ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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61.スリーピングナイツ

 彼女に連れられてきたのは、新生アインクラッドの中にあるギルドハウスだった。そこには6人が、種族のかぶりなくいた。

 

「紹介するね!ボクのギルド、スリーピングナイツの仲間たち!」

 

 そういって、一人ひとり自己紹介を聞く。だが、誰がどういう役割なのかという考察は、その次の言葉でどこかに吹っ飛んでいった。

 

「あのね、ボクたち、この層のボスモンスターを倒したいんだ。ここにいるメンバーだけで」

 

「・・・・・・はあぁぁ!?!?」

 

 たぶん、たっぷり5秒くらい黙っていたと思う。で、その後に大声出した俺は悪くないとも思う。それもそのはず、

 

「フロアボス、って、フルレイドの大体50人弱くらいで挑むもんだぞ!?その7分の1とか、さすがに無理じゃねえのか?」

 

「うん、無理だった。現に、25層と26層は6人で挑戦したんだけど、あれこれ工夫してるうちに大きなギルドに先を越されちゃった」

 

 その言葉に、俺はとあるうわさを思い出した。・・・まさか、な。いや、今はそれが重要じゃない。そんなことを考えているときに、どこかでログイン音が聞こえた気がしたが、それも一旦は無視だ。

 

「そもそも、なんでこんな無謀に近いようなことを・・・。どこかに協力するとか、そういうのはダメなのか?」

 

「ユ~ウ~キ~?あなた、やっぱりろくに説明せずにつれてきたのね?」

 

「ゲッ、姉ちゃん!?」

 

「ゲッ、じゃないです!あ、私、ユウキの姉のランといいます」

 

「こりゃご丁寧に。俺はロータスだ」

 

「ロータスさん・・・!なるほど、ユウキが気に入るのも納得です」

 

 ウンディーネの彼女、もといランは俺の名前を聞いて納得したようにうなった。どうやら、先ほど聞こえたログイン音は彼女の物だったらしい。で、この反応を見るに、

 

「ランさんは俺の事知ってたわけ?」

 

「ええ。あなたのことは有名ですからね、マジックアーチャーさん?」

 

「その名前はやめてくれません?大げさすぎて好きじゃない」

 

「ふふ、わかりました」

 

 柔らかに笑うランさん。もともと、ふわりと柔和な雰囲気の彼女に、その笑い方は非常に似合っていた。

 彼女がいるのでは、俺が入ると中途半端なレイドにならないか、と思っていると、それはユウキが補足した。

 

「姉ちゃんはちょっとリアルの事情で戦えないんだ。だから、ボクたちだけになる」

 

「いやだから、なんでこんな超絶少数精鋭・・・あ、剣士の碑か?」

 

 俺の言葉に、一同は相当に驚いた顔をした。それを代弁するように、最初からいたウンディーネのシウネーが声を上げる。

 

「よくわかりましたね・・・!?」

 

「何となく察しただけだ。この人数じゃなきゃいけない理由、っていうのを一つ一つ考えると、一番もっともらしい理由がそれなんだよ。ボスドロップ独占するのなら、わざわざ複数階層に挑む理由がない。ランさんがいることで人数が合わないからおかしいな、とは思ったが、彼女が戦えないのなら話は簡単だ。あれは、ワンパーティだけで撃破することができれば、全員の名前が刻まれるからな。違うか?」

 

「ご明察です。すごいですね」

 

「なに、半分くらいは勘だ」

 

 そういうと、もう一度パーティを見渡した。パーティの種族内訳は、サラマンダー、シルフ、スプリガン、ノーム、ウンディーネ、そしてインプ。うん。条件によるかな。

 

「確認するぞ。おたくらが苦戦してる間に、大ギルドがフロアボスをぶっ倒したんだよな?」

 

「うん。さすがに2回続けてこうなるってなると、助っ人が欲しいよね、ってなって」

 

「そうか。なら、すまんが、俺は直接協力できそうにない」

 

 俺の言葉に、彼女たちが肩を落とす。

 

「理由は、俺の知り合いにもっと適任そうなやつがいるからだ」

 

「え・・・?」

 

 俺の言葉に、ランが驚いたような嬉しいような声を漏らした。

 

「このパーティ、種族から考えて、おそらく、ノームのテッチはタンク、ウンディーネのシウネーがヒーラー兼バッファー、タルケンは支援兼アタッカー、後は純アタッカーってところが妥当だと思うんだけど、違う?」

 

「タルケンは支援というより、純アタッカーに近いですが、大体そうです」

 

「だろうな。なら、この人数になってくると、圧倒的に支援職が足りない。ランさんなら分かると思うが、俺は広い間合いに対応できるオールラウンド型のアタッカーっていうのをコンセプトとして戦ってる。今でさえ、シウネーだけでは若干ヒーラーとバッファーが心もとないのに、アタッカーがさらに増えたら、多分、支援が足りなくなってテッチが死に戻って、後は押し切られるっていう展開が見える。むろん、押し切っちゃえればそれでいいんだけど、全員が全員ユウキレベルっていうわけじゃないんだろ?」

 

「なるほど、押し切るには火力不足で、定石なら支援不足、ということですか・・・」

 

「そ。なら、俺みたいな、魔法を併用するオールレンジアタッカーより、支援を行えるタイプの方がナンボか楽のはずなんだ。その心当たりの奴は、家族の方に帰省しててインできないんだが、年明けなら帰ってくるだろうし。

 黒ずくめのスプリガンとも戦わなかったか?片手剣の超強い奴」

 

「ああ、いたけど、あの人はダメだよ?」

 

「理由は聞かんぞ。あと、あいつはユウキと同じ白兵戦脳筋タイプだから、同じ理由で却下な。

 ま、とにかくだ。あいつより少し弱いくらいで、少なくとも平均以上の白兵戦能力を持つヒーラータイプなんだよ」

 

「へえ、そんなに強いのなら、戦ってみたいな!」

 

「・・・もしや、バーサクヒーラーさんですか?」

 

「合ってるけど・・・それ本人に言うなよー、地味に傷ついてるから」

 

 バーサクヒーラー、というのは、アスナにつけられたあだ名だ。もともとALO月例大会でもトップクラスに名を連ねていたころからその片鱗はあった。が、21層のフロアボス討伐の際、SAOでも暮らしていたあのログハウス風のマイホームのために、「ああもうまだるっこい!」と言わんばかりに、支援を投げ出して前衛でキリトとともに大暴れした彼女の様に、畏敬の念を込めてつけられた。・・・本人はかなり気にしているらしい。でもまあ、旦那に似て戦闘狂なところもあるから残念だが当然。彼女らしい評価ともいえる。というか、

 

「ランさん、意外とプレイヤー知ってるのね」

 

「一応、私がリサーチしましたから。それと、呼び捨てでいいですよ?」

 

「そっか、ならありがたく。

 ま、とにかくだ。奴さん、そのあだ名に傷ついてるけど、若干戦闘狂な部分があるから、多分誘えば乗ってくるはずだ。その辺はこっちで手を回しておく」

 

「すみません、何から何まで・・・」

 

「いや。・・・俺としても、いろいろ思うところはあるからな」

 

 個人的に、気になるところがあるのだ。傭兵というのは、こういう時に動きやすいからいい。

 それから、これからの大まかな相談し、俺は分かれてログアウトした。

 

 

 ログアウトすると、俺はアスナにメッセージを飛ばした。即座に返信が来たあたり、彼女も年頃の女の子なんだなー、と再認識する。そのまま、手を止めずにダイヤルした。

 

『もしもし?』

 

「あ、俺だけど。今大丈夫か?」

 

『うん。ちょうど眠れなかったとこなの』

 

「そっか。ならいっかな。で、こうして電話したのは、ちょいと要件っていうか、耳に入れておきたいことがあってな」

 

『何かALOであったの?こっちだとインできる場所がなくて・・・』

 

 場所がない、ということは、おそらくアミュスフィアは持って行っているのだろう。と、すれば、

 

「あれまあ、今時無線すらないとは珍しい。ま、あったっていうか、出たっていうか」

 

『とんでもない強さのボスが出てきたとか?』

 

「んー、惜しい。

 なあアスナ、キリトが辻デュエルで負けた、って言ったら、信じられるか?」

 

『・・・えぇ!?!?』

 

 電話口でアスナが驚きの声を上げる。ま、だろうな。彼女は、キリトの強さを横ではっきりとみている。それを踏まえて考えれば、キリトが辻デュエルで負ける、というのは、少なからず衝撃のはずだ。

 

「まあ、本人曰く、例の似非二刀流は使わなかったらしいがな」

 

『それでもキリト君を負かすって、すごいわね』

 

「おう。俺も実際に戦ったが、まあ、ありゃ負けだな、うん」

 

『・・・?妙に煮え切らない表現ね』

 

「ま、その辺はまたおいおい。スピードタイプの剣士だから、アスナならワンチャンあるかなー、って」

 

 俺の回答に若干の疑問を覚えたアスナだったが、全く問題ない。このくらいならごまかしきる。それより、

 

「ところで、アスナももういっぱしのゲーマーだから、ALOにインできないのはきついんじゃねえか?愚痴くらい、俺でよければ聞くぞ?」

 

『いや、今のところは大丈夫。ある程度は予想してたことだから』

 

「そっか、まあ大丈夫ならいいんだが。吐き出せるときに吐き出しとけよ」

 

『そっちも、私とこんなに話してていいの?』

 

「いいの、って?仕事なら、あらかたもう終わらせたし問題ないぜ?」

 

『そうじゃなくて。レインちゃんとか、エリーゼさんとか』

 

「・・・なんで今その二人の名前が出てくるんだ・・・?あいつらなら心配ないだろ」

 

 俺の言葉に、電話口の向こうから盛大なため息が聞こえた。・・・ため息?

 

「ま、課題とかはおたくなら心配ないか」

 

『帰省する前にほとんど終わらせたわ。そのくらいは織り込み済みだったんじゃない?』

 

「織り込み済みというか、想定済みだな。おたく、もともとそういうタイプだろう?」

 

『さすがね。立場が違えば、参謀に抜擢したいくらい』

 

「やめてくれ。采配振るうのなんざ性に合わん」

 

『自分で言っておいてなんだけど、全く想像ができないわ』

 

「だろうな。俺もそうだ。じゃあ、また年明けな」

 

『ええ、また』

 

 それだけ言うと、俺は電話を切った。直後、アミュスフィアとパソコンを接続して、設定を少しいじる。GGOのシュピーゲルアカウントに設定しなおすと、俺はGGOにログインした。

 

 

 グロッケンにログインして、直後にメッセージを送ろうとしてやめた。すでに相手は一足先にインしていたのだ。

 

「悪い、待ったか?」

 

「いえ、そんなに。さ、行きましょ」

 

「おう」

 

 そういいながら歩くと、小耳にはさんだ気になる話題を切り出した。

 

「そういえば、エッグいプレイヤーキラーが出たって?」

 

「そうね。正体は不明。気が付いたら目の前にいて、スナップショットでハチの巣」

 

「わーそりゃエグいな。場所は?」

 

「夕暮れの砂漠で固定されてるとこ。あそこなら、上手く色を調整してさえしまえば、ほとんど見えないでしょうね」

 

「完全擬態したカメレオンよろしく全くわからんだろうな。スナップショット、ってことは、AGI極か。武器は?」

 

「発射音とレートからして、Vz61じゃないか、って」

 

「スコーピオンか。まさに砂漠のサソリだな」

 

 Vz61、別命スコーピオンはチェコかどこかのSMGで、非常に小型かつ軽量なのが特徴の銃だ。俺がシュピーゲルとして活動する際、使用武器候補の一つとして上がった銃でもある。ま、それはそれ。

 

「つっても、俺だとちょいときついかもな。万が一があると怖いからやめておくか。俺の武器もこれだから、純粋な腕勝負になるし」

 

「クリスヴェクター、だったっけ」

 

「そそ」

 

 シュピーゲルの武器は、あれこれ迷った末にクリスヴェクターというアメリカ製のPDWに決まった。若干リコイルが独特だが、MP7と同じPDWであるがゆえに、取り回しの良さと威力のバランスがいい銃だ。それに加え、サブアームがグロック21で固定されるものの、同じマガジンが使用できる拳銃があることが最終的な決め手になった。

 

「で、見た目で風景とほとんど同化してるAGI極相手なら、シノンのスナイピングもかなりきついか」

 

「そうね。あそこ、遮蔽物少なすぎるし」

 

「いくら1000mオーバーの射程でも、あっという間に詰められてハチの巣だろうからなぁ。AGI極のスピードってかなりトンデモなものがあるし」

 

「なら、無理にいかないのが吉?」

 

「ご明察。そこにしか出ないんだろう?」

 

「ええ。他のフィールドに出てきたって話は、少なくとも私は聞いてない」

 

「なら話は簡単。そのフィールドに特化したPKなら、わざわざそこに行く必要はない。こちとらステータス上げがメインの目的なわけだから、PKじゃなきゃダメ、ってことではないわけだし」

 

「ということは、今まで通り、地下ダンジョンに行くのね?」

 

「おう」

 

 そんなことを話していると、GGOにある俺の―――厳密にはロータスアカウントの―――拠点にたどり着いた。ここにはガレージも併設されていて、その中には移動用の車もある。俺の運転技術もあって、ダンジョンまでの移動はこれ一つで非常に楽かつ快適なものとなっていた。

 

「しかし、AGI型ってのは使いこなさないとつらいな」

 

「そうなの?」

 

「砂も大概だけど、AGI極もつらい。ベクトルは違うけど、難易度の絶対値的にはどっこいどっこいってとこじゃねえか?」

 

「スナイパーも難しい職種だけどね」

 

「だろ?俺も使うからわかるけどさ」

 

「で、難しい、っていうのは、どういうこと?」

 

「VITに振らない分、HPは相当に低い。で、STR型とは違って、どうしても超クロスレンジで戦うしかない。武器がマシンピストルとかSMGとかになるからな」

 

「コンテンダーはダメなわけ?」

 

「ダメダメ。あんなの、低STRの貧弱握力じゃ、銃が吹っ飛んで行って自分がケガする。そういう目的で使うのなら別だけど」

 

「誰得って話ね」

 

「そういうことだ。俺はSAOで飽きるほどこっちのアバター動かしたから、最初はともかくすぐ慣れた。そうじゃないやつはかなり難しいと思うぜ?」

 

 つまり、力がない分軽い武器しか使えず、軽い武器ということは必然的に射程距離が短くなるということと同義、ということである。例えばだが、ロータスのサブウェポンであるレイジングブルは拳銃としては相当大きいが、有効射程は精々言って5、60m前後と言うところだろう。限界射程距離を試すような武器じゃないので不正確だが、そんなに的外れな値でもないはずだ。このクラスの武器しか扱えないAGI型は、つまりそのレンジで戦わざるを得ない。対してアサルトライフルとなれば、200mくらいでもある程度の威力と精度があって当然だ。つまり、この時点で間合いを制されているわけだ。その中で勝つには、相手の弾をよけたうえで、クロスレンジで相手をぶち抜くしかない。だが、ここに大きな問題がある。

 

「そもそも、それ以前に早すぎて制御ができないんだよな」

 

「どういうこと?」

 

「自転車くらいなら乗ったことあるよな?」

 

「それくらいならあるわよ」

 

「OK。ならたぶん、それより少し早いくらいの原チャリくらいなら運転できると思うんだよ。そんなに力ないし」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

「だけどさ、いきなり大型二輪とか乗りこなせ、って言われても無理ゲーでしょ?そういうことだ」

 

「自分の力が大きすぎる、ってこと?」

 

「その通り」

 

 早すぎて制御ができない、とはそういうことだ。速度が上がる、ということは、その分精密な体の制御を求められる、ということと同義。加えて、瞬間情報量も増える。自分で使ってみて痛感したが、使いこなせる人間が少ないのも納得のいくお話だ。と、そんなことを話していると、目的地のダンジョンについた。

 

「ま、だからこそ、そのPKの中の人は、相当運動ができるタイプだろうな」

 

「いわゆる、動けるオタクとか?」

 

「かもな。さて、やるぞ」

 

 そういうと、俺たちは車を降りた。車の方は、自動運転モードにして、自分の家に送り返した。

 

「さて、頼むぜ、相棒」

 

「ええ、後ろは任せて」

 

 そういって、俺たちはグータッチを交わした。

 




 はい、というわけで。

 あくまでスリーピングナイツが本編ですが、後半はちょっとした伏線でもあります。調べた結果、時系列的にはそんなに問題ない、という判断になりました。
 ランちゃんは敬語キャラじゃなさそうなんですが、ここではこれで通します。というかある程度そんな感じでキャラ立てないと読み返してこんがらがるというメタ的理由のほうが大きいです←
 あと、「ああもうまだるっこい」のネタが分かった人がいたら感想欄にぜひ。分かる人のほうが少ないと判断して解説はすっ飛ばします(オイ

 本編のほうでは、ロータス→レインorエリーゼ に対する評価は「命に値する信頼」であり、「明確な恋慕、愛情」ではないので、こういう反応。アスナは、if編でもちらっと書きましたが、ある程度レインの気持ちを察しているのでため息です。道は長いですねぇ。

 シュピーゲルの武器、実はすでにほんのちょこっとだけ解説が書いてあります。GGO編の最初のほうに書いた、.45ACP弾を使うことでマガジンまで共通化される~ってやつですね。一応PDWって括ってよさそうと判断してPDWと明記しましたが、厳密にはSMGではないかと考えてます。
 グロックの21はグロック17系のハンドガンです。本編にも系列武器が登場してますね。映画とかでたまーに拳銃をフルオートでばらまくシーンがありますが、あの手の武器と思ってもらえれば大体合ってます。APEXでいうRE-45みたいな感じです。

 さて、次回はもろもろ複線回です。しばらく話は止まって説明やらなんやらになりますがご容赦ください。

 ではまた次回。

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