ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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63.臆病者へ天誅を

 さて、アスナにとっては冬休みの最終日、こちらにとっては授業日が近づいてきていた。だがそんなことは関係ない。授業のための用意は当面分済ませてある。少なくとも、この学期分くらいはどうにかなるはずだ。昔ながらの紙とノートとペンでやる勉強ではないから、わざわざ印刷する必要はない。それに、課題に関しては、コツコツ真面目にやるリズ―――じゃないや篠崎も問題なさそうだし、虹架に至ってはちょくちょくここ教えてと電話がかかってきていたりALOで教えていたりするから、問題ないことは俺が分かっている。明日奈に関してはまあ言わずもがなだろう。

 俺の方は、まあ、軽い打ち合わせくらいしかやることが無かったので、半日上がりだ。そのまま速攻で帰ってスリーピングナイツのギルドホームへ向かう。時間には何とか滑り込みでセーフだった。

 

「すまん、遅れた」

 

「え、時間には間に合ってるよ?」

 

「集合時間より少し前に現着、これ基本な」

 

「えぇ!?ボク、結構ギリギリなんだけど、誰にも何も言われなかったよ!?」

 

「ユウキはいつもギリギリだから何も言われなかっただけです」

 

 俺の言葉にはランが追撃した。相変わらずの辛辣度合いだが、これは姉だからこそなせる業だろう。

 

「ほかの面子は?」

 

「アスナさんも含めて、全員集合してます。私はいつも通りお留守番です」

 

「そっか、じゃあ行くか」

 

「いってらっしゃいです。いい報告を待ってます」

 

 そういうと、俺たちは揃って羽根を展開して飛び立った。

 

 迷宮区の道のりはまあ順調なものだった。メインの攻略班であるスリーピングナイツの消耗を抑えるため、道中の雑魚掃除は俺がほとんど受け持った。そこはまあ、元SAO攻略組の面目躍如というか、はっきり言ってヌルゲーだった。後ろのアスナは“これ私本当に必要だったのかしら”というような顔をしていたが、道中の露払いは俺の役目でアスナの役目はボス周りの時のヒーラー兼バッファーなのでということで納得してほしい。

 さて、問題のボス部屋前までは順調に進んだ。

 

「ちょっと一旦ストップ」

 

 俺の一言で全体が止まる。怪訝な顔をするユウキをよそに、俺はアローブレイズを弓形態に変える。俺の予想が正しければここらにいるはずだ。矢をつがえて、問答無用で詠唱開始。と、慌てて前から声がかかった。

 

「ちょ、待った待った待った待った!」

 

 そこから現れたのは、ボス部屋前で透明化していた二人組。さすがにいきなり殺されるのは勘弁といったところなのだろう。種族はインプとプーカ。なるほど、インプが透明化の魔法を、プーカがそれをアシストしてたってとこか。

 

「じゃあなんだってわざわざ姿隠すハイディングまでしてボス部屋前にいたんだ?普通にそこに棒立ちしてればいいだろうに」

 

「俺たちは味方を待ってたんだ。無用なトラブルを避けたいから透明化してたってだけ」

 

「・・・ふぅん。ならそういうことにしておく」

 

 相手のHPの傍にあるギルドアイコンを一瞥して、俺はさらに続けた。

 

「そっちのお味方とやらはまだ来てないんだろ?なら、先に俺らが挑戦していいか?」

 

「ああ、いいぜ」

 

 その言葉を聞き、アスナとシウネーが全体にバフをかけ、MPポーションを飲む。それを確認してから、ボス部屋の扉を開けた俺を先頭に、俺たちは戦闘に入った。

 

 

 ボスとの戦いは苛烈を極めた。だが、はっきり言って初見とは思えないほどいい戦いだった。と、思う。全員がそろって死に戻りしたのちに、俺はすぐインスタントメッセージを飛ばした。

 

「みんな、すぐに再挑戦したほうがいいかも」

 

 戦いの余韻も冷めぬうちに、アスナが全体に声をかけた。

 

「気づいたな?」

 

「ということは、ロータス君も?」

 

「うすうすとは感づいていた。とにかく、全員飛ぶぞ。事情は道すがら話す」

 

 結局利用することになっちまったか、と若干の罪悪感を覚えながら、俺も一緒に飛び立った。

 飛び立ってすぐ、俺は口を開いた。

 

「まず、ボス部屋前にいたのは攻略ギルドのスカウトだ。本来なら一番槍としてある程度ボスの攻撃パターンとか弱点とかをあぶりだす役目を担うんだが、おそらくそれだけじゃない。トレーサーか何か使って、ボスに挑む他のパーティを通して、ピーピングをしてたんだろう」

 

「間違いないと思うわ。テッチの傍に蜥蜴がチョロチョロしてたから」

 

「やっぱり覗き見野郎だったか。問答無用でハチの巣にしてやるんだった」

 

「て、ことは、ボクたちが挑んだ直後にボスが倒されちゃったのって、偶然じゃないってこと?」

 

「偶然じゃないどころか、必然って言ってもいいな。おそらく、その時もユウキたちは結構ギリギリまで削ってたんだろ?なら、それをピーピングで共有すれば、必然的に最新に限りなく近い、しかも正確な情報が手に入るわけだ。自分たちで苦労してボスのHP削って、デスペナ食らうことなくな」

 

 俺のその言葉に、ユウキは隠さずむっとした。俺もさすがに頭に来ている。

 

「一応まだ年始だし、真昼間からインしてるような人は少ないはず。すぐ大規模な攻略レイド編成はできないはずよ。だから、攻略するなら今しかない」

 

 もっと怒ってらっしゃる方がそばにいたわ。ま、彼女からしたら、先遣隊がどんな思いでボスの情報を得てきていたのかを分かっているから、こんな真似をする相手は怒りどころか憎悪の対象だろう。

 

「やけに攻略ペースが速かったうえに、同じギルドのパーティばっかりが剣士の碑に刻まれてたからな。なんかおかしいなとは思ってた。ここまでゲスな真似してるとは思ってなかったけどな」

 

 俺の予想は、死に戻りした奴の後を追って、作戦会議してるところを盗み聞きしてるんじゃないかと思っていたが、まさかボス部屋前で堂々とトレーサーつけてピーピングとは。

 

「でも、それくらい大きなギルドなら、ある程度はインしてる可能性もあるわけだよね?」

 

「おう。だからそのためにちょいと援軍を頼んである」

 

 さっきインスタントメッセージを送ったのは、ドッグアンドキャッツのリーダーであるフカだ。今、メインアカウントでログインしているのに、黒天がいないのもここにつながる。

 

 

 昨晩、アスナがログアウトした直後、俺はその足でアルンにあるドッグアンドキャッツのギルドホームを訪れた。向こうも、こっちに頼みたいことがあると相談を持ち掛けてきていたのだ。

 ギルドホームには、リーダーのフカ、そして情報屋としてエリーゼがいた。

 

「待たせたな」

 

「段ボールはないの?」

 

「残念ながらな」

 

 開口一番で和ませながら、俺は近くの椅子に座った。

 

「で、頼み事って?」

 

「ロータスって、最近スリーピングナイツってギルドの子たちと仲いいよね?」

 

「ん、まあな。やっこさんら、自分たちだけでフロアボス討伐したいらしくてな。支援するつもりだ」

 

「へぇ、なら都合がいいや」

 

 その言葉に、俺はある程度察した。

 

「剣士の碑か?」

 

「その様子だと、察してた?」

 

「ああ。その感じだと、本当みたいだな」

 

「ええ。―――大規模ギルドのボススカウトは、おそらく実力ある複数パーティの戦い方をピーピングし、傾向と対策を即座に練り上げて、早期攻略を行っている、と、考えられる」

 

 やはり。想像通りではあったが、いい気分はない。

 

「おかしいと思ってたんだよ。ここんとこ連続で、大規模ギルドのギルドマークしか剣士の碑に刻まれてない。キリト、アスナ、俺、クライン、エギルあたりの、元SAOでパーティーリーダー務めたことのあるような奴らなら、絶対どこかで名前が上がるはずなんだ。なにより、攻略に声がかかるはず。なのに、それすらもない。大規模ギルドっつってもマンパワーに限界はある。ギルメンだけで十分なほどの情報を、しかも、これだけのハイペースで得る方法は人海戦術くらいだ。でも、そんな方法を取ってたら、いずれ破綻する。こんなに連続で続くはずがない。と、すれば、他のところのリソースを使ってるとしか思えない」

 

 先遣隊という時点で、パーティ構成はタンクとヒーラーがメインになることが多い。一回の挑戦で少しでも多くの情報を持って帰る必要があるからだ。それに加え、アタッカーを編成するとなると、物理か魔法に偏重させない限りは火力不足で時間がかかりすぎる。かといって、ユウキやキリトたちのような脳筋アタッカーパーティでは情報を持って帰れるかすら怪しい。先遣隊の時点でほぼフルレイドなんて投入したら今度はデスペナで大赤字になるのは目に見えるから、できるだけ少ないパーティ数で挑もうと思うと、火力不足での長期戦になるか短期決戦でのデスペナか、どちらにせよ赤字覚悟でなくてはならない。そんなものすぐに破綻する。が、破綻せずにここまで来ている。何か裏があると思ってはいた。

 

「私たちとしてもさ、フロアボスのボスドロップって結構うまみのある話なのね。それを一切おこぼれもらえずに独占されていい気分はしないわけ。だからさ、もし万が一、そういうことをしているってはっきりしたら連絡頂戴。ぶっ潰すのに手貸すから」

 

「おう、その時は頼んだ」

 

 フカも腹に据えかねているところがあるらしく、かなり言動が荒っぽくなっている。まあ、俺としてもかなり腹が立つ。フカたちが味方に付いてくれるのは大歓迎だ。そこに、俺たちが加われば、不可能を可能にすることは十分に可能だろう。

 

 

 今頃、フカとエリーゼが黒天の背に乗って先行している頃合いだろう。その後から、彼女のギルドメンバーで来ることのできる人は来ると言っている。ドッグアンドキャッツのメンバーは精鋭ぞろいだから頼もしい限りだ。

 

 

 ボス部屋前に、今回サポートとして連れてきていたストレアが、ナビピクシー状態で警告を発した。

 

「ボス部屋前にプレイヤー多数!」

 

「人数は?」

 

「19人、多分何か打ち合わせをしてる」

 

 19人も咄嗟に集まれるのかよ、廃人の鑑だな。その人数となると、多分フカたちは多分来てないな。なら、ダメもとで交渉するか。

 集団に追いついたときに、まず俺が交渉に入った。

 

「なああんた、これってどういう状況だ?」

 

「仲間を待っててな。悪いがここは今通行止めだ」

 

「つまり、先に挑戦させるつもりは無いからおとなしく待て、と?」

 

「ああ。たぶん1時間もかからないから待っててくれ。文句があるのなら、イグシティに俺たちの拠点があるから―――」

 

「それこそ1時間くらいたっちゃうわよ!?」

 

 アスナが思わずといった様子で遮る。その通りだ、片道でもそこそこの時間がかかるっていうのに、交渉なんてしていたら確実に1時間くらいかかる。俺一人ならここの面子を半壊くらいはさせられる。もちろんその代償としてデスペナをもらうことになるが、俺一人なら問題ない。だが、ここにいるのはストレア除いても総勢8人。巻き込むわけにはいかない。

 

「どうしてもっていうのなら押し通るくらいしか手がないけど」

 

「そっか、なら仕方ないね」

 

 相手のその一言がトリガーだった。俺が反応する前に、隣のユウキが前に出た。

 

「戦おっか」

 

「おいおい、嬢ちゃん正気か?」

 

「そうよユウキ、流石にこの人数は―――」

 

「アスナ」

 

 たしなめようとするアスナを、ユウキが静かな口調で遮った。

 

「ぶつからなきゃ伝わらないことだってある。例えば、どれだけ自分が真剣なのか、とかね」

 

 振り返ってそういうユウキは笑顔だった。・・・まったく、仕方のない小娘だ。

 俺も進んで隣に立つ。まだ得物は抜かない。抜く必要がない。この間合いは、既に俺の間合いだ。ユウキが先陣を切って突っ込む。それに対応する、おそらくタンカーのノームである相手の防御は、確かに攻略ができるレベルのギルド員にふさわしく高い。が、最大の誤算は―――

 

「はあっ!」

 

「つうっ・・・!?」

 

 相手の得物が弾かれた隙に、俺は狙いすましてヘッドショットを決めた。矢は眉間に突き刺さり、一発でポリゴンになった。ユウキに気を取られている間に、俺がアローブレイズを持ち替え、矢を放ったのだ。

 確かに、これが普通の前衛と中衛なら時間稼ぎくらいは容易だっただろう。だが、ここにいる連中は()()()()()()()()()()()()。相手の最大の誤算はこちらの力量を見誤ったことだ。

 

「盾無し片手剣のインプ、それにこの剣筋・・・まさか、絶剣じゃないか・・・?」

 

「目がいいな、あんた。間違いなく絶剣その人だぜ。

 ところでユウキ、一つ確認していいか?」

 

「なに?」

 

「ああ。時間を稼ぐのはいいが・・・別に、殺しつくしても構わんのだろう?」

 

 俺の言葉に、ユウキは一瞬驚いたようなようだった。だが、すぐに笑い声が聞こえた。

 

「もっちろん!遠慮はいらないからね!」

 

「そうか。なら、―――期待に応えるとしようか」

 

 たぶんネタは通じてない。だがまあ、俺としても全力で暴れたい気分だ、存分にやらせてもらおう。

 

『後ろからプレイヤー多数!おそらく前にいる集団のお仲間!』

 

 接敵するまでに、あらかじめポケットの中に隠れていたストレアから声が聞こえる。前、ユイちゃんも警告モードで声をーとか言っていたから、おそらく同じことをしたのだろう。まあとにかく、

 

「そこにフカたちは?」

 

『少し離れて黒天の反応があるから、ぎりぎり追いつけるくらいだと思うよ』

 

「十二分・・・!みんな、おかわりと援軍だ!」

 

 その言葉に、一瞬アスナが顔をしかめた。

 

「ごめんね、ボクの短気に付き合わせちゃって」

 

「全く以って問題ない。一回こういうクソどもは痛い目見るべきだからな」

 

「私こそ、役に立てなくてごめん!ここでダメでも、次は一緒に倒そう!」

 

 そう言いつつ、アスナはいつものレイピアに装備を変えた。口には出さないが、そういう隠れた超好戦的な部分があるからバーサクヒーラーって呼ばれるんやであんた。

 

「往生際が悪い―――」

 

 その一言を言ったやつは、即座に眉間に片手剣をプレゼントした。

 

「こっちが往生際が悪いのなら、おたくらは性根が悪いな。こいつら以外にいくつのパーティが挑戦したのかなんざ知ったこっちゃないけど、デスペナもらわずにこっそり盗み見して情報入手して、自分たちはMPポーションくらいしか痛い目見ずにうまい汁だけ吸ってたわけだからな」

 

 俺の言葉に、何人かが顔をしかめた。―――かかった。

 

「おっと図星か?すまんね、思ったことは隠せない性分なんだ。覗き見スキルがどれだけ高いのかとか、それでハラスメントもらわなかったのかとかは知らないけど、自分で挑戦するような度胸すらないチキンの覗き魔なんでしょ君ら。なら俺たちが負ける道理はないよ?自分たちが弱いとは思わないしね。少なくとも、ワンパーティくらいでボス挑戦する度胸は、こっちにはあるんだし」

 

「・・・貴様ぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!」

 

 叫びながらアタッカーと思しき奴がかかってくる。そいつをあっさりと弓で機先を制して、一瞬動きが鈍ったところをたたきつけて、足で頭を踏み砕く。SAOから培ってきたステータスだから、防御されてない頭を踏み砕くなんざ朝飯前ってとこだ。

 

「ほら弱い」

 

 その言葉に、今度は魔法が飛んできた。が、横からソードスキルで、その魔法は叩き切られた。こんな反則(チート)ができるのは一人しかいない。

 

「相変わらずの精度だな、キリト」

 

「そっちこそ、煽り上手くて若干引いたぞ」

 

「煽り性能マックスの奴の傍に半年もいたんだ。多少はうまくもなる」

 

 それに、この手の馬鹿は少々付け上がってくれた方がやりやすい。実際、怒りに任せて飛び掛かってくれたから対処がやりやすかった。そして、そういうやつらばかりだから本当にやりやすい。

 突然、俺は独特な抑揚をつけて指笛を吹いた。その直後、援護してきた部隊の後ろから炎のブレスが襲い、最後衛を焼き殺した。

 

「おっせえぞフカ!」

 

「無茶言わないでよ、腕によりをかけて大急ぎだったんだから!」

 

 俺だって本気の言葉じゃない。直後に、俺の周囲に剣が落ちてきた。さすが、恐ろしいくらいドンピシャ。これで戦力は十分。

 

「アスナ、ユウキ!先に行け!ここは俺たちがぶっ潰す!」

 

「でも!」

 

「でも、じぇねえだろうがよ!てめぇにゃあ時間がねえんだろうが!さっさとボスをぶん殴り倒してこい!」

 

 俺の喝に気合が入ったのか、ユウキがこちらに背を向けて走り込んだ。そして、何も言わずとも隣に立った少女の肩を叩き、近くの剣を引き抜く。

 

「さあ、蹂躙の時間だドぐされチキンども。ここにあるは剣戟の極致。恐れずしてかかってこい!」

 

 俺の挑発に、多数の敵が向かってくる。が、俺からしたらこんな前衛が歯向かってきたところで大して問題でもなんでもない。それに、

 

「やあっ!」

 

―――今は、頼もしい相棒もいる。

 隣でレインが防ぐ。その横から上から後ろから、攻め手を交代しつつ上手く立ち回りながら二人で戦闘不能に追い込んでいく。俺たちに加え、一騎当千のキリトや、十分に名の売れた傭兵ギルドのドッグアンドキャッツなど、精鋭がかなり揃い踏みした状況で、戦況はこちらに傾いてきていた。

 

「くそ、撤退―――」

 

「させるかよ」

 

 これはまずいと逃げの一手を決め込もうとした相手を見て、俺は即座にアローブレイズを弓形態で抜刀した。抜きながら早口で詠唱しつつ、引き絞る。最速クラスの速さで放たれた、俺のマジックアーツ―――俺は勝手にマギアと呼んでいる―――の中でも最上級技、“ヴァンフレーシュ”が下がろうとした敵を片端から射抜いた。のけ反りだけで済んだ幸運な奴もいたが、大概の奴はノックバックを食らったり、転倒したりさらに不運な奴はヘッドショットで一撃リメインライトになった。そこを逃すこいつらではない。

 

「全員、食らいつくせぇぇ!!!」

 

 フカの号令で、ドッグアンドキャッツの面々が攻略ギルドメンバーに襲い掛かる。続いて、他の面々も完全攻勢に回った。

 

「ボスドロの恨みぃ!」「勝手に独占しやがった分け前よこせぇ!」

「全弾いくわよ!」「泣いたところで許してあげない!」

 

「―――おー(こわ)

 

 ネトゲプレイヤーの嫉妬は怖い、とはクラインだったかキリトだったかが言っていたが、これは怖い。でも残念ながら当然。よって―――

 

「一撃じゃ生ぬるい!」

 

 前衛に一気に詰め寄り、魔法で何人か拘束する。後ろを巻き込むかもしれないが、まあまとめて吹っ飛ばしてくれるだろうから問題なしか。事前に魔法で攻撃範囲と炎属性をエンチャントし、このソードスキルの長いチャージを終えた一撃をぶっ放す。名付けて―――

 

絶破(ぜっぱ)・・・滅焼撃(めっしょうげき)ィ!!!」

 

 ちなみに、エンチャントした元の技は絶拳である。ただでさえも威力の高いそれに範囲が加わればどうなるか、という、一種の威力テストだったのだが、―――想像以上の結果に俺が驚くことになった。

 

「ちょっとー?そっちがやりすぎたせいで暴れたりないんですがー?」

 

「悪い、正直ここまでの威力とは思ってなかった」

 

 結果、ある程度もともとHPが削られていた状態だったとはいえ、残った敵のHPを軒並み致死域寸前近くまで削るレベルの威力を発揮した。俺の反対側でも何人か戦っていたが、余波の範囲で、削ったHPでよろけているところに追い打ちをかけて殲滅完了。

 

「それに、あれこれたまってたのは俺もだ。殺したかっただけで死んでほしくなかったんだが」

 

「圧倒的矛盾!」

 

 そうは言われても、流石にこんな真似されたら腹も立つというものだ。

 後に聞いた話だが、ことの顛末を聞きつけたSAO帰還者のスレでは、偵察隊が文字通り死ぬ思いで情報を取ってくるからこそ攻略ができるというのに、その苦労をせず、しかも一般的には忌避されるピーピングを使ったうえでの暴挙ということで、まあ特大炎上だったらしい。同情はしないが。

 

「それで、大丈夫なの?つっこんでった子たち」

 

「大丈夫だろ、あいつらなら」

 

 そんな会話をしていると、ボス部屋の閂が音を立てて外れた。それを見て、フカがこっちに向けて言った。

 

「行って来たら?」

 

「・・・じゃ、お言葉に甘えて」

 

 そういうと、俺は自分の得物を納刀して、ボス部屋に向かった。

 




 はい、というわけで。
 まずは元ネタ解説


ヴァンフレーシュ
テイルオブグレイセス、ヒューバート・オズウェル第二秘奥義
 元ネタは、物語に出てくるとある力を使って放つ技なんですが、ここでは弓があるのでそのまま使用。元ネタはいわゆる単体攻撃なんですが、ここではある程度拡散させて対集団向けにしてます。

絶破滅焼撃
テイルズオブベルセリア、ベルベット・クラウ第二秘奥義
 復讐を誓った彼女の、怒り、恨み、殺意モリモリの秘奥義。元ネタは彼女の持つ(?)“業魔手”と呼ばれるものを使うのですが、ここでは普通にチャージしてぶっ放すだけです。その代り、威力と範囲はまあ、ご覧の通りです。

独特な抑揚の指笛
獣の奏者シリーズ、「闘蛇の指笛」
 獣の奏者シリーズには、特定の強力な生き物を操る「奏者の技」というものがあるのですが、それの一つである指笛がモデルです。物語ではとある歴史的背景から禁忌とされ、ごくごく一部の語り部の一族が語りつないでいます。

 今回はタイトル通りでした。そりゃあねぇ、命がかかってる場所で文字通り命がけで情報とってきてくれてからの攻略をしていた人たちですもの。こんなことされたらブチギレ不可避。プラスして全く分け前よこさずにうまい汁だけ吸っていたということでフカたちも怒髪天。ま、戦力が大幅増強されればそりゃまあオーバーキルになりますわね。
 ちなみに、リアルのネトゲだとこういう場面は順番待ちするのがマナーらしいですね。まあ、それはあくまで“良識あるプレイヤー同士”でのお話ですし、交渉次第ではあるとは思いますが。ま、その辺は原作もこんな感じだしってことでお許しいただきたいと思います。

 さすがに主人公無双させすぎたかなぁ、って気がしなくもないですが、あまり気にしないでいただけると幸いです。ほら、タグにも主人公無双風味って書いてあるし()

 さて、次回はまた水面下で事態が動きます。どっちかっていうとその手の展開のほうが描きやすいってあたりやはり自分ってひねくれてるんだなと←

 ではまた次回。

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