ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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68.決戦前

 それから少しして、俺はまたスリーピングナイツのホームに転がり込んでいた。というのも、俺が特定のギルドホームを持たないこと、職業柄どうしてもレインも含めた面々とはログインのタイミングが合わないことが最大の理由だ。それに、最近では木綿季の容体も安定してきたので、中学からの編入に備えて彼女の家庭教師的立場にもなっている。スリーピングナイツのリアル事情もあり、スリーピングナイツのホームに行けば大体誰かいるのだ。なので、スリーピングナイツ以外の知り合いがいないと確認したら、大体俺は彼女らのギルドホームに行くことにしている。そこで軽くデュエルをしたり、勉強教えたり、ただ駄弁ったりしている。今日はランとデュエルをしていた。

 

「デュエルトーナメント?ああ、もうそんな時期だったか」

 

「忘れてたんですか?」

 

「それだけ大変ってことだよ。俺のリアル、知ってんだろ?」

 

「あぁ・・・」

 

 教職というのが大変だ、というのは聞いてはいた。が、聞きしに勝る大変さで、よほどのことが無ければイベントごとなど頭から抜け落ちてしまうのだ。

 

「今年も出るんですよね?」

 

「時期があってれば出る。けどぶっちゃけ難しいかもな」

 

「えぇ・・・私、ロータスさんと戦えるかも、って楽しみにしてたのに」

 

「・・・ん?ランも出るのか?」

 

「ええ。最近身体の調子がいいですから」

 

 そういう彼女は確かに最近かなり調子がよさそうだ。何も知らない人からすれば、よもや彼女が末期の患者なんて思う人のほうが少ないだろう。最近では俺とデュエルしても悪くない戦いをするほどだ。ALO最強格のキリトと互角以上の戦績を誇る俺と悪くない、という時点で、その実力たるや推して知るべしである。

 

「て、ことは、スリーピングナイツからはユウキとランの姉妹かー。かなりきついな。キリトとアスナも十分に強敵だっていうのに」

 

「その二人相手なら、ロータスさんのほうが戦績勝ってますよね?」

 

「少し前の話なら、って前提条件が抜けてるぞ」

 

「今なら負けるかもしれない、ってことですか?」

 

「あり得る話ではある。ダイブの時間も違うだろうし、俺はALO以外のゲームにも手を出してるし」

 

「そういいながら、私とは戦えてますよね?」

 

「そうそう簡単に負けるほど鈍っちゃいないさ」

 

 そんな会話をしながら、俺たちは刃を交えていく。最終的に、俺がランの突きをこすり上げるようにいなし、戻せなくなったところで二刀によるラッシュでケリがついた。

 

「参りました」

 

「相変わらず強いな。これで本気じゃないってんだから末恐ろしい」

 

「あなたが言いますか?」

 

 笑いながら健闘をたたえ合っている構図、なのだが、ランの目は全く笑っていない。たぶんそれはこちらもだろうが。俺の言葉は心の底からの本音だ。大体両方共こうして雑談も交えたかなりカジュアルなデュエルをしているから、本気とは程遠い。だが、俺からしたら、その程度で並大抵の相手に後れを取るようなヤワな鍛え方はしていない。なにせ、こちとら文字通り殺し合いを潜り抜けてきた身だ。

 

「というか、そもそもなんで二人とも喋りながら模擬戦できるのさ?」

 

「俺の方は、まあ、スタイル的にできなきゃお話にならないからな」

 

「私に関しては、主にユウキのフォローで周りを見ながらヒールとバフをかけれるようにしながらなので。一対一ならこのくらいは」

 

「そもそもできるほうがおかしいと思わないの?」

 

「「慣れたら案外楽」ですよ?」

 

 俺とランの揃った回答に、揃っているスリーピングナイツの面々は一様にため息をついた。

 

「そういえば、ランねーさんってスタイル変わった?」

 

「え?まあ、心機一転というか」

 

「そうなのか?」

 

「今までは盾持ちの片手剣。で、防ぎながら援助して、時には攻撃して、って感じだったんだよ」

 

「へえ」

 

 ジュンの言葉に、俺は少し意外に思った。今のランの剣は軍刀、俗にいうサーベルと呼ばれるものだった。一応片手剣という扱いになっているが、レイピアのように使うこともできる。実際、ランのファイティングスタイルは斬撃のみならず刺突も少なからず使用するものだった。両手に武器を持ち、攻撃のほとんどが斬撃か体術で構成される俺からしたら、かなり新鮮な戦い方だった。慣れないうちは苦戦させられる。

 

「でも、俺が想像するに、今のランのスタイルは補助魔法でバフとヒールをかけて、回避とパリィをメインとして一気呵成に攻め切る超攻撃的スタイルだろ。そのスタイル特性上、必要があれば後衛に回ることもできるが、その真価は前線で暴れているときに発揮されるはずだ。ま、どうあっても血は争えん(ユウキの姉)ってこったな」

 

「えー、それじゃボクが突撃思考の脳筋みたいじゃん!」

 

「俺が指摘するまでヒーラー不足の超脳筋パでフロアボス攻略できるって考えてたのはどこの誰でしたっけ?」

 

 ユウキの抗議は、俺の回答がすべて物語っている。ま、大体中の人の年齢がアバター通りだとして、後衛で援護するより前線でギッタバッタしたいという気持ちは分からなくはない。

 

「ま、ユウキはそのくらいがちょうどいいんだよ。で、やるか?」

 

「やる!」

 

 刀の柄を叩きながらの言葉に即座に乗ってくるあたり、こいつの性格が見える。キリトほどではないが、ユウキも大概戦闘狂だ。そんな彼女が抜剣して正対したのを確認して、俺は戦闘態勢に入った。

 

 

 そんないつも通りの日常を送りながら、俺はGGOにログインした。いつも通り適当に散策するだけの予定だったが、

 

「あ、エキシージちゃんじゃん、やほー!」

 

「うげ」

 

 厄介な奴に捕まることになった。振り返った先には、頬にレンガ色のタトゥーを入れた、長身の女性プレイヤー。

 

「何の用だ、この毒鳥め」

 

「毎回ひどいわねー」

 

「自分の評判見てから言おうかそういうセリフは」

 

「失礼しちゃうわー、私は健全にゲームを楽しんでるだけなのに」

 

「味方もろとも巻き込む規模の自爆特攻するようなプレイのどこが健全じゃどこが」

 

 俺と同じ、GGOの最古参が一角とされているピトフーイだ。ピトフーイ、というのが、南国の毒鳥なので、俺は遠慮なく毒鳥と罵ることにしている。古参なら誰しもが一回はその名を聞いたことのある、イカレたプレイヤーである。

 

「で、何の用だくそアマ」

 

「んー、ちょーっと協力してもらいたくてねー。場所移していい?」

 

「長い話なのか?」

 

「少なくとも立ち話レベルじゃないわね」

 

 一瞬迷う。確かにこいつのプレイングは常軌を逸したものがあるが、俺なら何とかなるか。そもそも、第二回BoB3位という実績のせいで勘違いされがちだが、俺のこのゲームに対するスタンスは“手加減無し、全力で楽しむ”というものだ。ぶっちゃけデスペナは痛いが、俺はゲームで生計を立てているタイプの人種じゃない。さすがにAS50をロストしたらがっくり感も強いだろうが、それ以外の武器なら大して痛手ではない。なにより、グロッケンから出ないのであれば、HPは絶対に減らない。

 

「話だけなら聞く。ただし妙な真似をしたら試し斬りの実験台になってもらうからそのつもりで」

 

「大丈夫、今回は仮にも依頼だから」

 

「なら仲介料はふんだくらせてもらう」

 

「ええ、そうして?」

 

 この女にしてはあまりに珍しい殊勝な態度に、俺はそのまま後ろをついていった。

 

 

 

 

「スクワッド・ジャム?ああ、なんか運営のお知らせにそんなのがあったっけな」

 

「ある程度予想はしてたけど、やっぱりチェックしてなかったのね」

 

「あのな、自慢じゃないが俺は基本的にソロだぞ?小隊(スクワッド)、なんて銘打たれてる時点で地雷認定、ナシだナシ」

 

「そっか、それもそっか、ボッチだもんね」

 

「流れの傭兵って言ってくれ」

 

「流れの傭兵なんて長いじゃない。じゃあソロボッチで」

 

「パワーアップさせてんじゃねえよ」

 

 この辺まで来て、明らかに面白がられていることに気付き、話を先に進めることにした。

 

「で、そのスクワッド・ジャムがどうしたって?」

 

「私が最近一緒にプレイしてる子がいるんだけど、肝心の私が本番出れそうになくて。付き合ってくれないかなって」

 

「ほかに当てはねーのかよ。俺も結構忙しい身なんだが」

 

「だいじょーぶ、腕の立つのをもう一人用意してるから。三人なら楽勝でしょ」

 

「つってもスクワッドってことはワンパだろ?最悪倍の人数相手にすることになる」

 

「私が見込んだ子と、私からみて腕が立つって判断した相手とあなたが組んだら、並みの相手なんて鎧袖一触よ」

 

「そりゃ光栄なことで。

 結論だけ言うと、即答はできん。詳しい話を聞いてから決める」

 

「結構!」

 

 結局受けることになるのだろうが、金になるからいっか。そんな気持ちで俺は案内されるままついていった。

 

 

 案内された先にいたのは、巨漢の男と小柄な女の子だった。

 

「紹介するわね。ちっちゃい子がレンちゃん、デカいのがエム。二人とも、こちらロータスさん。何とか協力こぎつけれた。じゃああとは本人たちでごゆっくりー☆」

 

・・・やっぱりそういう話になったか。ま、とりあえずそっちの方向で話を合わせたほうがいい。

 

「ロータスだ。よろしく」

 

「ロータス、というと、ギャンブルメイジか」

 

「よくご存じで」

 

 そんな風に口先では言うものの、ある種当然かとも思う。

 

「お知り合い、なんですか?」

 

「その言葉が出る、ってことは、君、もしかして最近始めたクチ?」

 

「あ、はい」

 

 その言葉に、俺は内心愕然とした。

 

「ガチ勢の巣窟の大会にまさかのニュービーとは・・・。あいつ、ついに判断力までイカれたか?」

 

「ピトに気に入られている時点で実力はあるんだろう。それに、彼女が一時期噂になっていた砂漠のPKerらしい」

 

「・・・マ?」

 

 砂漠のPKerと言ったら、間違いなく夕暮れの砂漠にいると言われるスコーピオン使いだろう。と、なれば。

 

「AGI極か。武器はSMGかマシンピストルかPDW。戦法は一気に肉薄してからのスナップショット。問題は武器だが・・・」

 

「それはピトが教えてくれた。P90だそうだ」

 

「てことは、サブアームはFive-seveN?」

 

「いや、P90一丁持ちです」

 

「なるほど。ま、わざわざ持ち替えるだけのメリットもないか」

 

 俺の言葉に、レンちゃんはごまかすように笑った。なるほど、拳銃射撃が苦手なタイプか。

 

「じゃ、俺のスタイル、と言いたいとこなんだけど。俺の正体知ってるってことは、多分ご存知よね?」

 

「基本スナイパーのオールラウンドタイプ。全距離対応型、といったところか。ステータスはAGIとSTRのバランスだったな」

 

「そりゃあ把握するよねー。俺も名がある程度売れてる身だし」

 

「エムさんすごい・・・」

 

「や、これはちょいと事情があるのよ。っと、俺はちょいと用事があるんでな、この辺で失礼するよ。もともとピトフーイに連行されただけだし」

 

「時間を取らせてすまなかった」

 

「いいってことよ。ちょいとリアルが忙しいから時間合わないかもだけど、インしてるときに合いそうだったらまた連絡するねー」

 

 そういって、俺はその部屋を後にした。適当に散策する予定だったが気が変わった。このアバターのリハビリがてら、地下のダンジョン探索に行くことにする。ただでさえも最近はシュピーゲル垢で半分パワーレベリングをしていたところなのだ。こっちの感覚との乖離は無くしておきたい。仮にも傭兵として仕事を受け持った以上、自分の仕事には責任を持たなければ。とりあえず、俺は準備のためホームに向かった。

 




はい、というわけで。

今回はデュエルトーナメントの前の回でした。

先にイカジャムのことについて触れておきます。
さらりとここでぶち込みますよー、的なイベント書いてますけど、ここでは書きません。時系列ぐっちゃぐちゃになるなー、と思うので、いったんマザロザまで書いてから、if編として別で話書きます。あと想像以上にレンちゃんとエムさんが自分の手に負えなかった。うまくつなげられる自信がなかったです。

追記
マザロザの後と書きましたが、一回SAO編をアリシまで完結させてから書く予定です。イカジャム編は結構先になりますが、お待ちいただければと思います。

ちなみにランの剣についてですが、イメージとしてはモンハンのテオやナナの太刀みたいな感じです。サイズはあれよりだいぶ小ぶりになりますが、形としてはアレです。あれと、鍔が大きい短剣を組み合わせるイメージです。
調べてみて初めて知ったんですけど、中世とかだとレイピアやサーベルと短剣って割とメジャーなスタイルだったらしいですね。拙作でもこれを使っています。

さて、デュエルトーナメントがどういう戦いになるかはこうご期待、ということで。

ではまた次回。

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