ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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ぜ、全然思いつかないです……。



12/18:誤字訂正


獅子は肉を喰らい、鼠は獅子に睨まれる。

 このゲームにログインしてから今までにない満足感。何よりも満腹感が凄い。

 舌で溶けるような柔らかさ、噛み締めた瞬間溢れ出る肉汁、十分すぎる量、そして肉が鉄板の上で焼ける音。

 生前は聞くことのできなかった肉の焼ける音は、とても心が踊るものだ――この言い方はまずい気がするが――。

 香辛料と肉汁が絶妙なハーモニーを奏で、私の腹と心を満たしていく。

 どれもこれも賞賛に値するステーキやハンバーグ、なによりこれらを調理した店主に感謝しつつ、店を出る。

 

 このソードアート・オンラインという世界には、戦闘スキル以外に、趣味や生産系のスキルも存在する。

 そしてその中に、料理に関するスキルが存在する。

 ここの店主は、プレイヤーに素材を持ってこさせて、そして調理、提供することで、この店を回しているのだ。

 そうすることで、この世界での生活基盤を作り上げることが出来たらしい。

 ここ第2層のメインテーマは「牛」だったらしく、料理の素材に事欠くことはない。店主の商いは大成功と言っていいだろう。

 恐らく、私が第1層のボスを攻略するまでの間にある程度料理スキルを上げ、そして第2層で店を開いたと見ている。

 デスゲーム開始宣告から、店主は私とは違う方法で、違う方向性で戦っていたのだろう。

 そんな彼女に尊敬の念を覚えつつ、改めて活力を得た私は、再び彼女に調理してもらうべく牛を狩りに、もとい攻略するためにフィールドへと駆けて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――いやー、参った参った。

 

 声に出さず独りごちりながら、先程までの戦闘を振り返る。

 第一層とやることは大きく変わらず、相手の剣の軌道から身体をずらし、それと同時に敵の急所を斬りつける。

 ただひたすらそれを繰り返すだけで、奴のHPは減っていった。第一層のボスと同様に。

 しかし、名前にジェネラルと付いていることに特に意識してい無かった私は、途中で現れたキングに、この状況はまずいと悟ってしまった。

 流石に今の能力値で、あれら2体を倒すのは厳しい物がある。

 不可能ではないが、まだ本調子になれない私にとって、多対一はなるべく避けたい。

 第一層でも多対一の状況ではあったものの、雑魚が3体とボス1体だったためなんとかすることができた。

 加えて、敵の、特に雑魚モンスターの攻撃や防御が単純だったのも大きい。

 しかし、ここ第二層のボスは一筋縄ではいかないらしい。

 ボスの取り巻きであるナト大佐がそもそもそれなりの強さを有しており、それと同時にバラン将軍の相手をしなければならない。

 それだけならもう少し粘ることも――そのまま撃破も出来ただろう――できたのだが、バラン将軍のHPバーが残り1本となった時に現れたトーラス族の王の相手は、流石に無理があった。

 武器の耐久値も減っており、更にバーサクモードのバラン将軍、それとキングの同時出現。

 これで勝てるほど、今の私はまだ強くはない。いや、プレイヤーからすれば十分強いのだが、第二層のボスには届かない。

 

 ―――あと、気持ち悪い。

 

 何を隠そう、武器の耐久値の他に、私のSAN値もガンガン削られていたのだ。

 トーラス族の特性なのか、上半身裸の牛の頭をした筋骨隆々の男しかいなく――下半身は流石に布で隠しているが――、とにかく気持ちが悪いのだ。

 そんな奴を長時間相手にするなど、私には精神的に、生理的に無理だ。もう一度言おう、無理だ。

 あれが大人の世界なのですか、などと馬鹿なことを考えながらも、一度ステータスを上げる事に集中すべきかと今後の方針を決める。

 何よりこのアバターの身体能力を、現実のものに近づけなければならない。

 

 ―――普通はこんな考え方しないんだろうな。

 

 システムアシストにより、現実よりはるかに身体能力を高められるこの世界で、現実のほうが身体能力が高いと言いはるのは、この世界でも私だけだろう。

 身体能力さえなんとかなれば、今のところ曲刀でも戦うことは出来る。

 しかし、やはりしっくりとはこないのだ。

 弘法筆を選ばずとは言うものの、私は弘法でもなければ、そもそも能書家でもない。

 この身はただの小娘なれど、振るう剣は古の剣豪のものだ。

 己の才覚と鍛錬のみで魔法の域に至った――らしい――天才剣士のものなのだ。

 

 ―――刀が欲しい。

 

 この世界に刀というものの存在は既に確認している。

 第一層のボス戦で、HPが残り僅かとなった時に野太刀に持ち替えたのだ。

 βテストの時から野太刀だったのかは分からないが、私にとってこのことは朗報に間違いなかった。

 野太刀を敵が使うということは、上の層へと行けばいずれ刀も出てくるということだからだ。

 

 ―――それにしても煩わしい。

 

 身体能力や刀のこともそうだが、今現在煩わしく感じているのは、こんな街中で隠蔽スキルを使うプレイヤーだ。

 それも、明らかに私のことをつけているのがわかる。

 恐らく現状トップクラスの隠蔽スキルだが、残念ながら相手が悪い。

 下手に隠蔽スキルが高いと、その分不自然に音がなくなる。

 生前耳が聞こえなかった影響なのか、第二の人生では転生特典と相まって異常なまでの聴力を有する。

 単純な聴力もそうだが、音から情報を拾うことが何故か得意で、今回のように音を消してしまうと、不自然に感じるのだ。

 投剣スキルを取得していない私では、ここから敵を攻撃する手段を持たない。

 そもそもここは圏内なため、敵のHPを削ることは叶わないのだ。

 

 ―――撒くか。

 

 攻撃できないなら、敵の索敵範囲から逃れればいい。

 私はタイミングを見計らい、唐突に人気のない路地裏を駆け出す。

 そんな私を逃すまいと、案の定下手人は私の事を追いかけてくる。

 しかし、なかなかどうしてストーカーの俊敏性が高いようで、思うように振り切ることが出来無い。

 高いステータス、システムアシストだけに頼らない走りで、期待値より高い速度が出ているはずなのだが。

 現状私を追いかけるには、AGI極振りでなければ追うことは叶わないはず。つまり、AGI極振りのプレイヤーなのだろう。

 AGI極振りの利点など、ゲーム初心者の私には分からない。特にこのゲームがデスゲームであるのならば、尚更の事だ。

 

 ―――仕方がない。

 

 数分ほど逃げまわってみたが、下手人は一向に諦める気配が無いようで、未だに私のことを追いかけてくる。

 逃げまわっても撒くことが出来ないのならば、こちらが諦めて迎撃するしかあるまい。

 丁度、開けた、しかし人のいない場所へと来ていたようなので、下手人の方へ向きつつ急停止する。

 これには相手も驚いたようで、ブレーキを掛けることが叶わずそのまま私の方へ突っ込んできた。

 何故ここまで私のことを追い回すのか問い詰めてやろうと、そのプレイヤーをつまむように持ち上げてみると、あろうことかそのプレイヤーは数少ない女性プレイヤーではないか。

 

「あ、アハハ。急に止まるものだから、オネーサンビックリしちゃったヨ」

 

 自分のことを「オネーサン」と自称するプレイヤーの頬には、とても特徴的なヒゲのようなペイントが入っている。

 女性でフィールドに出て戦うタイプには見えない彼女は、一体何者だろうか。

 何故付け回すのか、という意を込めてそのプレイヤーを睨みつける。

 

「何故付け回すのですか?」

 

 やはり言葉にもしておこう。せっかく会話ができるのだから。

 あくまで友好的に接しようとしているのか、少々竦み上がりながらも、なんとか笑顔を浮かべようとしている。

 

「オネーサン、これでも情報屋をやってるんだけどネ。なんでも、第一層のボスがたった一人のプレイヤーによって攻略されタ、なんていうから、それを確かめてたんだヨ」

 

 なるほど、それで現状最前線に立つ私が最も怪しいと考え、付け回していたのか。

 理由は理解できたが、なんとなく納得ができない。

 

「そうですか、それで、そのプレイヤーは見つかったのですか?」

 

 まさかここで馬鹿正直に私がやりました、などといえる筈が無い。

 しかし、こちらとしても情報が欲しいため、相手に質問することにした。

 

「今のところそれっぽいプレイヤーは見つけたんだけどネ。まだ裏が取れて無いんだヨ」

 

 ここでコルをとっては、私から情報を引き出せないと思ったのか、彼女は素直に答える。

 現実ならば、心音を聞けばある程度嘘を付いているかどうかがわかるが、流石にこの世界でそれは出来無い。

 だが、ここでわざわざ嘘をつくメリットも無いだろう。

 

「そうそう、自己紹介がまだだったネ。オネーサンはアルゴってんダ。他の人は鼠だとか呼んだりするけどネ。オネーサンって呼んでも……冗談だヨ冗談」

 

 自己紹介中で少々悪巫山戯が見られたため、再び睨みつける。

 私の形相が恐ろしかったのか、先程以上に震え上がり、私から距離を取る。

 

 女性プレイヤーの名前、職業、そしてどの程度かは分からないが、知名度は高いであろうことが分かった。

 そんなプレイヤーが私に目をつけている。

 第一層でのことがバレれば、このアインクラッド中に広がる可能性だってある。

 現状、既に私の存在をちらつかせる噂が存在しているくらいだ、娯楽に飢えているこの世界で、それは格好の餌になるだろう。

 

 今まで一度もパーティを組んでいない彼女には、まだ名前を知られていない。

 ならば偽名を名乗るべきかと思ったが、改めてそれでいいのかを自分に問いかける。

 相手が名乗ったのにもかかわらず、私の方は名乗らないのか、と。

 流石にそれは公平では無いだろうと、自分の愚かさに呆れ、ため息をこぼす。

 

「……アルトリアです。呼び方はお好きなように」

 

 こんな最悪の形での出会いとなってしまったが、後々パーティを組み、そして親友と呼べるようになるとは、この時の私は露程も知らずにいた。

 

 


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