ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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今回でボス戦を終わらせたかったのですが、残念ながらもう一話続きます。
年内にはなんとか終わらせたい……。
それと、前回の話の冒頭部分の内容を修正させていただきました。

それではどうぞ、よろしくお願い致します。


王へと挑む兵達~中編~

 

 各パーティとの連携がうまく噛み合い、誰ひとりとして敵の攻撃が直撃している者は居なかった。

 このレイドを率いるディアベル指導のもと、壁役のプレイヤーはきっちりと将軍の攻撃を防ぎ、隙を作り、そして私達ダメージディーラーがその隙を突く。

 バーサクモードとなり攻撃パターンが変わるまでは、今のルーチンを繰り返せば、それだけで敵のHPを削ることが出来る。

 しかし問題は、そのバーサクモードに近づいていること、そしてこの階層の真のボス「アステリオス・ザ・トーラスキング」の登場だった。

 奴はバラン将軍のHPバーが残り1段となった時に姿を現し、私達プレイヤーに猛威をふるう。私の場合はHPよりもSAN値が削られていく。

 王と呼ぶに相応しい力を持つ彼奴は、決定打となる弱点を叩かない限り、鋼鉄のような筋肉に阻まれ、HPを思うように削ることが出来ない。

 ソロで挑んだ際には、手足や背中等、兎に角弱点はないかとひたすら斬りまくったが、結局は見つからず。

 首元や頭部などは、そもそも刃が届かないためまだ試していない。

 背中に露骨なコブ等があればまだ良かったのだが、残念ながらそんなものはない。

 弱点と思しき箇所を推測すると、定番の首や眉間、奇をてらって頭に乗っけた王冠という可能性もある。

 

「そろそろ来るぞ!手筈通り、A隊、D隊、E隊、G隊は王の相手を、B隊、C隊、F隊、アルトリアさんは将軍の相手を!アルトリアさんは機を見て王の相手に回ってくれ!」

 

 ディアベルの指示が飛んだ直後、そいつは前回私がソロで挑んた時と同様に姿を表した。

 筋骨隆々の肉体は人間の男性のものに似ているが、しかし肌の色や足、そして頭部は人間とは全く異なる、トーラス族の王。

 手には人の大きさ程もある鉄槌が握られており、現実にあんなもの得物で直撃を食らうと、出来の悪い愉快なオブジェになってしまうのは目に見えている。

 例えこの世界ではそのようなグロテスクな表現はなくとも、HPを大きく削られることは必至、それが死につながるのはまごうことなき事実だ。

 さて、ここで少し補足をしておくと、A隊、B隊、C隊は主に攻撃がメインの部隊で、D隊、E隊、F隊は防御がメインとなっている。

 G隊は、アスナ、キリトの二人だけのパーティであり、また、二人の実力の高さから、私と同じく少数精鋭の超攻撃型パーティとして扱われている。もっとも、私はシステム上はソロだが。

 先程ナト大佐の相手をしていた時も、あくまでパーティは組んでいなかったのである。

 そのG隊が王の相手をし、私が将軍の相手をする理由は、スキルセットに由来する。

 先日の攻略会議の際、王冠が弱点の可能性があることを予めディアベルに伝えたところ、投剣スキルをとっているキリトを王に宛てがい、一度試してみることに決定したのだ。

 私、アスナ、キリトの3人でパーティを組まず、わざわざ2パーティに分けたのは、キリトが王の弱点を探る際に、将軍の方が手薄になっては元も子もないと、力量的なバランスから私が将軍の相手をし、アスナ、キリトの分も戦うという、この様な理由からである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 将軍のHPがレッドゾーンとなりバーサクモードになる直前、今まで聞いたこともない王の悲鳴が、部屋中に響く。

 恐らくキリトの放ったピックがボスの王冠へと直撃したのだろう。

 そしてこの悲鳴は、弱点に対する予想が正しかったことを意味する。

 将軍の相手をしていたプレイヤー達も意味を正しく理解し、幾人かはその悲鳴に釣られ、視線を王の方へ向けようとする。

 

「将軍はまだ生きています!戦いに集中なさい!」

 

 そんな彼らを一喝すると、直ぐにまたバラン将軍の方へと視線を戻した。

 今回は致命的な隙になることは無かったが、これから先、第三層、第四層と階層が上がるに連れて難易度も上がり、この一瞬が隙となって死につながる恐れがある為、彼らには今後こういったことが無い様に、教育的指導が必要になりそうだ。

 だが、今は戦いに集中すべきと彼らのことは一度置いておき、私自身も将軍の方へと意識を向ける。彼らに言っておきながら自分だけ気を抜いていては、示しが付かない。

 そうこう言っている間に、ついにバラン将軍のHPはレッドゾーンへと差し掛かった。

 つまり、これから将軍はバーサクモードとなり、攻撃の威力やパターンなどが変わる。

 だが、昨日の演習時にある程度は将軍の戦い方を教えておいた為に、私以外のメンバーも十分に対応できていた。もっとも、壁役のプレイヤーは先程よりも増した威力に、若干怯みそうになっているが。

 

「エギル、一度この場を任せます」

 

 ボスの攻撃を弾き、スイッチをして一度離れてきたプレイヤー、エギルに一言声をかけて頷いたのを確認すると、直ぐにキリトの元へと駆け寄った。

 バーサクモードのバラン将軍を相手に、私以外のプレイヤーが引けをとらなず、かつしっかりと相手ができる様であれば、私もG隊同様、王の方へと加勢する。そして王と将軍の間を行き来する。

 この流れも作戦会議の際に予め決めておいた事で、私が離れることを伝えるプレイヤーも決められていた。

 それが先程声を掛けたエギルというプレイヤーだ。

 アフリカ系アメリカ人で、この世界では珍しい外国人枠――私はハーフ枠だ――の彼は、戦斧を使う大柄な男性。

 チョコレート色の肌に、長身、そして筋骨逞しい体つきの彼は、その見た目に合ったバリトンボイスがとても魅力的だ。

 さて、話を戻すと、私は駆け寄ったキリトに声をかける。

 

「キリト、大丈夫ですか?」

「あぁ」

 

 短く返事をし、手元に返ってきたチャクラムをキャッチするキリト。

 そう、先程投剣スキルと言っていたが、正確には投剣スキルと体術スキルを持つキリトだからこそ、今回の戦いでは王へと宛てがったのだ。

 通常の投剣スキルに加えて体術スキルも必要とするチャクラムは、普通の投剣とは違い、投げても手元に返ってくるため残弾数を気にする必要がない。

 その分貴重なスキルスロットを一つ減らすことになったうえ、所詮は付け焼き刃の戦法にすぎない。

 慣れない戦い方を強いることに申し訳無さを感じつつも、彼の大丈夫という返事に安堵を覚える。

 

「こっちへ来たってことは、将軍はもうそろそろ倒せるのか?」

「えぇ、言っている間にも倒されるでしょう」

 

 何故わざわざ、このような回りくどいことをするのか。

 攻撃の手を緩めず、さっさとバラン将軍を片付けてしまい、それから王へと全員で加勢する方がよっぽど効率的だ。

 だが、あえてこの様に遠回りをしたのかというと、彼らに少しでも経験を積ませたいからに他ならない。

 いつもいつも私がボス攻略戦に参加できるとは限らないし、何よりこの戦いで生命を落とすことだって、一応だがある。

 そんな折に、私の力無しではボスに勝てないというのであれば、恐らく今後この世界を突破するのは、もっと言えば階層を上がっていくのは非常に難しいと言えよう。

 勿論はっきりとこういう理由を伝えたわけではない。

 伝えてあるのは、アスナ、キリト、そしてディアベルの3名のみ。

 キリトとディアベルの両名には第一層をソロで撃破した、ということは伝えていないのだが、災い転じてなんとやら、キバオウさんとの決闘にて私の実力の一端を知っているため、この様な提案が通ったのだ。

 

「ところでキリト、ボスの攻撃パターンに変化はありましたか?」

 

 今回気になっていたことの一つを、早々に問いかける。

 残念ながら、私個人では確認することの叶わなかったことだからだ。

 まさか敵も単純なはずがない。こちらが弱点を突けば、それ相応の変化を見せるはず。

 そう睨んでいたが故のこの質問であり、予め、もし王冠が弱点だった場合には、ボスの攻撃パターンに変化が見られるかどうか注意しておいて欲しいと言い含めておいたのだ。

 案の定というべきか、ボスの攻撃パターンは変化し、今では王冠を守るような動作が増えたとか。

 大凡どのように変化したのかを聞き、それを頭に叩き込む。それだけで大体どのような戦い方をするのかを理解した私は、今度はイメージと現実との差を埋める為に、実際に戦ってみる。

 過去の戦いではどの様にあの鉄槌を振るっていたのか、そして今はどのように振るっているのか。重心の位置は、足の動かし方は、目線の動きは。

 どれもこれも、一人で戦った時とはことなる物が多すぎるが、それでもこの程度であればどうとでもなる。

 直ぐにどのように動くべきか把握し、イメージとのギャップを埋め終えた私は、ディアベルにどのように動くかを伝えると、少しでも王のバランスを崩すために足を重点的に攻撃し始めた。

 そんな私の動きをサポートするように、ディアベルは隊列を動かし、攻撃を繰り出す、敵の攻撃を防御する。

 何度も何度も、執拗なまでに繰り返す足への攻撃。両足に攻撃しては意味を成さないため、全員が集中的に右足を攻撃する。

 片腕で鉄槌を振る際に、右足に体重が大きくかかっているのは既にわかっていること。それはソロで挑んだ時点で確認済みだ。

 だからこうして右足にダメージを蓄積させることで、敵の攻撃の際に体重の掛かった右足を攻撃してバランスを崩させ、膝をつかせるどころか転ばせることを狙っている。

 ソロでもこれをやれればよかったのだろうが、流石に将軍の相手をしながら、正確に王の右足だけを狙い続けるのは、今の私にはまだ出来ないことだった。

 

「王が倒れるぞ!A隊、G隊は王冠を集中攻撃!D隊、E隊はこの隙に回復を!」

 

 目論見通り、王を地につけることに成功した私達は、攻撃役のプレイヤーは集中攻撃を、そして傷ついた壁役のプレイヤーは回復を行う。ボスは起き上がる際に攻撃してこないことも確認した。

 そしてこの隙に、まだ生きている将軍の方へと駆け寄るが、どうやらそれも無駄に終わったらしい。

 丁度私が駆け寄った時、将軍はポリゴン片へとその姿を変えた。つまり、将軍の撃破に成功したのだ。

 

「流石です、エギル」

 

 背が高く、そして外国人枠のエギルは兎に角目立つ。

 将軍の撃破を確認すると、直ぐに見つけることの出来た彼の元へと近づき賞賛の言葉を送る。

 だが今はまだ戦いの最中だということで、これ以上はまた後にとっておく。それよりも王に対しての作戦を大雑把に伝えることを優先しなければならない。

 エギルもそれをわかっているのか、直ぐに皆に集合を掛け、作戦を伝える場を作る。

 全員気を抜いていなかったおかげか、ものの数秒で集合を終えると、私の言葉を聞く態勢を作った。

 それを確認すると、シンプルに、作戦の概要だけを伝える。そして後の細かい部分はディアベルの指示に従えということを伝えると、直ぐに王の方へと駆け出す。

 私に続けとばかりに、エギル含む残りのプレイヤーも、王に牙を剥かんと、咆えながら走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分を奮い立たせるため、将軍と戦っていた他のプレイヤーたちが戦場を駆け、王のもとへとたどり着く。

 やはりと言うべきか、アルトリアさんは頭一つ抜きん出ており、兎に角速い。そして攻撃へと移るのも。

 私も負けじと、王を転ばせるために細剣を振るう。

 何度も何度も切り刻むように振るわれる剣は、その度にボスの肉を斬り、そして抉る。

 もはやルーチンワークのようになった動きも、しかし誰ひとりとして油断などしていない。出来るはずがない。

 彼らの言う女神が見ている以上、手を抜くことなんて出来ないのだ。勿論、一瞬の油断が死につながることを、戦いの前に彼女に刻まれているからというのもある。

 

 彼らが、将軍を相手にしていたプレイヤー達が加勢してどれくらいの時間が経ったのか。1分かもしれないし、1時間かもしれない。

 体感時間の狂ってしまっている私には、もはや時間なんてものは分からないが、それでも今はどうだって良い。

 もうすぐボスのHPはレッドゾーンにさしかかり、バーサクモードとなる。更に、先程からの戦いで言えば、あと少しでボスを転がすことが出来る。

 そうなれば、後は全員でボスに特攻を仕掛けることで一気にHPを削り、勝利することが出来る。

 私の予想通り、ボスは直ぐにバーサクモードとなった。ただでさえ大きく、そして強力だった攻撃の威力が増したが、しかしその分防御力が下がっているのも事実。

 これは予め彼女から聞いていたことで、バーサクモードとなった敵は攻撃の威力が増す分、耐久力が下がるのだとか。

 だから、下手をすれば一人で削り切ることだって可能なのだ。

 そしてついに、その時は訪れた。

 ボスが地に伏したのだ。

 

「全員下がれ、オレが出る!」

 

 しかし、ディアベルさんからの指示は、私の予想とは大きく異なったものだった。

 集団戦はしたことのない私でさえわかる、この場は全員で囲むべきだ。

 だが、いつの間にか王冠の近くにいたディアベルは、全員を下がらせて一人でボスのHPを削りきろうとするではないか。

 確かに、今までは何度転ばせたところで、起き上がる際に攻撃をしてくることはなかった。そう、バーサクモードとなる前は。

 

「馬鹿者!」

 

 いち早く危険を察知したアルトリアさんは、ディアベルさんの方へと向かって走りだす。

 ステータスにおいて、アルゴさんがAGI特化だと言っていたが、正しくその通りだったようだ。私ではまだ出せない速度でディアベルさんの元へと駆け寄るが、如何せん距離がある。

 POTローテで少し離れていたアルトリアさんと、ボスのHPを削るべく王冠の近くに位置するディアベルさん。

 彼女がこんな状況で無駄なことをするはずがなかった。そう、走りだす直前に、私はこの世界にのみ存在する音を、ソードスキルを使用する際の音を聞いたのだ。

 それはディアベルさんのところからでも、ましてやアルトリアさんのところからでもない。ボスの持つ鉄槌からだった。

 つまり、今まで起き上がる際には攻撃してこなかったのが、今回に限っては攻撃してくるということ。それもソードスキルで。

 背中を嫌な汗が伝う様な、背筋が寒くなる様な感覚が襲う。

 もしも彼女の助けが間に合わなければ、ディアベルさんという指導者を失う。

 仮に彼の元に駆けつけるのが間に合ったとしても、恐らく攻撃を避けることは叶わない。つまりは彼女という最強の存在を失う。

 どっちにしろ絶望的なこの状況、ひっくり返すには今直ぐに、迅速にボスのHPを刈り取らなくてはならないが、それを出来るプレイヤーは居なかった。

 

 次の瞬間、ディアベルさんを抱きかかえた彼女の背中に、ボスの鉄槌が、ソードスキルが直撃した。

 

 




「作者の好きな作品やキャラ」

※たくさんのお気に入り登録数や投票数で思いっきり調子に乗った作者が、自分の好きな作品やキャラを晒すこちらのコーナー。
今後、そんなキャラたちがパロキャラ?としてちらっとだけでも登場するかもしれませんし、展開や台詞等で作品の影響を受ける(参考にするとも言う)かもしれません。
どうでも良いという方は飛ばして下さい。
気になるキャラや作品などがあれば、是非見てみてください!



悠久山安慈『るろうに剣心』
ラオウ『北斗の拳』
ビシャス『カウボーイビバップ』
四葉五月『魔法先生ネギま!』
シャルロット・デュノア『IS〈インフィニット・ストラトス〉』


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