ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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12/3:プレイヤー名の訂正
12/4:誤字の修正


あくまでチートは使っていません

 仮想の肉体を動かし、右手に握る曲刀で敵を屠り続ける。

 未だ完全に馴染まないこの身体に少々苛々を募らせながらも、転生特典として得られた能力でカバーし、アバターの持つステータス以上のスピードを発揮させる。

 始めは自分の重心を常に意識し続けなければならなかったが、今ではもうそちらに意識を割くこともなくなった。

 しかし、この身体に枷を掛けられた状態で今まで戦い続けて来たことに対し、自分で自分を褒めてやりたくなる。

 現実よりも能力で劣るアバターで、このデスゲームが開始してから2週間程、ずっと文字通り休むこと無く戦い続けてきたのだから。

 睡眠を必要としないこの世界は、やはりあくまで現実とは違う。睡眠も食事も絶対に必要というわけではない。

 だから、自分の意識の続く限りはずっと戦っていられる、というわけだ。しかし、それにも限度がある。

 もともと大食いな私にとって、絶食というのは少し辛いものがある。

 今日、ついにボスの部屋を見つけることが出来たのだから、別に休んだって構わないだろう。寧ろ、休むなと言われても休む。なんなら24時間眠ったっていい。

 兎にも角にも、ボスに挑む前に万全の態勢を整え無くてはならない。

 今使っている曲刀だって、そろそろ耐久値が無くなってしまう。

 この曲刀で2本目なのだが、よく2週間で2本で済んだと思う。

 それにしても……

 

「お腹が空きました」

 

 いい加減2週間なにも食べないのは、いくら必要が無いといえど、無理がある。

 もう一度言おう。私は大食いなのだ。食いしん坊なのだ。

 そのことを忘れてもらっては困……りはしないか。

 それはともかく、はやくなにか食べに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、母の唐揚げが懐かしい。

 いや、肉じゃがも良い。しかし、なにより味噌汁が飲みたい。

 兎にも角にも、この世界の食事は未熟だ。未発達だ。粗末だ。

 貴重なスキルスロットに料理スキルをとってしまうほど、この世界の食事は残念なのだ。

 しかし、今直ぐにでも何かを食べたかった私は、自分で調理せず、NPCが営むレストランに足を運んだ。

 まぁ、味はともかくとして腹は膨れるからこの際無視してもいいだろう。

 ……周りの視線が気になるが。

 そんな風に料理に酷評を付けつつ、2週間前のあの日、このデスゲームが始まった日のことを思い出す。

 

 私がまだレベル1で、それでいてこの現実とアバターとの差にとても苛ついていた頃。

 ログインして直ぐの私は、何も無いところで転んでしまった。

 あの時の恥ずかしさは、今でも忘れることなどできない。

 現実と同じように身体を動かそうとし、そしたらまるで枷でも嵌められているかのように身体が動かしづらく、転んでしまったのだ。

 直ぐに調整して歩くことはできたけど、戦闘出来るようになるまでには、ほんの少し苦労した。

 草原にてフレンジーボアなる雑魚をひたすら狩りつつ、自身の中にある差を調整していく。

 本来より全力は出せないものの、それでもそこらの一般プレイヤーよりずっと強いと言えた。

 なんせ、この身に宿る能力は、佐々木小次郎の剣術。天賦の才を、一生涯掛けて磨き続けた、存在すら曖昧な剣豪の剣術を操るのだから。

 数時間狩りを続けていたところに、今この世界に残っているプレイヤー全員が聞いた、あの鐘の音が響いた。

 全身を青いエフェクトが包んだかと思うと、私が黒歴史(軽)を作り出した場所、始まりの街へと転移していた。

 突然の強制転移に、何事かと思い警戒心を強めつつ、周りを確かめてみると、そこかしこに人が転移してくる。

 まるで、このゲームにログインしたプレイヤー全てを集めてのチュートリアルを始めるかのように思ったが、それは決して間違いではなかった。

 このゲームの作者である茅場晶彦によって突然告げられるデスゲーム宣告。女性プレイヤーの一人が悲鳴を上げると、それが伝播するかのように、次々と悲鳴がこだました。

 何より、奴が消える直前にプレイヤー全員に配布したアイテム「手鏡」により、この仮想の肉体が、現実と同じ姿となったのが、否が応でも人々に現実と知らしめたのだろう。

 既に213人もの人が死んでいる、という事実が、ここにいるほぼ全員に重くのしかかる。

 ほぼ全員と言った理由は、どうやら私の生死観が少々現代にそぐわないものだからだ。

 きっと、私の元となった少女と、佐々木小次郎との中身がいろいろとごっちゃになってしまった結果、私は他人からすれば少々冷酷になってしまったのだろう。

 しかし、価値観など人それぞれ。そんなことの話をしているよりも、まずは自身を強化しなければならないと本能的に理解していた私は、チュートリアル終了後直ぐにフィールドへと駆けて行ったのだ。

 

「おかわりください」

 

 一度思考を止め、まだ足りないと訴える腹の虫の要望を聞き入れ、再び注文する。

 更に視線を集めた気がするが、もはや気にするまい。

 迷宮区でたんまりと稼いだコルを放出する様に、次々と食べ物を胃の中へと収めていく。

 しかし、曲刀を数本用意しなければならないので、その分のコルはちゃんと残しておき、しっかりと食欲を満たす。

 何人分食べたかわからないが、それでも腹八分目なのは、この体がおかしいのだろう。

 支払いを済ませ、予め宿をとっておけばよかったと思いつつ、空き部屋を探す。

 少々高い部屋になってしまったが、一応装備などを整えるだけの余裕はある。

 今つけている装備品や、衣服といったものを外し、下着姿となってそのままベッドへとダイブする。ルパンダイブではない。

 すると、自覚できていなかっただけで、かなり疲れていたらしく、そのまま眠ってしまった。

 意識が落ちる直前、お風呂入れば良かった、なんて思いつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 SAO正式サービス開始後、つまりデスゲームが開始してから15日が経過した時、既に1300近くのプレイヤーがその生命を散らしていた。

 それと同時に、始まりの街には第一層のフロアボスが倒されたという報せが走った。

 それもボスを倒したのはたった一人のプレイヤーだ。

 たった一人のプレイヤーが倒した、という部分を人々はそのまま信じずとも、第一層が突破されたことは事実だ。

 人々は歓喜し、このゲームをクリアすることだって可能だと希望を見出すものも現れた。

 それでも、ならそのプレイヤーが攻略すればいい、なんて言うプレイヤーが多いのも事実だが。

 

 ―――一体どうなっている?

 

 フロアボスは決して単独撃破不可能というわけではない。

 しかし、決して簡単というわけではない。その様に、私自身が設定してあるのだから。

 だが、彼女の流れるような太刀筋、全てが急所を狙った攻撃は、大凡普通のプレイヤーではありえない。

 それこそ、剣の達人と言われる者のなかでも、更に上位に位置するだろう。

 

 ―――Artoria

 

 そのプレイヤーの名前を口の中で唱える。

 現在でこの強さは、既にゲームバランスを崩壊させている。

 しかし、チートを使っているわけではない。ただ剣術で圧倒しているだけなのだ。

 

 ―――今後注意する必要がありそうだな。

 

 その様に考えながら、私――ヒースクリフ――がプレイヤーの前に姿を現すタイミングを少し早める必要があると判断した。

 しかし同時に、面白いと思うのは、私もやはりゲーマーなのだろうか、と思う。

 

 


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