待っていてくれた人がいるかどうかも怪しいこんな小説ですが……。
今回から台本形式じゃなくなります。
2〜7話の修正が終わった後にタグは消す予定です。
体育会系の好少年。
それが俺の受けた小町の隣の男の評価だった。
俺が彼をじっと見つめていると、小町が思い出したように彼を紹介する。
「こっちは同じクラスの川崎大志君。昨日話したでしょ?相談受けてるって。」
ほう。お姉さんが不良化して困っているというやつがこいつか。
俺は川崎大志の目を見て、柔和な笑顔を浮かべて挨拶する。
「こんにちは、川崎君。俺は小町の兄の八幡だ。妹と混ざるから、八幡って呼んでくれ。
いつも小町がお世話になってるみたいだな。できればこれからも仲よくしてやってくれ。」
「い、いえ、お世話になってるのは俺の方っす。今日も相談に乗ってもらって。」
「ああ、事情は小町から聞いてる。お姉さんがちょっと大変なんだってな。
もしよければ、俺も相談に乗るぞ?」
「え?いいんっすか?勉強してるところじゃ……。」
「気にしなくていい。俺たちは奉仕部って言ってな、人の悩み事を解決する、みたいな部活なんだ。」
俺がここまで言ったところで、沈黙を保っていた雪ノ下が口を開く。
「比企谷君。奉仕部が承るのはあくまで総武高校の生徒の依頼であって、他の学校、ましてや中学生の依頼は範疇外なのだけれど。」
「それはそうなんだが、彼の依頼っていうのは彼の姉についてなんだ。そして、彼女は総武高校の生徒。
だったら俺たち奉仕部が動く理由になると思わないか?」
俺の言い分に雪ノ下は納得できないようだが、筋は通っていると判断したのか、しぶしぶ了承する。
「それでも、内容を聞いてからよ。受けるかどうかはそれから判断するわ。
由比ヶ浜さんと戸塚君もいいかしら?」
雪ノ下が由比ヶ浜と戸塚に確認をとると、二人はにっこり笑って答える。
「全然いいよ。あたしも奉仕部の一員だしね!」
「僕も助けてもらったし、手伝えることがあれば手伝いたいな。」
俺は二人の反応を見てから、再び川崎に話しかける。
「だそうだ。とりあえずこっち座れ。」
「あ、ありがとうございます。」
戸塚に雪ノ下達の方のソファーに座ってもらい、小町が俺の隣に座り、その隣に川崎が座った。
そして、小町以外知人がいない川崎は少し緊張気味な声で話し始める。
「えっと、とりあえず自己紹ーーー「その前に質問がある。」
しかし、俺の言葉がそれを遮った。
先に聞いておかなくてはならないことがあるのだ。
「なんっすか?」
「川崎君は小町の友達、でいいんだよな?」
俺の質問に川崎が答えようとするが先に小町が答える。
「そうだよ。川崎君は小町の友達!それ以上でもそれ以下でもないよ♪」
明るい表情でそう言った小町とは対照的に川崎は暗い表情で続ける。
「……そうっす。友達です。」
ほう。川崎にとっては友達では不満だが、小町にその気は全くないようだな。
俺が考えを巡らせていると川崎が不思議そうに尋ねてくる。
「えっと、八幡さん?今の質問に何の意味が?」
「ん?ああ、もしも川崎君が小町の彼氏ならおめでたいことだと思ってな。」
まぁ、実際そういう関係だったら、俺の使える駒を全て使用して社会的に抹殺するつもりだったんだけどね。
小町は絶対に嫁にやらん。
俺の心中を知らない川崎は少し嬉しそうな笑顔になる。
まぁ、意中の相手の実兄に認められたのだから当然といえば当然だ。
「そろそろ本題に入っていいかしら。雪ノ下雪乃よ、初めまして川崎大志君、小町さん。比企谷君とは………知り合い?かしら。」
すると、俺たちのやり取りに飽きたのか、雪ノ下が話を進めようとする。
というか、どうして「?」つけちゃったんだよ。確かにお前は友達ではないけど。
俺がちろっと雪ノ下を横目で見ると、それに気づいた彼女は得意げな表情を浮かべる。
やってやった、とでも思っているのだろうか。
俺と雪ノ下と言葉のない冷戦をよそに、由比ヶ浜と戸塚が口を開く。
「由比ヶ浜結衣だよ。初めまして、大志君、小町ちゃん。あたしにできることがあったらなんでも言ってね。」
「初めまして、戸塚彩加です。よろしくね。」
順番で言えば次は小町なのだが……、妙だな。
いつもなら食い気味に喋るようなやつなのに、少し間がある。
それに、さっきの由比ヶ浜が話したときに一瞬眉をひそめていた。
もしかして、由比ヶ浜と面識があるのだろうか。
けれど、俺が不審に思ったのもつかの間のことで、すぐに小町はいつもの調子で話し始めた。
「妹の小町です!
奉仕部のことはいつも兄から聞いてますよ。
これからも兄をよろしくお願いしますね。
それにしても、聞いた話だと兄を入れて三人の部活だったはずですけど、こんなに可愛い女の人が三人も。
お兄ちゃん、嘘ついてたの?」
小町がジトッとした目で俺を睨みつけるが、傍では由比ヶ浜達が苦笑を浮かべている。
まぁ、戸塚は初見なら間違えてもおかしくないくらい女の子みたいだから仕方ないのだが。
「戸塚は奉仕部じゃないんだよ。手伝ってくれるだけだ。それに、戸塚は男だ。」
「またまたー。恥ずかしいからって嘘つかないでよお兄ちゃん。こんな可愛い人が男の人なわけないじゃん。
小町に嘘はつかないんじゃなかったの?」
俺が言っても全く取り合ってくれないので、戸塚に目配せをする。
すると、戸塚は少し困った顔で説明する。
「えっと、僕、男……です。」
「えーっと……、本当?」
小町は本人から説明されても信じきれないのか、再び俺に確認をとる。
「本当だって言ってるだろ。」
「あ、あははー。これは失礼しました、戸塚さん。」
「ううん、慣れてるから大丈夫だよ。」
こんな取り留めのない会話をひていたら埒があかないので、俺はさっさと話を進めるために川崎に話しかけることにする。
というか、雪ノ下の冷たい視線が痛い。
「それで、川崎君。相談事ってのをそろそろ聞かせてもらえるか?」
「あ、はいっ。相談っていうのは、最近うちの姉ちゃんがーーー」
****
川崎の相談をかいつまんで説明すると、彼の姉が最近帰るのが遅い、ということだった。
おそらくどこかでバイトをしているのか、朝の五時頃に帰ってくるのもざらだという話だ。
さて、ここまで聞いたところで雪ノ下に判断を仰がなくてはならない。
あくまでも話を聞いただけであって、それを奉仕部として受諾するかどうかは部長である彼女が決めることだ。
「雪ノ下、どうする?」
雪ノ下は少し考えるそぶりを見せてから答える。
「そうね、その話が本当なら由々しき事態ね。我が校の生徒がそんな時間まで帰宅しないというのは明らかな問題よ。
それに、彼も真剣に悩んでいるようだし、依頼として受け取るのもやぶさかではないわ。」
「そうか、なら決定だな。」
俺は雪ノ下の首尾のいい返事を聞いたところで周りを見ながらそう言った。
こいつ、なんだかんだで困ってる人を見過ごせないタイプなんだよな。
「本当っすか!?ありがとうございます!」
決を聞いた川崎は喜びの表情で礼を言う。
そんな顔されてもこの時点で打てる手は限られているが。
そして、俺は真剣な表情を作って川崎に言う。
「ああ、協力はする。でもな、手がかりがない状況だから、俺たちも動きようがない。
とりあえず、今日はこのまま解散して、俺たちは学校側からあいつにアプローチをかけてみる。
川崎君には何か姉に関して有用そうな情報を探してもらう。
それでいいか?」
「は、はい。いいんっすけど……、八幡さんって姉ちゃん知ってるんですか?」
「川崎沙希だろ?同じクラスだ。」
「そうなんですか!よく分かりましたね、川崎なんていっぱいいるのに。」
「その髪の色と目元がそっくりだ。それに総武高校に川崎ってやつは一人しかいないからな。」
俺がそう言うと、小町を除いた四人が驚愕の目で俺を見る。小町は一人、微妙な表情を浮かべている。
えっと、俺、何かおかしなこと言ったか?
すると、由比ヶ浜が恐る恐る俺に質問を投げかけてくる。
「もしかして、ヒッキーって全校生徒全員覚えてるの?」
あ、そうか。覚えてないのが普通か。
まぁ持論だが、人気者になろうとするならそれくらいしていて当たり前なんだけどな。
「ざっくりだけど覚えてるぞ。由比ヶ浜もクラスメイトの川崎さんくらい知ってるだろ?」
「う、うん。さすがに知ってるけどさ。……ヒッキーやけにやる気だね。」
由比ヶ浜が俺の態度に不審に思ったのか、少しためらってから聞いてくる。
なんで不審に思ったのかはだいたい想像がつくが。
俺にやる気がある理由?
そんなもん決まってんだろ。小町にまとわりつく毒虫を排除するためだ。この件が解決してもまだ小町に関わるようなら対策を考えないとな。
もちろん、そんなことを考えているという素振りを微塵も見せずに、俺はニコッと笑って答える。
「困ってる人がいるんだ。助けるのが当然だろ?」
「そっか、そうだよね、さすがヒッキー!」
俺の嘘に由比ヶ浜はもちろん騙される。一年の時から何も変わらずに。
ただ、その隣に座る雪ノ下だけが痛ましいものを見る目で由比ヶ浜を見つめていた。
****
「雪乃さんだけが知ってて、戸塚さんと結衣さんは知らないって感じかな。」
作戦会議を終わったのは夕方で、家路に着いた時、隣を歩いていた小町が独り言のようにつぶやいた。
「……よく分かったな、雪ノ下が知ってること。」
「見てれば分かるよ、そんなこと。
でもさ、やっぱり小町はいつものお兄ちゃんが好きだな。
小町に嘘をつかないお兄ちゃんが。
嘘ついてるお兄ちゃんは、傷つけることをしても気づかれないから、嘘をつくことを正当化しちゃってるように見えるの。」
「………」
分かってる、そんなことは。こうして生きると決めた時から。
そして、確かに自分が嘘を正当化して逃げ続けていることも分かってる。
こんな生き方が間違っていないはずがないってことも。
だけど、今更この在り方変えることはできない。
俺の決断を、過去の俺の決断を否定することは、過去の俺を否定することになる。
なにより、あいつのことも否定することになる。
いや、今の俺がとっくに昔の俺もあいつも否定することになってるのかもしれないが。
「……お前がそう思うんだったらそうかもな。」
頭の中で多くの思考が飛び交って、俺が言葉にできたのはこれだけだった。
そして、小町も俺の心中を分かっているのか、短くこう言った。
「……そっか。」
そりきり俺たちの間で会話はなくなり、夕焼けが染め上げた道を黙々と歩く。
ふと振り返った時に見えた自分の影だけがやけに長く見えた。
この小説での八幡はシスコンが加速しております。周りには気づかれないように、ですが。
小町がブラコンかどうかは、後ほど分かります。
それと、タグの件でもう一つ。
タグにオリキャラを追加しました。出るかどうかはまだ未定ですが、一応入れておきます。今話にもそれを仄めかす表現はありましたし。
後、次回大きく物語が動きます。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。