いだ。常に四方八方に警戒する必要のあるソロとは違い、二人掛かりで周囲を警戒すればいいコンビでは、効率も違えば集中の仕方も違う。それに、これが初めてならいざ知らず、ふたりともここまでに何度もパーティを組んで戦っている。お互いの癖もよくわかっていた。俺はかなり―――干支は違うが―――猪だし、レインはかなり堅実に見えて意外と度胸があるというか、捨て身の戦略も普通にとる。だが、お互いに死なれては困るからお互いがブレーキとなっている。だが、根本的な突撃戦法は変わらない。その結果何が起こるかと言えば、
「あーくそ、いい加減に途切れてくれねえかなぁ」
「そういいつつ楽しんでるくせに」
「たりめーだ。この状況を楽しまずしてどうするか」
「・・・普通は漠然と怖いはずなんだけどなぁ・・・」
ため息交じりに言うレインだが、当の本人も怖がっている様子が毛頭ない所を見ると、相変わらず相当肝が据わっているようだ。
トラップを踏んで敵に囲まれて絶体絶命。今の俺たちの状況を端的に説明するとそうなる。
どうやらこの迷宮区、前半部分こそ今まで通りの迷路だが、後半部分は謎解きをしながらひたすらくねくねと長いつくりのようなのだ。その謎解きを失敗したり、考えるのに時間がかかりすぎる―――有体に言えばタイムアップとなってしまったりすると、こうして敵がわらわらと湧いて出て来るのだ。その場合、敵を全滅させればいいだけの話なのだが、いかんせんこれが面倒くさい。だが、途中から俺は考えるのは
「さすがにこのレベルで連戦はちょっと厳しいね」
「確かにな。楽しいけど」
「・・・たぶんそういう発想に至るのは君くらいのものだと思うよ」
「安心しろ、自覚はある」
「・・・だよねぇ」
隣でため息を吐くレインをよそに、俺は戦うたびに顔色が明るくなっていっていた。巻き込まれる側としてはたまったものではないというのがレインの本音だろうが・・・この様子だとたぶん諦めているな。
「まあ、私だからこうして付き合うけどさ、他の人なら間違いなく愛想尽かされるよ?」
「そうだなー。ま、その辺も踏まえて俺はあんたと組んでるわけだし。その辺察しろ」
「それって果たして喜んでいいのかなぁ・・・」
雑談しながら、迫りくる雑魚の群れを一掃し、お互いに剣をしまう。すたすたと先に歩く俺に続いて、もう一つため息をつきながらレインも歩く。今までの敵の様子を見るに、これはあくまで消耗させるためのものだ。いわば前哨戦に過ぎない。
「なあレイン、ここまで謎かけって覚えてるか?」
「え?・・・さすがにそこまでは覚えてないよ」
「なら質問を変える。ここまでで同じ謎かけってあったか?」
「なかった、と思うよ。あったらたぶん気づくと思うし」
あくまで確認の問いかけ。だが、その言葉である程度パズルが組みあがった。だが、これを確証とするには複数回ここに潜り、深部まで到達する必要がある。
「最悪のパターンもあり得る、ってことか・・・」
「ボス部屋到着前にメンバーが減るってこと?」
「ああ。ここまで徹底して消耗させにかかってるんだ。ありえない話じゃない。それに、一般的には―――」
そう言っていると、目の前に扉が現れた。ボス部屋のそれではないが、今までの扉とは一線を画している。
「いやな予感的中かな。当たってほしくなかったけど」
「一般的には、何?」
「よく言うだろ。“津波は最後が一番でかい”って」
「・・・てことは、」
「おそらく、ここが最後か、最後じゃなくても近い所であることは間違いない」
「で、さっきの理論に当てはめると・・・」
「ああ。・・・気を引き締めていくぞ」
お互い、それ以上の言葉は必要なかった。先行する俺が扉を開ける。二人が部屋に入ると、その扉はひとりでに閉まった。これは今までにもなかったギミックだ。今までは謎解きに失敗した時のみに扉が閉まっていた。
(逃がさない、ってことか)
ここまで来たら腹をくくるしかない。部屋の中には石碑が一つ、中央にあるだけだった。その前には、いくつかの像。近づくと、線香のようなものが横にあることに気付いた。文字が読める位に近付くと、その線香もどきに火が付いた。よく見るとこの線香もどき、紐がいくつか括りつけてあり、その先には重りがついている。その下には金属と思われる受け皿があった。
石碑に書いてあった内容はこうだ。
其は魔を退けるものにして、甘美なり。瑞々しきもよきものなりけるが、その干したるものもよし。そのものを象るものに触れよ。しからば、最後の道の鍵は現れん。
・・・これまた。謎かけっていうか、これ知識を問う類じゃねえか。
「これって、どういう意味だろう・・・?」
「それを考えろってことだろ」
思わず隣のレインにツッコミを入れる。さすがにここを落とすと、命まで落とす可能性もあり得るかもしれない。ここは本気で当てに行く必要があった。
(魔を退けるもの・・・魔除けの類か?でも見たところ、お守りの類はなし。ま、そんなわかりやすいもんを置いておくわけもない、か。となると、それ自体が魔除けとなる、ゲン担ぎとかの類か・・・)
見たところ、そんなものに縁のある様なものはなさそうだ。モニュメントはどれも現実世界にある様なものだ。林檎、梨、ミカン、柿、桃・・・どれも果物ということくらいしか思いつかない。
ゴーンと一つ音が鳴った。思わずそちらを見ると、紐の一本が切れてその先の重りが地面に落ちて、その下の受け皿となっている金属に音が鳴ったのだ。そういえば昔、資料集でこんな時計があったと聞いたことがある。もっとも、これが盛んに使用されていたのは軽く一千年以上前の時代だったようだが。古臭いものを使うものだ。
(ん、待てよ、今何か・・・)
何か引っかかった。線香というと、仏前に供える位しか思いつかない。その心は、確か線香の香りが成仏するまでの食事になるから、だったか。黄泉の国までの食事が線香の香りだけとは寂しいものだと思ったことをよく覚えている。―――ん、待てよ、黄泉の国?
「・・・そうか!!」
思わず大きな声が出た。隣で驚いた表情をするレインをよそに、俺は迷わずに桃を象ったオブジェクトに触れた。瞬間、そのすべてが消え去った。
『賢しきものよ。その英知を称え、易しき試練を与えよう。あくなき向上心の前にのみ、道は開かれん』
どこからかその声が響くと、俺たちの目の前に敵が現れた。HPバーは・・・2本。
「結局中ボス戦かよ」
「しかも二人で、ね」
後ろの扉は依然として固く閉ざされている。もしかしたら内側からなら開けられる類のやつかもしれないが、今、目の前の敵から背を向ける勇気は俺たちにはなかった。
「ところで、なんで桃って分かったの?」
「その話はあとだ。まずはこいつをぶっ倒す」
「・・・了解!」
そういうと、俺たちは同時に剣を抜き放った。ボスの名前は・・・“The Phantom scythe”。幻影の鎌、か。見たところ、武器は鎌一本。俺鎌の対処苦手なのによ、と内心で毒づきながら、俺はまっすぐ走り出した。続いてレインも走り出す。相手が威嚇するように鎌を振りかざす。それに怯むことなどは一切ない。
垂直に振り下ろされた鎌を、わずかに体を捩じることで回避する。その回転のまま、裏拳を一発、剣を一回転しつつ切り払う。残心の要領で切り抜けてから構えると、続くレインは右の斬り払いを四回繰り返す、ホリゾンタル・スクエアを見事にクリーンヒットさせていた。レインの硬直より相手の
「こいつ、もしかしなくても・・・」
「滅茶苦茶弱い・・・?」
俺とレインは思わずつぶやいた。少なくとも、これまでの中ボスや雑魚の群れ、フィールドを徘徊していた雑魚から考えれば異常なほど弱い。なるほど、易しい試練とはそういうことか。確かにこのくらいならば二人でも十分突破できそうだ。
「やるぞ、レイン。交互にソードスキルをぶちかまして一気にHPバーを削り飛ばす。こんなところに長居は無用だ」
「そうだね。それができそうな相手みたいだし」
そういうと、俺ら二人は一気に突っ込んでいった。
その後、その中ボス戦はものの3分で片が付いた。HPゲージが赤く染まると、その名の通り透過するという特殊技能を使ってきたが、完全に全力攻撃のみの攻めダルマ状態だった俺たちにとって、そんなものはほぼ無意味だった。というのも、透過するときはそこに棒立ちになるため、お互いそこに向かってピンポイントで攻撃を集中させて透過を強制的に解除させていたのだ。いくら雑魚中ボスといえど、さすがにこれは少し不憫になるボコボコ度合いだった。
「なんつー歯ごたえのない・・・」
「でも普通の雑魚に比べればあったほうじゃない?」
「仮にも中ボスだからな。でも、俺としてはもっと強くないとやりがいってのがなあ・・・」
「まったく、相変わらずの戦闘狂っぷりなんだから・・・」
いつも通りの会話をしながら、お互いに剣をしまう。そのまま、また俺が先導する形でダンジョンを歩いていく。
「あ、そういえば」
「なんだ?」
「なんで桃が正解って分かったの?」
「あー、それな。
“魔を退けるもの”、これは魔除けを表すってことはすぐに発想できた。その後の、“甘美なりて干したるものもよし”、だったか?これはおそらく干すことによる用途もあるってことだ」
「例えば?」
「今回の正解でもある桃とか、あとは柿とか芋とかは食用として使うよな。そもそもが、ドライフルーツっていうくらいだから、それだけだと果物全般はほぼOKだ。それ以外にも、稲を刈った藁とかは保温とかだけじゃなくて、納豆を作るのに使ったりとか、香りづけとかにも使うって聞いたことあるな」
「藁で香りを付けるの!?」
「所謂燻製ってやつだ。カツオのたたきとかに使う。俺も何回か食ったことがあるけど、結構いけるもんだぞ、あれ。
と、話が逸れたな。とにかく、魔除けになって、かつ干しても使えるものを探せばいいわけだ」
「で、その両方に合致するのが桃だった、ってこと?」
「ま、そういうこった」
「・・・桃に魔除けの効果があるなんて、聞いたことないけど」
いまだに疑問が晴れない様子のレインを見て、俺はもしかしてと思って聞いた。
「あー、もしかして、古事記とかって知らないか?」
「名前しか知らない」
「やっぱりな。
俺も細かくは知らないんだが、その部分だけ抽出して説明すると、古事記において、イザナギがイザナミに会いに行って、その帰りにイザナミやらなんやらに追われることになるわけなんだが、その時に桃の実を投げつけて追っ払った、って逸話があるんだよ。転じて、桃の実には魔除けの力がある、なんて言われたりするってわけだ」
「・・・よく知ってるね?」
「その手の学部に通ってるやつなら知ってるようなことだよ。まあ、俺が知ってたのはたまたまだけどな」
高校の授業がつまらないからと電子辞書でこの手のやつを読んでいたことがまさかこんなところで役に立つとは本当に思っていなかった。
「行くぞ。ボス部屋までは近い」
「うん」
そういいつつ歩く俺たちの光景はいつも通りの物だった。
俺の予想した通り、ボス部屋はすぐそこにあった。数分歩いたらすぐそこに、という具合だったのだ。
「さすがに二人だと危ないから、今はここまでで下がるよ」
俺が何か言う前に、レインが言い切った。
「ちょっと待った、俺はまだ挑むとか言ってないだろう」
「どうせ挑む気満々だったんでしょ。伊達にコンビ組んでないよ。それに、前言ったこと、もう忘れたの?」
「いや、忘れたわけじゃないぞ。でも、偵察くらいは必要だろう?」
「それもそうだけど・・・分かった。扉明けて、姿を確認するだけだからね」
「おう、分かった」
本音を言うと、それが一番生殺しできついのだが、それを口にした瞬間に間違いなくピックかタガー、最悪得物が飛んでくるので、言えるわけがない。
二人でそれぞれ、違う扉に手をかける。アイコンタクトで一気に扉を中に押した。二人が一歩中に入ると、暗かった部屋に徐々に明かりがともり、中に鎮座するボスを照らし出した。
ボスは、見たところ人型か。だが、腕の本数が4本と多い。ついでに言えば、頭も二つ付いていた。
「双頭の―――」
「巨人、か」
冷静になろうとしても、今までと違う威圧が足を竦ませた。茅場は、4分の1という節目で何もないどころか、この迷宮区の雑魚相応に強力なボスを用意していたらしい。攻略組でも度胸があるほうだと自負している自分たちでこれなのだ。かなりの人数が竦んでしまうだろう。だが、それを奮い立たせるために自分たちがいる。それくらいは自覚していた。
「退くぞ、レイン」
本音を言ってしまえば戦いたくて仕方がないのだが、ここでこの強敵に対して何も対策をせずに挑むほど、愚かでもなかった。ましてや今の自分たちは消耗しているのだ。
「・・・レイン?」
だが、隣の少女の反応はない。不審に思いそちらを見ると、レインはひどく怯えた様子でボスを見ていた。よく見ると、体が小刻みに震えている。
「自分の言ったことも忘れたのか、レイン!退くぞ!」
今度ははっきりと大声を上げながら言う。が、レインの震えは収まるどころか、酷くなっているように見えた。
ボスが吠える。ボス部屋どころか迷宮区全体を響かせるのではないだろうかというその咆哮に、完全にレインは竦んでしまった。
「・・・くそっ」
もはや手段を選んでなどいられない。そう判断した俺は、レインを抱えてボス部屋を離脱した。そのままの体勢で扉に体当たりしてこじ開ける。何とか通れるくらいの隙間から半ば飛び出すように離脱した瞬間、ボスが持つ両手剣の剣先が掠めるようにして過ぎ去った。が、何とか次の攻撃が来る前にボス部屋から離脱することに成功した俺は、ボス部屋の扉が閉まりながら、フロアボスが指定された玉座に戻っていく様をじっと見ていた。完全に閉じたことを確認してから、俺はゆっくりと息をついた。
抱えていたレインをゆっくりと降ろすと、俺は彼女の目を真正面から見つめた。そこにあるのは、深い動揺と恐怖の色。その状態を見て、俺はもう一つ、先ほどとは違う意味でため息をついた。
「まったく、手のかかる娘だ」
一つ呟きつつ、その手を取る。一瞬驚いたようにびくりと体が震えたが、それだけだった。それを確認して、その手を両手で包み込んで、俺はゆっくりと語りかけた。
「もう大丈夫だ。落ち着け」
そのまま暫くしていると、徐々にその目の色がいつも通りに戻っていった。
「ごめん、足引っ張っちゃった?」
「全く問題ねえから気にすんな」
「・・・そっか」
それに対するレインの表情は晴れない。が、ここはそのまま放っておくことにした。この手の問題は時間が解決するだろう。
「ま、とにかく。帰るぞ」
言いつつすたすたと先を歩く。こんなところに長居は無用だ。時々後ろを振り返りながら、レインの様子をうかがう。何度か雑魚と戦闘になったが、戦闘だけなら大丈夫そうだ。なら俺がわざわざ介入する意味はどこにもあるまい。とりあえず、レインの異変は頭の片隅に追いやることにした。
帰り道はどうにかなるだろう。そんな俺の甘い見立てはボス部屋から数えて二つ目にある謎かけ部屋であっさりと崩れ去った。というのもそこにはまた謎かけが、しかも行きとは違うものがあったのだ。
「まさかと思っていたけど、マジだったとはな・・・」
「でもこれってもとをただせば君のせいだよね?」
肩を落とす俺の横から入った的確なツッコミに対して、俺はふいと顔をそむける。確かに戦闘をしたいがためにわざと謎解きを真面目にやらなかったところはいくつもあるが、俺だってこんなところでそれが響くとは微塵も思っていなかった。
「とにかく、今は目の前のことをやるだけだ」
「まったくもう・・・」
謎かけの問題と思われる石碑に向かいながら、自然に話題を逸らした俺の横で、レインが呆れたような―――実際呆れているのだろう―――声を出す。できるだけ自然な話題転換を狙ったところだったのだが、やはりうまくはいかなかったようだ。
結局、その部屋の謎かけは解くことができずに、行きと同じように雑魚の群れとの戦闘になった。それを切り抜けると、これまた同じように扉が開く。それを何回か繰り返し、何度目かで変化が訪れた。その先に人がいたのだ。それが誰、いや、どの集団なのかは均一に整えられた装備ですぐに分かった。
(これはまた、こういうところでは行き当たりたくない連中に・・・)
この、比較的上層となって防具にも多様性が出てきてもなお、均一に整えられた装備と色。アインクラッド解放隊、通称“軍”の連中だった。軍というのは、第一層の自治方法と、その集団的特色ともいうべきものから生まれた、ある意味蔑称ともいえる呼称だ。
「アインクラッド解放隊だ」
「ロータス、ソロだ。こっちは一時的にコンビを組んでるレイン」
お互いに名乗りを交わし、紹介されたレインが軽く目礼する。正直なところ、この慇懃無礼というか、妙に高圧的というか、そういうメンバーが多いこの組織を俺は嫌っていた。実際、現在攻略組でも最大の人数を誇り、その戦力としては無視できない域ではあり、その画一化された命令系統は乱れというものに無縁といってもいいのだが、それと個人的な感情は別だ。
「君たちは、マッピングを済ませているのか?」
「一応、な。そっちは?」
「今から済ませるところだ。よろしければ、マップデータを頂戴したい」
「俺は構わないが・・・どうする、レイン。これ、立派に商売になるぜ」
「うーん・・・。ロータス君に任せるよ」
「りょーかい。んじゃ、交渉と行こうか。いいか?」
「構わない。もとより、我々は要求する立場だからな」
「OK」
思ったより話の分かる奴のようで何よりだ。ここで、所謂脳筋的なやつはただ寄越せとしか言わないだろう。無論、実力行使という最終手段込みで、だ。
「情報付きになる代わりに、そうだな、5000」
「少々高いな・・・もう少し安くできないか?」
「そうだな・・・4000、いや3700」
「・・・もう一息、頼めないだろうか」
「分かった、3000。言っておくが、ここが底値だ」
「・・・感謝する」
そういうと、相手は金袋をオブジェクト化させ、俺に手渡す。プロパティでちゃんと3000あることを確認すると、俺はマップデータを羊皮紙にコピーし、手渡した。広げて確認し、「確かに」と相手が言ったことを聞いて、俺は口を開いた。
「じゃ、情報だ。マップのところどころに、少し広めの部屋があるだろ」
「ああ、ここから先もいくつかあるな」
「そこで謎かけがある。謎かけの種類はいままでダブったことがないから、おそらくストックは無数にある。だから答えを教えてやるとか、そういうことは無意味だ」
「謎かけが解けなかったら?」
「一定時間経つと雑魚が大量ポップする。閉じ込められるから脱出も不可。全滅させれば出れるから、目下有効手段はそれかな」
「・・・了解した。感謝する」
「いいってことよ。お互い困ったら助け合いってな」
お互いやり取りを終えると、軍の連中はそのまま先に進んでいった。
「いいの?3000は安すぎたんじゃない?」
「問題ねえよ。ま、確かに3000ってのが底値だっていうのは嘘じゃないがな」
そういいつつ、俺たちも今まで来た道を引き返す。軍はお堅いことで有名だが、あの頭はそこまで頭が固いわけでもなさそうだ。仮にも隊の安全を預かる立場だからある意味当然と言えるが、あいつなら大丈夫だろう。名前も知らない相手をそう断じながら、俺たちは街へと足を向けた。
はい、というわけで。
昨日投稿し忘れてました。すんません。
今回はレインちゃんとロータス君、そしてこの層で転換期を迎える軍、ということでサブタイは速攻で決まりました。
イザナギがイザナミ追っかけてった話って古事記でしたよね?日本書紀じゃないですよね?俺もちょっとだけ齧っただけなのでその辺曖昧極まりないんですが。間違ってたら指摘お願いします。
それと、今回で書き溜めが事実上尽きました。なので、ここからは隔週になる可能性大です。申し訳ない。
それと、私用なども重なり、来週の更新は厳しいとみております。モンハンが関係するだろうって?否定はしません。
ではまた次回。