ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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診断結果

病名:話が進まない病
症状:文字通り、話が進まず停滞気味になってしまっている状態
治療法:現状不明


呼び出し

 

 この世界ではアバター名で呼び合うのが常識となっている。

 従来のネトゲにおいてもリアル名で呼び合うことは、御法度とされている。

 だがこのゲームは、謂わばもう一つの現実。仮想の身体と現実の身体は非常に似通ったものになっているため、今回のように突発的に知り合いに遭遇してしまえば、思わずリアル名で呼んでしまっても無理からぬ事だ。

 

 ―――佐々木って苗字だったんだな。

 

 偶然その場に居合わせた所為で、同じギルドメンバーの、アルトリアの本当の苗字を聞くことになってしまったのだが、そんな割りとどうでもいいことを考えつつ。

 ストレージに仕舞ってあった白紙の紙に、日付と場所、そして一言記述する。幸い、私の顔はまだ見られていない。

 

「貴女は……」

 

 件のアルトリアといえば、声をかけてきたプレイヤーに見覚えがあるのか、少々驚いた様子を見せている。

 それはそうか、このデスゲームが始まってから既に年も明け、現実世界ではもうすぐ春になろうとしている程時間が経っている。

 にも関わらず、今日はじめて遭遇するのだから、出会ったことに驚いても無理は無い。

 

「誰でしょうか?」

 

 ―――あれ?知らないの?

 

 向こうの女性はアルトリアのことを知っている様だったから、てっきりアルトリアも知っているものだとばかり思っていた。

 だが、アルトリアは色々と普通ではない。それは今まで一緒に居て嫌というほどわかっている。

 きっと同じ高校に通っており、アルトリアのことを学校内で見かけたから知っていたのだろう。

 名前も知っているのは、きっと彼女がその学校では有名人だからだと推測する。

 

「そっか、私のことは知らないよね……一応同じ学校に通ってるんだけど……」

「そうだったのですか!」

 

 どうやら私の推測した仮定は正しかったらしい。この調子だと、彼女が学校では有名人であるということも正しいのだろう。そんなアルトリアは、この女性に出会えてとても嬉しそうだ。

 改めて女性プレイヤーを観察してみると、装備は前線では戦っていけないが、中層レベルであればやっていけるかな?という程度。

 そしてパーティにてフィールドへと出ているらしく、彼女の傍には4人の男性プレイヤーがいた。

 その4人もアルトリアのことを知っている様子だったため、恐らくこの5人の繋がりは、同じ部活のメンバーといったところだろう。

 ゲーム関係の部活か、はたまたコンピュータ関係か。そんな細かいことは正直どうでもいい。

 問題は、今この場でアルトリアが馬鹿正直に自分の名前、プレイヤー名を名乗るかどうかだ。

 良くも悪くも、彼女はこの世界では有名過ぎる。アルトリアという名前は、この世界では最強の代名詞とされて居るほど。

 そんなプレイヤーが最前線ではなく、こんな中層に居るとすれば騒ぎになることは間違いない。

 

「そうだ、自己紹介がまだだったね。私はサチ。こっちがリーダーの」

 

 彼女、サチが自分のパーティメンバーを紹介していく。

 リーダーのケイタ、そしてテツオ、ササマル、ダッカー。このパーティで紅一点のサチ。

 

 ―――馬鹿正直に名乗るなよ……。

 

 彼らの紹介を終えた後、いよいよアルトリアが名乗る番となった。

 流石のアルトリアといえど、この場で正直に答えるということはしないだろう。

 

「私のことはアルトと呼んで下さい」

 

 彼女が本名を隠し、ニックネームの方を紹介したことに、内心で安堵の溜息をこぼす。

 この言い方であれば、偽名を使ってはいないから嘘をついたことにはならない。それでいて本名を隠すことが出来るため、今この状況で最も相応しい回答の仕方だろう。

 そんな彼女の答え方に安心した私は、先程必要なことを記した用紙をテーブルの上に置き、まだ食事中のアルトリアを引っ張って外へと出る。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!まだ食事を終えていません!」

 

 あくまで理性が上回っているおかげか、彼女は私が引っ張るのにも本気で抵抗することはなく、また私の名前も呼ばない。

 でも本能の部分が強いというのもまた事実、キャラ崩壊を招くほど悔しそうに、ご飯に対して未練を見せる。

 

「あぁ、店主!代金はツケておいて下さい!」

 

 慌てた様子で代金のことを言うと、やはり少しばかりの抵抗は見せつつも私に引きずられて外へと出る。

 だが、この場で自分達の存在をバラすのは得策ではない。後で何かつまめるものでも奢って機嫌をとらなければと思いつつ、足早にこの層を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だったんだろ?」

 

 この世界で初めて会えた同じ学校の人。本名は佐々木アリサ、プレイヤー名はアルトと言っていた。

 そんな彼女と一緒に食事をしていたもう一人のプレイヤー、名前はわからないし、フードのせいで顔もよく見えなかったが、そのプレイヤーは何故かアルトのことを引きずり、外へと出て行ってしまった。

 

 ―――アルトって、大食いなんだ……。

 

 彼女たちが元いたテーブルの上を見ると、そこにはお皿が山のように積み上げられており、どれ程食べていたのかを物語っていた。

 こんな量、私達全員で食べても恐らく余ってしまう程。

 

「なんか置いてある」

 

 気を取り直したササマルが、テーブルの上に何かが置いてあるのを発見、どうやらメモ用紙らしい。

 私達と会話していたアルトが何か書き置きしたわけではない、となると、アルトのことを連れて行ったもう一人のプレイヤーの書き置きだろう。

 

「……え?」

 

 それを見たササマルは、何か在り得ないものでも見たかのように固まってしまった。

 一体何だと言うのだろうか。ササマルの様子がテツオが、覗きこむようにして紙に書かれていることを読み、そして同じく固まってしまう。

 

「なぁ、このマークって……」

 

 どうやら紙に書かれている内容よりも、最後に署名として書かれていたマークのほうが問題だったらしい。

 けれどそれは、確かに私達には衝撃的なものであった。

 そのマークは、つい最近広場に貼りだされていた、ある告知のものに描かれていたものと同じもの。

 獅子をモチーフにしたギルドのマークは、決して見間違うことのないあのギルド"LEON"のものだ。

 

「なら、アルトって……」

 

 最近話題となっているギルド"LEON"のメンバーは、「鼠のアルゴ」と「選定の女神 アルトリア」の2人。

 ということは、アルトの正式なプレイヤー名はアルトリアということになる。

 このゲームのシステム上、ギルドに所属していないプレイヤーが、ギルドのマークを使用することは出来ない。そうしてギルドのブランドを守られている。

 だから、アルトが本当はアルトリアで、そして一緒に食事をしていたプレイヤーがアルゴと言うことになる。

 何故この層で食事をしていたのかはわからないが、それはまた何れ聞けばいい。

 マークにばかり気を取られてしまっていたが、紙に書かれている内容も大事なことだった。

 その内容とは、話がしたいから、今日の23時に、第一層のトールバーナにて待っているというもの。

 

「話ってなんだろ?」

 

 わざわざこうして書き置きしていく以上、とても大事な話があるのだろう。

 兎に角今ここで考えていたところで何も変わらないからと、このことから一度離れ、食事をすることにした。

 どうにも言いようのない不安を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、私は別に怒っていません。怒っていませんとも」

 

 安くそれでいて美味しい、小腹を満たす程度のものを、少々アルゴを困らせるような台詞とともに頬張る。

 ここ最近食事の量を減らしていた為、久々におもいっきり食べれるはずだった。しかし、サチ達の登場で折角のごちそうが不意になってしまったのだ。

 それがどうしても必要なことだとは頭でわかっても、心の部分では完全に納得はできない。

 その所為で少々、いやかなり悲しかった私を見かねたアルゴが、こうして私におやつを買ってくれたのだ。

 

「それで、彼らと何を話すのですか?」

 

 食べ終わったところで一息つくと、先程ちらっとだけ見えた書き置きの内容を思い出し、アルゴに問いかける。

 見たのは本当に一瞬のことだったため、見えたのは話がしたいという内容のみ。場所や時間までは知らない。

 一体アルゴは彼らに何を話すのか、とても軽い気持ちで質問したが、予想外の答えを聞かされることになる。

 

「ん?あぁ、勧誘だヨ」

「……は?」

 

 本当に自分の声かと思うほど低い声で、まるで威圧するかのように問いかける、本気で言っているのか、と。

 彼らを"LEON"に入れたところで、現状戦力には成り得ない。場合によっては足を引っ張られる可能性だってある。

 戦力に関して言えば、長期的に見れば何れは攻略組に追いついてくる可能性もある。そのまま攻略組ギルドの仲間入りを果たしてもいいだろう。

 だが、"LEON"はこのゲームを攻略するために作られたギルドではない。あくまで、PKの犯人の捕縛を、死刑を目的としている。

 謂わば正義の名の下に悪を断罪する組織と言っても良い。もっとも、正義を掲げたつもりは全く無いが。寧ろ悪の組織とさえ思っている。

 場合によっては、彼らに大きな心の傷を与えることになるだろう。

 

「説明が足りなかったナ。オレっちの手下になる人材が欲しいんだヨ。それと、ギルドの裏方を担当してくれる奴ガ」

 

 普段の情報屋としての部下が、そしてPKの情報収集に関する手駒が欲しいらしく、それで彼らをギルドに勧誘するのだとか。

 情報屋としての仕事の一つ、攻略本の作成を主に手伝わせたいとのことで、情報収集に関してはあくまで表側の、明るい場所での情報収集を行ってもらうと言う。

 そして、ギルドの裏方を担当してくれる人が欲しいと言うのは、主に私の食事面での話だった。

 私の食事量は、はっきり言って異常であることは、もはや疑いようのない事実。つまり外食をすれば、その分お金がかかってしまうということ。

 だが、ギルドのご飯を調理してくれる人材がいれば、その分のお金を攻略のために、装備のために回すことが出来る。

 また、第一層にある、この世界にログインしてしまった小さな子供たちを匿っている教会に対して、寄付する金額も増やすことが出来る。

 一つだけ誤解の無いように言っておくが、教会に対して寄付を行っているのは、あくまで他の攻略組ギルド、特にアインクラッド解放軍に対しての言い訳にすぎない。

 私達はこうして慈善事業の様に寄付を行っているのだから、犯罪者の取り締まりは見逃せと、暗にそう言っているのだ。

 

「それと、あのサチってプレイヤー、このままフィールドに出てたら何れ死ぬゾ?」

 

 加えて告げられたことは、自分でも考えていたこと。

 彼女、サチは、私と違って戦いには向いていない。戦闘に対して、過度な恐怖を抱いている筈。

 ステータス面では幾ら強くなることが出来ても、心の方はそう簡単には強くならない。

 戦闘に対して怯えを抱いたままでは、何れ雑魚にだって殺される可能性がある。

 

「なぁ、お前さんとしても、ソレは嫌だロ?ならそうなる前に、こちらで保護すれば良イ。別の戦い方を示してやれば良イ」

 

 アルゴの言っていることは至極当然だし、私自身も納得できるものだった。

 納得してしまった以上、これ以上ゴネるわけにもいかず、サチ達を勧誘することを認めた。

 だが、あくまで勧誘することが決まっただけで、まだ彼女たちが"LEON"に入ると決まったわけではない。

 茨の道に足を踏み入れるかどうかは、彼女たち次第だ。

 





「作者の好きな作品やキャラ」

※たくさんのお気に入り登録数や投票数で思いっきり調子に乗った作者が、自分の好きな作品やキャラを晒すこちらのコーナー。
今後、そんなキャラたちがパロキャラ?としてちらっとだけでも登場するかもしれませんし、展開や台詞等で作品の影響を受ける(参考にするとも言う)かもしれません。
どうでも良いという方は飛ばして下さい。
気になるキャラや作品などがあれば、是非見てみてください!



藤宮香織『一週間フレンズ。』
レレイ・ラ・レレーナ『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』
剛田猛男『俺物語!!』
一条かれん『School Rumble』
白澤『鬼灯の冷徹』

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