ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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9.厳しい戦い、生きる理由

 ゲーム開始から早半年余り。自分たちが想像している以上にあっという間に過ぎ去った年月の間に、アインクラッド最前線は25層の地点に到達していた。全体の四分の一までの到達が半年ということは、単純計算で100層攻略に2年かかる計算だ。納得のボリュームだろう。これがもし普通のMMORPGならば、とてつもないやり込み度を持った、世紀の大ヒットゲームとなったに違いない。まあ、そんなのは置いておいて。

 

「ふう・・・」

 

 剣をしまったまま、フィールドを歩く。あれからSTRも上げて、何とか刀を片手で振ることができるようになっていた。

 あれから暫くして、ようやく刀スキルを習得することに成功していた。その頃には、最前線は20層を突破していた。だが、スキルを習得しても俺のスタイルに合わなかった。前にも言ったが、刀は両手剣で、俺は片手で剣を握って体術を織り交ぜていくスタイルだ。そのためには片手で両手剣を持つという矛盾したことをする必要がある。ちなみに、今の俺のスキル構成は 曲刀・投剣・索敵・体術・隠蔽・刀 といった具合だ。さらに言えば、投剣と体術はもうすでに800の大台に乗っていたりする。曲刀が750くらいだっていうのになぜ。というか熟練度の伸びが700くらいからガクンと落ちた気がするのは気のせいではないだろう。おのれ茅場許さん。

 そんなことを考えていると、近い位置にモンスターがポップする。顔をそちらに向けると、そこにはここらではそこそこ強い部類に入る蛇型Mobがいた。蛇型といっても、大きさはモンスターらしく、到底普通とは言えない大きさだが。

 

「ま、それでもこいつはそこそこいい素材落とす時があるんだよなぁ」

 

 そうなのだ。こいつ、確率で革系防具強化時に一定確率で防御力上昇バフを付けるという汎用性と実用性が高いアイテムをドロップするときがあるのだ。もっとも、一定確率なので使用しても何も起こらなかった、ということもしばしばだが。

 呟きながら、腰にある“鬼斬破”を抜き放つ。こいつは斬破刀をインゴットに変換し、さらに強化素材もろもろ含めて作成した俺の剣だ。作成者曰く、“このレベルはそうそう簡単にできるもんじゃないから、大切に使いなさいよ”とのこと。確かに、俺好みの軽く鋭利な刀だが、それはあくまで両手剣にしては軽いというだけで、曲刀と比べればやはり重い。それでも何とか片手で振ることはできる。その状態で体術を織り交ぜながら戦闘をするスタイルもなんとかできる。最初は武器に振り回されるだけだったが、刀の重心を感じて振る感覚を覚えてからは片手で振りまわすことができるようになっていた。もっとも、集中力をかなり食うが。

 

「さて、やりますか!」

 

 そういいつつ、俺は鬼斬破を構えて走り出した。

 

 

 

 その日の夜に、俺は迷宮区に潜った。は、いいものの、

 

「はあ、はあ、はぁ・・・」

 

 荒い息を整えながら、ずるずると安全地帯にへたり込む。正直なところ、かなり疲れていた。

 率直に今の俺の感情を表現すると、“なんだこれは”だ。ここに来て難易度がいきなり上がりやがったぞ。フィールドの雑魚レベルだとちょっと強いな、くらいだったのが、迷宮区だとはっきりそれと分かるレベルまで強化されている。これ相応のフロアボスが設定されているとしたら、それは―――

 

「死人が出るかもしれないな」

 

 何とか息を整えつぶやく。ここまでのフロアボスによる死者数は一貫してゼロを保っているが、今回でようやく出るかもしれない。出さないために自分たちがいるわけなのだが、そのあたりは努力しかないだろう。

 

「そろそろ切り上げるか」

 

 迷宮区は殆どマッピングできていない。が、ここは無理をすれば死ぬ。それは俺の本能的なもので分かった。今までの俺なら無理してでも次の安全地帯までマッピングをしてしまうのだが、今回はそう思わなかった。それに、あんまり無茶をすると、今度レインにあった時に何されるか分かったものではない。毎回のように説教を食らったり何か奢らされたりクエスト付き合わされたりと、結構振り回されている。が、最近になってようやくわかった。

 

「あいつといると、不思議と落ち着くんだよなぁ・・・」

 

 明らかに年下の、最初はフィールドで助けただけの少女。しかも第一声は“動くな!”なのに、なぜか俺に懐いて、共闘したことも数知れず。本当に不思議な少女だ。とにかく、目下最大の目標は、

 

「帰る。そんで寝る」

 

 いつぞやのアスナの真似をして、数日間迷宮に潜りっぱなしということも一度やってみたが、よくこんな生活を年端もいかない少女が3、4日も続けられたと感心したものだ。それほどまでに、迷宮での寝泊りというのは神経を削る。2日くらいならまだ大丈夫だが、いったん宿屋まで帰ってしっかり休んだほうが、かえって疲れが取れて効率が上がる、と俺は踏んだ。それゆえの判断だった。

 ゆっくりと立ち上がる。幸いなことに、頭はまだ冴えている。帰る途中で疲れ果てて死亡、などということはないだろう。

 

 

 

 街に帰ると、俺は露店として店を出す鍛冶屋を訪ねた。

 

「おーいリズベス、居るか?」

 

「だから、リズベットだって言ってんでしょうが。いい加減覚えなさいよ」

 

「綴りそのまま読んだらリズベスなんだからいいじゃねえか。細かいな」

 

 奥から、茶色の髪にそばかすが散った童顔の少女が出て来る。アスナに聞いたところ、彼女とほぼ同年代だというが、あの二人が隣に立っていたら、まず間違いなく俺はリズを年下だと思ったに違いない。

 

「細かくないわよ。で、今日は何?鬼斬破の耐久値がもうやばくなった?」

 

「違う違う。今日は投剣の定期購入。いいの、ある?」

 

「そうねぇ・・・。あんたは確かピック派で、念のためタガーもいくつか持ちたいってクチだったわよね」

 

「そーそー。よく覚えてんな」

 

「これくらい覚えられなくちゃ務まらないわよ。ちょっと待ってなさい、適当に見繕うから」

 

 そういいつつ、店番の少女は俺に背を向けて投剣につかう小刀を手にしながら考えだした。

 彼女はリズベット。といっても、名前の綴りが“Lizbeth”のため、俺は初対面で「・・・リズベス?」と呼んでしまい、以降、俺はからかいの意味も込めてリズベスと呼んでいる。アスナと同年代、つまり俺より少し年下なのにため口なのは俺がそうしてくれと頼んだからである。ちなみに、鬼斬破を鍛えたのは他ならぬ彼女で、腕はアスナも俺も信頼を置いている。

 

「そうね、これなら20本までは売れるし、タガーはこれが10本までなら売れるわ。今んとこ、うちの最高品」

 

「プロパティ見るぞ」

 

「どうぞ。てか、それすらもさせないほど狭量に見える?」

 

「念のためってやつだ、察しろ」

 

 気兼ねなくこうしてコミュニケーションを取りながら武器を選べるというのも選んだ決め手の一つだったりする。さて、肝心のプロパティは・・・っと、ピックのほうが20、タガーが25か。今使ってるのが10と15だから、十二分だな。残りストックは35と7ってとこだから、

 

「OK、流石はリズだ。ピックを15、タガーを10くれ」

 

「分かったわ。合計で22500コルね」

 

 確かに今使っているピックは店売りのものだが、それにしても合計25買って22500コルというのは安上がりだ。

 

「ほいよ」

 

「はい、確かに」

 

「また来るから、そん時はよろしく」

 

「武器折るんじゃないわよ」

 

 背中から聞こえる声にひらひらと手を振ってリズの店を後にする。ストレージに投剣類をしまいながら、俺は今日の夕飯のことを考えていた。

 

 

 

 少し仮眠を取った俺は、再び夜のフィールドに繰り出していた。最初は本当に“生きる”ということに必死だったが、今となっては半分生活の一環のようなものになってしまった。こんな非日常が日常になってしまうまでに半年というあたり、人間の適応能力の高さが分かる。そのまま進んで、迷宮区に入る。今は刀ではなく、曲刀を使っていた。刀より一撃の重さこそ劣るが、刀にはない片手で振っても落ちない鋭さと、何より俺の体が馴染んだことによるアドバンテージはそうそう簡単にはひっくり返らない。なので、俺は状況によって使い分けることにしていた。なんだかんだで、昼間の狩りは何度か経験があったからこそ、刀で行ってもそこまで不安はなかった。が、それはあくまで昼間の話で、夜はまだ慣れていない。だからこその曲刀だった。

 そんなことを考えていると、横からモンスターが飛びかかってきた。索敵スキルのチェックを怠っていたというのは慢心以外の何物でもないが、

 

「疾ッ」

 

 短い掛け声とともに振り抜かれた剣は、一発でその狼型モンスターの口を横に裂いていた。無造作ながらも一発で急所に入った一撃は、相手のHPを大きく減らした。改めて剣を構えなおす。左手はどういう対応でもできるように腰の近くに、右手は所謂正眼の位置に置いた。狼が遠吠えをする。と、周りを囲うようにモンスターがポップした。どうやら取り巻きを呼ぶタイプだったらしい。名前に定冠詞がない所を見るとボスではないが、

 

(雑魚相手でもこの量はきついかな)

 

 瞬時にそう判断すると、剣を左手に持ち替える。右手でメニューウィンドウを開くと、クイックチェンジのModを使って左手の武器を交換した。一瞬だけ左手を離して右手をタップ、そしてもう一度握る。その瞬間に、俺の左手には鬼斬破が握られていた。右足を前に出して、ぐっと体を捩じる。それにより初動を感知したシステムにより刀が光る。直後に、狼が同時に飛びかかってきた。俺の左手が一瞬で閃き、捩じられた体が元に戻る反動で刀が水平に一回転する。刀系範囲ソードスキル“旋車(つむじぐるま)”がさく裂し、狼たちがもれなくスタンする。それを見て、俺は刀で一体ずつ慎重に刀で殺した。

 

「ふう、焦ったー」

 

 さすがに今の場面は冷や汗ものだった。今回はもれなくスタンできたからよかったものの、まかり間違って数頭スタンし損ねていたら、まず間違いなく喉を食らいつくされていただろう。そうなってはこっちもただではすむまい。だが、そのような瞬間が何度も訪れるからこそ、このような死闘は麻薬なのだ。ソロを貫き通しているのも、そういう理由だ。そう考えれば、俺は立派な麻薬中毒者、ということになるが。

 とにかく、そろそろ迷宮区だ。ここまで来ればもうほとんど問題はないが、油断だけは注意しなくてはならない。そう思いつつ、装備を曲刀に切り替える。そのまま俺は歩いて行った。

 

 相変わらず薄暗い迷宮で、俺はマッピングをしていた。方向感覚には自信があるほうだが、いかんせんこの迷宮区は広い。体力的に疲れるということがなくとも、精神的な疲労は着実に体を蝕む。確かに俺は戦うこと大好きな戦闘狂(バトルジャンキー)だが、全力で戦って死ぬのならともかく、疲れ果てて殺されるなんてまっぴらだ。

 そんなことを考えつつ、順調に迷宮区をマッピングしていく。これはレベリングも兼ねているのだから、最短距離を見つけることなど二の次でいい。実際、ここまでも見つけられていない宝箱を見つけては開いて、中に入った結晶系アイテムを片っ端から頂戴している。もっとも、すでに先を越されたものも少しあったが、それはまあ、目をつむるとして。

 そんなことを考えていると、目の前にモンスターがポップした。人くらいの大きさの虎が二本足で直立して得物を持ったような敵の名前は、“Tiger Knight”。虎の騎士、まんまだな。得物は片手直剣、もう片方の手には一般的なカイトシールド。とりあえず、

 

「失せろ、虎猫」

 

 意味がないと分かっていながらも、冷徹に言い、まったく笑みを浮かべずに水平に曲刀を抜剣する。どうせ今装備しているのは店売りの安物だ、少々手荒く扱ったところでどうということはない。そう考えつつ、目の前の敵に向かって行った。どうせこの手の雑魚は楽しめない。なら、さっさと倒すだけだ。

 

 

 

 雑魚を倒しながらしばらく歩くと、四隅に今までと違う色の松明のある区画にたどり着いた。安全地帯だ。前回一休みしたところの次のため、マッピングは順調にできているということの証左でもあった。が、

 

「はあ・・・」

 

 ため息をつきながら、ゆっくりと壁際に腰を下ろす。ここの戦闘はやはり精神的に堪える。というのも、どいつもこいつも火力が高い上にそれなり以上に剣戟も鋭い。息つく暇ない戦闘は俺にとっては福音だが、冷や汗をかいたことも少なくない。最悪、通路でばったり出くわした、なんてときは壁を使って三次元戦闘で圧倒したくらいだ。今までも思いついてはいたが実際にやったのはこの層が初めてだ。それはつまり、実行に移さざるを得なくなったというのと、そこまで精神的にも追い込まれたということの証左だ。

 座ったまま、補給の水と軽食を貪るように食う。仮眠の時間を少しでも取っておかないことには、この先でうっかり死にかねない。せめて、目を閉じてゆっくりと休むくらいは必要だろう。そう思いつつ、一通り食べ終わると俺は目を閉じて体の力を抜いた。

 

 

 それから少しすると、別のプレイヤーが安全地帯までたどり着いたのが、足音で分かった。目を閉じてこそいるが、眠ってはいない。ここは圏外なのだから、PKも十分にあり得る。実際、寝ているところをPKに遭い、命を落としたというプレイヤーもいる。俺は幸か不幸か、その手のプレイヤーには遭遇していないが、警戒するに越したことはない。だが、俺は近づいてきた足音のリズムと重さで、相手に大体のあたりを付けていた。

 悟られないように薄く目を開ける。視界に映ったのは、俺の想定していた通りの人物だった。やはりこちらが眠っていると思っているのだろう。そのままこちらに向けて手を伸ばしてきたところで、俺はそのままの体勢で口を開いた。

 

「何してんだ、レイン」

 

「うわぁっ!?」

 

 突然俺が喋ったことに相当肝をつぶしたのか、レインは素っ頓狂な声を上げながら飛びのく。だが、それだけしか喋らずに静かにしていると、レインはこちらをしげしげと見て、やはり目が開いていなさそうだということを―――この時点で再び目は閉じたのだが―――確認すると、ぼそりと一言呟く。

 

「・・・寝言?」

 

「んなはっきりした寝言があるか」

 

 はっきりとツッコミを入れつつ片目を開く。目の前には相当泡を食ったと見える少女の顔。その顔を見て、思わず俺は笑ってしまった。

 

「なに?なんかおかしい?」

 

 それに対して、軽く頬を紅潮させながらレインが言い返す。それを受けて、ようやく俺は笑いを納めて言った。

 

「いやなに、想像以上に驚いた顔だったものでな。よしよしうまくいったしめしめ、みたいな」

 

「何それぇ!」

 

 そういうと、今度こそはっきりと顔を赤くする。それを見て、俺は笑みを安堵のそれに変換した。

 

「・・・今度は何?」

 

 表情の機微を鋭く悟ったレインがもう顔を隠そうともせずに問いかけて来る。それに対して、俺は素直に思ったことを口にした。

 

「そんだけ元気があるんなら安心だな、って思っただけだ」

 

「あ、うん、まあ、ね」

 

 こうして喋ったり、助け助けられ、その時の貸し借りで奢ったり奢られたりという仲だから、お互いのレベルは把握できる。そして、レインのレベルはほぼ常に俺より少し低い。その彼女がここまでくるには、少なからず集中力を削るはずだ。

 

「ま、それでも、そっちもそれなりに疲れてるだろ?休息の時の見張りくらいはするけど」

 

「え、でもそれはさすがに申し訳ないっていうか、なんていうか・・・」

 

「今更遠慮なんかいらん。それに、一応お前も女だしな。目の前でレイプされたりとか、あまつさえ殺されたりとかしたら、流石の俺も寝覚めが悪い」

 

 あまりにも俺の言い方があけすけだったからか、レインが少し顔を伏せる。

 

「ま、それに、ゆっくり休めたほうがいいだろ?」

 

「・・・分かった。じゃあ、お願いしようかな」

 

「おう、任された」

 

 そういうと、レインは俺の横に腰を下ろした。ストレージから軽食と飲料を取り出して口に運んでいく。

 

「そっちにとってどうだ、この迷宮区」

 

 本当に何の気なしに俺は隣の少女に問いかけた。口の中の物をちゃんと咀嚼してから、レインはゆっくりと答えた。

 

「一言で言っちゃうと、厳しい、かな。雑魚も今までにないくらいしっかりと攻撃してくるし、その攻撃が鋭い。重さはないけど、その分早いから、連撃をもらっちゃうと重たいのを一発貰ったのと同じくらいだし」

 

「やっぱそっちにとっても、か。そっちのレベルは、大体40前ってとこか?」

 

「うん、まあ、そんなとこ。そっちは?」

 

「ちょっと前に42だ。でもここらがいっぱいいっぱいかな。マージンは十二分のはずなんだが、余裕がない」

 

「そりゃ、ここはマージン云々以前に、プレイヤースキルを試されるよ。アスナさんみたいな高AGI型はこういうところでも簡単に回避できるだろうけど」

 

「アスナほどの手練れであればおそらくAGIが少々低かろうと問題ないと思うぜ。あいつは、見切りがすさまじくうまい。リアルで武術習ってたって言われても不思議じゃねえな」

 

「・・・?どういうこと?」

 

 これは俺が常々思っていることだ。アスナは確かにAGIが高いステータスをしている。俺も確かにAGI高めのステータスだが、アスナのAGIはその遥か上をいく。もっとも、これは俺が刀を片手で十二分に振るえるようにSTRも上げたことにも起因するところはあるのだが、それはこの際置いておく。何が言いたいかというと、もし俺とアスナが同じステータスで同じ相手と戦ったとして、回避に徹したら間違いなくアスナのほうがより正確に回避ができるという点だ。

 いまいち要領を得ないという様子のレインに、俺は「あくまで推論だが」と前置いて切り出した。

 

「アスナは―――どうやっているのかはともかくとして―――相手の攻撃を読んだり、見切ったりすることがうまいんだよ。それは、おそらく本人の頭の回転の速さと、武器特性、使ってくるソードスキル、その辺の豊富な知識に裏付けられたものだろうがな。それらをフル活用した際に何が起こるかと言えば、初見じゃない攻撃はよっぽど躱せられるってことだ。いや、もしかしたら初見でもある程度なら躱せるかもしれないな」

 

「うわあ・・・そりゃ凄いね」

 

「まあな。おそらくそんな真似ができるのは、攻略組でもキリトとあいつだけだろうよ。キリトの反応速度はもはや異常の域に達してるからな」

 

「それは確かにそうだね。PvPのデュエルでも負けたことほとんどないって聞くし」

 

「まあそうだよな。俺だって勝てる自信ない」

 

 その言葉に、ふたりして笑う。そこで、ふっとレインが軽く目を(しばた)いた。

 

「眠いんなら寝ていいぞ。会話させたのは俺なんだし」

 

「あ。うん・・・。じゃ、お言葉に甘えさせてもらうね」

 

 そういうと、レインは壁に頭をもたれかけて目を閉じた。すぐにその腹部が一定のリズムでゆっくり上下する。レインは普段胸式呼吸に近いようなので、完全に寝たということだろう。伊達にコンビを組んでいるわけではない。呼吸法など、教えてマスターさせるのは簡単だが、今はそこまでではない。もっとも、この層でここまで厳しいのならば、今のうちに教えていたほうがいいのかもしれない。現実世界での体とは違うから貧血というものは起きないかもしれないが、万が一ということもある。それに、これは実体験に基づくものなのだが、腹式呼吸のほうが運動する点において肉体的に楽なのだ。詳しいことはわからないが、腹式呼吸のほうが多く息を吸えるということなので、おそらく酸素供給量とかそういう話なのだろう。

 

(・・・って、いったい何考えてんだ、俺)

 

 考えながらも周囲の観察は止めない。もともと俺の役目はこいつの護衛だ。決してその、おそらく高校生だと思われる年頃にしては整った体型とか無防備な寝顔に見とれないようにとか、そんなことを考えていたわけではない、と信じたい自分がいる。普段は動きやすさ重視で選んでいるのか、比較的ゆとりのあるサイズで服を選んでいるように思える。首のあたりも、動いて邪魔にならないようなデザインを選んでいるようだ。少なくとも、俺は彼女がタートルを着ているところを見たことがない。肌寒いことは今まで何度もあったにも関わらず、だ。

 

(一般的に言って、そういう服って着やせするっていうよなー・・・)

 

 ということは・・・とあまりにも下心全開の思考に陥っていると、肩に微かな重みがかかった。そちらを見てみると、レインが頭を俺の肩に乗せてきていた。

 

「まったくこの娘は・・・」

 

 正直に言って、俺は彼女に対して恋愛感情など抱いていない。あるのは相棒として、攻略の意を共にする同志としての思いだけだ。もっとも、俺も男である以上性欲もあるのだが、最近は不思議とそういう感情は湧いてこなかった。

 とにかく、俺のやることに変わりはない。そう思いながら、俺はそのまま周りを見ていることにした。




 はい、というわけで。なんか前書きに書く内容がなかったので今回前書きはなしです。

 そして久々のネタ解説無し。旋車に関しては原作でもアニメでも出てきたソードスキルなんで省略します。

 今回はリズベット初登場です。原作を見るとどうやら第三層か四層あたりでもう既にリズベットらしき鍛冶屋が確認されているので、ここらでもうお店を開いていても不思議じゃないよなーと思ってやってみました。今後彼女もちゃんと物語に絡む予定。某DEBANさんがどうなるのかは未定です。

 それではまた次回。


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