ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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 はい、どうも。

 先週は学校が休みだったのと、運転免許試験場に行っていたのとで結果的に投稿できませんでした。
 その分のボリュームがあるかと言われればないという回答になってしまいますが、今回分どうぞ。


8.第十五層フロアボス戦

 それから少しして、俺は人気のない時間を見計らって迷宮に潜っていた。その手に握られているのは、昨日のボスドロップである斬破刀。ソードスキルこそ発動できないが、装備することだけはできた。

 

「重たいな・・・」

 

 俺のスタイルは片手に持った剣と体術を合わせて攻撃していくというものだ。この斬破刀は、片手で振れないことはないだろうが、少なくとも今のステータスでは土台無理だ。両手で持っても、それなり以上の重量が存在感を主張してくる。片手で振るとなるとそれ相応のSTR値が要求されるだろう。実際、装備フィギュアを見ると、これは両手剣扱いだった。いったいどういう条件でスキルが解放されるのかはわからないが、その手の情報には今まで以上にアンテナを張っておくべきだろう。そう思いつつ、クイックチェンジを使ってブルードラゴンに装備を戻す。さっきの今では、手になじんだこの剣がまるで羽のように思えた。

 

「実際の重量は変わっていなくても、俺のほうで慣れがあるってことか」

 

 これを利用すれば、一時的に剣戟のスピードを上げることができるかもしれない。が、ソードスキルを一時的に封印してでもやる必要のあることではない。確かに斬破刀のプロパティは高い。が、DPSという観点で見れば、今のところはブルードラゴンどころか予備の店売り剣にも劣る。リターンに対するリスクがあまりにも大きすぎて現実的ではない、というのが俺の下した判断だった。

 

「さて、と。攻略を再開しますか」

 

 そういいつつ、俺は適当に歩いて行った。

 

 

「えっと、ここがこうなって、さっき俺はこう行ったから、こっちか」

 

 マップデータを頼りに進む。道中の雑魚は軽く蹴散らす。しばらく進むと、俺の目に大きな二枚扉が映った。

 

「意外と早かったな」

 

 少し気になって数えてみると、あのフィールドボス戦からは5日しか経っていない。5日で迷宮を駆け抜ける、というのはなかなか以上にいいペースだ。とにかく、

 

「行ってみますか!」

 

 そういいつつ、両開きの扉を押して開く。中に入ると、足元が微かに冷たかった。下を見ると、水位は決して高くないが、水が張っている。これでは、隠蔽スキルなどあってないようなものだ。もっとも、ボス戦で隠蔽スキルを使う馬鹿などそうそうはいないが。

 

 部屋が徐々に明るくなる。その奥に鎮座するボスの姿を見ようと、そちらをじっと見つめる。やがて、現れたシルエットは、平たく長い体と大きな顎を持つモンスターだった。平たく言えば、

 

「でかいワニだな」

 

 呟きつつ、抜剣。これなら偵察は比較的楽そうだ。そう思いながら、俺はそのワニ、“The Alligator of smash jaw”に向かって突撃した。こちらに気付いて吠える。とりあえずのあいさつ代わりとしてピックを放り投げる。吠えたことで大きく開いた口の中に突き刺さったそれは、相手のHPをわずかながら削った。だが、普通は主戦力たり得ないピックで目減りするほどのダメージが与えられるということは、

 

「なるほど、口の中は相当脆いと」

 

 もっとも、口の中を攻撃できる機会などほとんどないだろうが。そのまま素早く後ろに回る。それに気づいて、相手もこちら側へ転がってきた。さすがに、目算でも10m、いや20m以上あっても全く不思議ではないこの巨体が横に転がってこられたらどうしようもない。確か、現実世界での最大のワニは6mちょっとだったはずだから、大きさとしてその数倍に当たる。なるほど、スマッシュ―――砕くとはよく言ったものだ。だが、

 

「当たらなければどうということはない!」

 

 某赤い人の名言を言いながら、大きく後ろに下がって躱す。そのまま背中に回り込む。と、今度はその太い丸太のような尻尾を叩き付けてきた。何とか躱すことができたものの、数m離れているにも関わらず地面を叩いたことによる振動がこちらまではっきりと伝わってきた。ということは、

 

「タンクじゃなけりゃ下手すりゃ一撃死だな」

 

 火力は凄まじい。が、どれもこれも火力だけだ。素早さや予備動作の読み辛さはない。ならば、ある意味どのボス戦よりも楽な戦いになりそうだ。

 

「んじゃま、情報を取れるだけかっさらいますかね」

 

 そういいながら、俺は改めてブルードラゴンを構えた。右足前の半身で、右腕はぶらりと下げる。剣先は地面と平行に、左腕は畳んで、脇の少し下に拳を持ってくる。俺のいつもの構えであり、一番気が締まる構えでもあった。

 

「仕切り直しだ、化け物。かかってきやがれ!」

 

 俺のその声に呼応するように、相手が吠える。そのまま、俺は再び突撃していった。そのまま戦いながら、相手のHPゲージの減りを見て考える。

 

「これって、もしかしなくても・・・」

 

 単身撃破などということもできるのではなかろうか。というのも、案外相手のHPの減り方が早いのである。得物をここですべて捨てる位の気概があれば可能かもしれない。が、

 

「そんなことをする必要もない、か」

 

 俺のステータスポイントの振り方は、大体STR:AGI:VIT:DEX=1:2:1:1なおかつSTR>VIT≧DEXといったところだ。といっても、そこまでAGI特化というわけでもないが。何が言いたいかというと、この鈍足怪力ワニ相手なら、俺なら振り切ることは十分に可能ということだ。それでも、俺がそうしない理由は、この戦いをまだ楽しめているからだ。だが、

 

「これ以上やって本チャンの時にやる気失せてもなぁ」

 

 メインディッシュは後に取っておくべきだろう。そう考えた俺は、鍛えたAGIに物を言わせてボス部屋を離脱した。

 

 

 迷宮区から最寄りの街に戻ると、俺は真っ先に広場に向かった。帰り道の途中にメールを送ったから、AGI特化型のあいつならもうついているはずだ。実際、俺が広場に着いた時には、そいつはもうそこにいた。

 

「ヨ。元気そうで何よりダ」

 

「お互いな」

 

 待ち合わせをした人物―――アルゴといつも通り挨拶代わりのグータッチをしてから、俺はさっさと本題に入った。もともと、迂遠なことは嫌いな質だ。

 

「さてと、情報はフロアボスについてだ。さっき偵察戦をしてきたばっかなんだ」

 

「分かっタ。その情報はまだ入ってないしナ」

 

 その言葉に内心ほっとする。これで先を越されていたら、さっきの俺の苦労は何だったんだ、ということになる。

 

 一通り情報を話すと、アルゴはにんまりと笑った。

 

「それだけ情報を集めたのなら、そうだな、30kってとこかナ」

 

「それでいいよ。てか、情報の売値は言い値でいいって前言わなかったか?」

 

「これはオレっちのルールだヨ。騙し取るようなまねはしないようしないといけないからナ」

 

「そうか」

 

 俺には理解できないが、それが彼女の信条だというのならば仕方ない。

 

「それともう一つ。刀スキルの習得方法って出回ってるか?」

 

「うんニャ。少なくともオレっちは知らないゾ。どうしてそんなことを聞くんダ?」

 

「ちょっと前にドロップしたんだよ、刀と思われるやつが。もっとも、要求STRが高くて、装備しても到底実用的じゃないけど」

 

「そもそも刀スキルがない以上装備したところでソードスキル発動できないしナ」

 

「ま、そーいうことだ。とりあえず、情報が入ったら教えてくれ」

 

「なんとなくハスボーが最初の提供者になる様な気がオレっちはしてるけどな」

 

「なんだそれ」

 

 アルゴの言葉に思わず笑みがこぼれる。ちなみにハスボーというのは俺のことだ。ロータス→蓮→ハスボー、ということらしい。ハスブレロになることは・・・たぶんないと思う。ルンパッパはもっとない。・・・何を言っているんだ俺は。

 

「ま、とりあえず今んとこは以上。っつーわけで、またな」

 

「ああ。今後ともご贔屓にしてくれナ」

 

 その別れもいつも通りだった。

 

 

 

 その次の日、短いボス攻略会議の後に、俺たちは迷宮区のボス部屋に向かっていた。

 

「今回は一緒だね」

 

「そうだな。前一緒だったのは・・・どこだっけか」

 

「確か、十層の攻略戦だったはずだよ。あの時も、ディアベルさんのパーティメンバーから欠員が出たから、って」

 

「あー、そうだったけ。ま、今回は俺らにとっちゃ全部一撃必殺みたいなもんだ。貰うなよ」

 

「・・・やっぱり単身で挑んだんだ」

 

 呆れが多分にこもった半目でこちらを見るレインに、俺はふいと顔を逸らした。

 

「あー・・・それは、だな・・・。あのな、強敵との戦いって燃えるじゃん?遭遇したら戦いたくなるじゃん?」

 

「それで死んじゃったら元も子もないんだよ?」

 

「いやだってさ―――」

 

「だっても何もないから。まったくもう、相変わらず突っ走ってばっかなんだから」

 

「いやさ、これは性分ていうか、癖っていうか―――」

 

「意識すれば治るレベルでしょ。欲望に従って死なれたらこっちも迷惑なんだから」

 

「・・・はい、すみませんでした」

 

「分かればいいよ。次私の目の前で、ボス部屋に単身で突っ込んでいこうものなら無理矢理引っ張り出すからね」

 

「・・・りょ、了解、です」

 

 俺の反論はあっさりとレインに破られ、結果的に平謝りすることになった。明らかに年上の俺が叱られているという絵面がおかしかったのか、横でディアベルが笑う。

 

「ぐうの音も出ないというのはこういうことを言うんだろうね」

 

「ほっとけ」

 

「でも、今回はレインが正しいよ」

 

「分かってるっての。そもそも、俺が間違ってたって分かったから謝ったんだ。今更掘り返すな」

 

 どこかふてくされたような俺の答えに、もう一度ディアベルが肩を揺らす。

 

「まったく、そんな様子の君は珍しいよ。でも、いつも通りならそれでいいけどね」

 

「ああ。フロアボス戦だからな。・・・死ぬなよ」

 

「互いに、ね」

 

 軽く拳を打ち合わせて、ディアベルは隊列の先頭に戻っていった。

 

 

 そしてボス戦。

 

「えーっと、いつも言ってるけど、ここまで来たら言うことは一つだ。誰も死なせずに勝とうぜ!」

 

 それに対する鬨の声も、俺の冷めた目もいつも通りだった。そして、扉を開ける。その先には、俺にとっては再戦となる、巨大なワニが鎮座していた。その規格外の大きさに息を呑む気配がいくつか。

 

「突撃!」

 

 その声が早いか俺が最初の一歩を踏み込むのが早いかといったタイミングで一気に突撃する。もともとAGIにちょっと多めに振ってあることもあり、集団の先頭を一気に突き進む。正面にいた俺に対して一気に食らおうとしたその噛みつきをやすやすと回避すると、そのまま横に回る。そして、大人が何人か手を繋いで輪を作ってようやく抱えることができようかという太い足に自分の足をかけて跳躍。その勢いのまま予備の剣を突き立て、その柄をしっかりと両手で握り、全身の力を振り絞ってさらに上へ。すると、労せずにその背中に乗った。そして、クイックチェンジで手元に戻ったブルードラゴンを、そのまま背中に何回か突き立てる。ボスもこちらを落とそうと暴れまわるが、そんなことお構いなしにしがみつく。やがて暴れるのが少し収まったことを確認すると、ブルードラゴンを引き抜く。またひとしきり暴れだしたところで、今度こそ俺は飛び降りた。相手のHPバーを見ると、すでに一本目が削れていた。

 

「まったく、君の発想というのはいったいどうなっているんだい?」

 

「変人だって言葉はもう聞き飽きたよ」

 

 一旦引いてディアベルたちと合流、ポーションを一気飲みする。と、横からディアベルに呆れたように言われた。おそらく、こんな考え方をするから変人と言われるのだろうが・・・まあ、それは性だから仕方がないと、もうすでにかなりあきらめていた。

 

「まあ、今回はそれで助かったけど」

 

「ああ。余裕があれば口に麻縄でも括ってやろうかとおもったんだがな」

 

「それだとすぐちぎられやしないかい?」

 

「どっかで聞いた話なんだが、ワニってのは口を閉じる力は強いけど開く力はそうでもないんだと。だからたぶんちぎれない。どちらにせよ、背中に乗るだけで結構集中力いるから、普通はできない。死ぬかもしれないっていう状況の中だ、神経もすり減らす。最悪一人二人死人が出るかな」

 

「そうならないために僕たちがいる。そうだろ?」

 

「そう、だな」

 

 そう言っていると、ボスが再び吠える。HPバーを見ると、二本目が消失して色も黄色になっていた。そういう自身のHPバーは右端に近かった。まだ全快ではないが、HPバーの下のバフアイコンを見るに、このペースなら問題はないだろう。

 

「潮時じゃねえか?」

 

「そうだね。―――C隊、スイッチ準備!A隊は合図とともにC隊と交代!」

 

「「「了解!」」」

 

 直後に返事が返ってくる。俺も剣を構えなおす。

 

「スイッチ!」

 

 前から声が聞こえた。瞬間に、足に力を込めて一気に跳躍。同時に、一気に加速して直前で一回転し、斬り上げる。ここまでその使いやすさから使い込んだドライブツイスターは、ボスの巨体をもディレイさせた。続いてきた無数のソードスキルが一気にボスを切り刻む。それにより、ボスがのけ反りながらそのHPバーを赤くした。

 

「ラスト一本!気張れ!」

 

「おう!」「了解!」「うす!」「っしゃあ!」

 

 俺の喝にいろいろなところから返答が返ってくる。その直後に、ボスがその頭を下げ、大口を開けた。

 

「危ない、下がれ!」

 

 ディアベルの号令が飛ぶ。が、その瞬間は大抵技後硬直(ポストモーション)で動けない。

 

「くそが」

 

 一つ毒づくと、技後硬直から抜けた体を一気に加速させる。わざわざあんな大口を開けて何もないということは、

 

「うるらぁ!」

 

 左手で渾身の力を込めた剛直拳をさらに上に打ち上げる。それはボスの顎を半ば無理矢理閉じさせる。少し後に爆炎が横から吹き出す。俺はほぼ正面から拳を叩き込んだから食らわなかったが、あれを正面から食らったらそれなりに痛そう―――いや、黒こげになりそうだ。

 

「ブレスが来るかもしれない。正面にはなるべく立つな!」

 

 今まではただ体当たりや噛みつきという、シンプルながらも強力な攻撃を繰り返してきたが、ここからはやはり特殊攻撃を混ぜてきた。俺もディアベルも、HPゲージが赤くなったら何かあるというのは今までの経験則としてわかっていたので、注意喚起を忘れなかった。俺も、万が一を考えてすぐに対応できる状態にしておいた。だからこそ、あの局面で剛直拳をぶっ放すことができた。

 

「大丈夫か!?」

 

「何とか!」

「こっちも大丈夫だ!」

「おかげさまで全く問題ない!」

 

 ディアベルの確認に戻ってくる声にもまだまだ覇気がある。それを聞いて、俺は下から垂直に一閃。微々たるダメージしか入れられなかったが、ヘイトを引くには十分だ。案の定、ボスが俺に狙いを定め、体を水平に捩じる。

 

「・・・!?危ない、下がれ!」

 

 その変化を目ざとくディアベルが見つけ、号令を出す。が、俺はあまりにも近すぎた。この後に飛んでくるのは、あの尻尾による薙ぎ払いだろう。が、これでは回避はできない。ならば、

 

「躱すまで」

 

 一言呟くと、両足に満身の力を籠める。ボスの足が微かに動くと同時に、俺は跳躍し、そのまま()()()リーバーを放った。そのままシステムアシストに従い、俺の体は一気に加速する。その加速も相まって、俺の体の真下を尻尾が通り過ぎた。尻尾の巻き上げる風圧を背中に感じながら、何とか受け身を取ろうとする、が

 

「ぐぎゃっ」

 

 さすがに技後硬直から抜けた直後では不可能だった。微かな鈍痛とも取れる感覚と、ほんの少しHPが減ったSEを聞きながら、俺は変な声を上げつつ地面と激突する。ゆっくりと立ち上がると、横からただならぬ雰囲気が突き刺さった。壊れかけのブリキの人形のように恐る恐るそちらを向くと、

 

「ロータスくーん?」

 

 般若がいた。いや、般若を背後に伴ったレインなのだが、これは明らかに彼女レベルの美少女が纏っちゃいけないレベルの奴だろう。でもまあ、原因はなんとなくわかる。というかいやでもわかる。こういう場面では、

 

「・・・テヘッ☆」

 

「テヘじゃないよバカーーーーー!!!」

 

 笑ってごまかす、とはいかなかったようだ。

 ボス部屋全体に響く声でレインが雄叫びを上げる。いやいや、君も女の子なんだからちょっとは自重しなさい、と内心でツッコミを入れる。それを引き起こしたのは誰かって?知らんなあ。

 

「・・・とりあえず、夫婦漫才は別のところでしてくれないか」

 

「誰が夫婦か誰が!

 ・・・とにかく、今はボス戦が先だ。いくぞ、レイン」

 

「はいはい」

 

 ディアベルのため息交じりの言葉に噛みつきつつ、レインとコンビ宣言をする。それに答えたレインと俺が再び突撃をした。お互いスピード系の剣士で、ある程度以上に癖なども理解している。だからこそ、俺たちはうまくヘイトを管理しつつ、順調にダメージを与えていった。頃合いになったところで、キリトがアスナと合流し斬り込んできた。が、ちょうどソードスキルを立ち上げた瞬間に、ボスが大口を開く。その口からわずかではあるが火の粉が漏れていることに気付いた俺は、全身に鳥肌が立つのをはっきりと感じた。もっとも、アバターに鳥肌が立つのかはわからないが。

 

「「キリト君!!」」

 

 レインとアスナが同時に叫ぶ、アスナはステータス値のほとんどをAGIに振っているのか、現時点でもそれなり以上の素早さを誇るのと、彼女が得意とするソードスキル“リニアー”の硬直が短いこともあり、何とか離脱することができた。が、キリトは違う。何とか方向を変えて離脱しようと試みているようだが、どう考えても命中は免れない。

 自身のHPバー周辺をちらりとみる。そこには、剛直拳がクーリング中であるアイコンがあった。その下のゲージを見るに、間違いなくさっきの手は使えない。同じかち上げでも、虎牙破斬やドライブツイスターでは切断系だからうまくいく可能性は低い。

 そこで、俺の脳裏に一つの考えが閃く。直後にボスのHPバーを見る。そして、今自分が発動可能なソードスキルを脳裏に浮かべる。その上で、一瞬で思考した。瞬間に、俺は動いていた。一気にボスまでの間合いを詰めると、右上から袈裟懸けに斬り、そのまま進みながら真っ直ぐ突いて、左拳を振り上げる。最後に剣を振り上げながら飛び上がった。双牙斬と曲刀系体術複合ソードスキル“穿衝破”を使い込むことで使用可能となる、双牙斬の初段から穿衝破を出して最後の切り上げを見舞う、“斬影烈昂刺”がさく裂し、それによってボスのHPバーが消し飛んだ。ブレスを放つ寸前の体勢から断末魔を上げると、ボスはそのままポリゴンのかけらとなって爆散した。

 直後に歓声が沸き起こる。思わず俺は崩れ落ちていた。天を仰ぐ俺の目に、大きな“Congratulation!!”の文字が映る。

 

 正直に言って、最後のあれは賭けにも近いものだった。一撃の重さを重視するキリトとは違い、俺は一撃が軽くなってもそれを有り余る手数で補うタイプだ。だから、キリトならば削りきれても、俺に削りきることができるかと言えば、わからないとしか言いようがなかった。念のため、今のところ最大火力である斬影烈昂刺をぶちかましたのだが、それは正解だったようだ。

 ふと目線を前に移す。“You got the last attack!”という文字。

 

「あ、そっか。俺がLAか」

 

 こっちのLAドロップは・・・“Bloody Coat”、か。血まみれのコートって、なんでこんな怖い名前なんだよ。とにかく、名前から察するにコートらしい。さっそく装備してみると、その色は今まで装備していた色に近い、赤色に黒を少し加えたような―――まさに返り血を吸ったような色だった。

 

「よく似合ってるよ、ロータス君」

 

「そうか。そう言われるとうれしい」

 

 フロアボスLAドロップだけあって、プロパティも高い。これならば、暫く戦力となってくれるだろう。セルムには悪いが、あのコートは暫くしまっておくことになるな。・・・血まみれのコートが似合うって少々複雑だけど。

 

「さてと、有効化(アクティベート)、行きますか」

 

「あ、私もついてく!」

 

 そんな光景も、いつも以上にいつも通りなのだった。

 

 ちなみに、有効化して速攻で適当な宿屋を取るや否や、俺はレインに小一時間膝詰めで説教を食らうことになるのだが、それはまた別のお話し。

 




 はい、というわけで。まずは恒例ネタ解説。

穿衝破
テイルズシリーズ、使用者:ルーク・フォン・ファブレ、アッシュ(TOA)
 作中にある通り、片手で突きを繰り出し、それを引きながらもう片方の手でアッパーを繰り出す。瞬迅剣のちょっとした連撃バージョンということで使い分けのできる、比較的使いやすい技の一つ。

斬影烈昂刺
テイルズシリーズ、使用者:上に同じ
 作中にある通り、双牙斬の初段の振り下ろし→穿衝破→斬り上げ、という技。実用性はあまりないが、見た目がそこそこかっこいいので使う。この時点でのロータス君最大火力ソードスキル。


 刀はまだ装備できません。スキルカンスト近くならないとおそらく刀とか両手剣は使えないというのが自分の見解です。と言っても、五十層ちょい前でクラインが刀を装備しているみたいなので、多分900くらいで解放かなー、と思ってます。ならなんでこんなに早く落ちたんだよって話なんですけど、その辺はご都合主義ってことで。


 レインちゃんがここまで切れるというのはあまりどころかほとんどないです。でも流石にここまで突っ走ると切れました。

 あ、ちなみに免許はちゃんと取れました。帰ってきてさっそく夜の街を運転させられましたが。


 そんなのは置いておいて。ではまた次回。

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